そうそう言わなくちゃなんねー事があった
話中に出てくる『兪』なんだけど実際は金偏に兪、だから
読み方、分からなかったんだよな~。もし知っている奴がいるなら誰か教えてな!
そんじゃま、『カーネリア』スタート!
追記:読み方が判ったから訂正しておくぜ
シスター
列車は霧の中を飛ぶように走っていた。窓ガラスに吹き寄せられた水滴が透明なすじになって、いつまでも同じところで身をくねらせ続けている。
車窓に額をくっつけたまま、指で2枚のチケットをこすり合わせた。帝都から鉄道ではるか南部の国境の都市へ、王国に行くにはそこから飛行船に乗り換えることになる。券はどちらも1等旅客の指定だ。客車はほぼ満席だったが、僕の隣には誰も座らなかった。もしかしたらミヒュトのやつがわざわざ空けたのかも知れない。だとすれば、今度の仕事はやつにとってもよほど割りが良いに違いない。
「王国へ行かれるんですか?」
鉄路の旅も半ばを過ぎた頃、突然声をかけられて僕は顔を上げた。通路に1人のご婦人が立っていた。
3重のバックルでコートの胸元を留めたその女は、30代の半ばくらいに見えた。わずかに肩にかかるほどの薄茶色の髪に、同じく茶色の瞳。よろしいですかと膝を折って僕の隣の空席を指し、「あちらは煙草の煙がひどくて」そう呟きながら、紫色の空気が漂う後ろの方へと視線を泳がせる
僕は黙ってうなずき、足元のバッグを窓側に引き寄せた。女は礼を言い、隣の席に腰を下ろした。
彼女はしきりに話しかけてきた。僕は導力機関系の仕事で王国に向かう途中だということにして、適当に話を合わせた。彼女の方は教会の慈善運動とかで、国境の都市に用事があるとのことだった。
「一応、シスターって呼ばれているんですよ」黒い革のブーツに包まれた足を組みかえると、女は喉の奥で笑い、「あだ名ですけどね」と続けた。「シスター・カーネリア」それが彼女のあだ名だった。
そのまま僕とシスター・カーネリアはしばらく世間話を続けた。陽は西に傾き始め、木立を抜けるたび、オレンジ色の光が客席の上をなめていった。西日を浴びて彼女の茶けた瞳は赤い耀きを放ち、僕は紅耀石に通じるそのあだ名の由来を想像した。
やがて列車はゆるやかに速度を落とし始め、荷物を取りに彼女は席へ戻った。僕はもう習慣になった動作でバッグと魔法用の導力器を調べたが、反故紙の包みも、編み鎖で腰に留めてある導力器も、どっちも無事だった。
定刻通りの到着を告げる女性の声が車内に流れた。到着地の天候は雨。座席の間からいくつかのため息がもれた。ぼつぼつと窓に雨粒が弾け、青黒い町の影が見る間に迫ってくる。駅の信号灯が、水滴に散乱して角ばった光を放っていた。背筋の寒くなる金属音、そして導力機関の推力が反転する衝撃。
手荷物への注意を呼びかけるアナウンスが入って、乗客がばらばらと通路に立つ。雨の中で手旗を降る駅員の制服を見ながら、僕もバッグを抱えて立ち上がった。
通路でシスター・カーネリアと行き合った。1歩引こうとしたとき、突然彼女がつまずいたようにこちらに倒れかかってきた。僕の肩につかまって体を起こすと、彼女は照れ笑いを浮かべて道をゆずってくれた。会釈をして先に通路へ出る僕。その後からカーネリアがほとんど間を置かず、ぴったりとついてきた。嫌な感じがした。右手が勝手に導力器を求めてポケットへ滑り込む。だが、いつもの真鍮の手触りは、そこにはなかった。
とたんに、強烈な力が僕の手首をねじ上げた。バチンと勢い良く金属の飛び出る音。僕の背中、ちょうど腎臓のあたりに、尖ったものが押し付けられる。
「探し物なら預かってるわよ、トビー」
シスター・カーネリアの唇が、僕の耳の裏側でかすかに動いた。
「動いたり騒いだりしないでね、トビー。これ以上痛い目に遭いたくないでしょう?」
シスターは手首を押さえる角度をわずかに変化させた。僕の瞳の奥で、色のない火花が散った。
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