Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
民主党は新代表に野田佳彦財務相を選んだ。政治の流れを逆戻りさせず、前へ進める――。そんな現実的な判断といえる。
短期決戦のなかで、私たちは海江田万里経産相が勝てば、国会運営が行き詰まるのではないかという懸念を示してきた。
党員資格停止中の小沢一郎元代表や議員引退を撤回した鳩山由紀夫元首相らに推されているので、「小沢傀儡(かいらい)政権」という世論の批判を浴びる。さらに、マニフェストの見直しを約束した自民、公明両党との3党合意の白紙化に言及したため、野党の協力も得られない。
そして、何も決められない政治を繰り返す。そういう見立てをしたからだ。
国民の政治不信が頂点に達しているいま、それは避けたい。多くの民主党議員が、そう考えて投票した結果が、野田新代表につながった。
知名度の低い野田氏が勝った理由には、世論調査で人気の高かった前原誠司前外相が外国人献金問題を抱えて伸び悩んだこともあったのは確かだ。
■一体改革やり遂げよ
だが、最大の勝因は「野田氏らしさ」ではないか。それは候補者の中でただひとり、復興増税に賛成し、税と社会保障の一体改革でも、政府の消費増税の方針の堅持を明確に唱えたことだ。ぶれずに増税の必要性を訴えた姿勢に、一定の共感が広がったのは間違いない。
国債が格下げされるなど、日本財政は危機的な状況にある。にもかかわらず、政治家は国民に厳しい現実を説いて負担を求めることを厭(いと)い、必要な決定を先送りしてきた。
野田氏の当選を、こんな「先送りの政治」から脱却する機会にしなければならない。
そして、一体改革をやり遂げる重責を、野田氏にはぜひ果たしてほしい。
そのためには、増税慎重派の多い小沢氏のグループの協力が欠かせない。
野田氏は就任あいさつで、「怨念を超えた政治」を掲げ、ノーサイドも宣言した。
それでも「脱小沢」か「親小沢」かの内輪もめを続けるようなら、もはや政権政党としての資格はない。
ただ、「挙党態勢」を重視するあまり、政策の軸がぶれてしまっては、元も子もない。野田氏には、果断な政策実行と丁寧な党運営の両立を求める。
その第1歩として、党役員人事に注目する。
震災復興、原発事故対応、円高・デフレ対策、外交の立て直し……。野田氏は山積する難題に、ねじれ国会の下で対応していかなければならない。
■ねじれ克服話し合え
歴代政権を短命に終わらせた国会で、政策を実現していくには、野党の協力が要る。「論破ではなく説得」で臨むと述べた野田氏には、誠実な折衝を期待する。まずは自民党を中心とした野党の党首と、今後の運営方法を話し合ってほしい。
野田氏は当面、政策ごとの与野党協議を優先する方針だ。それが現実的だろう。すべての小選挙区に候補者を立て合う2大政党の大連立には無理があるし、現状では自民党が受け入れる見込みがないのだから。
私たちは、この機会に政策と同様に、ねじれ国会を運営する新しいルールづくりを徹底的に話し合うべきだと考える。
予算案の衆院優越を踏まえ、赤字国債の発行を認める法案を含めて予算関連法案は衆院の議決を尊重する。
国会同意人事についても衆院の議決を重んじる。
「60日ルール」を使わなければいけないような参院での審議引き延ばしはしない。
こうした紳士協定を、早急に結べないものか。
仮に、自民党が次の総選挙で政権に復帰しても、参院のねじれは変わらない。その時にルールづくりを求めるくらいなら、いま協議すればいい。
厳しい政治不信は、民主党だけに原因があるわけではない。政治の信頼回復に、自民党も大人の対応をして、共同責任を果たす時だ。
■政権交代政治の岐路
民主党は野党時代、総選挙を経ずに首相をたらい回しにした自公政権を厳しく批判した。同じ愚を、こんどは民主党が無様に繰り返している。
当面は復興のための第3次補正予算の成立が最優先であり、来年度予算編成や一体改革の成就が先決だろう。
しかし、野田氏は国民の信任を直接は得ていない。その正統性の弱さを忘れてもらっては困る。民意を問うために、政策実現の実績を積むとともに、新しいマニフェストづくりを急がねばならない。
ちょうど2年前のきょう、歴史的な政権交代を決めた総選挙があった。その日に生まれる民主党3人目の首相は、日本に「政権交代のある政治」を定着させられるかどうかの岐路に立っている。