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社説:野田民主党新代表 「もう後はない」覚悟を

 大乱戦の末、最後は落ち着くべきところに落ち着いた。そんな代表選ではあった。菅直人首相に代わる民主党の新代表に野田佳彦財務相が選ばれた。選挙戦では他の候補に比べて野田氏の主張はぶれず、安定感があった点も評価したい。

 しかし、1回目の投票では海江田万里経済産業相が1位。決選投票も接戦だった。東日本大震災の復興が遅れる中、そもそも国民の期待とはかけ離れた根深い党内対立を見せつけた代表選だ。野田氏は野党との協調を重視し、安定した政治を目指すというが、まず民主党内をまとめられるかどうかにかかる。

 ◇「小・鳩・菅」を超えろ

 それにしても異様な代表選だった。6月2日、菅首相が退陣の意向を示した直後から野田氏は有力候補といわれていたが、状況を変えたのが、現在、党員資格停止中で投票もできない小沢一郎元代表であり、今回もまた「反小沢対親小沢」という積年の対立構図で代表選が争われた点を指摘しないわけにはいかない。

 当初は20人の推薦人確保さえ苦労していた海江田氏が突如、有力候補になったのは小沢元代表が海江田氏を推したことによる。だが、一刻も早い復権を目指す元代表は西岡武夫参院議長を擁立する奇策まで検討していたというから、本当に海江田氏の手腕を評価していたかは疑問だ。海江田氏が選ばれていたら「小沢元代表のかいらい政権」と激しい世論の批判を浴びていただろう。

 一方、今の執行部側も一枚岩ではなかった。世論調査で野田氏の人気は今ひとつと見るや、あわてて前原誠司前外相の擁立論が浮上。どうにか野田氏と前原氏の「2、3位連合」でしのいだものの、こちらも小沢元代表の「数の力」を恐れて混乱し、浮足立った。

 当選後、野田氏は「ノーサイドに」と訴えた。だが、代表選のたびに党内結束が叫ばれながら、終わった途端に対立を繰り返してきた民主党だ。数を頼みとする「小沢型政治」の限界が明らかになったにもかかわらず、元代表のグループの中には「次は小沢首相の実現を」という声があるという。マニフェストの見直しも含め、ともかく議員個々の利害を超えて、政府・与党で決めたことは守るという最低限の責任感を持たないと、どこが「国民生活第一」かということになる。

 かねて私たちは小沢元代表や、今回も海江田氏支持で調整役を買って出た鳩山由紀夫前首相に対し、もはや一線を退くよう求めてきた。菅首相とともに両氏には改めてそれを求める。そして野田氏が必要なのは、この3人による「トロイカ体制」を自らの力で乗り越えることだ。

 30日、新首相に選出される予定の野田氏が直面する最大の課題は震災復興であり、東電福島第1原発の事故収束と周辺住民の救済や支援策だ。自民党、公明党との大連立は、既に時機は失したと私たちは考えるが、ねじれ国会の下、野党との協調を図って第3次補正予算案や法案の成立を図るという野田氏の方針は間違っていない。

 むしろ、問題になるのは民主党内だろう。今回の代表選の候補者5人のうち、震災の復興財源に関して増税を容認したのは野田氏だけだ。野田氏に対しては従来、「財務省寄り過ぎる」との指摘がある。調整は難航する可能性が大きい。

 ◇復興は与野党協調で

 復興増税だけではない。消費税率の引き上げを含む税と社会保障の一体改革についても、依然、党内の抵抗は大きい。当面の復興増税についても「将来世代に負担を先送りしない」と語った野田氏だ。強い意志で財政再建と持続可能な社会保障制度作りを進めてもらいたい。

 気にかかるのは原発をどうするかである。菅首相が「脱原発」を表明した際、野田氏は慎重論を唱え、代表選でも「安全性を確認した原発を活用し電力を安定供給する」などと述べるだけだった。少なくとも政府のエネルギー・環境会議が中間整理としてまとめた「減原発」の方針を堅持し、さらに具体的な道筋を早急に詰めていくべきである。

 円高対応や経済成長戦略をどう描くか、野田氏の手腕がまったく未知数といえる外交の立て直しなど、他の課題も待ったなしだ。

 重ねて指摘したいことがある。歴史的な政権交代から間もなく2年。これで3人目の首相となるということだ。ところが代表選では、鳩山、菅両政権がなぜ失敗したのか、有権者の期待が失望に変わったのはなぜか、その総括も反省も野田氏らの口からは聞こえなかった。

 本来は内向きな党内抗争などしている場合ではなかったのだ。小泉内閣後、3人も首相を交代させた自民党を、野党時代の民主党は厳しく批判し、「早く衆院を解散し、国民の信を問え」と要求していた。3次補正予算案が成立し、被災地で選挙が可能になれば解散・総選挙で民意を問い直すべきであろう。

 「もう後はない」ということだ。野田氏だけでなく民主党全体にその危機意識と覚悟が必要だ。野党側にも新内閣発足を機に不毛な対立を避け、震災の被災地のことを最優先に考えた国会対応を求めたい。

毎日新聞 2011年8月30日 2時30分

 

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