真山仁さんの『ハゲタカ』という小説を読みました。NHKでドラマ化されたので、ご覧になった方も多いかも。原作はテレビでのストーリーとは必ずしも同じではないですが、ハゲタカの名前通り、外資系ファンドが、不良債権処理に四苦八苦する銀行と、倒産の危機に瀕するその融資先企業を次々と飲み込んでいく、といった時代背景で書かれています。
1997年
11月3日 三洋証券 会社更生法申請
11月15日 北海道拓殖銀行 破綻
11月24日 山一証券 自主廃業
1998年
10月23日 日本長期信用銀行 金融機能再生緊急措置法による特別公的管理(国有化)
12月13日 日本債券信用銀行 同上(国有化)
今、日本は財政赤字がひどくて国が破綻するとか、株が大暴落だというけれど、じゃあみんな円預金を引き出して金(GOLD)に変えたりしてるのか?というと、反対に「金が高いからネックレス売ろう!」とか「節約して貯金をしよう!」という人のほうがまだ目立ちます。金を売って「円」という通貨に変えて喜んでいたり、円預金の残高が増えるのを喜んでいる人が多いなら、世界が円を評価するのも当然でしょう。
あの頃は本当に「ヤバイ!」空気が蔓延していました。破綻が噂される銀行の支店には現金を引き出す人の行列ができ、いつどこが破綻しても不思議ではないという空気が漂っていました。インターバンクでデフォルトが起こった時には、さすがのちきりんも「もしかして、この国、終わり?」と思いました。
上に書いたのは破綻した金融機関だけですが、銀行が破綻すれば綱渡り状態だった融資先企業も一気に破綻します。日債銀や山一証券の株を買わされていた取引先企業の中にもそれが理由で潰れたところもあったでしょう。連鎖倒産が起こり、1998年、日本の自殺数は急増しました。他にも住専問題などもあり、様々な闇勢力が(文字通り!)跋扈していました。
未曾有の金融危機に対応するための法律や行政の体制もお粗末そのものでした。「絶対起こらない」と言われた銀行の破綻に、なんの備えもなかったからです。外国の法律を真似して急ごしらえで法整備を行い、必要な資金を確保するために政治家も官僚も殺気立っていました。
実は今回、『ハゲタカ』を読んでいて、あの時代のめちゃくちゃさが思い出されてつらくなり、何度もページを閉じました。そうやって少し心を落ち着けないと、読み続けられなかったのです。
ちきりんがあの頃を思い出して気分が悪くなるのは、金融危機のパニックを思い出して怖くなる、という話ではありません。そうではなく、あの頃の金融機関のむちゃくちゃさ、金融業界で行われていたことのあまりのグロテスクさが、思い出すと心臓が苦しくなるくらい気分の悪いことだからです。
あの時代に金融業界にいた人で、この感覚を共有している人はたくさんいるはずです。みんなもう職業生活の終盤を迎えようとしている時期でしょうか。特に銀行員だった人の多くは既に前線を離れているかもしれません。
この小説を読むと、あの時、金融業界で「何が行われていたのか」、それを知っている人には当時の光景がビビッドによみがえるでしょう。それはちきりんには、マジで気分が悪くなるほどえげつないものだったのです。
あの時代を知らない人、あの時の金融業界を知らない人が『ハゲタカ』を読めば、「ホントにこんなことがあったの?誇張でしょ!?」と思うかもしれません。でもあの現実を見ていた人が読めば、それとは反対の感想をもつはずです。実際には『ハゲタカ』で書かれているよりも何倍も凄まじかった当時のことが脳裏に蘇るはずです。
大蔵省(当時)も、日銀も、日本のすべての金融機関も、完全にパニックしていた、と思います。そして文字通り「むちゃくちゃ」が行われていました。もしかしたら「戦後のぐちゃぐちゃ」と同じくらいヒドイ状態だったんじゃないでしょうか。
こういう小説を、あの時代を知らない人に読んで欲しいと最初は思いました。でも次に「やっぱり、あの狂気の時代を共有した、共犯者の人達に読んで欲しい。」と思い直しました。あの時代が何だったのか。あの渦中にいた人は、もう一度、思い出してみるべきじゃないだろうかと思ったからです。
あの時代に比べたら、今が日本の危機だなんてちきりんには全く思えません。みんな東電の対応がヒドイというけれど、あの頃の金融業界で行われていたことはその何倍もヒドイことでした。組織も人も、ここまで腐ることができるんだ、仮にも日本を代表する組織にいる人達が、こんなにも醜くてエゴイスティックで、恐ろしい存在なんだという現実を、心に突き刺されました。
何度も何度も中断しながら、この長い小説を読み終えました。フィクションだけど、でてくる人物はみんな個性的で素敵でした。それが救いでした。銀行側ではなく、外資系ファンド側に光をあてて小説を書いたのはすばらしい選択だったと思います。こっちからの本じゃないと、ちきりんには読む気がしないから。
実は後日、著者の真山仁さんにお会いする機会がありました。ちきりんは勢い込んで「あの時代、凄かったですよね!?」と聞きました。そしたら真山さんに言われました。「実は全然知らないんです。」と。バブル期は中部地方の小さな市でサツまわり(新聞記者)をやっていて、大きな事件としては宮崎勤事件や昭和天皇崩御を追っていた。バブルとは無関係の人生です。」と。
驚きました。あの時代をなんにも知らなくてこういう小説がかけるなんて、取材力と想像力ってスゴイのね!ってびっくりしました。読んだこっちが気分が悪くなって読めなくなるほど当時のことを思い出してしまうのに、それほど当時の惨状が臨場感をもって浮かび上がる小説を、「180度違う世界にいました」という人が描けるなんて。
小説家ってすごいです。
読み終えて思います。あの時代の共犯者の人達に読んで欲しい。もちろん「それってどんな時代だったんすか?」という若い人にもおもしろいと思うけど。
最近は「金融危機」という言葉をよく聞きますが、日本における金融危機といえば、今でも間違いなくあの頃、つまり1997年-1998年のことだとちきりんは思っています。
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1997年
11月3日 三洋証券 会社更生法申請
11月15日 北海道拓殖銀行 破綻
11月24日 山一証券 自主廃業
1998年
10月23日 日本長期信用銀行 金融機能再生緊急措置法による特別公的管理(国有化)
12月13日 日本債券信用銀行 同上(国有化)
今、日本は財政赤字がひどくて国が破綻するとか、株が大暴落だというけれど、じゃあみんな円預金を引き出して金(GOLD)に変えたりしてるのか?というと、反対に「金が高いからネックレス売ろう!」とか「節約して貯金をしよう!」という人のほうがまだ目立ちます。金を売って「円」という通貨に変えて喜んでいたり、円預金の残高が増えるのを喜んでいる人が多いなら、世界が円を評価するのも当然でしょう。
あの頃は本当に「ヤバイ!」空気が蔓延していました。破綻が噂される銀行の支店には現金を引き出す人の行列ができ、いつどこが破綻しても不思議ではないという空気が漂っていました。インターバンクでデフォルトが起こった時には、さすがのちきりんも「もしかして、この国、終わり?」と思いました。
上に書いたのは破綻した金融機関だけですが、銀行が破綻すれば綱渡り状態だった融資先企業も一気に破綻します。日債銀や山一証券の株を買わされていた取引先企業の中にもそれが理由で潰れたところもあったでしょう。連鎖倒産が起こり、1998年、日本の自殺数は急増しました。他にも住専問題などもあり、様々な闇勢力が(文字通り!)跋扈していました。
未曾有の金融危機に対応するための法律や行政の体制もお粗末そのものでした。「絶対起こらない」と言われた銀行の破綻に、なんの備えもなかったからです。外国の法律を真似して急ごしらえで法整備を行い、必要な資金を確保するために政治家も官僚も殺気立っていました。
実は今回、『ハゲタカ』を読んでいて、あの時代のめちゃくちゃさが思い出されてつらくなり、何度もページを閉じました。そうやって少し心を落ち着けないと、読み続けられなかったのです。
ちきりんがあの頃を思い出して気分が悪くなるのは、金融危機のパニックを思い出して怖くなる、という話ではありません。そうではなく、あの頃の金融機関のむちゃくちゃさ、金融業界で行われていたことのあまりのグロテスクさが、思い出すと心臓が苦しくなるくらい気分の悪いことだからです。
あの時代に金融業界にいた人で、この感覚を共有している人はたくさんいるはずです。みんなもう職業生活の終盤を迎えようとしている時期でしょうか。特に銀行員だった人の多くは既に前線を離れているかもしれません。
この小説を読むと、あの時、金融業界で「何が行われていたのか」、それを知っている人には当時の光景がビビッドによみがえるでしょう。それはちきりんには、マジで気分が悪くなるほどえげつないものだったのです。
あの時代を知らない人、あの時の金融業界を知らない人が『ハゲタカ』を読めば、「ホントにこんなことがあったの?誇張でしょ!?」と思うかもしれません。でもあの現実を見ていた人が読めば、それとは反対の感想をもつはずです。実際には『ハゲタカ』で書かれているよりも何倍も凄まじかった当時のことが脳裏に蘇るはずです。
大蔵省(当時)も、日銀も、日本のすべての金融機関も、完全にパニックしていた、と思います。そして文字通り「むちゃくちゃ」が行われていました。もしかしたら「戦後のぐちゃぐちゃ」と同じくらいヒドイ状態だったんじゃないでしょうか。
こういう小説を、あの時代を知らない人に読んで欲しいと最初は思いました。でも次に「やっぱり、あの狂気の時代を共有した、共犯者の人達に読んで欲しい。」と思い直しました。あの時代が何だったのか。あの渦中にいた人は、もう一度、思い出してみるべきじゃないだろうかと思ったからです。
あの時代に比べたら、今が日本の危機だなんてちきりんには全く思えません。みんな東電の対応がヒドイというけれど、あの頃の金融業界で行われていたことはその何倍もヒドイことでした。組織も人も、ここまで腐ることができるんだ、仮にも日本を代表する組織にいる人達が、こんなにも醜くてエゴイスティックで、恐ろしい存在なんだという現実を、心に突き刺されました。
何度も何度も中断しながら、この長い小説を読み終えました。フィクションだけど、でてくる人物はみんな個性的で素敵でした。それが救いでした。銀行側ではなく、外資系ファンド側に光をあてて小説を書いたのはすばらしい選択だったと思います。こっちからの本じゃないと、ちきりんには読む気がしないから。
実は後日、著者の真山仁さんにお会いする機会がありました。ちきりんは勢い込んで「あの時代、凄かったですよね!?」と聞きました。そしたら真山さんに言われました。「実は全然知らないんです。」と。バブル期は中部地方の小さな市でサツまわり(新聞記者)をやっていて、大きな事件としては宮崎勤事件や昭和天皇崩御を追っていた。バブルとは無関係の人生です。」と。
驚きました。あの時代をなんにも知らなくてこういう小説がかけるなんて、取材力と想像力ってスゴイのね!ってびっくりしました。読んだこっちが気分が悪くなって読めなくなるほど当時のことを思い出してしまうのに、それほど当時の惨状が臨場感をもって浮かび上がる小説を、「180度違う世界にいました」という人が描けるなんて。
小説家ってすごいです。
読み終えて思います。あの時代の共犯者の人達に読んで欲しい。もちろん「それってどんな時代だったんすか?」という若い人にもおもしろいと思うけど。
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