|
きょうの社説 2011年8月29日
◎金沢医科大氷見病院 地域医療再生のモデルに
9月1日にオープンする金沢医科大氷見市民病院の新病院は、公設民営で2008年か
ら進めてきた病院改革の節目であり、地域医療再生へ向けた新たな出発点となる。財政破綻の危機に直面した自治体病院を大学が再建するのは全国初の試みである。公設 民営の経営形態が決まるまでに紆余曲折があっただけに、新病院誕生は住民にとっても感慨ひとしおだろう。 能越自動車道沿いに完成した新病院は呉西や能登など広域的な利用を見込んでおり、石 川、富山県の医療供給体制にも厚みが増す。両県も行政の区割りにとらわれず、新たな拠点を支えてほしい。 新病院には健康管理センターなど地域密着型の機能も備えられた。氷見市は新病院をま ちづくりの拠点と位置づけているが、これを機に大学と市が力を合わせ、健康づくりで全国に名だたる自治体をめざす新たな目標があっていい。病院と住民の関係も強め、地域医療のモデルとなるような先進的な取り組みを期待したい。 全国では聖マリアンナ医科大が川崎市立多摩病院の指定管理者になっているが、これは 人口増加が見込まれる地域で川崎市が新たに病院を開設し、民間に経営を委ねたケースである。氷見市民病院のように、赤字経営や医師不足に陥り、医科大が再建に乗り出した例はない。 全国的に自治体病院の経営が悪化し、近隣病院との統合や民間譲渡などが進んでいる。 立て直しへ向けては医師確保が最大の課題となるが、医師養成機関である大学なら安定的な供給が可能である。実際、氷見市民病院でも、28人まで落ち込んだ常勤医師は43人に増え、新病院開院時には46人になるという。 大学の高度医療提供とともに、新病院は救急医療やへき地巡回診療などの政策医療も担 う。これらは不採算分野とはいえ、この二つの役割を両立させることが、公設民営病院の使命でもある。 石川、富山県では金大、富大も自治体病院の支援に取り組んでいる。金沢医科大は氷見 市民病院の経験も生かし、私学ならではの柔軟な発想で能登などでも地域医療を支える一角を担ってほしい。
◎放射能の除染対策 国が前面に立つ体制を
福島第1原発事故による放射能汚染対策で、政府が決めた除染の基本方針は国主体での
実施が明記される一方、放射線量が低い地域では市町村が計画を策定するなど役割分担も求めた。安全管理で国が支援する形となっているが、除染作業では汚染土壌の保管などで難しい 課題を抱えており、自治体に責任を負わせるのは限界がある。対象地域すべてで国が前面に立つのが望ましく、今後の実施計画では国の責任をより明確にする必要がある。 汚染地域の生活再建を前提に、これだけ大規模に除染するのは世界でも例がなく、その 道のりは険しく、長期化が避けられない。放射能汚染の深刻さをあらためて思い知らされるが、これらの地域は除染が進まなければ、復旧のスタートラインにも立てない。国は除染に必要な人手、技術、機材などを早急に確保してほしい。 基本方針では、学校や公園など子どもの生活圏を徹底的に除染し、2年後までに居住地 域の放射線量(空間線量率)を半減させる目標などが示された。原発から半径20キロ圏内で立ち入りが禁じられている「警戒区域」などは国主体、放射線量が一定基準以下では国のガイドラインに沿い、市町村が除染計画を策定するとした。 福島県内では独自の除染計画を策定する自治体もあるが、それは国の動きが遅いからで あり、汚染土の借り置き場確保など難しい問題に直面している。大量に発生する汚染土の収集、保管、処分で国が責任を担うのは当然である。 菅直人首相は放射性廃棄物について、中間貯蔵施設を福島県内に設置する考えを表明し たが、住民の理解が欠かせない繊細なテーマを辞任間際の首相が口にするのはあまりにも無責任ではないか。 首相は放射線量が極めて高い地域について、長期にわたり居住が困難になる可能性にも 言及したが、この点についても、除染作業でどこまで放射線量が低減できるのか、可能性や限界を含め、より丁寧な説明がいる。避難の長期化が避けられないなら、居住地確保など、あらゆる面で住民を手厚く支える方策を示してほしい。
|