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特集ワイド:いま「妊活」の時代 明るく前向きに赤ちゃんつくろう

 ◇成り行き任せはイヤ!

 「子は天からの授かりもの」という。だからといって成り行き任せにしたり、逆に構えてしまうのも……。そんな20~30代の女性たちが取り組んでいる「妊活」なるものに迫った。【田村彰子】

 ◇マイナスなんて何もない もっと取り組みやすい社会環境を整備して--プロゴルファー・東尾理子さん

 「いつか子どもが欲しいと思うなら、赤ちゃんが来やすいように、今から体を整えていきましょう」

 全国各地でヨガ教室を展開する「スタジオ・ヨギー」でインストラクターを務める高杉かおりさん(36)は、生徒が女性ばかりの時、授業の最初にこう語りかける。

 「この2、3年、特に都会を中心に『いずれは妊娠したいから、体の不調を治しておきたい』という理由で訪れる女性が増えています」と高杉さん。

 「なるようになる」ではなく、かといって思い詰めもせず、妊娠・出産に前向きに、しなやかに備える--「妊活」を言葉にすれば、そうなるだろうか。

 女性誌「フラウ」(講談社)は今年3月号(2月発売)で「妊活」を特集した。キャリアウーマンや未婚の女性を読者に持つ同誌が、妊娠の仕組みを詳しく紹介するのは初めて。読者からは「今までこんなことは知らなかった」と予想外の反響を集めた。7月には読者に呼びかけ、東京都内で「妊活ミーティング」を開催。夫やパートナーを含む約300人が、医師が語る妊娠と年齢の関係などに耳を傾けた。「何とかなるという姿勢だったが、子を持つことを真剣に考えてみようかなと思った」。終了後、そんな感想が多かった。「読者に聞くと、8割の人がいつかは出産したいと考えていました。でも、仕事を持つ女性も増え、晩婚化は進み、実際に妊娠する年齢は上がっています。自分にふさわしい『産みどき』を考えるためにも、妊娠の正しい知識を得ることが女性にとって大事になりつつある」。川良咲子副編集長はそう話す。

  ■

 「『婚活』時代」の共著者で、女性のライフスタイルに詳しいジャーナリストの白河桃子さんは「私は『産活』と言っていますが、いずれにせよ、はっきりと意志を持って子どもを授かろうとすることです」と定義する。

 白河さんによると、1960年代までに生まれた女性たちは「お嫁さん候補」として就職し、職場結婚をして専業主婦となり、出産するというレールが敷かれていた。年功序列や終身雇用制度に守られた夫のもと、「待ちの姿勢でいても、自動的に出産にたどり着けた」。ところが、今の厳しい社会情勢は、それを許さなくなっている。男女を問わず雇用は不安定となり、前出の川良副編集長も指摘したように、気がつけば婚期ならぬ出産期を逃していたということにもなりかねない。「婚活もそうですが、待っているだけでは願いはかなえられない。そういう時代になってしまったんです」

 この流れは、バリバリと働いてきたキャリアウーマンたちにも、微妙な変化をもたらしつつあるようだ。

 都内に住む銀行勤務の女性(32)は、今年8月に第1子を出産した。「入社当時は人の上に立って仕事がしたいと、一生懸命でした」。そう振り返る女性は、やがて責任ある仕事も任されるようになったが、30歳のころ、ふと10年後の自分の姿を想像した。「周囲にいる年上のキャリア女性は未婚だったり、夫婦2人暮らしという人が多かった。でも私には、子どもとの時間を持たずに仕事を優先することはできないと思ったんです」

 そして2年前、希望してハードな職場から軽い仕事の部署に異動し、長年付き合っていた男性と結婚。間もなく妊娠した。現在の部署は午後6時過ぎには退社でき、「子育てには最適」と言う。

 もちろん、忙しい中で妊娠・出産をしたキャリア女性はいくらでもいる。とはいえ、この女性が「子どもを持つこと」を人生のテーマに据え、自ら環境を整えようと積極的に動いたことは確かだ。

 「世に出始めた当初のキャリアウーマンたちは、子孫をあまり残せなかった。今の20代、30代の女性たちは、それを見ていたから、仕事をしながらも『早く子どもを持ちたい』という意識があり、産活に熱心な人が増えている」。白河さんは、そうみる。

 プロゴルファーの東尾理子さん(35)は今年6月、夫で俳優の石田純一さんと「TGP生活」をしていることを明かした。「TGP」とは「Trying to Get Pregnant」(妊娠しようと頑張る)の略。体外受精にも挑戦しているが「不妊治療」という言葉は使わず、明るく妊娠に取り組む姿が同性の共感を集めている。

 「『不妊』という言葉がマイナスのイメージで嫌だったんです。マイナスなんて何もない。妊娠しようと頑張っているだけですから」と笑う。

 ツイッターやブログで「お茶会」を呼びかけ、多くの女性と妊娠のために効果的な方法なども話し合っている。

 「皆さん、本当に努力していて、子どもが生まれるのって、すごいことなんだと再認識しました」。そして、妊活に鈍感な社会(男性たち?)にこう訴える。「『子どもを産むのは女の仕事』と言われたりしますが、夫婦共同での作業。女性だけがやるものではないという意識は必要だと思います。もっともっと、妊娠に取り組みやすい環境をつくってほしいですよね」

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 明治大大学院兼任講師(家族社会学)の永田夏来さんは「女性の社会進出が始まった80年代の揺り戻しもあり、今の30代には家庭を大事にしたいという意識がある」と説明する。「彼女たちは、妊娠に期限があることを明確に意識している初の世代でもある。妊娠は当然のことではない。人生の大事なテーマであり、もっと周囲の人と話していいと考えているのでしょう」

 「池下レディースクリニック銀座」(東京都中央区)の池下育子院長によると、医学的な出産適齢期は20代後半から30代半ばぐらいまで。出産を考えるなら「せめて35歳を過ぎたら本腰を入れて妊娠に取り組んでほしい」と話す。

 厚生労働省の統計では、妊活の中心世代とされる30代女性が産んだ数は95年の47万人から10年には60万人へと急増している。晩婚化もあるが、妊活の広がりが少子化に歯止めをかけるかもしれない。

 「ハードルは高いが、覚悟を持って乗り越えて楽しく産んでほしい」と白河さん。妊活を経て、女性たちはまた一段と成長していく。

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 t.yukan@mainichi.co.jp

 ファクス 03・3212・0279

毎日新聞 2011年8月29日 東京夕刊

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