東電の責任を回避して被災地に作業と被ばくを押しつける、国の除染ガイドライン
政府が試算した、除染による線量低減予測が出た。現在年50mSvの地域だと、除染で線量を低減した場合でも年10mSv以下になるのに10年以上かかると予想している。
http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110826001/20110826001-5.pdf
同時に発表された「除染に関する緊急実施基本方針」によれば、線量の高い地域に関しては、国が主体となって除染を行うことになっている。
(除染に関する緊急実施基本方針 原子力災害対策本部)
http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110826001/20110826001-3.pdf
問題なのは、今後の追加的被ばく線量が年間20mSv以下の地域は、コミュニティ単位での除染が効果的としていることだ。つまり、自治体、あるいは地域住 民が自分たちで除染をすることを基本にしている。個人的には、こういうのを地域への丸投げというのではないかと思うのだが、原災本部の生活者支援チーム担 当者は「丸投げではない」という。
丸投げかどうかはともかく、生活者支援チームでは、地域住民が自主的に除染することでより早い線量低減効果が期待できるとしている。国がやると時間がかかるが、地元主体でやれば細かい所にも目が届くし、素早い対応ができるということらしい。ただこのやり方は、見方を変えると、線量低減を早くしたいなら自分 たちでやりなさい、という捉え方もできる。これがどうも、納得できない。
原子力安全委員会は、7月19日に「「今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について」という文書を出した(http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan054/siryo4.pdf)。その中に、次のような一文がある。
「関係省庁や地方自治体等は、必要な情報や資材、指導・訓練、専門的アドバイ ザー等を提供することによって、関係する地域で居住または勤務される方々の放射線防護活動への参加を支援すべきである。これらの方々が、生活環境に関するきめ細かい環境モニタリングや個人モニタリング等に関わり、それらの結果を理解することによって、自身及びその周囲の方々の放射線防護に積極的な役割を担って頂くことが重要である」
ここで書かれている地域住民の除染活動への参加という考え方が、国の方針のベースになっている。しかし安全委員会は、同時に次のような文章も付けている。
「防護措置およびその一環としての除染・改善措置の展開ならびに避難解除等の行政判断のためには、その科学的根拠となる環境モニタリングおよび個人線量推定のためのシステム構築が重要である。また、これらに基づいて健康評価システムが構築されるべきである」
この部分が、国の除染方針ではすっぽり抜け落ちている。百歩譲って地域主体でやれというのなら、現行法(電離放射線障害防止規則=電離則)で決められている措置、安全対策を実施すべきではないだろうか。
電離則では、3カ月で1.3mSvを超える区域は放射線管理区域とすることになっている。この区域内では作業による被ばくを管理することが義務づけられているため、原発作業者もX線の技術者も、個人線量計をつけている。であれば、国はすべての人に個人線量計を配付し、健康管理をすべきだろう。
もちろん、それでも不十分だ。国のガイドラインの中には、除染作業にあたっては詳細なモニタリングをすることが必要と書かれているが、現状ではこの部分が自己負担になる。モニタリングに必要なサーベイメーターなどの機材は、自分たちで揃えろということだ。被ばく管理は自己責任、モニタリングは自己負担では、丸投げという以外の言葉が見つからない。
加えて、国のガイドラインには森林も地域で除染と書かれている。この内容を生活者支援チーム担当者に聞いたら、住宅地の横などにある森などをさすということだった。里山のようなものをイメージしているらしい。けれども、里山といえども森には変わりない。
木が生い茂っている場所は線量が高く、除染は困難だ。この状況について生活者支援チーム担当者も、除染は簡単ではないという認識を持っていた。であれば住民に丸投げするべきではないのではないか。
そもそも、本来は除染の費用も労力も東京電力が負担すべきものだ。しかし国のガイドラインは、東電の責任を回避しているばかりか、被ばくの危険性まで地域に押しつけているようにしか見えない内容になっている。このようなガイドラインは即刻、見直すべきだろう。
除染は、線量の高低にかかわらず国が主導し、東電か国で費用を負担すべきであろう。放射性廃棄物の行き先も決まらない中、被災地に作業を丸投げするようなことは絶対にすべきではない。
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