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とっさの判断と使命感

惣万 佳代子 NPO法人理事長

タイトル「読むミルク」

 県外に住んでいる友達から、電話があった。「富山のニュースが全国を賑わしている」

  ユッケの食中毒と、救急患者がたらい回しになり、死亡したことであった。

  彼女は富山で生まれ育った。古里のことをいつも気にかけているのであろう。

  6月30日、富山市の女性(73)が軽自動車にはねられた。市内の3病院に受け入れを断られた。その後、搬送された厚生連高岡病院で出血性ショックによる死亡が確認された。

  救急隊員が現場に到着したときは意識があったという。2次救急病院か3次救急病院が受け入れていれば、命は助かったかもしれない。

  「すでに救急患者を5人受け入れていた」「ベッドが満床」「整形外科の専門医がいなかった」などは弁明にすぎない。今後、調査をし、課題を県民に公表してほしい。

  また、救急隊員は受け入れを拒否された時、「命が危ない」と叫ばなかったのだろうか。医師に遠慮があったのかもしれない。医師にどなられても、市内の病院に搬送すべきであった。命を助けることが、最優先である。

  6月22日、私は宮城県の石巻市を訪ねた。私たちの仲間が、被災者の心を癒やし、誰もが集える「地域サロン」を立ち上げた。自宅を開放したのは、ホームヘルパーの吉田千代子さん(52)である。3月11日、吉田さんは訪問介護を終え、次のお宅に向かおうとした時、津波に気付いた。とっさに引き返し、おばあちゃんを背負って2階に上がった。3日後に2人は無事救出された。

  とっさの判断と使命感が命を救ったのである。

  私が18年間働いている介護現場にも、年に数回は緊急時がある。その時、制度があっても無くても、目の前の困っている人をすぐ支えることを改めて肝に銘じたい。

2011年8月13日   読売新聞)
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