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[6783] ヤムチャしやがって……(ドラゴンボール 現実→転生?憑依? ネタ)
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:05a80524
Date: 2009/05/04 05:54
ぶっちゃけた話タイトルホイホイです。

ネットにあふれている「ヤムチャしやがって……」という言葉とヤムチャ憑依がフュージョンしてしまったので、ホイホイ筆をとってしまいました。

プロットとかないため、作者のいい加減なテンションで話のテンションも乱高下しそうで怖いです。

もし面白いと思っていただけたら感想に草でも生やしていただけると作者のテンションがあがりまくりです。



どうぞよろしくおねがいします。



[6783] 第1話『せめて野菜の名前が欲しかった。ヤムチャってお前……。ヤムチャってお前……』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:05a80524
Date: 2009/02/27 22:37
世の中には科学でそうそう説明できないような不思議な出来事は沢山あるのだろうし、理不尽な出来事も当たり前のように転がっている。

事実は小説よりも奇なりってわけじゃあないが、小説の中でしか起こり得ないような非現実的な出来事も世界のどっかじゃあ起きてるのかもしれない。

だが宝くじが当たらないのと同様に、自分がそういった運命にめぐり合うはずがないと大抵の奴は考えてると思う。少なくとも俺はそうだった。

そんな俺の運命が切り替わった切っ掛けは世間的に割とよくある出来事。バイクを運転中に事故って即死。

まあ、最後の記憶は迫りくる電柱にぶつかりそうなところまでしかないので、即死だったのかは分からないわけだが。

少なくとも死んでるのは間違いないと思う。

何故かって? そりゃ気がついたら自分が赤ん坊になってれば、嫌でも「生まれ変わった?」とか考えざるを得ないだろう?

植物状態で夢を見てるとかそういう可能性もあるが、生まれ変わりのほうが救いがあると思う。

ドラえもん最終回の都市伝説とか思い出してブルーになるぜ。ワシのトラウマは108式まであるぞ。

それに夢にしては感覚がハッキリしすぎてるし。

なんか視力はすごく悪いけどね。なんていうかピントが合わない感じ。たぶん生まれたばっかりな為なんだろうけど。

うおー!なんかちょっとwktkしてきた。ものすごく不安な気持ちの中に少なからず喜びの感情があるのが隠し切れないぜ。

何せ前世の記憶はほぼ完全にあるからね。「なにこの強くてニューゲームwww人生ハジマタwww」とか思っても仕方ないと思うんだ。 

ただそれも、俺の名前を聞くまでだった。




「よし、この子の名前はヤムチャだ!」
 
人生オワタ\(^o^)/
 
 






ヤムチャしやがって……

第1話『せめて野菜の名前が欲しかった。ヤムチャってお前……。ヤムチャってお前……』

 
 

  


生後数ヶ月の間は

「たまたま同じ名前ってだけさ。ヤムチャとかよくある名前だよね。うん、あるある」
「高校のクラスにも3人はいたもんヤムチャ。長宗我部ヤムチャに、勅使河原ヤムチャに、えーっと小鳥遊ヤムチャでしょー」

とか捏造記憶で自分を慰めていたが、両親の会話の中に西の都やらカプセルコーポレーションやらが出てきた時点であきらめた。

俺の住んでる村にしたって中国っぽいようで中国じゃないし。普通にトラ顔のおっさんとかいるし。どうみてもドラゴンボールです。ほんとうにありがとうg(r

二次元の表現物である漫画とリアルの造形とでは全然印象が違うからトラ顔のおっさんとか最初に見たときはビビッた。どこのグ○ンサーガかと思ったぜ。

ピッコロとかミスターポポとかどんなんだろ? なんか気持ち悪い想像しか浮かばないんだが。というかクリリンの鼻はどうなんだ。めっさ気になる。

あー……しっかし、ヤムチャって。生まれ変わってヤムチャって……あるあr……ねーよwwwww

ハッキリいってサイバイマンに殺されたり、野菜王子に彼女を寝取られるのは勘弁だ。

ぶっちゃけ一般人でいたい。ぶっちゃけ一般人でいたい。大事なことなので2回言いました。

でもなあ、この世界は一般人でも惑星単位で殺されたりするからなあ。『あの世』があるのは間違いないから死ぬのがあんまり怖くないような気もするが。

せっかくだから舞空術とかめはめ波くらいは使ってみたい。

男の子なら誰でもそうだと思うが幼いころにやったことあるだろ? かめはめ波の練習とか舞空術の練習とかさあ?

すくなくとも俺が小学生の時には練習してた記憶がある。ひょっとしたらエネルギー波くらいならだせるんじゃね? くらいの気持ちで。

……あるよね? みんなあるよね? 俺だけじゃないよねェェェェ!? ないような人とは俺っ……友達になれない!!

……まあ、そんなわけで1歳を過ぎるころにはペラペラ喋ったり、テクテク歩けるようになった俺は密かに訓練することにした。

ちなみに喋られるようになったのはかなり早かった。

だいたい生まれてすぐに両親の言葉が分かってたんだから当たり前といえば当たり前だけど、喉と舌と唇がちゃんと使えるようになったらすぐにペラペラ喋りだしたので村で神童騒ぎが起きた。

が、もんのすごい田舎だったのでジーサンバーサンが拝みに来ただけで終わりでした。チクショウ。

それにしても使われてる言葉が明らかに日本語だったから良かったけどそうじゃなかったら自分がヤムチャだってこともなかなか理解できなかったかもしれない。

まあそれはともかく訓練、というか修行というか、何すりゃいいやらよくわからんので、とりあえず悟飯が悟天とビーデルに舞空術を教えていたときを思い出しながら『気』を認識するところからはじめてみた。

で、あっという間に2歳になりました。

飛ばしすぎですか? そーですか。

とはいっても本当に何もなかったんですよねーこれが。

家の近所の竹林で瞑想を続けてたんだが、1年近くたってようやく「んーこれか?これなのか?」っていう熱さみたいのを感じ取れるようになったわけで。

この一年はほとんど瞑想ばっかりしてました。というとちょっと語弊があるか。

体もある程度鍛えとかないとまずいだろと思って走りこみや腹筋運動、腕立てなんかもやってはいるんだが、修行ってほどのもんでもない。

でも本当にそれだけの日々でした。




「そいじゃあ今日もはじめましょーかねー」

ぼそりとつぶやく。なんか俺キモイ。できるだけ独り言はやめよう。

同年代で浮いちゃってて友達いないから必然的に独り言が増えてしまっている悲しさよ。

それはともかく最近どうにかこうにか『気』らしきものが認識できるようになったので、今日は色々試してみることにした。

「ふぅー……」

集中して体から湧き出るような熱さを広げて自分を包むようなイメージを維持したまま木を殴る。

ドォオン!とまるで大男が体当たりしたような音がして木の表面がめり込んだ。

「うお、マジかぁぁぁぁ!!!すげえええええ!俺SUGEEEEEEEEE!!TUEEEEE!!」

俺大喜び。

どうみても2歳児のパンチの威力ってレベルじゃねーぞ。

「もうできたのか! はやい! きた! 『気』きた! メイン『気』きた! これで勝つる!!」

テンションがあがりきった俺はその日はそのまま暴れまくり、日が暮れても俺自身が疲労でぶっ倒れるまで木を殴りまくった。

おかげで明くる日いつものように修行場の林に行ったら荒れすぎててワロタ。やりすぎだろ……常識的に考えて。



とりあえず少しとはいえ『気』が使えるようになったっぽいので、今度は亀仙流的な修行もやってみることに。

たしか畑とか耕してたよね。素手で。

幸いウチも農家だったので手伝いがてら修行に取り込むことにした。

ちなみに二次創作の転生ものだとよく両親がかなり美形だったりするが、残念ながらウチの両親は別にそんなことはなかったぜ。

微妙に日本人とは違う顔立ちだがすごくふつーのオジサンオバサンでした。

今のところ俺の顔立ちも2歳児としてはごく普通の顔立ちだと思う。たしかヤムチャは設定上はそこそこ二枚目なはずなんで期待してるんだが。

等々と余計なことを考えつつも黙々と畑を耕す。無論『気』は使う。というか『気』を使って耕さないと素手で耕作とか俺には無理だ。

よく考えたら原作だとあんまり『気』とか意識して修行してなかったような気もするなあ。体ができてから『気』の修行をしたほうがいいのかしらん? 

んん~ん~。わからん。まあ、死んだりはしないだろ。

「とりあえず飛べるようになるまでは修行しよう。うん」

あ、また独り言いっちゃった。



[6783] 第2話『うオオィィィィ!! どんだけジャンプ好きなんだよ!! らめぇ! 年齢が! 年齢がばれちゃうぅ!』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:05a80524
Date: 2009/03/15 08:20
どうも、どうも。ヤムチャ(3歳)なんてのをやってるヤムチャの中の人(??歳)です。

前回から一年が経ちました。今日も今日とて修行です。

「はあああっ!!」

『気』を体中に張り巡らせて、立ち木に拳をたたき付ける。

ドォオン!とまるで大男が体当たりしたような音がして木の表面がめり込んだ。

っておいィ? 前とまるで変わってないんだが?

「……まるで成長していない……」

俺の修行法が間違ってたのは確定的に明らか。とか言ってる場合じゃないよね、コレ。

いやね今更驚くようなことじゃなくてね、日々の修行の中で全然成長している実感がなかったんだ、実際。

林を荒らしまわっちゃったことを反省して、ここ一年はずーっと素手で畑を耕してたんだがどうも強くなってる気配がない。

で今回前と同じように立ち木をぶん殴ってみたんだが。ごらんの有様だよ!

独学の限界なのか?「ん!?まちがったかな」ですね。わかります。

「……うわらば」

がくっと膝をつく。一年丸々無駄にしてしまった……。

『なにヤムチャ? 一年を無駄に使ってしまった? 
 ヤムチャ、一年なんて精神と時の部屋ではたった一日なんだよ。
 逆に考えるんだ「一年くらい無駄にしたっていいさ」と考えるんだ』

いやいや、卿。それ慰めになってないよネ。と己の内なる卿に弱弱しく突っ込んでからため息をついた。









ヤムチャしやがって……

第2話『うオオィィィィ!! どんだけジャンプ好きなんだよ!! らめぇ! 年齢が! 年齢がばれちゃうぅ!』










「ただいま~」

しょぼくれながら家に帰ると、ちょっと驚いたような表情で30台後半くらいのオバサンが出迎えてくれた。言うまでもなく今のママンである。

「あら? 今日は早かったね? もういいのかい?」

「ああ、うん」

母親に話しかけられて、おざなりな返事を返す。

「どうしたの? しょぼくれちゃって、まあ」

「あー……その。なんでもない」

「ふーん。……まあなんだか知らないけど、元気出しな!! あんたのおかげでウチは食っていけてるんだからさ。あんたがそんなだとアタシの元気もなくなるよ!」

ワハハハと豪快に笑うオバちゃんもとい俺のママン。

「おーなんだヤムチャ帰ってたのか?」

「にーちゃーん」

「今日ははやいなー」

「今日のメシなにー?」

「ちょ、それアタシの!?」

「おい、やめろ馬鹿。俺はこのままタイムアップでもいいんだが? 時既に時間ぎ(ry

うるせー。うるさすぎる。ガヤガヤとやってきたのは俺の家族。両親と兄姉4人、弟妹2人。

なんか後半変なのがいたような気がしたが、俺のログには何もないな。つーか多分俺の影響だね。俺、自重しろ。

それにしても大家族過ぎるでしょう?

……原作には家族がいるような雰囲気なかったけどなあ。

ひょっとして同名の別人てオチじゃあるまいな。

まあ、木の股から人が生まれてくるでもなし。

原作のヤムチャにも生みの親は必ずいるハズではあるが、原作に描かれてない部分を今考えてもしかたないというもの。






晩飯は狭いリビングにギュウギュウになって家族全員でいただくのがウチのジャスティス。

一人メシとか許されない。主に母親の手間の都合で。

戦争のような晩飯が終わって、食後の各々の自由の時間となった。この時間帯は大抵風呂が空くまでは食後のお茶をすすりながらまったりしてる。

「そーだなー卿の言うとおり逆に考えるかー」

実のところウチは持ってる土地の少ない貧農だから食うだけでいっぱいいっぱい。

だというのにウチのママンのお腹はまた膨れ上がっております。貧乏子沢山。夫婦の仲がいいのはイイことだが、子作りは計画的にネ。

今年なんか作物が不作だったから結構危なかったハズ。俺がいなければ、の話だが。

一年間畑ばっかし耕してたっていうのは伊達じゃない。

ウチが持ってるような狭い土地で一年間も畑を掘り返すなんてできるはずがないワケで、どうしてたかって言うと村中の農地でお手伝い。

それでも一年間やり続けるのには全然足りなかったので仕事のない冬の間に荒地を新たに開墾したりしたわけです。

新しく開墾した農地はとりあえず今年の役にはたってないけど、よその農地での耕作を大量に手伝ったおかげでそれなりに蓄えができた。

来年からはもう少し豊かに暮らせると思うが、俺がいなかったらどう考えても口減らしでだれか出て行かないといけなかったと思うね。

そう考えれば俺が費やした時間は無駄じゃ無かっ……ってあれ? ひょっとしてヤムチャが山賊みたいなことしてたのはそういう経緯だったのか?

いや、なんていうか両親は再婚してて俺だけが母方の連れ子なのよね。弟妹の父親はいまのパパンだし、よく考えたら俺が出て行く可能性が高くね?

今回の不作で出て行ったのかどうかはわかんないが、口減らしフラグをビンビンに感じる。

この先弟か妹が生まれて大干ばつでも起きたら自主的に家出せざるを得なかったと思うし。立場が俺だけ微妙だからね。家も農地も基本的にパパンのだからさ。

まあ、俺が開墾とかしてパパンがあきれるほど農地広げたからそのフラグはつぶれたような気もするが。

「ヤムチャ! 風呂空いたから入ってきな!」

む、いかん。考え事してたらいつの間にか俺の風呂の順番らしい。

無論風呂もギュウギュウです。風呂が空くとは言葉どおり俺が入れるスペースが空くというそういう意味なのです。

ぜ、前世が一人っ子だったからって、ちょっとだけ楽しいなんて思ってないんだからねっ!







「……なあ、ヤムチャ」

「何?とーちゃん」

風呂上りの火照った体を居間で湯冷ましさせてると、ホッコリした顔でパパンが語りかけてきた。

「お前武術とかやりたいのか?」

まあ、修行とか言って素手で畑とか掘り起こすような奇行繰り返してりゃわかるか。

ちなみに、三歳くらいの幼児が素手でバリバリ土とが掘り起こしてたら(しかもかなり素早く)普通は村や家族内でも「なんかコイツおかしくね?」とか思われそうなもんだが、「神童だからね」「神童なら仕方ないね」みたいな空気が流れてます。

「……まあ、そうだね」

「お前のおかげで我が家もなんとかやっていけそうだ。偉い武道家に弟子入りしたいならさせてやるぞ。お前には才能が有ると思うんだ」

亀仙流か鶴仙流ならまあ、いいかもしれないなあ……。

でもあそこはなんらかのツテがないと無理だろうなあ。コンタクトも取れない気がする。

普通の武道かに弟子入りしてもかめはめ波も舞空術も習得できんだろうし……。

「いやお金かかるでしょうよ。謝礼金みたいな、さ」

「子供が変なことを気にするな! よし決めた!! お前を立派な武道家にしてみせる!! それが俺の恩返しだ!」

……ひょっとして荒野の悪党フラグ消えた?



















ウホっ!いい感想wwww
タイトルホイホイwwwwサーセンwwww

というか感想いただいてちょっぴり漏らすくらい嬉しかったです。
自分が読んでる作品の作者さんから感想とかちょっと手が震えましたよ。
ヤムチャの家族とか多分今後は一切出ないと思います。名前すらないですしね。



[6783] 第3話『桃白白(笑)そんなふうに考えていた時期が俺にもありました』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:05a80524
Date: 2009/02/27 22:37
人生何が起きるかわからないから面白いとかいった人をぶっ飛ばしてやりたいです。

十年前にはまさか桃白白(笑)にフルボッコされるとは思っても見なかったわけで。

「ぐぎぎぎ」

「小僧。先ほど私に何か意見があったようだな? ん?」

片手一本で俺の喉を掴んでそのまま宙吊り。まともに息もできない。

「どうした? 言ってみろ?」

「が、ぐ……ぐ」

ち、畜生。ピンクの胴着とかふざけた格好しやがって。なんでこんなに強いんだよ。

「どうした。聞こえんぞ?」

そう言ってもっと力を込めてくる。こんな状態で喋れるわけねーだろ! このドSが!!

「……気に食わん目つきだ」

やべええぇぇぇ!! 骨の軋む音がする!! 首の骨が折れる! 折れる!!

両腕で桃白白の掌を喉から外そうとしてもびくともしない。どんな握力してんだ。

「桃白白さま。もうヤムチャをお許しください! そのままでは死んでしまいます!!」

て、天津飯……か。

普段三つ目こえーよとか思っててスマンかった。

「……ふん。まあいい。貴様に免じて許してやる」

ふっと首にかかる力が抜けたかと思うと、強烈な衝撃が鳩尾を貫いた。

強烈な蹴りを食らった俺はそのまま吹っ飛ばされ、道場の壁をぶち破って気絶していたらしい。

らしいというのは後から天津飯に聞いたからで、俺自身は腹に衝撃を受けたところで意識が飛んでいたからだ。










ヤムチャしやがって……

第3話『桃白白(笑)そんなふうに考えていた時期が俺にもありました』











事の始まりは十年程前のこと。パパンが俺に立派な武道家になるようにと偉い武道家の先生のところに弟子入りさせてくれたわけです。

……いや、まあ確かに亀仙流か鶴仙流がいいなあとか思いはしたけども! 

まさか本当に鶴仙流に入る羽目になろうとは。……原作ぶっちぎりすぎじゃね?

当時はなにをどうやったら鶴仙流なんかにツテができるんだよパパン!!とか思ってたんだが。

入門してから大分たってから聞いた話では、鶴仙人がなにやら変わった子供がいるって噂をどこかで聞いたらしく、いい殺し屋になるかもしれんと思って俺を引き取ったんだそうだ。

言われてみればたしかに、鶴仙人に会ってすぐに「素手で硬い土を掘り起こしていたそうじゃのう?」とか聞いてきたなあ。

実際やらされたし、アレは『気』が使えるかどうかの確認だったのかもしれん。

しかし、最初に鶴仙人見たときはインパクトのある帽子に吹きそうになった。リアルに造形としてみると珍妙過ぎる。しかも歩くと微妙に鶴の首が揺れるんだ。

どこのパーティーグッズだよ! とか思ったりもしたが、さすがに数年もたてば見慣れて日常の風景と化した。

ちなみに天津飯とは同期で餃子は一つ下の弟弟子だ。

餃子は、昔の香港映画に出てくる子供のキョンシーあたりのイメージでそう間違ってなかったんで、最初に見たときもそう動揺しなかったんだが、正直天津飯を見たときは獣人をはじめて見たときと同じくらいショックを受けた。……リアルな三つ目は物凄く怖かったです。

ところで少し話は変わるが、俺が一年間も土を掘り返したにも関わらず、全く成長できなかったのはどうやら体を使う際に『気』を使いすぎてて体に対する負荷が軽すぎたせいだとか。

体が強い『気』に耐えられるような強い体にならないと『気』の総量も増えないとどうもそういう事らしい。

教えてくれたのは鶴仙人。あの人あれで結構教えるのは上手いと思う。

普通は体を鍛えていくうちに自然と強い『気』を持つようになるので、そのあたりからスムーズに『気』のコントロールができるようになるのだとかなんとか結構詳しく説明してくれた。

俺は小器用だったらしく、体は大して強くないのに『気』の操作ができていたのが災いしたみたい。

まあ繰気弾とか思い出してくれると小器用っていうのが良く分かると思う。

……小器用って大抵良い意味では使われないよね。






「うぼぁー」

気がつくと同時に我ながら気の抜ける声が出た。

ああ、いつもの天井だ。ってことは俺の部屋か。あー今何時なんだ。

とか考えて起き上がろうとしたら全身に痛みが走った。電流が走るように脳天から爪先までを駆け抜ける。

「うぎぎぎぎ!」

「おい! 無理をするな」

「ヤムチャ だいじょうぶか」

その声は天津飯に餃子か。体が痛くて声のするほうに首も向けられない。

「……ああ。まあ、なんとか生きてる。心配かけたみたいだな」

「蹴り飛ばされて道場の壁を突き抜けていけば心配くらいする」

「……うへえ」

「それより何があった。外から帰って来てそうそうあの騒ぎ。今日桃白白さまの仕事に『見学』で着いて行ったようだが。そこでなにかやったのか?」

鶴仙人の弟である桃白白は普段は道場にいないんだが、殺しの仕事の合間に時々顔を見せにくる。

それだけならちょっと教え方の乱暴な嫌な老師で終わるんだが、社会見学させてやろうとかいって殺しに弟子を連れて行ったりするんだ、これが。

で、たまたま今回俺が目に付いたらしい。

「着いていったんじゃない……むりやり連れ回されただけだ。殺しの見学なんて冗談じゃないぜ」

「!!……ヤムチャ!!」

天津飯の声に焦りが混じる。まあ、鶴仙人とかの耳に入ればただじゃすまないだろうな。

ただ俺にもどうしても抑えられないものもある。

「あの野郎……小さな女の子まで始末しようとしやがった……」

ターゲットはどっかのマフィアの首領だったんだが、依頼はあくまでもその本人だけ。

だってのに桃白白の野郎は首領を殺した後に側にいた家族まで問答無用で殺そうとした。たんに騒いで癇に障るからって理由だけで!

だからつい桃白白にしがみついて「依頼はもう十分果たしたでしょう!!」とか叫んじまった。

ハッと我に返った母親が泣き叫ぶ娘を抱いてあわてて逃げていったよ。桃白白ざまあww

桃白白も追いかけてまで殺そうとはしなかったが、すぐさま鶴仙流の道場まで帰ってきて「稽古をつけてやる」とか言って俺を滅多打ち。

とどめは冒頭の片手ネック・ハンギング・ツリーと、こういうわけだ。

「……気持ちはわからんでもないが。俺たちは鶴仙流の弟子だぞ! 体は痛むだろうが我慢して今すぐ桃白白さまに土下座して来い」

天津飯にそう言われても今回の行動に後悔は無い。そもそも考えて動いたわけじゃないし。

超ヘタレだと自分では思ってたんだが、案外目の前で何か起こると人間って自然と体が動いたりするのね。

「……後悔は無いし、謝る気もない」

「……わかった。……今からすぐに逃げるんだ。鶴仙人さまはともかく桃白白さまは多分お前を殺すぞ」

「ちょ……マジで?」

「…………」

痛い痛い。沈黙が痛い。えー……マジですかー。

「あの後も何人か弟子が稽古をつけられたが、怒りがおさまった気配は無い」

稽古=ボロクズにする ですね。わかります。

さっきまで怒りに支えられてた勇気がしわしわと萎んでいく。

……よし!!

「逃げようっ!!! 天津飯! 悪いが鶴仙人さまには上手いこと言っておいてくれ!」

痛みを我慢して、跳ね起き、取るものも取り敢えず窓から飛び出す。

「ふはははー! こんなこともあろうかと舞空術マスターしておいてよかったZE!」

怖い。桃白白めっちゃ怖い。

俺のトラウマが109式になったことは言うまでも無い。
















なんか話がどんどん飛びますが、もうすぐ原作本編の時代に突入する予定です。



[6783] 第4話『飛べないヤムチャはただのヤムチャだ』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:05a80524
Date: 2009/05/22 01:03
「あい・きゃん・ふらーい!!」とばかりに鶴仙流の一門から飛び出したのはいいが後先など全く考えてなかった。

何せ桃白白から遠くに逃げないと死亡フラグが立っちゃいそうだったので。

とりあえず実家に帰るのはマズイ。まず鶴仙人が住所知ってるし。もし連中が来たときに俺がいたら家族ごと殺されかねん。

俺がいなくても殺されそうな気もするが、俺の実家まで押しかけることの無いよう天津飯が鶴仙人に上手いこと言い訳してくれるのを願おう。

幸い桃白白は俺の住所なんて知らないはずだから、鶴仙人が教えない限りは問題ない。……頼んだぞ天津飯!

となるとどこに行くべきか? カメハウスにいけたら行きたいが、場所など知らんし、小島にあるからなあ。探して見つかるかどうか。

んんー? ビビッときた! カリン塔に行こう! あれなら見つけやすそうな気がする! 

カリン様に修行つけてもらえば桃白白ごとき桃白白(笑)になるに違いない!

そんなことを考えながら数時間飛んでいた。

……よく考えたらアレだよね。

いくらカリン塔が物凄く高い塔だからって太さがちょっとした柱程度しかないワケだから遠くからだと早々目に付くわけ無いんだ。

うん。今なら分かる。とりあえず何処かに身を隠して休憩するべきだった。

どどん波とか無視して舞空術ばっかり訓練してたおかげで、いまの時代じゃあ結構な速度で飛べると自負してるが、如何せん舞空術は結構消耗が激しい。

桃白白から受けたダメージが全然抜けてなかったのが最大の原因だとは思うんだが、自分のスタミナの残りが把握できてなかったんだな。

速度の出しすぎと、長距離航行が祟った。

つまりどういうことが言いたいのかというと。

「ふぁぁぁぁぁあああああ!!!」

自由落下。綱なしバンジー。安全装置なきスカイダイビング。

「落ちるううううぅぅぅぅぅっ!!」









ヤムチャしやがって……

第4話『飛べないヤムチャはただのヤムチャだ』










俺は自分で飛べるようになってから久しく忘れていた恐怖感を思い出していた。

高所がもたらす恐怖感ってのは本能的なものがあるね。うん。だから俺がみっともなく泣き叫んでもしょうがないと思うんだ。

「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!」

もう自分でも何を叫んでいるやら分かりません。

焦りすぎて何とか舞空術を展開しなおそうという意識も飛んでいた。





-プーアル視点-


――何かに化けてしまえば追い払うことができるのかもしれない。

後ろから追いかけてくる大きな翼竜をチラリと振り返りながらそう思う。

だけど立ち止まる勇気が出てこない。

ボクが武器や、強い生き物に化けたって結局立ち向かうのはボク自身だもの。

ボクには勇気が無い。変身幼稚園で苛められていたときだってそうだった。

強いモノに化けられるようになれば強くなれると思って、頑張ったから化けるのは幼稚園で一番になったけど結局何も変わっていなかったんだ。

……ボクは弱いままだ。

恐怖心にかられてまたチラリと後ろを伺う。さっきより少しだけ近づいてるような気がする。

逃げるためにもっと早く飛べるモノに化けられればいいんだけど、ボクは変身しなくても飛べたからあんまりそういうモノに化ける練習をしてこなかった。

ぶっつけ本番でもうまくいくかもしれないけど、失敗したらその時点でボクの運命がきまっちゃう! きっとそれはあの翼竜のお昼御飯。

それは絶対に嫌だ!!

ボクはなけなしの勇気を振り絞って飛行機とかよりは簡単な鳥に化けることにした。

ポンっ!といつものように化ける。

鳥に化けたからには羽ばたかないと飛べない。だからボクは一生懸命羽ばたいた。

でも速度が上がるどころかちっとも前に進まない。それどころか高度も維持できない。

嫌な予感が頭を掠めて自分の体を確認する。

どこかで見たことあるような白い体。短い翼。

「に、ニワトリだ~っ!!」

慌てて変身を解除するもグワっと開いた翼竜の顎はもうそこまで迫っていた。

「うわぁぁぁぁぁっ!誰かっ!誰か助けて!!!!」

恐怖のあまりボクは目をつぶってそんなことを叫んでいた。

「…………くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!」

よく分からない雄たけびが聞こえたかと思うとドーンと大きな鐘でも突いたような音がした。

恐る恐る目を開けると、目の前に迫った翼竜の頭に男の人、ううん、まだ少年って言ったほうがいいくらいの子が頭突きをしていた。

よっぽどの威力だったのか、翼竜は目を回してそのまま落ちていった。その男の子と一緒に。

「あわわわ……大変だ」

ボクはさっきまでの恐ろしさなんてどこかへ吹き飛んでしまって、慌てて男の子と翼竜が落ちた場所へと向かって飛んでいったんだ。


―プーアル視点終了―




頭が痛い。猛烈に痛い。

痛いということはとりあえず生きてはいるって事かな。桃白白にやられた体の節々も痛むが我慢して上半身を起こす。

綱なしバンジーをやっちまった割にはコレだけですんで助かった……って妙に生暖かくてやわらかい地面だ。なんだこれ。

ペチペチと叩くと地面がパックリと割れてボーリングだまくらいの黄色い瞳がこっちを見た。何コレ?

爬虫類みたいな目だなあとかぼんやり考えた後、さーっと血の気が引いて、慌てて飛びのく。

「うわー……スゲー」

離れてようやく分かるくらい巨大な翼竜でした。

ドラゴンボールの世界だからいるだろうとは思ってたし、遠目には鳥とも翼竜ともわかんないものが飛んでるのは見たことあったがここまで接近して立ち会うのははじめてだ。

「き、キミ大丈夫!?」

頭上からなんか女の子見たいな声が聞こえたんで、そちらに目を向けると、猫のぬいぐるみみたいなのがプカプカ飛んでいた。

「……空飛ぶぬいぐるみが喋った……」

もうね。この世界に生まれ変わってから色々ありすぎて、驚くに驚けない体になってしまいました。たぶんこの世界に来る前なら腰を抜かしてもおかしくないと思う。

「ぬ、ぬいぐるみじゃないよー。ボク、プーアルっていいます」

「……あ」

どこかで見たことがある造形だと思ったらプーアルか!!

原作後半で空気になりすぎてて今まですっかり忘れてたが!! そういやヤムチャにはこんな相棒いたよ!!

「……あ?」

小首傾げるぬいぐるみ、もといプーアル。なにこの可愛い生物。元の世界だと愛玩用に乱獲されそうだ。

「あ、いや何でもない。俺はヤムチャってもんだ」

「助けてくれてありが……うわ、ああ、あわわわ……」

突然おびえだしたように俺の背後を見つめるプーアル。

あ、そうか翼竜がいたな。

振り返ると翼竜が地面に激突したときについたであろう小石やら砂埃やらをパラパラ落としながら立ち上がっていた。

「なんだーきさまはー?」

低い声で妙に間延びした台詞を吐いたのは目の前の翼竜。

「ほー……話ができるタイプだったのか……」

この世界は奥が深いなあ。というか色々ありすぎだろう。

まあ、喋るタイプの動物は前に鶴仙流の修行でしとめた挙句食ったこともあるから珍しくもないんだが。

最初は話ができる動物食うのは物凄い抵抗があったが、なれると『動物を頭が良い悪いで差別しちゃいかんね』くらいの気持ちになれた。

すいません。嘘です。「会話ができる」っていうのは「頭がいいから殺しちゃだめ」とか「可愛いから殺すのよくない」とかとはやっぱり別次元です。

殺したり食ったりするのは若干だが未だに抵抗はある。

「オレ様のーメシの邪魔をするってんならーお前も食うぞー!」

が、こっちを食い殺そうとする相手にはそういう気持ちも消えるってもんだ。

「やれるもんならやってみろよ」

ちょいちょいと手招きして挑発する。

「……なまいきなガキめ食ってやるぞー!!」

「ああ、そうかいッ!」

口をあけて向かってきた翼竜の顎に向かって飛び上がり、下あごを強かに蹴り上げて、その大口を閉じさせる。

蹴りの衝撃はそれだけに止まらず、上体が大きく沿ってその腹が丸空きになった。

足をたたんでクルクルと宙返りして地面に着地。と、同時に地面を蹴って翼竜の腹に一直線に向かって、その勢いのまま肘打ちを叩き込む。

「……鶴仙流にはこれでも10年以上いたんだぜ」

パッとその場から下がると、ズドンォンと、重たい音を立ててその巨体が地面に倒れ伏した。

「……いずれ地獄で会おう」

相手にはもう聞こえてもいないだろうが、調子に乗って格好をつけてしまった。元(?)中二病患者だけに抑えられなかった。

今は反省しt

「す、スゴイ!! スゴイ! スゴイ! スゴイ!!」

し、しまった!! そういやプーアルがいたんだった! いまの痛い台詞とか聞かれたらもう私お嫁にいけないっ!!

「な、なあプーアr「スゴイ! スゴイです!! ものすごくお強いんですね!」聞いてた?」

物凄く興奮してます。聞かれたかどうか確認ができません。

キラキラしたつぶらな瞳でこっちをみています。

「あ、あの助けてくださって本当にありがとうございました!」

「……ああ、うん。別に礼は要らないよ」

眩しい! 純粋な視線が眩しくて見てられない。俺の汚れた性根がそこに映し出されるかのようだっ!

「じゃ、俺旅の途中なんで!」

さっきの痛い台詞とか聞かれてたらと思うと居たたまれない。

さっと手を振ってその場から立ち去ろうとすると、ぐいと袖を引っ張られた。

ほにゃ? と思って見ると、プーアルか俺の袖に食い下がるようにぶら下がっていた。

「あ、待ってください!!……お願いです!! ボクも、ボクも連れて行ってください!」

「……お前にも家族がいるだろう。親に心配かけるようなことはやめたほうがいい」

いや、ほんと俺なんか実家にも帰れないんだから、実家があるなら実家で過ごしたほうがいいよ? たぶん。

「……ボクには、もう家族はいません! ボク、もう、ひとりぼっちは……嫌……なんです……っ!」

うおお、いかん。おれの無数にあるトラウマの扉が……。

幼いころに拾ってきた子猫の顔がプーアルに被る。ダンボールに入れられて、捨てられてた子猫。

家に持って帰るも母親がアレルギーだった為に飼うことができず、こっそり神社の境内に隠して世話してた。

しかし所詮子供。正しい世話の仕方も知らず。残して帰った給食の牛乳とか与えてたら下痢して衰弱死してしまった。

ちょっと目頭が熱くなってしまったので、慌てて抑える。

「……好きにしろ」

「……ハイっ!!……ありがとうございますっ!! ヤムチャさまっ!」








―ちょっと遡って再びプーアル視点―


「やれるならやってみろよ」

ヤムチャと名乗った男の子はそういって不敵にも手招きしてみせた。

「……なまいきなガキめ食ってやるぞー!!」

案の定翼竜は大きな口をあけてヤムチャさんに一直線に向かってきた。食べられちゃう!

ボクが目をつぶった瞬間。

「ああ、そうかいッ!」

どこか飄々としたヤムチャさんの声がして、それから直ぐにバキィッと大きな岩でも砕けたような音がした。

ボクが想像してたような音じゃなかったからうっすら目を開けると、翼竜がその長い首を天に向けて後ろに反り返りそうになっていた。

ヤムチャさんは太陽を背にクルクルと宙に舞っていて、まるで太陽そのものみたいだった。

ボクが目を奪われた瞬間はたぶん時間にすればすごく短かったと思う。でもそのときのボクにはすごく長く感じられた。

でもその瞬間にも終わりが来た。

ヤムチャさんがスタっと地面に着地した。と、思ったら次の瞬間には消えたようになって、いつの間にか翼竜のお腹に肘打ちを当てていた。

その一撃で崩れ落ちる翼竜。

そしてヤムチャさんは翼竜が倒れる瞬間にこう言ったんだ「……いずれ地獄で会おう」って。

…………スゴイ!! カッコいい!! こんな人がいたなんて!!

気がつくとボクは叫んでいた。

「す、スゴイ!! スゴイ! スゴイ! スゴイ! スゴイ! スゴイです!! ものすごくお強いんですね!」

ボクはふと、これじゃ失礼だと思って、改めてお礼を言うことした。

「あ、あの助けてくださって本当にありがとうございました!」

ボクがヤムチャさん、ううん、ヤムチャさまの顔をみるとヤムチャさまは照れたように顔を背けた。

「……ああ、うん。別に礼は要らないよ」

ヤムチャさまはそっけなくそう言うと「じゃ、俺旅の途中なんで!」と軽く手を振って足早に立ち去ろうとした。

ボクは、いつの間にか胸に点った熱に急かされるようにヤムチャさまの袖を掴んでいた。

今この人と別れたらもう二度と会えないかもしれない。そう思うと居ても立っても居られなかったんだ。

「あ、待ってください!!……お願いです!! ボクも、ボクも連れて行ってください!」

「……お前にも家族がいるだろう。親に心配かけるようなことはやめたほうがいい」

ボクの無茶なお願いを、ヤムチャさまは優しく語りかけるようにたしなめた。

でも、ボクはその瞬間自分の両親を看取ったときのことを思い出して叫んでしまった。

「……ボクには、もう家族はいません! ボク、もう、ひとりぼっちは……嫌……なんです……っ!」

ヤムチャさまはしばらく呆然とボクの顔を見て慌てて目元を押さえた。

アレは……涙? 会ったばかりのボクのために泣いてくれるんですか? ヤムチャさま……。

「……好きにしろ」

ほんの少し間を置いてから、ちょっとだけぶっきらぼうな言い方でヤムチャさまはボクなんかのお願いをきいてくれた。

「……ハイっ!!……ありがとうございますっ!! ヤムチャさまっ!」

―プーアル視点終了―





まさかプーアルが仲間になるとはなあ? 正直出会うまで忘れてたし、原作無視しまくりの展開でよくもまあ都合よく話が進んだもんだ。

もしやと思うが、原作の修正力みたいなものはないだろうな? 

いや前の世界でよく見てた二次創作だと結構そういう言葉が出てきたりした記憶があるんだが。

まさかな? まさかだよな。

「……アハハ。まさかだよな」

「どーしたんですか? ヤムチャさまー」

「ん、あ。いや、なんでもない。まあ、プーアルも遠慮せず食べろ。一人じゃどうせ食べきれないんだから」

さっき殺してしまった翼竜を焼肉にしてみました。無駄な殺生はよくないからね。殺したなら食べないとね。

ただでかすぎて丸焼きだと中々火が通らないので、バラバラに解体しました。尻尾の輪切りとか食ってみたかったんだ。

味のほうは正直香辛料でもないと到底上手いと言える代物ではなかったが。

「ところでプーアル」

「ハイ。なんですか? ヤムチャさま?」

「つかぬ事を聞くようだが、お前、オスメスどっちだ?」

「いくらヤムチャさまでも女の子に向かってオスメスだなんて失礼ですっ!」

プイとそっぽを向かれてしまいました。

どうやらメス……もとい女の子だったようです。

原作でどっちだったのか全く知らない俺には、これが原作どおりなのかそうでないのか判別がつかなかった。
























本当は外伝で話にしようかと思ってたエピソードですが話がそんなに進んでないのに外伝っていうのもなあ……
と思って第4話にしてみました。
原作本編の孫悟空との出会いを4話にしようと思って前回次回予告めいたことをしてしまいましたが
……まあ、そのジャンプの予告並みに当てにならない次回予告って事で一つ……。

石は……石はなげないで……っ!

プーアルオスメスどっちなんだろうと思ってググってみたら明確な設定は無いみたいでした。
だったらメス……いやさ女の子のほうが嬉しい。個人的に。と思って強引にメス……もとい女の子にしました。

ちょ、岩は……せめて投げるなら石でお願いします!

あ、それとWikiにプーアルとの出会いが14歳のころとか出てたんで地味に3話改定しています。



[6783] 第5話『動画投稿サイトで犬猫動画を見ているときの顔は誰にも見せられない』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:7e265668
Date: 2009/05/04 05:34
かつては一般人でいたいと考えていた俺も、ちょっぴり空飛んでみたいとか、かめはめ波撃ってみたいとか思って修行なんかしたせいなのか、ちょいと厄介な因縁なんかが出来てしまいました。

まあ、桃白白はアレでなかなか忙しいのでもう俺の事なんか忘れてるかも知れないが。

桃白白より強くなっておかないと安心できないというか、なんというか。

ぶっちゃけた話、ピンクの服着た人が視界に入ると「くやしい……でもビビっちゃう……ビクン!ビクン!」っていうトラウマな状態を何とかしたいのですよ。

「わたしはあなたがかんがえているより強くなりすぎてしまったのです…」

って台詞を天津飯の代わりにピンク胴着ちょび髭男に叩きつけてやるために頑張ることに。




で、カリン塔の位置についてはあっさり判明。

「あ、そうだ。プーアル、カリン塔って知らないか?」

「え? カリン塔ですか? ……カリン、カリン……聖地カリンと何か関係があるんでしょうか?」

「……聖地カリン知ってんのか」

「ハイ。地図にも出てますよ? ホラ」

そういってモコモコした体のどこから出したのやら世界地図を広げるプーアル。

「なん…だと…?」

何気に学校にも行かず鶴仙流で修行ばっかしてた俺の世間知らずぶりが暴露された瞬間でした。

だって鶴仙流は頭の修行とかしないんだもの。

原作で孫悟空が少しずつ常識を身につけていったのも亀仙人が修行中にある程度教養もつけさせてたおかげだと思うね。

地図の上をプーアルが指し示す。うむ、指が猫みたいなので何処を指しているのやら若干分かり難いが、確かにその辺りに聖地カリンと書いてある。

「なるほど……で、プーアル。今俺たちはこの地図上だとどこにいるんだ?」

「…………」

……プーアルよ。その「駄目だ こいつ… 早くなんとかしないと……」って目でおにーさんを見るのはやめて欲しいんだが?














ヤムチャしやがって……

第5話『動画投稿サイトで犬猫動画を見ているときの顔は誰にも見せられない』













聖地カリンまでは舞空術で3日程かかってたどり着いた。

聖地カリンに入ってからそう時間を取らずカリン塔が見つかったからいいものの、カリン塔ちょっと細すぎる。

20kmくらい離れてるだけで空気にかすんで物凄く見えにくかったよ。

プーアルに出会わず適当にフラフラ飛んでたら当分見つからなかったんだろうなあ。

本当に柱程度の太さしかないから耐震強度とかちょっと心配だ。仮にも神様の神殿へと続く塔なんだからそうそう折れたりはしないんだろうけども。

それとウパだったっけ? 原作だとインディアンみたいな格好した親子が塔の近くにいたような気がしたんだが、俺が塔を発見したときは近くにいなかった。

ま、一年中定住してるわけでもないのかもしれない。

「ヤムチャさまー。本当にこんなの登るんですか?」

プーアルが塔を見上げてあきれた様な口調で言った。

気持ちは分からんでもない。こんな軌道エレベーターみたいな建物をフリークライミングもどきをするとか普通じゃないよなあ。

「登るぜぇ~登るぜぇ~超登るぜぇ~。飛んでいったら怒られるだろうからな」

「えーとカリンさまとかいう仙人さまがいらっしゃるんでしたっけ」

カリン塔を探す目的については聖地カリンに来る途中で一応説明している。

えら~い仙人様に修行をつけてもらうんだってね。

「Exactly(その通りでございます)」

まあ、仙人というか厳密に言えば仙猫なんだろうけど。

「……ヤムチャさま。なんか性格変わってません?」

「えー? もとからこんなんだよ、俺」

「そ、そうですか?」

困ったような顔して小首をかしげるプーアル。

うおおおぁ!! もともと猫大好きな俺の中の何かがウズウズしてきた!

「……プーアル。スマン。ちょっとモフらせろぉぉぉぉ!」

「え? ちょ、ヤムチャさま? あわわわーっ!」

もふもふ。もふもふ。もっふもふが俺のジャスティス!!




「ふぅ……。さあ、気を取り直して登るか!」

顔が引っかき傷だらけなのは気にしない方向で。

「……ヤムチャさま。ひどいです……」

プーアルが不貞腐れていらっしゃる。

「ついカッとなってやった、今は反省している」

いや、そのモフモフなお腹に顔くっつけてモフっただけだよ? そんなに怒らなくてもいいじゃないですかプーアルさん。



どうにかこうにかプーアルのご機嫌をとりながら、塔を登り始める。プーアルはあんまり高いところまでは自力で飛べないらしいので俺の背中に括り付けました。

下で待ってもらってても良かったんだが、カリン様との修行でどれくらい時間がかかるか分からんからね。

丸一日時間はかかったものの、特に危なげなく登りきることができた。

体力的には結構ギリギリだったけど舞空術があるおかげで余計な緊張感が薄かったせいかな。

最悪手を滑らせても簡単にリカバリーできるっていうリラックスした精神状態がよかったのかもわからんね。鍛錬としては緊張感があったほうが良かったのかもしれないが。

「ふいー……やっとついたよ」

「なんだかボクも疲れました」

プーアルを括り付けていた紐を解いて背中を空けてから、大の字に寝転ぶ。

横になったまま、首を動かして周りを見ると大きな壷やら浴槽やらが置いてある。カリン塔ってこんなに生活感のあるところだったけ?

「……ほー。よくここまで登ってこれたのう」

どこからともなく声がする。

休みを欲する体に喝を入れて立ち上がると外側から上に上る階段が目に入った。

「まだ上があるみたいですね」

「今の声はそこからか。いくぞプーアル」

若干よろめきながらも階段を上るとアニメや漫画で何度か見た覚えのある殺風景な展望台みたいな場所に出た。



「おお。まさにカリン塔」

少し感動しつつ、肝心のカリン様を探す。

別に隠れるような場所は無いのに見当たらない。

「ここまで登ってきた奴はおおよそ300年ぶりじゃ」

「どわっ!」

予告もなくいきなり目の前に太った化け猫みたいのが現れたせいでしりもちをついてしまった。

よく見ればその背丈よりも大きな杖をもった姿は限りなく俺の知るイメージに近い。

それにしても……ゴクリ。

この人(?)も、もっふもふじゃないか。

「……なんかおぬしの視線によこしまなものを感じるのう」

「は!? い、いえ!! カリン様。決してそのようなことは!」

「ほう……。一目でわしをカリンと見抜くとは。見た目は若いがなかなかに侮れんわい」

く、いかん。原作知識が変な具合に作用してしまったじゃないか。もっふもふに動揺してうっかりをやらかしてしまった。

「……他には誰も居られないようでしたので……。そ、それよりカリン様っ! 私に武術の稽古をつけて欲しいのですが!」

「ん? なんじゃおぬし。超聖水を飲みに来たんではないのか?」

「……え!? あ。そ、そーでした。そーでした。あははは……」

超聖水がただの水である事とか、色々覚えていたことが裏目に出て変に怪しまれてる。

カリン塔に関する言い伝えは飲むと何倍にも力が上がる水があるっていうそういうモノだったね……。

中央の台座に置かれた超聖水の入った壷を手に取ろうと近寄る。この流れでカリン様が飲むのを妨害しに来れば自然と修行になるはず。

「……わし、それが超聖水だっていった覚えが無いんじゃがのう」

「い!?」

しっかりしろ。俺! うっかりにも程がある。常に優雅たれって家訓を持つ一族よりひどい。

「なーんかおぬし隠しておるな?」

「……いや、あの別に隠し事ってワケじゃあ……」

俺が別の世界から転生してこの先に起こりうるであろう出来事を知っているってのは、実際隠し事ってわけじゃない。

あえて話す必要性が感じられなかったのと、説明が面倒くさいこと、そして話したところで信じてもらえる気がしなかったので誰にも話さなかっただけだ。

まあ、この際話しちまったほうが面倒が無くていいかな。

「えーと。その、話せば長くなるのですが……」

「しゃべらずともよい、ちょいとばかりおぬしの心を覗かせてもらうでな」

「……は、はあ」

カリン様ってそんなことできたっけ? そんな細かいことまでは覚えてないぞ。

しばしの沈黙の後、カリン様があの細い目を見開き、杖を取り落とした。そこまで衝撃的だったか。

「……………なんと!! これは面妖な!? ……おぬし数奇な境遇じゃのう。……なるほど。おぬしがこの先に起こりうるであろう可能性を知っておることは分かった。正直信じられんが、心は嘘をつけんしのう」

ええ!? こんなあっさり?

すごいぞカリン様。さすがに偉い仙猫なだけはある。

「どこまで見ました?」

「おぬしの記憶にある物語の流れは把握したつもりじゃ。まさかこの先ほんの数十年のうちにこのようなことが起ころうとはのう……」

「まあ、俺が知り、今またカリン様が知った時点で既にずれてきてますけどね」

「とはいえこの世界に起こるであろう危機については同じように起こるじゃろうて。……フム、まずはかの大魔王の復活か……。本当ならなんとか阻止したいところじゃが、その先の危機を乗り越えるために必要な試練と考えれば、安易に阻止するわけにもいくまい。厄介なことじゃ」

これはまた豪く深いところまで読んだんだなあ。

まあ、マジュニアこと、後の神コロさまが生まれなければ色々とまずいよね。

「……俺なんて気楽なもんですけどね。大して重要な役割もってるわけでもないし」

「いや、この先の世界がどうなるかは分かるまい。おぬしの記憶にあった人造人間とやらに滅ぼされた未来の話もある。未来は一つではない。少しでも鍛えておくに越したことは無かろう」

「ぶっちゃけた話、孫悟空さえいればなんとかしてくれると思いますが」

「この世界が、その孫悟空が心臓病で死ぬ世界だったらどうするのじゃ!?」

「!?」

正直その発想は無かった。

「つまりこの世界がトランクスがこない。人造人間に滅ぼされる世界ってことですか」

「うむ。極論じゃがそういう可能性もありうるということじゃ。おぬしもできる限り鍛えておけ。未来の知識を持っているなんて考えてると思わぬ所で足をすくわれることになるぞ」

『足元がおるすになってますよ』ですね。わかります。

「ヤムチャさま~。先ほどから何のお話をされてるんですか?」

プーアルが遠慮がちに肩を突付いてきた。さっきから置いてきぼりだからな。気持ちは分かるぞ。

「んんー。なんというか。一言で言うと俺が未来予知できるって話だよ。で、カリン様が俺の心を読んだから予知の内容を知ったんだ」

「ええー!? ヤムチャさまそんなことできたんですかー?」

騒ぎ始めたプーアルを眺めつつ、桃白白さえどうにかすればあとは孫悟空に丸投げしようとしていた自分にあきれる。

原作どおりに進む保障が無い以上、俺もできる限り力を身につけておいたほうがいいのは確かだ。

どうにか原作のヤムチャ以上の大幅なパワーアップができないか考えてみよう。

「おぬしはそれほど純粋ではないが根はごく善人じゃ。わしが一年たっぷり時間をかけて稽古をつけてやる。その後は亀仙人にも修行をつけてもらえ。ここでは学べぬものもあろう」

「はい! よろしくお願いします!」

とりあえずは修行あるのみか。









あっ……という間に一年が過ぎて、俺たちはカメハウスに修行に行くことになった。

ちなみにカリン様との修行の最中、一度だけ隙を突いてモフったことがありましたが、思いがけず毛が硬くて、もふもふというよりはワサワサだったのが残念でした。

うん。おれはカリン塔までいってなにをやってるんだろうね OTL

無論修行はまじめに行ったよ? 残像拳なんかもマスターしたし。基本的なパワー、スピードも以前とは段違いだ。

特に技としての名前は無いけど、エネルギー波もだせるし、一応自分なりの技なんかも体得した。

一応原作をリスペクトして「真・狼牙風風拳」と名づけました。

繰り出した瞬間に負けフラグが立ちそうな気もするけど、原作とは全然違う技だから多分大丈夫だろう。

プーアルなんかは「なんで真がつくんですか?」と聞いてきたんで、無印や新だと縁起が悪いからと答えたら不思議そうな顔をしていた。

そりゃまあ、不思議だろうなあ。

カリン様はうんうんと頷いていたが。……ですよねー。

たぶん今の時点でも既に桃白白には勝てると思う。

もともとの目的を考えればここで修行を終えてもいいんだが、もうちょいハードルをあげることにしたんで、ここで止まってはいられない。

「『まず死なない』『地球も守る』。“両方”やらなくっちゃあならないってのが“ヤムチャ”の辛いところだな。覚悟はいいか?オレはできてる」

「……ヤムチャさま?」

プーアルそろそろ俺の戯言にたいするスルースキルを磨いてくれ。

だからその「駄目だ こいつ… 早くなんとかしないと……」って目でおにーさんを見るのは(ry




















……おかしいなあ。なかなか原作本編の時間に入れません。

原作のヤムチャはいてもいなくてもあんまり物語が大きく変わりそうに無いもんで

なんかドラゴンボールの世界に武力介入する理由が弱いかなあと思って四苦八苦してこんな形に。



[6783] 第6話『ただし家族愛は鼻から出る』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:8c49e641
Date: 2009/02/27 22:36
静かに穏やかに打ち寄せる青い波。

さんさんと輝く太陽の日差しはどこか柔らかい。

今までずっと着ていた鶴仙流の胴着を脱ぎ捨ててアロハシャツとハーフパンツで身を固めた俺はビーチベッドに寝そべり、よく冷えたトロピカルジュースで僅かに乾いた喉を潤す。

「ヤムチャさま~!」

砂浜で波とたわむれる水着の美しい少女が俺のほうに向かって時折手を振ってくる。

海水に濡れて滑らかな肌に絡みつく長い黒髪は艶っぽく、小柄だが均整の取れた肢体はそのメリハリのついた体つきとあいまって正に美"少女"といった感である。

無邪気な笑顔で手を振る彼女に苦笑して、俺は軽く手を挙げて応えた。




「…………これなんてエロゲ」

まさかリアルにこの言葉を使う日がこようとは。

事の元凶は、興奮を隠すこともなく『美少女』もとい『美少女に化けたプーアル』を前のめりになって凝視する禿げたサングラスジジイ……つまり亀仙人である。

俺と同じようにビーチベッドに腰掛けてはいるものの、プーアルをガン見する姿からは余裕など感じられない。

おそらくプーアルを脳内●RECするのに必死なんだろう。

「くーっ! プーアルちゃん。ええのーっ! 若い娘はプリプリじゃー!」

……正直申し上げてプーアルにはもちろんのことだが、亀仙人にも若干心苦しさを覚える光景である。

弟子入りに際して一応カリン様の紹介状を持ってきたのだが、そこはかの亀仙人である。案の定修行したければピチピチギャルを連れて来いなどと言い出した。

その程度のことで「予想外デス」とでも言うと思ったの? 馬鹿なの? 死ぬの? な俺は、あらかじめプーアルに適当なファッション雑誌に出てた美少女に化けさせて待機させておいたので、弟子入りはすんなりと通った。

無論プーアルが化けた姿ってのは亀仙人には秘密である。プーアルの変身に制限時間がなくて助かった。まあ、一日中変身させておくわけにもいかないので夜はこっそり元の姿に戻って一緒に寝てるんだが。

亀仙人が夜になると時々ガサゴソしてるのはたぶんプーアルを探してるんだろうなあ。なにをする気やらしらんが。

「あの武天老師様。……そのー、そろそろ修行に戻りませんか?」

俺はビーチベッドから腰を上げ、ハァハァしながら大興奮の亀仙人に躊躇いがちに声をかけた。

「……ん? なんじゃおまえ見た目によらず案外マジメじゃのう。軽そーな顔しとるくせに」

16歳になって随分大人びた顔つきになってきた俺だが、その顔つきは結構ハンサムだがちょっと軽い感じがするという、ホラー映画だと前半に殺されそうなタイプなのだ。……だいたいあってる。

「顔は関係ないでしょ!! それにもう一週間もこうしてるじゃないですか!」

「やれやれ、腕前こそたいしたものじゃが、精神的にはまだまだ未熟じゃのう。……ふむ、では問おうかの。……亀仙流の修行とはなんじゃ?」

「……"よく動き。よく学び。よく遊び。よく食べて。よく休む"……です」

「それが分かっておるなら今は遊び、休め。鶴の所で10年。カリン塔で一年。ここにきてからさらに一年近くおまえは過密な修行をしてきたんじゃ。ガスを抜かんと破裂するぞい」

亀仙人の言うとおり、亀仙流の門を叩いてから既に一年近く経つ。

最初の半年間は近くの大きな島に引っ越して、近い将来悟空やクリリン達が同じように行うであろう修行をした。

重い亀の甲羅を背負ってアルバイトやら畑を耕したりする例のアレである。ただし40キロの甲羅だと既に俺には軽すぎたので、特注で80キロの甲羅を作ってもらって修行に励んだ。

牛乳配達やら土木工事やらやらされたアルバイト料が俺の懐に入ってきてないので、便利に使われたような気がしないでもないのだが、そこは食事代も出してくれた上にただで面倒見てくれてる亀仙人に文句を言う筋合いでもないだろう。

修行の後半の半年は、もとの小島に戻って適度に体力をつけつつも、瞑想や『気』のコントロールの修行に終始した。

確かに普通なら十分過ぎるほどの鍛錬なのかもしれない。

「……しかし老師。まだまだ足りないのです」

「なにをそんなに生き急ぐかは知らんが、休むことの大切さを知らねばならん。さてはカリン様もそのことを考えてわしの所によこしたに違いないわい」

「いや、そーいうわけではないと思うのですが……老師様のところに行くのは最初からきまってましたし……」

「うほほーっ!! ぷ、プーアルちゃん! もちっとこう腕で胸をはさむ様に……そう! それ! そのポーズ」

って、うおいィィィィ!! 人の話を聞いてない上にプーアルに何やらせてんだこのジジイ。

さすがに呆れたぜ。俺は一つ大きくため息をつくと、ビーチベットにもう一度寝そべった。





「…ヤ……さま ヤムチャさま? 最近どーされたんですか? なんか元気ありませんね」

いつの間にかウトウトしていたらしく、気がついたらプーアルが目の前にいた。

おいおいちょっと顔が近いぞ。元の姿ならなんとも無いが、今みたいに化けられてると恥ずかしいじゃないか。

「……いや、別になんでもないから。心配しなくていいぞ」

ポンポンと頭を軽く叩いてやるが、あんまり納得した表情ではない。

俺の小心が顔に出てたかー。情けないったらないね。

でも孫悟空を当てにせず、最悪の場合ガチで強敵に立ち向かわなければいけないかもしれないって考えるとなあ。

……休むことがちょっと怖い。

打倒桃白白とか考えてたころが懐かしい。

原作の本編がまだはじまっても無い(たぶん)のに何で俺だけこんな気持ちにならなければならんのだ。この時期から将来の敵について頭を悩ませるとか理不尽だぜ。

俺がそんなことを考えてると、ムニュムニュしたものが顔面に押し付けられて視界を塞がれる。

「ヤムチャさま。もふもふですよ。もふもふですよ。元気出してください!」

……ぷりんぷりんしたものが俺の顔面を挟んで激しく左右に揺さぶる。

…………………。

プーアル…それ、モフモフやない、ぱふぱふや!!!

慌ててプーアルを引き剥がす。キョトンとした不思議そうな顔のプーアル。

そ、そんな純粋な瞳で俺をみるなっ! べ、別にプーアル相手にちょっと性欲もてあまして胸がモヤモヤしたりとかしてないんだからねっ!

しいて言えば、そう! プーアルに対する家族愛で胸がいっぱいになっただけだ。そうだ、そうに決まっている。

「あの……ヤムチャさま。……鼻から血が……。ごめんなさい。ちょっと勢いが強すぎましたか?」















ヤムチャしやがって……

第6話『ただし家族愛は鼻から出る』















……空が青いのは耳をネズミにかじられたから、海が青いのはペ○シブルーが主成分だから。

俺の気分がブルーなのはプーアルに興奮してしまったから(性的な意味で)……orz

「あやつウツロな目で海を眺めて何をブツブツ呟いとるんじゃ? わしがトイレにいっとる間になんぞあったんかのう。プーアルちゃん」

「ボクがなんだか余計なことしてしまったみたいで……」

「……ようわからんが、ほっときゃなおるじゃろうて。それよりプーアルちゃん次はこの水着を着てくれんか」

「え? これ水着なんですか? ヒモみたいですけどどうやって着るんですか?」

「おお! だったらこのわしがつけ方を教えてあげたりしちゃったりなんかして…」

次の瞬間、俺がここに来てから習得したかめはめ波によって、亀仙人の手にあった卑猥な水着がこの世から消滅させられたのは言うまでも無いだろう。

「ああーっ!? せっかくの水着がっ!? か、かめはめ波を悪用するとは……! 師として情けないわい」

「なーにが悪用ですか。セクハラも程ほどにしてくださいよ老師様。もういい加減いい年なんだから自重してください。自重」

全くこのジジイときたら。三百歳超えてるくせに自重のじの字も知らんのかい。

「ふーんだ。ええわい。ええわい。老い先短い年寄りの楽しみを邪魔する弟子をもった我が身の不幸を嘆くとするわい」

ジジイが拗ねても可愛くないぞ。それに少なくともあと数十年くらいは絶対に生きてると思うから安心しろ。……まあ何回か死ぬんだろうけどな。

「仙人さまー。仙人さまー」

「ふん! なんじゃい。今更仙人様などと煽てても許しはせんぞい」

仙人さまって別にお世辞じゃなくて事実だろうに。……まあ、それはともかく。

「今の声は俺じゃありませんよ」

「……なんじゃと? はて、そう言えばどこかで聞き覚えのある声じゃったのう」

「仙人さまー。ようやく帰ってまいりましたー」

足元から聞こえた声に亀仙人と二人して視線を下に向ける。

……ああ。そういえば。"亀"仙人だったものね。確かにいたハズだよね。カメハウスに来てから一回も会ってなかったけど。

海から体半分出してこちらを呼んでいたのはウミガメでした。

「なんじゃ。カメか。おまえ今まで何をしとったんじゃい」

「実は……」

ウミガメの話を要約するとウミガメの仲間と一緒に松茸狩りに行ったはいいが、はぐれて道に迷ったあげく一年ほどさ迷っていたらしい。

俺とプーアルが来たのがだいたい一年前だから、そりゃ会わないはずだぜ。

「それで先ほど親切な方に海まで連れ来ていただいたんです」

「ほー。なるほどのう。そりゃわしからも礼の一つはせにゃなるまいて」

「ええ! ええ! ぜひお願いします」

んー。なんかおぼろげな記憶が……。このカメ助けたのが悟空だったような。

知らないうちに原作はじまってたんだね。……危なかったね。

俺が荒野で山賊もどきをやってない以上、ここを逃すと当分接触できそうにないよな。

「……老師様。俺たちもそのお礼につきそってもよろしいでしょうか」

「ん? まあそりゃ構わんが」

「……仙人さま。この方と後ろのお嬢さんはどなたです?」

ウミガメに新しい弟子のヤムチャと、そのつきそいのプーアルだと適当に紹介されたところで、それじゃあということで皆で一緒にいくことになった。





ウミガメに乗ってスイスイと洋上を行く亀仙人の後をプーアルと二人でノロノロ飛んでいく。

「ヤムチャさまー。重たくありません?」

「いいから……あんまり動くなよ」

プーアルは俺に跨る様にして乗っている。

あんまりモゾモゾされると、そのあれだ。感触が、ね?

「あ、海岸が見えてきました」

遠目に映るツンツン頭の少年と青い髪の少女。

あれが孫悟空とブルマかー。……こちらに生まれ変わってから早16年。さすがに感慨深いものがある。

ぼーっと二人を見てるといつの間にか亀仙人たちが海岸についていた。ちょっとノロノロしすぎたらしい。

プーアルが振り落とされない程度に速度を上げて海岸上空までいくと亀仙人の声が聞こえてきた。

「…わしは亀仙人じゃ!!」

あら、なんかもう自己紹介がはじまってたみたい。じゃあ、俺たちもそれに続くべきだろう。

「プーアル飛び降りてくれ!」

「はいっ!」

プーアルに続いて、シュタっと亀仙人の横に若干格好をつけながら着地する。

「……俺は亀仙人さまの弟子のヤムチャ。そしてこいつが」

「ヤムチャさまの子分のプーアルです」

何故かその場がシーンと静まりかえる。

なんだ? 俺、なんか外した? 空気読めてなかった? 女の子の姿のプーアルが子分とか自己紹介したんで引いちゃった?

それにしてもブルマは結構、いやいや、そうとう可愛いぞ。

卵型の輪郭にバランスよく配置された顔のパーツ。

くりくりっとした大きな瞳。

妙にブカブカのワンピースのパジャマみたいな服を着てるのでわかり難いがスタイルもよさそうだ。

アイドルだって言われたら普通に信じそうなレベルである。

何故か大口開けて固まってるのはマイナスだが。

「い、今あんた空飛んでこなかった!?」

「おめー人間の癖に飛べんのか。すげーな」

……ああ、そういうことか。そりゃ確かにびっくりするわ。見ため普通の人間が空飛んできたら。

ブルマに比べると悟空の驚き方は軽いなー。まあ、ほとんど人にあったことも無かったらしいし仕方ないのかね。

「まあ、修行したからな」

うむを言わさぬ一言で返すと「しゅ、修行したら人間って飛べたかしら?」とかブルマが呟いていたが、この世界だと恐ろしいことに普通に飛べるんだな、これが。

「……それよりそっちも名乗ってくれないか」

「え…あ、ああ! そ、そうね。わたしはブルマで、このちっこいのが……」

「オラ、悟空だ。孫悟空! なあなあヤムチャ。オラも飛べるかなあ」

まあ、ビーデルだってデンデだって飛べるから、今の時点でもちょっと修行すれば飛べるかもわからんね。


「えー。おっほん」


亀仙人がわざとらしく咳ばらいする。無視されたのが気に食わなかったらしい。

「わしは亀仙人じゃっ!!」

大事なことなので二度言い(ry

「で、カメよおまえを助けてくれたのはどっちじゃ?」

「おぼっちゃんのほうです」

「そうか。そうか。ごくろうさんじゃったな。ではお礼にステキなプレゼントをあげてしまおう。……さて、何がいいかのう」

悩み始める亀仙人。おろろ? 確かここで孫悟空が筋斗雲をもらうはずじゃなかったか? 

……ちょっと口をはさんだ方がよさそうだ。

「老師様。どうやらこの悟空という少年、空を飛ぶことに興味を持ったようですから、筋斗雲などがよいのでは?」

「おお!! グッドアイデアじゃ。……はて? なんで筋斗雲のことをしっとる? 見せた覚えが無いが」

「…………か、カリン様からいただいたんでしょう? 俺もカリン様の所で修行させてもらった者ですから」

「おーおー。そうじゃった。そうじゃった」

ぺしっと亀仙人が自分の禿頭を叩く。

……あ、危なかった。相変わらず失言が多いね俺は。

無論カリン様の所で筋斗雲なんて見せてもらってない。どうせ乗れないだろうし。そもそもその時は忘れていたし。

言い訳しようとカラカラ空回りする頭をそれでも回してたらティン!ときて、原作のとあるシーンを思い出したのだ。

悟空が巨大な筋斗雲をちぎって、新しい筋斗雲をカリン様からもらったシーンである。

『それじゃあ亀仙人の持ってた筋斗雲もカリン様からもらったんじゃね? いや、そうであってくれ、頼む』

と、まあ一種の賭けだったわけだがなんか正解だったみたい。

混乱を招きかねないから、未来に関する情報をあまり吹聴しないようにカリン様に言われてるってのに。相変わらずうかつ過ぎる。

カリン様曰く、「亀仙人も多少人の心を読んだりする事ができる」とのことで、カメハウスに来る前に重々注意は受けていた。

念のためにカリン様から心に鍵をかけるすべも習ってはいるんだが、上手くできてるかは自信が無いので不審がられないのが一番である。

もし未来の情報がばれたら、亀仙人の場合だと師のカタキでありその恐ろしさを直接知るだけにピッコロ大魔王の復活を阻止しようと動くかもしれない。

「待たせてすまなんだのう。よし! ではこいつをやろう! 来るんだっ!! 筋斗雲よーっ!」

亀仙人が点に杖を振り上げて叫ぶと、空の向こうからカスタードクリームの様な色の雲らしき塊がこちらに向かって飛んできた。

ドシューっと風切音を立てて目の前に筋斗雲が到着する。

……なるほど、確かに雲だ。色こそおかしいが、本当にこんなのに乗れるの? ってくらい雲だ。もっとこう綿の塊みたいなものを想像してたんだが。

俺が呆気にとられて筋斗雲を見てる間、亀仙人が「筋斗雲には清い心のよいこにしか乗れない」云々の説明を悟空にしていた。

説明が終わるやいなや「どれ!わしが見本を――」と亀仙人が飛び乗ろうとするも、見事にすぽっと通り抜け、腰を強打していた。

「むむ~。お、おかしい……」

おかしくねーよ、と突っ込みたいのを我慢する。あんなにギラついた視線をプーアルに向けるジジイが清いわけがない。

むしろこっちは本人に自覚がなかったことに驚きだぜ。

カメも一緒に「ど……どうしたんでしょう……」とか言ってるが普段の行動でだいたい分かるだろ。

「きゃはははははっ!!!」

そしてブルマ大うけ。箸が転がっても面白い年頃なのね。……でも正直可愛いぜチクショウ。

「オラがのってみる!」

物凄く楽しそうに飛びあがる悟空。

とん、と当たり前のように筋斗雲の上に着地した。

「あっ!!! わーい! のれた! のれたーっ!!」

そのままヒュンヒュン風を切って乗り回し、上空を何度か旋回して俺たちの前で急停止した。

「すげーやこれっ!! どうもあんがとうっ!!!」

悟空大喜び。あんまり楽しそうなんで俺もちょっと欲しくなってきた。でもたぶん乗れないんだろうなあ……。

何故ならば、この後に起こりうるであろうイベントを心待ちにしているような下種だからです。本当にありが(ry

「ねえ! ねえ! おじいさまっ!!わたしにもあれちょーだいっ!!」

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

勘のいい人ならもはや気づいているだろう。

そう!!! ブルマパンツ見せ(ノーパンバージョン)イベント発生である。

ドラゴンボールの細かいところは結構忘れてる俺だが、このイベントだけはハッキリ覚えてるぜ!!

悟空が寝ているブルマのパンツをぬがしてしまい、それに気がつかずパンツ見せるつもりでノーパン大開帳という素敵なイベントなのだ。

ブルマに実際に会う前は亀仙人を止めるつもりだったが、ブルマが俺の想像を超えて可愛かったので、俺の中の天使(戦闘力5)と悪魔(戦闘力53万さらに3段階の変身を残している。その意味は……わかるな?)の戦闘はあっという間に終わってしまったのである。

「あいにく筋斗雲はあれひとつでな。かわりになにかをやってもよいのじゃが………ただし……パ…パ…パンチーを見せてくれたらな!!」

「えっ!? パ……パンティ!?」

wktkが止まらない。

「せ、仙人ともあろうおかたがなんということをっ!!」

「い、いいじゃないかっ!! 仙人だってたまにはパンツぐらいみたいわいっ!!」

カメと亀仙人がやりあってるのを尻目にじっーとこちらをみるブルマ。

ハッ!? し、しまったーっ!!! なんてことだ!! チクショウめーっ!! 俺に見せる理由がブルマにはないじゃないか!!!

そんな内心をおくびにも出さず「……? なんですか?」と格好をつける俺。

「ヤムチャさん……でしたっけ。アロハシャツなんかきてたからちょっとアレだったけど、よくみるとステキね。……あなたもわたしのパンティみたい?」

……そういやこのころのブルマはイケメン相手ならパンツくらい平気で見せちゃうセレビッチでしたね。

それにしてもなんつー質問だ。パンティみたいかって? そりゃみたいさ!! だが、むしろ今見たいのはその下の(ry

でもそんなこと言える筈もな「……み、見たい」勝手に自分の口が動いた。

「ふふ……い、いいわ……パ、パンティぐらいならみせてあげる」

唾を飲み込んで沈黙する俺。たぶん顔は真っ赤だろう。

「はいっ!!」

ブルマが大また開きになってワンピースの裾をばばっとたくし上げる。



(´・ω・`)……あれ!?



「な、パンツ……だと?」

ち…ちくしょおおおおお………!!!

ご、悟空のやつめ!! さてはパンツを脱がさなかったなっ!! まさかこんな事で俺の持つ原作知識を覆されるとは思わなかったぜ!!

普通に鼻血だして喜んでる亀仙人が羨ましい。世の中には知らなかった方が良かったこともあるとはいうが、まさにその通りだ……。

「ねえ! ねえ! で何をくれるの?」

「なにがいいかのう?」

………………。

「あーっ!!ドラゴンボール!!」

………………。

魂の抜けた俺は、亀仙人が首から掛けて首飾りにしていた三星球がブルマたちの手にわたるシーンをただ呆然と見つめていた。

「さいならーっ!!」

「ヤムチャさーん。また会いましょーねーっ!!」

手振って去っていく悟空とブルマに機械的に手を振り返す。

「いやーしかし、いいもん見せてもろた。それじゃあ家にかえろうかの。……ん? なんじゃまだヤムチャは固まっとるのか? まだヤムチャには刺激が強かったかのう……。プーアルちゃん、わし先に帰るからヤムチャが気がついたら一緒に帰ってきなさい」

「ハイ。じゃボクはここでヤムチャさまが正気に戻るのを待ちます」




………………。

「あ」

はたと気がつくと、またプーアルが目の前にずいっと迫っていた。

「ヤムチャさま。女の子のパンツがみたかったんですね……」

眉根を寄せて微妙に不機嫌でいらっしゃる! そりゃこんな変態野郎を親分に持つとか最低ですもんね!

「見たくなったらボクが見せてあげますから。あんまり他の人のを見たいとかいっちゃだめですよ?」

ちょ……無垢な顔して何を言っとるんだお前は! それに俺が見たかったのは……ごめんなさい何でもありません。

「ね?」

ね? じゃねーよ。う、上目づかいで俺を見るなっ!!

「……お、女の子なら慎みを持ちなさい」

てい、とプーアルの頭に軽くチョップをしてから俺は重要なことに気がついた。

……合流しそこねた。

なんとか悟空たちの仲間になろうと思ってたのに、ブルマのお色気イベントで頭がフットーしそうになってた所為で完全にそのことを忘れていた。

今から追いかけるか? いや、しかし追いかける理由がない。

もともと「亀を探してくれた礼がわりにドラゴンボール探しを手伝ってやろう」と申し出るとか、そういう展開を考えていたのに、今追いかけたらパンツ見せてもらったお礼に同行を申し出る変態紳士。

断られるだろ……常識的に考えて。……いや、まあ、今のブルマの性格考えると案外大丈夫そうだが……。

…………ん~。牛魔王の件で悟空がもう一回カメハウスまで来るはずだから、そのときになんとかするか……。

「……ヤムチャさまのスケベ」

小さく呟いたプーアルの声は聞こえなかったことにしておきたい。

























…………これはヒドイ。

どうや今回は全体的に私の頭がフットーしていたようです。

いつか書き直すかもしれません。



[6783] 第7話『俺設定がではじめてきたね。仕方ないね』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:302e67ce
Date: 2009/03/04 00:37
『気』ってのは強弱はともかく生物ならみんな持っているエネルギーである。

その根本的な正体が何かって事までは俺には良くわからんが、その使い方については今までの修行の中で学習してきた。

まず大事なのは集中力とイメージだ。

「はあぁぁぁ……っ!」

手のひらに『気』を集中させる。それを練り上げ、薄く延ばし、激しく回転させていく。

言葉にするとえらく簡単だが、実際にやるとなると安定させるのが非常に難しい。気弾を薄く伸ばすだけで相当な制御力が要る。

「……っつあッ!! ダメだ!」

集中力が途切れると同時に手のひらに集めていた『気』が霧散する。

何をしてるのかと問われれば、クリリンの株を大いに上げた例のアレ、つまり気円斬をなんとかコピーしようと頑張っている最中であります。

途中まではそれらしき物が出来てたんで、方法論的には間違ってないと思いたいが、この『気』の構成だと制御が難しい上、回転させるためのエネルギーを気弾に十分に確保せねばならんので今の『気』の総量だと厳しいものがある。

今まで何度もチャレンジしてきたが上手くいったためしはない。

うーむ……ひょっとすると回転させるのは外周部だけなのか? しかしそんな複雑なこと俺には出来んぞ。

構成が間違っているのか、それとも単純に『気』が足りないんで使えないだけなのかすら分からん。

正直ほとんど手詰まりって感じだが、気円斬を諦める選択肢はありえない。

はっきり言って格上キラーとしては筆頭候補だ。

原作を思い起こす限り、気円斬は相手の防御力が相当高くともそれをブチ抜ける攻撃力があったように思う。

今のままの構成でも、もうすこし回転の制御に習熟すれば『気』の消費も抑えられそうな気配はあるが……。

まあ、他の構成も模索しながら、トライアンドエラーでいくしかないんだろうなあ。

……さすがにまだ当分必要ないだろうし、気長にやろう。

最悪、クリリンが開発してから教えてもらってもいいかもしれない。サイヤ人編に入る前には習得しているはずだし。

それに根本的な戦闘力の向上も考えなければマズい。

気円斬は有効な技だと思うが、小手先の技術とも言えるわけで、それに全て頼るわけにもいかない。

基本パワーを大きく底上げする方法について二つ、三つ考えがあるにはあるが、そのうちの一つはドラゴンボールが必要だし、残りも上手くいくかどうか不透明だ。

「前途多難だなあ」

ため息をついて、背中から砂浜に倒れこむ。

カメハウスのある小島はこの地球の赤道にわりと近いため常夏に近い気候である。

太陽の位置も前世で日本にいたときでは見たことないくらい高く、強い日差しが真っ直ぐに俺の目を焼く。

うおっまぶしっ! ……サングラスくらい用意しなきゃ目に悪いとか考えてると、不意に雲が太陽を隠した。

「おーいっ!!」

太陽を陰らせた雲から聞き覚えのある声がする。

強烈な逆行のせいでシルエットしか見えないが、雲からにょっきり突き出したツンツン頭には見覚えがある。

「悟空か?」

立ち上がってちょっと後ろに下がると、悟空と見覚えの無い少女を乗せた筋斗雲が上空にふよふよ浮いているのが見えた。

もっとも見覚えの無い少女とはいってもその正体は見当がつく。牛魔王の娘であるチチだろう。

派手な飾りのついた兜といい、防御力のなさそうなビキニアーマーといい、いくらドラゴンボールの世界とはいえ、そんな安いファンタジー物のコスプレみたいな格好したお嬢さんはそうそういない……と思う。少なくとも転生してから今まで、他には見たこと無い。

こんなはっちゃけた格好した娘が将来教育ママになるとはなぁ……。

「おーっす!!」

両手をあげて元気に挨拶する悟空。

「おお。元気そうだな。何か用事か?」

ま、チチを連れてきた時点で既に見当はついてるんだが。

「えーっと、亀仙人のじっちゃんいる?」















ヤムチャしやがって……

第7話『俺設定がではじめてきたね。仕方ないね』















カメハウスの2階で昼寝をしていた亀仙人をたたき起こして表まで連れて来た時、悟空とチチは筋斗雲から降りて、キッチンで食事の支度をしていたはずのプーアル(相変わらず化けたままである)といつも暇そうに海岸にいるウミガメと一緒になって談笑していた。

「……で化け物に化けてたのはウーロンってやつでよー。てんで弱っちくてさー」

「う、ウーロン!? ひょっとして子ブタのウーロンですか?」

「ん? なんだ、ウーロンのこと知ってんのか?」

「え……あ、ハイ……。昔ちょっといじめられた事があって」

プーアルがウーロンに苛められていた? そんな設定あったか? なんだか微妙に気になる話だが、まあそれはそれ。でもウーロンにあったら一発小突いておこう。

「話が弾んでるとこ邪魔して悪いが、老師様をつれてきたぞー、悟空」

まだ寝ぼけ眼の亀仙人に杖を渡しながら、ずずいと悟空たちの前に押しやる。

「……なんじゃ。なんじゃ。だれかと思ったらこの間筋斗雲をやった……えーと孫悟空じゃったか?」

「おう! オラ悟空だ。じっちゃん! 元気してたか?」

「おお。元気だよーん。……ん?」

亀仙人の視線が悟空の後ろにいたチチにとまる。

「これ、悟空。そこのブルマとかいう娘。ちょっとちぢんでしまったんじゃないか!? ほれ! 前に見たときはパイパイがもっとこう……」

両手を使って胸の前で大きな曲線を描く亀仙人。……いくらなんでもそこまでデカかったら化け物じゃないか?

「ボイーンとしとらんかったかのう?」

ロリ娘相手でも躊躇なくセクハラをかます亀仙人。さすがである。

とはいえ、そこにシビれたり、あこがれたりするはずもない。むしろちょっと引くわ。

見ろ! チチも引きつった顔で口元に両手をあててドン引きの構えじゃないか。

「ちがうよじっちゃん。こいつはブルマじゃなくて牛魔王の子どもだよ」

全く動じない悟空も相変わらずだ。

「なんじゃと!? 牛魔王の娘か?」

「チチっていう名前だよな」

悟空の言葉にこくんと首をかしげるチチ。……なんか人見知りっぽいけどチチってこんなキャラだったっけ?

「うーむ。お父さんじゃないのに"チチ"か……。なるほど。じゃあその娘のパイパイはチチのチチか~」

悟空たちに背を向け、遠い目をして空の向こうを眺めながら下らないことをつぶやきはじめる亀仙人。

正直、頭の中身が春でいっぱいな感じが、呆れを通り越してちょっと羨ましくなってきた。ある意味幸せそうだ。

「チチの父は牛魔王。チチの乳は……パイパイ?」

この人も締めるときは締められるのになあ……。なんで普段はこう……緩いのか。

俺が生暖かい視線で亀仙人を見ていると、チチと悟空がヒソヒソと話をしている様子が視界の端に引っかかる。

どうもチチの亀仙人を見る目つきはあまりよろしくない。明らかに疑ってる目だ。

「…おらちょっくらためしてみるだ」

チチが兜の鶏冠のような飾りに両手を当てて妙な構えを取った。

どうみてもア○スラッガーです。本当に(ry

「ホンモノならよけられるハズだべ……」

呟きというには少しばかり大きい独り言が俺の耳に入った瞬間、チチはその頭頂の飾りを亀仙人に向かってシャッと投げうった。

どうみてもアイ○ラッ(ry 大事な事ではないけど二度言いました。

激しく縦回転しながら亀仙人の禿た後頭部に一直線に向かうアイス○ッガー。

うむ、このシーンはなんとなく覚えているぞ。

……まあ、ほっといたって亀仙人も死にはしないんだが。こんな人でも一応師匠だしなあ。

俺はほんの一瞬だけ体に『気』を入れて、飛び来るアイスラッ○ーの軌道上に移動する。

おそらくそれなりのレベルに達してない人間には急に消えて、亀仙人の前に突然現れた様に見えたはずである。

「ほい」

特に気負いもせずパンっと白刃取りをして飛んで来たそれを止めると、呆然としているチチの前にゆっくり歩いていって「ほれ」とアイスラッガ○を返す。

「あの人へのいたずらは俺の見てないところでやってくれ。一応あんなのでも師匠なんでね」

『けしからん……だが、いいぞ!!もっとやれ』という意味を乗せて、にっと笑って片目をつぶる。

俺の見てないところであのスケベジジイにいたずらするのは、むしろどんどんやって欲しいものだ。

「あ、あんな素早い動き、おらはじめて見ただ。あんたただもんじゃねえべ?」

「ふえーっ! ヤムチャすげーなあ。消えたと思ったらいつの間にか動いてるんだもんな」

「あんたみたいなお人が弟子だっつーんなら、確かにあのじっちゃんが武天老師さまかもしれねえだ」

……ああ、なんだろうこの気持ち……。言葉に言い表せないような微妙な気持ち。

悟空たちに賞賛されて素直にうれしい部分と、そんな悟空にそのうちあっさり抜き去られるんだろうなあっていう諦観の部分。

所詮、俺はヤムチャだもんなあ……ははは。……なぜか涙が。

「ヤムチャさま! どこか怪我されたんですか?」

俺の涙を見たせいかプーアルが心配そうな顔して駆けよってきた。

……プーアルさんはホンマ親分思いの良い子やなぁ。

プーアルが元の姿だったら迷いなくモフってたところだぜ。

「プーアル。男には泣いていいときが3つあるのさ。生れたとき、愛するものが死んだとき、ヤムチャになったとき」

「……?」

眉を下げて困った顔するプーアル。

いや、いいんだよ? プーアル。俺が意味不明なこと言ったら「イミフwww死ねばいいのにwww」くらい言ってくれても。

ごめんなさい。嘘です。良く考えたらプーアルにそんなこと言われたらボコボコに凹みそうです。言うにしてももっとソフトにお願いします。

「あー大丈夫。大丈夫。分からなくていいから。怪我とかも無いから心配するな」

安心しろとプーアルの頭にポンと手を置く。

「あ、はい!」

返事とともにパァーっ広がるプーアルの笑顔に、つい俺の顔も緩んでしまう。

なんだか知らんが唐突にほのぼのしてしまった。

「パイパイ……チチ……パフパフ。ええのう。ええのう! ふひひひ……」

ほのぼのした空気をブチ破るノイズが耳に入る。

発生源は、遠く海の彼方を眺めつつ、精神がどこか遠くへ逝ってしまったらしい亀仙人である。

……『死ねばいいのに』ってこういうときに使うんだろうなあ。









「なに? 芭蕉扇とな? いかにもわしが持っておるが芭蕉扇をどうするつもりじゃ?」

なんとか正気に戻った亀仙人に、悟空が芭蕉扇を持ってたら貸してくれと頼んだのだが、その返事はやや渋い。

「芭蕉扇は一扇ぎすれば大風を起こし、二扇ぎすれば乱雲をよび、三扇ぎすれば豪雨を降らすという物凄いウチワなのじゃ。そう簡単に貸すわけにはいかん」

天候を操れるのか。そりゃ確かにたいしたもんだ。

悪用でもされたら大変な代物だから、取り扱いに慎重になるのは分からんでもないが、実は既に廃棄処分済みなんだよなあ……たしか。

「貸してけれ! フライパン山の火を消してえだ!!」

「すぐ返すから貸してやってくれよ」

必死なチチと軽い悟空。将来の夫婦像が透けて見えるようだぜ。

「うーむ。なるほどフライパン山の火か……。ウワサには聞いたことがあるがのう。たしかに芭蕉扇をもってすれば火を消すことも出来るじゃろう」

「おねげえだっ!! 貸してけろっ!!」

「……よし! わかった貸してやろう!」

「やった!! ありがとうごぜえますだ!!」

「ただし!! 条件がある」

このジジイの出す条件は大概ろくでもない事なのがデフォである。

「おい、悟空……ちょっと…ちょっとこっちこい……ほれ」

「オラ?」

悟空を呼んで俺たちから少し離れる亀仙人。

仮に原作の知識が無かったとしても、この時点で大体「さわらせろ」か「みせろ」みたいな条件出してるのが丸分かりだよな。

さすがに細かい会話までは覚えてないがブルマの乳をさわらせろとかそんな条件を出してたような気がする。

で、なくした芭蕉扇の代わりにかめはめ波で火を吹き飛ばして、ちゃっかりブルマの胸を堪能する、そんな展開だったハズ。

……実際に会ったブルマは結構可愛かっただけにちょっと腹立つな。

あれ、まてよ? 化けたウーロンにブルマの身代わりをさせたんだっけ? どうだったっけ……?

……ま、いいか。どちらにしろこの世界で亀仙人がいい目に会うことは無いはずだ。

この後の展開が俺の画策した計画通り進むなら、だが。

「よし! ではそういうことで。ちょっと待っとれ、芭蕉扇をもってくるからの」

悟空との交渉がまとまったらしく、亀仙人が嬉しそうにカメハウスへ戻る。

「条件ってなんだったんだべ……?」

チチの呟きに「どうせスケベなことだ」と答えるのは自重した。

しばらくの間はカメハウスの中でガサゴソ探し物をする物音が聞こえていたが、10分ほど経ってから亀仙人がポリポリと頭をかきながら窓から顔を出した。

「おかしいのう……。カメよ芭蕉扇どこにいったか知らんか?」

「ずっとまえナベ敷きにつかっておられたじゃありませんか」

「……あ、あれが芭蕉扇じゃったか? ありゃ、ワンタンの汁こぼれて汚くなってしもうたもんじゃから捨てちまったぞい」

「えーっ!!?」「す、捨てた!?」「なんというバチあたりな……!」「ひどいです……!!」

悟空たちが非難まじりに叫ぶ。

俺は既に知ってたから非難もくそもなかったが、危険なアイテムをあっさり捨てる亀仙人に改めて呆れる。

それなのに不思議と憎めないのは人徳のなせる業なんだろうけどさ。

「も、もうは火は消せねえだか? おっ父になんていえばいいだ~っ!!」

「よろしい。わしが「泣くなよ。俺が消してやるからさ」……なんじゃと?」

亀仙人の台詞にかぶせる様に発した俺の発言で全員が呆けた顔でこっちを見る。

「そ、そっただことができるだか?」

ふ、ふふふ…………計画通り。

外見は人のいいお兄さんのような表情を浮かべていると思うが、内面ではどこぞの新世界の神ばりのイイ笑顔である。

……足元?……お留守?…なんのことです?

この後は、本来なら亀仙人がフライパン山まで出向き、かめはめ波で山ごと火を消し飛ばす場面である。

だが、それを俺がやればどうだ!? 

火を消した礼に「神龍とやらを見てみたい」とか言えば同行するのも不自然じゃなくね?

……うむ、ちょっと客観的に考えるとそう大した計画でもないが、俺にはこれが精一杯。

この10余年修行ばっかしてたせいか、頭が脳筋なんだ。すまない。

「こ、これ待た「よっしゃ!! じゃあいくぞプーアル!!」

亀仙人の台詞を遮って、プーアルを背負うと舞空術で空へと舞いあがる。

「悟空ー!! はやく来い!! 案内してくれないとフライパン山までいけないぞー!!」

俺が声をかけると、悟空とチチが慌しく筋斗雲にのって同じ高度までやってきた。

「じゃ、オラたちに着いてきてね」

「こ、この人空まで飛べるだか……。なんでもありだべ」

チチがやたら感心してるが、変なフラグが立たないだろうな?

ちょっとやな予感がするが、先行しはじめた悟空を追いかける。

さすがに筋斗雲は速い。なんとか食らいつこうとするが少しずつ距離が離されていく。

やべ……見失った! と焦ったところで遠くに燃え盛る大きな炎の塊が見えた。

「あれがフライパン山か……聞きしに勝るな」

「ハイ。ボクもはじめてみましたがスゴイですねー」

背中のプーアルがちょっと身じろぎするのが分かった。

それぐらい遠目でも相当な迫力のある光景である。

ちなみにフライパン山はこの地方では結構有名な一種の名所であり、教科書にまで載っているんだとか。

プーアルが南部変身幼稚園とか言うところで習ったそうなので、以前詳しく教えてもらった事がある。

なんでも元は涼景山という過ごしやすい所だったが、10年ほど前に天から火の精が落ちてきて、燃える山となり、気候も変わってしまったらしい。

山の頂上にある城には悪魔の帝王と呼ばれる牛魔王がそこら中から奪った金銀財宝が眠っており、それを狙う奴も多いのだが、山のふもとで城を守る牛魔王に阻まれているとかなんとか。

その時、火の精ってなんぞ? と思ってプーアルに尋ねたんだが「……そう言えば何でしょうね? そう習っただけであんまり深く考えた事無かったです」と素っ気無い返事だった。

子ども向けに教えたいのはフライパン山に近づいてはいけないという事であって、なんで燃えてるかとかどうでもいい事だろうしなあ。おとぎ話風の味付けで子どもに分かりやすくしたのかもしれない。

フライパン山に近づくにしたがって熱気が強くなるのを感じつつ、そんな事を思い返していると下から悟空の騒ぐ声が聞こえた。

「……ほら!! きた!! きた!!」

声の方に視線を下げると、山の麓に先に到着した悟空とチチ、バニーガールの格好をしたブルマ、2メートル以上は背丈のありそうな大男、小柄なブタ顔の獣人が一まとまりになってこっちを見上げていた。

俺は山の麓に向かって高度を下げていき、プーアルを先に下ろしてから、静かに着地した。

「おめえがが武天老師様の新しい弟子だっつーヤムチャだか?」

ゴーグルと一体化した、角つきのヘルメットをかぶった大男……つまり牛魔王にどこかいぶかしげな口調で問われる。

口元だけしか見えないんで分かりにくいが「芭蕉扇頼んだのに後輩なんかが来たってどうしようもないだろ……常識的に考えて」って考えてそうな表情である。

しかし、どうやら一足先に到着した悟空たちから俺たちのことは既に聞いているらしいな。

「はい。あなたが兄弟子の牛魔王さんですね」

「おめえチチに火が消せるとかいったそうだな。見事消して見せればオラの一番大切な宝さやってもええだ! ただし! 消せなかった時には……」

強い殺気を滲ませる牛魔王。ブタとブルマがビビってる。プーアルも怖がるからやめて欲しい。

「ハイハイ、もし消せなければ俺の命なりなんなり差し上げますよ」

前世ではまちがいなくヘタレだった俺だが、桃白白にフルボッコにされたり、修行を続けたおかげか、さすがに殺気にも慣れてきている。

いまさら牛魔王の威圧くらいで動揺するはずもなく、俺は言葉を続ける。

「ただし、もし俺があの炎を消せたらそこの悟空たちにドラゴンボールをあげてください。それとこれからはいくら宝を守るためとはいえ、殺生はなるべくさけて下さいね。武天老師様も憂慮されておられましたよ」

この話は本当である。修行中にふと兄弟子たちの事が話題にのぼった際、牛魔王の噂に亀仙人は眉をひそめていたからな。

「う……わ、わかっただ。ドラゴンボールとやらは、もう悟飯さんのマゴにやるって約束しとるし、つい欲にかられて殺生さ重ねてすまっただが、火さえ消えれば宝などもういらねえだっ! 捨ててやる!!」

「え……いや、あのわざわざ捨てなくても」

というかそれがないと大食いのニートである婿どのを養うの大変だと思うよ。

「……ま、いいや。じゃ、さっそく」

舞空術で2、3メートル浮かびあがる。

「はああぁぁ…………っ!!!!」

『気』を練り上げ全身に巡らせながら使う技を考える。

ま、原作どおりだが、炎を吹き飛ばすならかめはめ波が最適だろう。

かめはめ波は両手を使って溜めを作ることで威力の調節がしやすい。

さらに相手がかめはめ波に抵抗して押しとどめられた場合でもさらに気を送り込むことで押し切ることも出来るし、慣れがいるものの軌道を曲げることも出来る。

かなり応用力が高く、使い勝手もいい技である。

まあ、今回は威力の調節が出来ることくらいしか利点は生かせないけどね。

両の手を龍の顎のように合わせて構え、練り上げた『気』をそこに集中させる。

「ま、まさか!? あの構えは!?」

牛魔王がはっと気がついたように驚きだす。

知っているのか、雷電! ですね。わかります。解説役乙。

「か……め…は…め…」

……もしこれでかめはめ波が出なかったら、前世、部屋でこっそりかめはめ波の練習をしていた所を遊びに来た友達に見られてしまった時以上の羞恥プレイだな。

ちょっと焦ってきた心を落ち着けながら、『気』を慎重に制御していく。適度に威力を抑える方が難しいのだ。

「波ーっ!!!!」

ボッと大気を鈍く引き裂く音を置きざりにして、叫びとともに前に突き出した俺の両の掌から青白い閃光が放たれる。

彗星の様に伸びていった気の塊が山に着弾した瞬間、大気を揺るがすような大爆発を引き起こして、視界を完全に覆うほどの砂埃を巻き上げた。

視界を遮る砂埃が落ち着くのをちょっぴりドキドキしながら待つ。

しばらくして砂埃が落ち着くと、ほぼ俺が期待していた通りの光景が現れた。

「……どうにか成功か」

そうとう威力を抑えて撃ったので、下手すると失敗するかもしれないと思っていたが、パッと見た感じ城も原型は残しているし、山も無事だ。

この辺は原作で山ごと吹き飛ばした亀仙人よりもうまいことやれたみたいだ。

「お……おお!! 火が消えただ!!」

「た…た…たた……たまげた………」

諸手をあげて踊りだした牛魔王とは対照的に悟空たちはまだ固まっている。

ふははは……。なんというか気分がいいね。

今の俺の表情はたぶん得意げなうざい顔になっていると思う。

関西で言う、いわゆる「どや顔」である。……まあ、みんな同じ立場になればだいたいこうなると思うんだ。

「いんやー!! おったまげただ。まさか、かめはめ波が使えるとはよう」

地面に降り立つと同時に、バンバンと牛魔王が背中を叩いてくる。

「いやあーおめえ、てえしたもんだべさ。約束どおりおらの一番の宝、娘のチチをやってもいいべ」

ちょ……おまっ!!

「やんだーおっ父!! はずかしいべさ。それにおらにはもう将来を誓った相手がおるだよー」

チチがどんっと牛魔王を突き飛ばして、ちらりと悟空を見る。

ですよねー。

変なフラグは世界を滅ぼしかねないだけにノーサンキューである。

「あ、そーだ。ブルマ。ヤムチャにおまえの胸つつかせてやってくれよ」

「「は?」」

あまりに突然の悟空の発言にブルマと俺の声が重なる。

「ここに来る前に約束したんだ」

ちょ……おま……。ゴクリ。

いやいや、何言ってんの悟空さん!!

「ち、ちち、違うぞブルマさん!! 今の約束ってのはあの亀仙人がはじめ芭蕉扇を貸すときにだした変な条件であって、俺とは何の関係も無いんだから」

「つ…つつきたいの?」

ぽっと頬をそめてこちらを見るブルマ。

バニーガールの服装とあいまって妙な色気が……ゴクリ。……はっ!? いかん流されるなよヤムチャ。

なんか頼み込めばつつかせてもらえそうな空気だからって、それに乗るな俺!! 

さすがに前回と同じ失敗はしないぜ。聖○士(セ○ント)もといヤムチャに同じ技は二度と通じぬ! もはやこれは常識。

つつきたいか、つつきたくないかって言われればつつきたいに決まってるけどな!!

「い、いい……いや。ち、ちがう。お、俺は出来れば神龍ってのが見てみたいんだ。もし感謝してくれるならドラゴンボールを集める旅に同行させてくれないか」

「ふーん……。いいわ!! あなたみたいな殿方なら大歓迎!!」

ブルマはぐっと親指を突き出してウインクした。

……可愛い。いかん、ぐっと来た。

「って痛っ!」

突然二の腕をつねられて思わず悲鳴を漏らす。

横を振り向いて犯人を探すと、何故か瞳を潤ませたプーアルがいた。

「だ、ダメです!」

唐突に何だ? いきなりダメとか言われても意味がよく分からないぞ?

「なんだ? プーアル。一緒に行っちゃいけないってのか?」

「とにかくダメなんですー!」

「……そう言われてもなあ。……あ。もしお前が行きたくないってことなら、別に無理してついてこなくていいんだぞ」

「え……? そんな……。う、うう。……わかりました。でもそのかわりボクも絶対ついていきますからね」

「そりゃ俺は全然構わん。というか元々そのつもりだったんだが、本当にいいのか?」

「いいんです!!」

……なんか知らんが怒ってしまわれました。

あ、ブルマにプーアルも同行していいか了解とらんとマズイよな。

「えーと今の話聞いてたと思うけど、こいつも連れて行っていい?」

「……それはまあいいけど……ヤムチャさんとプーアルさんってどういう関係?」

ブルマが問い返してきた。その視線は探るように俺とプーアルの間を行き来する。

なんだその目? 別に隠すようなことなんか無いが。

「そうだなあ。親分子分……というよりは相棒? 最近はどっちかっていうと家族っつーか、妹みたいな感じだけど」

「へー……そうなんだ。ふっふっふ」

そう言って何故かにやりと笑うブルマ。……でもそんな表情も可愛い…ってダメだぞ!? 

ブルマは将来野菜王子の子どもを生む宿命を持つ女なんだから、深入りはできん。

下手に付き合ったりしたら最終的に寝取られ欝ルートという地雷なのだ。

俺が内心で悶えてると、不意に空からゴーッと戦闘機みたいな音が聞こえることに気がついた。

音のする方を見上げると、クルクルと回る丸いシルエット。

……ありゃ亀仙人も来ちまったか。

ガ○ラの版権をもってる所に怒られそうな子ガメラに乗って、グルグルと回転しながら飛んでくる。

手足と首を甲羅に引っ込めて回転しながら飛行するカメの上に乗る老人。恐ろしくシュールな画面(えづら)である。

回転がヒュンヒュンと激しいものから徐々に緩やかになっていき、どんっと地面に着地する。

「お、おおっ!! 武天老師さまっ!! お久しぶりですだっ!!」

どたどたっと駆け寄ろうとする牛魔王を、静かに杖で制す亀仙人。その顔はいつになく真剣である。

「……め、目が……まわ」

そのままゲロゲロともんじゃストームする亀仙人。

これはヒドイ。……っていうか何しにきたの?




「なんじゃと!? もう全て終わってしもうたじゃと!?」

亀仙人が落ち着いてから、状況を話すとぷりぷり怒り出した。

「わしのパイパイツンツンはどうしてくれるっ!?」

「……ま、まあ、いずれまたそんな機会もありますよ。はっはっは」

んなこと知るかっ! と怒鳴りたい気持ちもあるが、俺が本来の出番を食っちゃった手前、すこし気がとがめるのも事実。

「うぬぬぬぬ~っ! ……ふんっ! ええわい。ええわい! 帰ってからプーアルちゃんになぐさめてもらうことにするわいっ!」

「……えーと、そのことなんですが、俺とプーアルはしばらく悟空たちについていきますんで」

「なに? それならばお前だけで行けばよかろう。プーアルちゃんはわしの所で……」

「絶対ヤムチャさまについていきますっ!!」

プーアルが突然割り込んで宣言する。

そんなに亀仙人と二人は嫌か。まあ、嫌だよな。俺が女だったら嫌だもの。

「とほほ……。ま、人生は長い。見聞を広めるのもよかろう」

「はい。ありがとうございます」

亀仙人に一礼したところで、牛魔王とチチがきょろきょろと辺りを見渡しながら近づいてきた。

「いやー。火が消えて涼しくなってきただよ! またここらもすごしやすくなるべ」

「おら、物心ついたころからあの火に包まれた城しか知んねかったから、すんごく新鮮な気分だ」

気候や光景が元の状態に戻ったことが嬉しいらしく、その表情は明るい。いやはや、喜んでくれて何より。

「あ!! そうだ。約束どおりドラゴンボールをもらえるかしら?」

牛魔王の顔を見て、思い出したようにブルマが話を切り出しはじめた。


無論牛魔王が断るはずもなく、自分で探してドラゴンボールを持っていけと宝物庫の鍵を気前よくブルマに渡し、ブルマはブルマでドラゴンレーダー片手に「ちょっと女同士の話があるから~」とか言い出してプーアルを連れてさっさと城へと入っていった。

なにそれ? 保健体育的な話? とか考えてた俺はその場に取り残されてしまった。

牛魔王と亀仙人はつもる話でもあるのだろう。辺りを軽く散歩しながら懐かしげに話をしている。

チチも牛魔王の後ろについていってるので、俺の周りには悟空とブタしかいない。

で、その子ブタの獣人なんだが、長い間高熱に晒されて崩れかけた城壁に、半分体を隠すようにしてこちらを伺っている。

そのあからさまな視線にたまらず「何か用か?」と声をかけると、益々警戒を強め、片目だけ城壁から覗かせるように身を隠しながら口を開いた。

「……あんた何者だ? ただもんじゃねーな」

「悟空から聞いてるんじゃないのか? 亀仙人の弟子。プーアルの相棒。ヤムチャってもんだ。そんでもってお前はウーロン……だな」

「なんでオレの名前を?……あ、まさかあのプーアルって女、泣き虫プーアルか!? くそーいい女だと思ったらあいつが化けてやがったのか!」

そうい言って身を隠す事も忘れて、地団太を踏み出すウーロン。

ブタの獣人ははじめてみたが、他の獣人みたいにあんまり違和感は無い。無論耳や鼻は人外のものだが、体毛なんかが無いせいか雰囲気が人のソレに近い。

「ちくしょう! プーアルのやつめ!」

……昔プーアルを苛めてたらしいし、なんかだんだん腹立ってきたなあ。

よし! やっぱり一発拳骨を食らわせてやろう。

軽く大地を蹴って、滑り込むようにウーロンの背中に回りこむ。

「き、消えた!?」

消えてないよー。お前の後ろにいるよー。

「こいつはプーアルの分」

ウーロンの頭に拳を振り下ろした。

ガツッと鈍い音がして、ウーロンが「あががが」と声だか息だか分からないような音を漏らしながら、頭を抑える。

見る見るうちに大きなたんこぶが出来上がった。髪の毛が無いから分かりやすい。

「い、いきなり何するんだっ!」

「昔、プーアルを苛めてたらしいからな。そのお礼だ」

「……ちぇっ……やなやつだなー」

「お前に言われたか無いわ。それよりもうコレで水に流してやるから。一度プーアルにあやまってこい」

そういって城を指差すと、ウーロンはぶつぶつ言いながら城へと向かっていった。

さて俺もドラゴンボールを探すの手伝うか、と城に向かって歩き始めたところで、ぺしぺしと腕を叩かれた。

そちらを向くと、あきらかにwktkした悟空の顔が待っていた。

オラ、わくわくしてきたぞ!! と今にも言いそうな表情である。

「なあなあ、ヤムチャ、さっきの火を吹き飛ばした技じっちゃんから教えてもらったんか?」

さっきから悟空が何か言いたげに、ちょこまか着いてきてたんだが、それが聞きたかったのか。

「ああ、そうだ。かめはめ波っていう技だ」

「すげえ技だなあ~。……ヤムチャ、オラにもおしえてくれよ!」

「本家本元はそこにおられる武天老師さまだから、そっちから教えてもらえ」

"鳥龍"というロゴが塗装された二階建てのハウスワゴンの近くで、城を見ながら牛魔王と何事か語らう亀仙人を指差す。

「おう!」

威勢のいい返事をして亀仙人のところに走っていく悟空。

数秒ほど悟空の背中を見送ってから、俺は城へと歩きはじめた。

悟空は基本的に無欲っぽいけど、強さに対しては結構貪欲だよなあ。あれもサイヤ人の血かね、やっぱ。

やれやれ、悟空が本格的に修行を開始するのはまだもう少し先になるんだろうが、いつ追越されるやらわかったもんじゃない。

地球人とサイヤ人では才能の上限が絶対的に違うもんなあ。正直ちょっと羨ましい。

人の生まれを羨むのはどうかとは思うけど、そもそも種族が違うとなると努力で何とかするとかそういうレベルを超えてないか?

ほとんど僻みみたいな方向に考えが偏りかけてたその時、バボンッとガス爆発でも起こしたような音が俺の思考を中断させた。

「……?」

驚いて振り向くと、亀仙人たちの近くに駐車してあったハウスワゴンが城壁に向かって横転し、車体にそれが突き刺さって完全にオシャカになってしまっているのが見えた。

ただし、その反対方向の側面にも何かが激突したような大穴が開いており、その近くには両手を合わせて突き出した格好のまま固まった悟空の姿があった。

出ちゃったんだね。仕方ないね。

「……大した奴だ」

某忍者漫画の如く呟いてしまった俺を誰がせめられようか。

というか、今更ながら、そういや悟空はここで初めてかめはめ波撃ったんだったなー。とか思い出していた。











気の扱いとかに徐々に俺設定が出始めてますが……。

なんか修行のシーンとか掘り下げようと思っったらこんな感じに。

広い心で受け止めていただけると作者が喜びます。

というか今回ひどい難産でした。

二次創作って難しいですね。今更ながら思いました。

それといつの間にか感想が100超えててびっくりです。

今回感想のおかげでモチベーションを保てました。ありがとうございました!



[6783] 第8話『悪いなの○太、このクルマ三人用なんだ』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:e2e96c47
Date: 2009/05/04 05:38
オープンカーにメリットってやつがあるならば、それはきっと開放感だと思うんだ。

仮に車内が狭くとも空と風を直接感じられれば開放的に違いない。

そして偶然だが今俺がその後部座席で揺られているエアカーも屋根のないオープンタイプである。

たしかに、空は見える。風も肌を撫でて行く。

本来なら直接空を飛ぶ舞空術とは比較にならないとしても、きっと開放感に浸ることもできたのだろう。

……それがどうして、針のむしろにでも正座させられてるような心境にならねばならないのか。


「……どういうことなの」


誰に対して問うでもなく、思わず声に出た。

「どうしたんですか? ヤムチャさま?」

そう言ってプーアルが俺の左腕にその胸をさらに押し付けるように迫る。

あの……当たってるんスけど。

「なになに? 何か気になることでもあった?」

ブルマが俺の右腕にその胸を押し付けるように……っていうかグイグイ押し付けてくる。

だから当たってるんですけどオォォォォっ!!

「何でもないです……」

心の声を押し殺す。……だって明らかに「当ててんのよ」って空気だからねっ!

俺が今どんな状況に陥っているか具体的に説明すると、ブルマと化けたままのプーアルに両隣から腕を絡めとられるように抱きつかれて、本来二人用の後部座席に三人がギュウギュウに詰まって納まっているという、そういう様な状況です。

両腕に絡みつく柔らかな感触はとても気持ちいいし、なんかいいニオイはするし、それが嬉しくないと言えば嘘になるが、それはそれ。

俺の胃は随分前からキリキリとした痛みを訴えており、そう遠くない未来に潰瘍でもできそうな勢いだ。

俺だって男だから、両手に花とかハーレムとかそういうものに憧れを抱いたことも、そりゃ多少はある。

だけど、俺に見えてないだけで、こいつら本当はスタ○ドバトルでもしてんじゃね? と疑わせるほどに張り詰めた空気には耐えられないのですよ。

二人の背景にゴゴゴゴって描き文字が幻視できてしまうのは俺の目がおかしいからではないハズ。

俺がどこぞの平穏を愛する殺人鬼だったら「いいや!『限界』だッ!押すねッ!」とバイツァ・○ストのスイッチを間違いなく押してるところだ。

「ちぇ……いいな。ヤムチャの野郎。……オレと代わって欲しいぜ」

はい、そこ。ウーロン君。聞こえてますよ。

ずっとエアカーを運転させてるのは悪いとは思うが、俺だって別に好きでこうしてるわけじゃないんだから。

代わりたいなら代わってやる……と言いたいが、ブルマとプーアルがそれを許してくれるとも思えない。

あまり鋭い方じゃない俺でも、なんか俺を取り合ってるらしいのは分かってるつもりだ。……間違ってたら恥ずかしくて悶絶死ものだけどなっ!

ブルマが俺に積極的なのはまだ理解できる。自分で言うのもなんだが、今の俺は結構イケメンだ。原作のブルマの序盤の性格を考えるとそれほど不思議ではない。

原作でもあっさりヤムチャと付き合い始めたくらいだしね。

でもプーアルがブルマに対抗してるのはなんでなんだZE? だっていくら美少女に化けてるからってプーアルだよ?

親分とか兄貴分をわけの分からない女には任せられないとかそういうアレなのか? 小姑的なポジショニングを狙ってるんですかプーアルさん。 

それにしても……もっとこうキャッキャウフフなそういう雰囲気にならないものか。

このままでは俺の寿命がストレスでマッハなんだが。

「なあなあ。ヤムチャ、飛べるのになんでわざわざそんなにくっついてんだ?」

エアカーに併走飛行する筋斗雲の上でずっと大人しくしていた悟空だったが、さすが長い旅路に退屈になったのか、不意にそんな爆弾を放ってきた。

「えっ!!? そ、そうだな。じゃ、じゃあそろそろ飛ぼうかなー……」

声がうわずる。……っつーかお前が牛魔王のところで、あのハウスワゴンさえ壊さなければだなあ……。

俺はフライパン山を出発する前のことを思い出していた。














ヤムチャしやがって……

第8話『悪いなの○太、このクルマ三人用なんだ』















時を遡る事数時間前。

いきなりかめはめ波をうてた悟空に亀仙人が「わしの所で修行してみんか」と弟子のスカウトみたいなことしてると、牛魔王の城にいってた連中が帰ってきた。

「お、俺のとっておきが~」

悟空が破壊した"鳥龍"のロゴの入ったハウスワゴンはウーロンのものだったらしく、ウーロンはスクラップになったワゴンを見て膝から崩れ落ちた。

「ど、どーすんのよっ!! このさきの足が無いじゃないの!」

ドラゴンボールを無事に見つけ、プーアルと一緒に城から戻ってきたブルマも、ハウスワゴンの惨状を見るや悟空に詰め寄った。

だが、そこは彼の孫悟空である。「たははは、すまねえ」の一言で軽く笑い飛ばした。

あっけらかんとした悟空にブルマが続けて何か言う間もなく、牛魔王が「クルマならおらのをやるべ」と言ってくれたので、その場は一応収まった。

ただ問題は、用意してくれたクルマが三人乗りのエアカーだったことだ。

人数的に無理があるのは明らかだったが「ちょっくら古い奴だがなかなかはえーど。狭えと思うが今はコレしかクルマがねーんで我慢してけろ」と牛魔王に言われては何もいえない。

幸い俺は飛べるし、悟空には筋斗雲があるから無理に詰め込んで乗る必要も無い。まあいいかと思っていたのも束の間。

「わお! 素敵ー」とかいいながらブルマが俺を引っ張っていって二人乗りの後部座席に連れ込むと、プーアルが反対側から黙って乗り込んできた。

今にして思えば、既にこの時点で妙な緊迫感があった。

二人用の座席とは言っても、そりゃ多少は余裕があるものだが、さすがに三人が悠々と乗れるほどのスペースがあるわけがない。

当然真ん中の俺はぎゅうぎゅうと二人から押されるハメになるわけで、色んな意味で問題があった。

「ちょっと狭すぎるし、俺は飛ぶからいいよ」と言ってそこから抜けようとした俺の判断は今から考えると大変正しかったように思える。

だが、すかさずブルマが「飛ぶのは疲れるんじゃない? こうすればきっと大丈夫よ」と体を寄せてきたことで、俺の判断力は寝起きの頭のように鈍った。

「……そうですね。こうすれば随分スペースがあきますよね」

そしてプーアルもそれに倣って抱きついてきたことで、俺の判断力は完全に死んだのだった。

「……オレは?」

ウーロンの疑問には、ブルマが一人乗りの操縦席を無言で指差す事で答えた。

正直、ウーロンを少しだけ哀れに思った。

そんなこんなで、ドラゴンレーダーに反応のあった西に向けて出発したのだが、亀仙人が指をくわえて見送ってたのが印象に残ってる。

よっぽど羨ましかったんだろうなあ……。なんかもう嫉妬とかそういうレベルじゃなく、ショーウインドごしにトランペットを見る貧しい少年のような、一種の憧れの視線だったもの。

ちなみに、悟空が「もうちっと大きくなったら嫁にもらいにきでくれな?」「くれるもんならもらいにくるぞ」ときっちりチチのフラグ立てしてた事は確認済みである。これで孫悟飯と孫悟天の誕生は差し支えないだろう。……たぶん。

出発してしばらくしてから、プーアルに「もう戻ってもいいぞ? 武天老師様もいないし」と言ったんだが、ブルマの方をチラリと見て「嫌です」とにべもない返事が返ってきた。

「戻る? 何のこと?」

「ブルマさんには関係ないことです」

割って入ってきたブルマに対してプーアルが冷たく答えた。

「……ふーん……あ、そう」

半目に目を細めるブルマの表情は笑顔ではあるのだが、目が笑っていない。

『え、なにこれ?』と、俺はその時ようやく雰囲気がおかしいことに気がついたのだった。







そして現在にに至る、と。

クールかつ客観的に過去を省みるに、抜け出すチャンスはあったわけで、結局スケベ心に敗北した俺が悪いようです。

つまり『ヤムチャ、色を好む 意味:色仕掛けでヤムチャは死ぬ』というコトですね。わかります。

……でも、美少女二人(仮に片方がプーアルが化けた姿だとしても、だ)に挟撃されて陥落しないのは悟空くらいだと思うぞ。

異性愛者の若い男であれば皆、俺と同様に降りることは不可能だったと確信している。

まあ、結果として刺すような緊張感の中に押し込められるハメになったワケだが。

「あ~悟空の言う通り、やっぱり飛ぶよ。狭いだろ?」

今からでも逃げようとして、ゆるーっと抜けようとすると、ガシッと両腕を今まで以上に捕まれた。

ちょ……おまえら…HA☆NA☆SE! 俺の精神的ライフはもうゼロよ!?

「べつに狭くないですけど、もし狭いんだったらブルマさんとウーロンが入れ替わればいいんじゃないですか?」

「ちょっと!!聞き捨てならないわね!!ウーロンのが細いっていいたいわけ!? …………ふっふっふ。ああ、そうよねえー。うん、確かに狭いかもしれないわね。じゃあ私はヤムチャさんに乗せてもらおうかなあ。孫くんの筋斗雲には乗れないし。一度あんなふうに飛んでみたかったのよね」

「な!? だったら、ボクがヤムチャさまに乗せてもらいます。ブルマさんはそのままでいいですよ」

俺に乗るとか発想がエロい。……とかいってる場合じゃねえぇぇ。怖えぇぇ。なにこれ? 修羅場? 

俺が一人で飛べばいいじゃないさ! それで問題は解決するじゃないかYO!!

「あ、あの……やっぱ、ちょっと疲れてるし。このままで…いいです」

そう言うしかなかった俺はきっとヘタレ。



胃の痛みに耐えながらしばらくそのままクルマに揺られていると、いつの間にやら見た事の無い風景が車外を流れはじめていた。

街道沿いに立ち並ぶのは木々ではなくて巨大なキノコである。

太さはちょっとした杉より太いくらいで、それらが見渡す限り平野から天に向かって屹立している。

いくらドラゴンボールの世界とはいえ俺もこんな風景を見たのは初めてだ。

悟空もポカーンと口をあけたままキョロキョロしている。……筋斗雲はかなり高速で飛んでいるのだが、あんなので大丈夫なんだろうか。

「やばいなあ。燃料がなくなってきたぞ」

操縦桿を握るウーロンが聞き捨てなら無い台詞を呟いたのを耳にして、俺は身を乗り出してダッシュボードの燃料計を確認する。

燃料の残りを示す針がほとんど底についていた。どうやら、牛魔王に譲ってもらった時点で満タンではなかったようだ。

さすがに俺が悟空以外の全員連れての長距離飛行は無理がある。ガス欠は洒落にならない。

「この辺りに町なんか無いのか?」

「しらねえよ。こんなとこまで来たことないもん」

ウーロンの返事に、思わずブルマとプーアルを見るも、黙って首を振られてしまった。そりゃまあこんな辺境の地理なんざ知らんわな。

「ブルマ……さん。次のドラゴンボールまでレーダーだとまだ距離があるのか?」

ブルマに予定地を確認する。距離如何によっては真剣に俺が運ぶ事も検討せねばならないだろう。

「ブルマでいいわよ。私もヤムチャって呼ばせてもらいたいしね。……えーと……あちゃー、まだ300キロは西だわ」

燃料の残量から考えて到底無理な距離だった。

「町があることを祈るしかないってところか」

「街道をずっと進んでるから、そのうち町にたどり着きはすると思うけどな」

俺がため息を漏らすと、ウーロンが楽天的なコトを口にする。

そりゃその通りなんだが、ここらは辺境だから町と町の間が遠い。心もとない残り燃料でたどり着けるかどうか怪しいものだ。

だが結果としてそんな俺の心配は杞憂だった。

俺達の中に日ごろの行いが良い奴でも紛れ込んでいたのか、幸運にもそのまま10分ほどクルマを走らせたところで前方に町の姿が見えてきたからだ。







レンガ造りの町並みの隙間をぬうように巨大なキノコが乱立する光景はどこかシュールだ。

町を行く人々はスカーフやらターバンを身に着けており、あくまで俺の持つ独断と偏見にまみれたイメージだが、パッと見た感じ前の世界の中東風の服装に似ているような気がする。

この世界は一応統一政府が惑星全体の行政府として存在するものの、地方自治が比較的強く、地域ごとに異なる文化や言葉なんかも保存されている事が多い。

おそらくここもそうなのだろう。店の看板などにも見た事のない文字と共通語が併記されていた。

「助かったーっ! 町があったじゃない」

「これで燃料がいれられるぞっ!」

「よかったですね。ヤムチャさま」

「オラちょっと腹へってきたぞ」

各々喜んでいるのはいいのだが、気のせいか先ほどから町の人たちの視線が痛い。

しかし、視線を感じてそちらを向くとさっと目を反らされてしまう。

「……なんだ?」

それにどうもその視線は主にブルマに向けられているようだった。

たしかにまだバニーガールの姿のままなんで目立ちはすると思うが、慌てて視線を逸らす様子は腑に落ちないものを感じる。

「オッス!」

悟空が町の子どもに挨拶しただけで、「きゃーっ!」と悲鳴をあげて逃げていく。

ひょっとすると悟空が怪しげな雲に乗っている事に驚いただけかも知れないが、どうも叫ぶ前にブルマを見ていたようだった。

「……なんだ?……ここのやつらおまえ見てびびってるぞ?」

「え? なにいってんのよ」

悟空も気づいたらしくブルマにそう話すが、ブルマが相手にしないので俺も少し口を出す事にした。

「いや、たしかに悟空の言うとおりだ。なにかおかしい」

「えーそう? 美人がめずらしいのかしら」

……まあ、確かに美人である事は否定せんがね。


そうこうしている内に、燃料補給のスタンドが見つかり、燃料を補充する間に俺とブルマとプーアルが買い物に出かける事に。

俺を除いた男どもはクルマの番である。

元々はブルマが一人で行こうとしてたんだが、町の様子がおかしいので俺もついていく事にしたのだ。

で、俺も一緒に行く事が決まると「ボクも行きます!」とプーアルが手を挙げてこういう形になった。

「やっぱり田舎だから大きな店はないわね」

「ブルマはどこの出身だっけ?」

「西の都よ」

「そりゃ西の都と比べちゃ何処だって田舎になるぜ」

看板をつけた建物が軒を連ねる商店街らしき場所を雑談しながら歩くが

「……!? ひっ!!」

「うわっ!!」

また町の住人がこちらを、というよりはブルマを見て逃げていった。

こんな調子では肝心の店より、悲鳴をあげてこちらを避ける町の住人の方がよっぽど気になってしまう。

そういや買い物に出かける前に、ブルマを見たスタンド主人もやはりどこかビクついた様子だったな。

ひょっとするとブルマが扇情的なバニーガール姿なのが、宗教的あるいは文化的にまずいのかもしれない。

ついブルマが平然としてたんでなんとも思わなかったが、冷静に見ると公序良俗に反した格好といえなくもない。

イスラムっぽい土地だし、それが原因というのは案外的を射た考えのような気がする。

「ここホイポイカプセル売ってるかしら」

いや、先にまず服買おうぜ、ブルマさんよ。

町を行く人々もブルマを見るたび驚いて、ささーっと姿を隠してるじゃないか。

「……いや、先に、その、なんだ。服を買った方がよくないか?」

「だって、ホイポイカプセル買うお金がなくなったら困るじゃない? このさきどうなるかわかんないし、カプセルハウスくらいは確保しとかないと」

たしかにブルマに野宿しろってのは酷かもしれん。

「なるほど。でも服を買い換えられるくらいは金を残しておいた方がいいと思うぞ」

「わたしだってそのつもりよ。好きでこんな格好してるわけじゃないんだから。……ただこの辺りの相場がわからないし、優先順位ってやつね」

「……バニーは趣味じゃなかったのか」

ボソリとつぶやくとブルマに脇を肘で小突かれてしまった。

歩きながらブルマが説明したところによると、バニーの衣装はウーロンのハウスワゴンに唯一あった着替えらしい。

じゃあ、そのウサ耳まで律儀につけなくてもいいじゃん、と思ったりもしたが、気づいてなさそうだったのであえて何も言わなかった。

……この娘、頭はいいはずなのだが結構アホの子なんじゃなかろうか。

しばらく町の中をうろついてると、カプセルの絵が描かれた看板を掲げた店が見つかった。

ブルマが「あんまりいいのないわねえ……」などとぼやきながら店主の持ってきたカプセルのカタログを見てる間、俺はキョロキョロと店に展示してあるカプセルなんかを見ることにした。

プーアルは興味ないらしく店内に設置してあったソファーに腰掛けて大人しくしていたが、俺はホイポイカプセルには馴染みが薄いので興味津々である。

物凄い田舎の俺の実家の村ですら金持ちは結構持ってたみたいだし、普及率はかなり高いと思うのだが、たまたま今まで手にする事が無かった。他人が使ってるところは何度かみたことあったんだけどね。

バイクやら家やら種類はいくつもあるのだが説明書きを読まない限りカプセルの中身はわからない。何も入ってないカプセルってのもあって、どうやら色々収納して使う倉庫代わりの代物らしい。

最初こそ珍しかったものの、あらかた説明書きを読んでしまうと、見た目が代わり映えしないので飽きてしまい、俺もプーアルと同じようにソファーに腰掛けてブルマを待つことにした。

しかし、こんな便利な物があったら流通関係とか大変革があったに違いない。なにせ収納したものの重さが無視できるんだぜ? 世界の常識を変えた世紀の発明品というフレーズはどこかで聞いた事があるが、正にその通りだったはずだ。

ただ少し気になるのは、辺境はともかく少し発展してるところに出ればトラックなんかを普通に見かける事である。ありゃ一体何を運んでるんだろうか。貨物を収納したカプセルを満載して運んでいるのか……?

それにしては走ってる台数が多いような気もするが、まあカプセルも無限に繰り返して使用できるわけではないらしいから、コストの都合で普通に運んだ方がいい場合も案外多いのかもしれない。

そんな益体もないことを考えてると、どうやらブルマの買い物も終わったらしい。

「いいわ。この5つ頂戴。番号つけてケースに入れてね。……えーと、いくらになる?」

財布を取り出しながら言うブルマに、店の主人は顔を青ざめさせた。

「い、いえ!! お代はもちろんいりません!!」

……いくらなんでもおかしい。さっき商品を見てた限りでは、カプセルハウス一つで最低50万ゼニーはしたはずだ。

1ゼニーがどれくらいの貨幣価値かというと、物の相場が前世の世界とは異なるので一概には難しいが、おおよそ日本の1円と同じくらいの印象がある。

ブルマが何を買ったのかよく見てなかったが、最低カプセルハウスを一つは買っているはずなので、最低50万以上の買い物のはず。

「え!? いいの? ラッキー!」

って軽っ!? 下手すりゃ数十万とか数百万単位の金の話なのに、さすがに実家が大金持ちなだけはある。俺とは金銭感覚が違うらしい。

「ちょ、ちょっとまてブルマ!」

「ん? 何?」

「さすがにコレだけ高い買い物しておいて、タダはおかしいだろう?」

「そんな事ないわよ~。美人は得なのよ? ねーおじさん?」

俺の言葉を歯牙にもかけず、店の主人ににっこり笑いかけるブルマ。

「え、ええ!! もちろんでございますとも! こんな美しいお嬢様からお金を取るなどとてもとても!」

主人の顔は引きつっており、言わされてる感があるものの、別にブルマが何か脅しているわけでもない……よな?

なにがなにやら分からんまま「さ、次は洋服もこの調子でもらっちゃおうかしら~」なんて図々しい事を言うブルマに引きずられようにして俺たちは店を出た。





幸いすぐ近くに服屋があったので、そこで続けて買い物する事になった。

店の品揃えはやっぱり中東風というかアラビア風というのか、そんな感じの服ばかりで、ブルマはあまり気に入らなかったようだが、それでもとっかえひっかえ目まぐるしく試着をしはじめた。

「これとかどう?」と、俺に時折意見を求めるのだが、バニーガールでなければ何でもいいんじゃね? と思っていた俺に意見を求められても困る。何を見せられても「ハイハイ似合う似合う」程度の適当な返事しか返せなかった。

途中からプーアルも巻き込まれて、ミニファッションショーみたいになってたが、何処の世界でも女はこういうのが好きらしい。

ちなみに、プーアルは亀仙人の趣味で色々服を着せ替えさせられることが多かったため、裸の状態で化けて、その上から服を着るという面倒な事をしていた。

今まで薄手のTシャツにホットパンツという亀仙人の趣味によるコーディネートのままだったので、ここで服装が変えられるならちょうどいい。

プーアルを見て避けられてるような気配はなかったが、この町の雰囲気だとバニーガール同様、刺激が強すぎるかもしれないからな。

ま、プーアルの場合化け直せばなんの問題も無いんだが、ブルマと一緒に色々試しているのが楽しそうなんで、余計な事を言って水を差す真似はしたくなかった。

それにしてもアレだね、さっきまであの二人の間にあった緊迫感が嘘のように無くなってるね。

これこそ正にキャッキャウフフの世界。……ディ・モールト! ディ・モールト(非常に 非常に)良いぞッ!

女の買い物に付き合わされる男が退屈するってのは良くある話で、正に今の俺もそうなのだが、それを補って余りあるほどにディ・モールト良しッ!

今までプーアルを除けば女っけが極端に少ない人生だったから、女の子同士で楽しそうにしてるのを見るのは乾いた大地に水がしみるように心が癒されるぜ。

あー……どうせならドラゴンボールじゃなくてもっとこう、百合の花が咲き乱れるようなそんな素敵世界に生まれ変わりたかった。

「タイが曲がっていてよ? とかそーいう……」

「何言ってるんですか? ヤムチャさま」

「……んあ!! プーアル!? あ、買い物終わったのか?」

いつの間にかブルマもプーアルもアラビア風、というかディ○ニーのアラビアンナイト風の服に着替えていた。

なんとなく、ドラクエⅢの女商人も思い出す服装である。

個人的には、ブルマが髪飾りでポニテに髪をまとめてるのがポイント高いぞ。

「む~結局これが一番ましか~。まあバニーガールの格好よりはいいけど……」

どうやらブルマはまだ不満があるらしい。

中々似合ってて可愛いと思うのだが、ブルマとしては妥協点といった所のようだ。

「あ、あの~おたくら、ウ、ウサギ団の人じゃないんですか?」

店に入ったときはブルマを見て顔を引きつらせていた店主が、恐る恐るといった様子で話しかけてきた。

「ウサギ団? なにそれ……」

ポカンとした顔でブルマが答えるや否や店主は突然怒り出し、ふんだくるようにして服の代金を掴み取られたあげく「紛らわしい頭飾りなんかつけやがって!!」と店からたたき出されてしまった。

「ウサギ団……とかいってたな。プーアル知ってるか?」

「……どこかで聞いた事あるような気がしますけど」

プーアルはこれで結構辺境の事情に詳しいのだが、ウサギ団という名前についてはよく覚えていないらしい。

なんか記憶の端にひっかかるような名前だが、俺も思い出せない。……はて、なんだったか……?

適当に食料を仕入れて悟空たちの待つスタンドに帰る間、行きの時に感じていたような視線は感じなくなっていた。

「わたしを見ても気にしなくなったわね……。バニーの頭飾りがなんだっていうのかしら」

ブルマが不思議そうに首をひねる。

「たぶんウサギ団って連中に関係あるんだろうな」

確かに俺が考えてたような理由じゃあ、避けられることはあっても、恐れられることはないだろう。

だが、今までの町の人たちの反応は明らかに恐れを含んでいた。

つまり、ブルマもそのウサギ団とかいう連中の一味だと思われていたと、そういうことらしい。

……やれやれ、プーアルが着替えた事はあんまり意味が無かったな。ま、楽しそうだったし、結構似合ってるからいいか。




「おまたせー! 色々買ってきたわよ」

「メシもあるか!? オラ、ハラが減ったぞ!!」

「おそいな~女の買物は長いんだから……」

あの後は特に町の人々恐れられる事もなく普通に買い物できた。

悟空とウーロンには随分と待たせてしまったが、特にトラブルに巻き込まれる事もなく、ちゃんとクルマ番をつとめてくれていたらしい。

「安心しろ、悟空。メシもちゃんと買ってきたし、ここで少し休んでから出発しよう」

俺がそういうと悟空は飛び上がって喜んだ。

「メシメシ~!」

がっつく悟空に屋台で買った中華まんっぽい物を渡してやると、いっそ気持ちがいいほどの食いっぷりでムシャムシャと二、三口で食い尽くしてしまう。

さすがサイヤ人。馬力も凄いが燃費も最悪だぜ!!

そんなことを考えながら悟空に適当に食料を手渡していくと見る間に悟空の胃袋へと消えていく。

結局用意した食料の半分近くを悟空一人で食ってしまった。

「ふぃ~食った。食った」

悟空が満足したことで俺もようやく落ち着いて食事がとれるようになり、残った食料を適当に腹に詰め込んでいると、ドガンッっと激しい音が辺りに響いた。

「……なんだ?」

音のした方に目を向けると黒い軍服にゴーグル、黒いバニーの頭飾りらしきものをつけた珍妙な二人組みが、道端で商売していた屋台に因縁をつけていた。

リンゴを売っていた屋台が蹴り飛ばされたらしく辺りには丸い果物が散乱している。

「ケッ! まずいリンゴだぜ。こんなリンゴで金を取ろうたあ、ふざけた野郎だ!」

男はリンゴを一口だけかじってから、残りを屋台の主人に向かって投げつけた。

「ひっ!………………う、うう」

「なんだその目はモンクでもあるってのか?」

身をすくませる屋台の主人を、もう一人の男が胸倉を掴みあげて殴りつけた。

殴られた頬を押さえて地面にうずくまる屋台の主人。

男は面白くなさそうに舌打ちして、さらに一度屋台の主人を蹴りつけてから、地面に唾を吐いた。

「ひどい……! 無茶苦茶です」

プーアルが憤りもあらわに、こぶしを握り締める。

「あのウサギの耳……」

ブルマがボソリと呟いた。ブルマも思い当たったようだな。

うむ、間違いなくあいつらがウサギ団なんだろうよ。

「おいみろよ! 見慣れねえ女どもがいるぞ」

「ん? ほほうなかなか上玉じゃねえか!」

ウサギ団の男達は値踏みするような目でブルマとプーアルを見てからこちらに近づいてきた。

……どうも面倒くさい事になりそうだ。

どうせああいう輩が言いそうな口上なんて察しがつく。女をおいてけだの、ちょっとつきあえだの、せいぜいそんなトコだろう。

ぽりぽりと頭をかいてから、悟空に耳打ちする。

「悟空。あいつら悪者だしやっちまっていいぞ」

わざわざあいつらの口上聞くのも耳障りだろうし、俺が相手をするのも面倒くさい。

で、悟空をけしかけることにした。

会ってからまだ一回も悟空が戦うところを見てなかったから、それを見てみたいという事もあったしね。

「そーだな」

悟空はこっくりと頷いてから、無警戒にこちらに近づいてくるウサギ団の前にトコトコと歩み寄っていく。

小さな子どもにしか見えない悟空が近寄ってきても警戒心に変化は無いらしくニタニタした笑顔のままの男たち。

……いつまでその表情が続くやら。

「はっ!」

悟空の掛け声と同時に、ウサギ団の一人の腹に悟空の拳が吸い込まれる。

全く反応できてないせいで完全に無防備な腹にあの一撃はキツイだろうな……。

「おぐっ……!!」

案の定、男は衝撃に耐え切れずにその体をくの字に折り曲げるが、悟空がそこで手を休める理由はない。男の下がった顎を、すかさず蹴り飛ばす。

ゴーグルがはじけ飛び、ぐるりと男の黒目が上を向くとそのまま倒れた。

「こ、このくそガキ!!」

残された男は相棒があっけなく倒されたのを見て激昂したのか、肩からぶら下げていたサブマシンガンを悟空に向ける。

だが、男が銃を手にした時点で悟空は男の背後に向かって跳躍しており、男は銃口を向けるべき相手を見失っていた。

悟空は跳躍中に如意棒を空中で抜き、男の背後に着地するや、そのケツに向かってまっすぐに突き刺した。

「アッー!!」

なんとも表現できない悲鳴をあげて男が前のめりに倒れる。

ウサギ団の街中での嫌われっぷりと、先ほどの無法ぶりからみて、同情してやるほど価値のある男じゃないだろうが、哀れむくらいはしてやろう。

しかし、悟空の奴、大の男二人を数秒で片付けるとはなかなかの手際である。

「あーひさしぶりに戦ったからキモチい~な~……」

如意棒を背中にしまいながらニコニコとうれしそうな悟空。

さりげに中々物騒な物言いといい、さすがサイヤ人。

かめはめ波教えてくれって言ってきた時にも思ったけど既にバトルジャンキーの片鱗を伺わせている。

「おい、あとでソレきちんと洗っとけよ」

それまでは如意棒を俺に近づけるの禁止。呪われたアイテム扱いである。

「や、ヤムチャ、あいつどこかに連絡してるぜ?」

さっさと立ち去ろうとしていた俺たちだが、そう言うウーロンの指差す方を見ると如意棒でアッー!された男が四つん這いになったまま、どこからとりだしたのか無線機らしきものに何事か呟いていた。

「す、すいま…ん、オ…ブン…町に来てくだせえ。メ、メチャクチャつよい…がいるんです」

小さい声だったため途切れ途切れにしか聞こえなかったが、オヤブンとやらに泣きついたらしいのはわかった。

その途端、近くにいた通行人たちが悲鳴をあげて走り出す。

「あ、あんたたち!!とんでもない事をっ!!」

近くにいた名前も知らない通行人のおっさんがそんな台詞をはいて、一目散に逃げていく。

バタン、バタンと次々にドアを閉める音がして、ついに目につく限り人の姿が無くなった。

「……みんな隠れちゃった」

「……なんだか嫌な感じですね」

ブルマとプーアルがあっという間に人影の消えてしまった町を見渡してから互いに顔を見合わせる。

「そんな不安そうな顔するなよ。誰が来たって俺がいれば大丈夫だ」

と、ちょっと格好をつけてみる俺。なんかヤムチャ的にかませ犬フラグが立ちそうだが……だ、大丈夫だよな?

今の俺の強さでこの時代なら俺TUEEEEEEEEE!!祭りが開催できる……よな?

「大丈夫か? しっかりしろ」

「うくく……く、くっそ~」

無線で連絡した男が倒れたままの男に近寄り助け起こす。

「安心しな!!オヤブンを呼んだからな!」

それを聞いて、助け起こされた男はニヤリと笑みを浮かべるとこちらに向き直った。

「へっへっへっ……おまえらもうお終いだぜ」

オヤブンとやらに随分と信頼を寄せているようだが、そのセリフはアウトだろ。

いっそ伝統的といえるほどの負けフラグを立ててくるなあ。

「おい! ヤバそうだぜ!! 逃げよう!!」

ウーロンがびびってエアカーを発進させようとする。なんというチキン。

「何も逃げるこたねーさ」

「俺も悟空と同意見だ。オヤブンとやらの面を拝ませてもらおうぜ」

人間そこそこ自信があれば気も強くなろうってもんだ。

……はっ!? いかん自分で言っておいてなんだが、セリフに死亡フラグ臭がする。

さっきのかませ犬フラグといい、すぐにフラグ回収とかそういうことにならなければいいが。

俺の場合「とっておきをみせてやる」→敗北 「この俺一人で片付けてやるぜ」→死亡 とかそんな予感がビンビンするんだよね。

大口叩くと痛い目にあいそうな気がしてならない。

男が無線連絡してから大して間もおかず、ブロロ…と人気の無くなって静かになった町にエンジン音が響いた。

「オ、オヤブンーッ!!」

「へーいっ!! ここですよーっ!!」

こちらに近づいてくるクルマを見て、ウサギ団の二人が騒ぎ始めた。

どうやらオヤブンのご到着ってところか。

ウサギを模したあまり趣味のよくない小型車がキッと音をたてて停車する。

ガルウイングドアが上に開いて、中からのっそりと現れたのは、大きく兎と刺繍の入った中国風の民族服のようなものを着た兎の獣人だった。

やたら巨大な襟とサングラスでなんとか威厳を出そうとしてるんだろうが、大きすぎる襟は怪我や病気をした犬猫が傷口なんかを舐めないようにするための保護具のようで滑稽だし、サングラスにしてもデザインの所為かむしろ小物臭が漂う。

それに何より駄目駄目なのはウサギの獣人の癖に可愛くない事だ。確かにウサギの顔ではあるんだが、どういうわけかおっさんくさい。……いくらモフモフでも俺の食指が動かん。

「お、オヤブーンッ!!」

ウサギ団の二人がそのウサギの獣人に駆け寄る。

「情けない声出すんじゃありません。わがウサギ団にさからったやつは何処ですか?」

「あ、あいつらです!!」

ウサギ男に促された男たちがこちらに向かって人差し指を刺す。

「ぷっ!! あれがウサギ団のオヤブン!?」

「てーんで弱そうじゃねえか。びびって損したぜ」

「……あ、あの人どこかで見たことあるような気がします」

ウサギ団のオヤブンを見て、ブルマとウーロンは安心したのか余裕が出てきたが、プーアルは逆に不安になってしまったようだ。

俺も見たことあるような気がするんだが、よく思い出せない。

さすがに16年以上前の前世の記憶は薄まってきている。

一応暇を見つけてはノートに原作の展開を書き出したりしてたんで、そこそこ記憶の補強はできてるつもりだが、大まかな流れを何度も思い返してただけで、細かい事まではカバーできていない。

細かい所でも個人的に印象の強かったシーンなんかは思い出せるんだが……。

コイツの場合は「いたかなあ? いたような気がする」って程度にしか記憶が刺激されないんだよね。

今の俺にはまだそれほど他人の『気』を強く感じとる事は出来ないが、それでも俺が勝てないくらいに強い『気』の持ち主なら分かる。コイツは弱い。それは間違いないはずだ。

「情けないですね。あんな連中にやられたのですか」

「め、めんぼくありません……」

「……まあ、いいでしょう。すぐに片付けてあげます」

ウサギの獣人はその手下にそう言ってから、どちらかというと鈍重そうな外見とは裏腹に「ほほーっ!」なんて奇声をあげながら、軽業めいたとんぼ返りの跳躍で俺たちの目の前に着地した。

そこそこ身軽なのはたいしたもんだが、俺の目から見ると隙だらけだし、動きも遅すぎる。雑魚としか思えない。

ウサギの獣人は俺たちを一度見渡した後、俺に目を止めた。

「握手しましょう。戦う前の挨拶です」

さっと右腕を突き出してきたウサギの獣人。

「け、けったいなやつだな……」

ウーロンの意見に大賛成である。なんなんだこいつ。

もう一度目の前の男をよく観察する。

サングラスと人外の容貌で分かりにくいが、落ち着いた表情だ。

……気にいらないな。なにか隠してやがる。

「握手だと? 誰がするか!」

パシッと相手の手をはじく。

「……!! 思い出した!! 兎 人参化!! や、ヤムチャさまーッ!!!!」

「ひひひ……さわりましたね」

プーアルが絹を裂くような悲鳴をあげたのと、目の前の獣人がいやらしい笑みを浮かべたのは、ほぼ同時だった。

兎 人参化? あ、なんか俺が小学生だったころ友達が持ってたエロいランファンのカードダスが欲しくて、なけなしの小遣い投入したらやたらダブりやがった空気読めない奴だったね。

そーそー。そういやこんな奴だった。カードの絵柄だとなんか踊りみたいなポーズしてたんだっけ。

あれ? なんかこれ走馬灯になってね?

そう認識した次の瞬間、俺の意識は闇に落ちた。























……実家には兎人参化のカードダスが7枚くらいあると思います。


ところで人造人間を人間に戻せない、来襲するサイヤ人を倒す事もできないドラゴンボールでフリーザあたりが不老不死願っても「私の力を大きく超えたものの体に関しては手出しできないのだ」とか言われないもんなんですかね。

なんかあのへんの制約が良く分からないです。創造主である神の力を超える願いは叶えられないとかそういうアレですね。たぶん。

ちょっとだけプロット的なものを考えたときに、ドラゴンボールって一体何ができるんだろう? とか考えてしまったらワケ分からなくなりました。



[6783] 第9話『オッス!! オラ、カカロット(野菜的な意味で)』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:4f957add
Date: 2009/05/04 07:35
…………一体いつからこうしていたのか。

暖かい春の日のような温もりに包まれて、眠りと覚醒の狭間を意識が浮き沈みしている。

それはほんの数秒前からかもしれないし、ひょっとするともう何時間もそうしていたのかもしれない。

曖昧模糊として、時間の感覚というものがハッキリしない。

上も下もないような何物にも束縛されない不思議な感覚の中で、ぬるま湯に魂すら溶け出していくように、俺はずっとまどろんでいたような気がする。

例えると急に俗っぽくなるが……休日の午前中つい二度寝してしまった布団の中のようだった。

「ヤムチャ!!!…おい、おきろっ!!…ヤムチャ!!」

と、なんの予兆もなく唐突に覚醒を促す大声が俺の鼓膜を貫く。

人の安らかな眠りを妨げるとはなんたる無粋。もう無粋の極みといっても過言じゃない。

ファラオ的な呪いの一つでもプレゼントしてやりたいレベルだ。

「んだよ……もう」

そんな気のきかない野郎の顔でも拝んでやろうと、俺は重たいまぶたをうっすら開いた。


「……もっと熱くなれよ…もっと!熱くなれよ!!お前! 」




(つд⊂)ゴシゴシ (; ゚ д ゚) ………


(つд⊂)ゴシゴシゴシ (;゚ Д゚) …ちょ!?




あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

『どこかで見たことあるような元プロテニスプレーヤーがプカプカ宙に浮いていた』

な… 何を言ってるのか わからねーと思うが、おれも(ry


ショックのあまり、急激に意識がハッキリしてきた。

たしか俺は兎の獣人…兎 人参化と相対していたハズ。

あわてて周囲を確認する。

「なんだこれ?」

一言で言うとカオスだった。

目がチカチカしそうな極彩色の幾何学模様がグルグルと回転してたかと思うと、次の瞬間小さな子どもがでたらめにスケッチした風景画みたいな光景に変わる。

そうかと思えばすぐにまた次、次ととどまることなく脈絡のない変化を続けるのだ。

ずっと見てるとSAN値がぐんぐん減りそうな、そんな風景である。

……なあに? この超展開。唐突すぎるだろう常考。前と繋がらなくね?

学園の格闘大会に優勝した次の回にファンタジー世界にワープするくらいの超展開じゃまいか?

ジャンプの編集部が許しても、とりあえずこの俺が許さん。

「ここ何処?……あんた……誰?」

起き上がり、いろんな意味で動揺してるせいでプルプルと震えるながら男を指差した。

「いい質問! いい事聞いたね! うん、いい事聞いた! 俺はお前がフライパン山で吹き飛ばした火の精っ!! それからここは、まあ夢みたいなもんなのよね」

火の精……というかどうみても炎の妖精です。本当にありがとうございました。

……っつーか夢みたいなもんってなんだよ!! 夢なら夢ってハッキリ断言しろ! 不安になるわ。

「今日はね、頑張る君を応援しにまいりました。本気になれば自分が変わる! 本気になれば全てが変わる!! さあ!この俺になんでも言ってみろよっ!!」

「……俺がアンタを吹っ飛ばした事はどうでもいいのかよ?」

「ダメダメダメ、過去のことを思っちゃダメだよ。気にすんなよ。Don't worry! Be happy!」

自称火の精は親指をグッと立て、さわやかにニコッと笑う。

言葉だけ聴くと良いこと言ってるような気もしないではないが、俺の置かれている状況が意味不明過ぎて台無しである。むしろちょっとイラッと来る。

「……じゃ、じゃあ聞いていいか?……今、現実だと俺どーなってんの?」

「人参だよ、人参。ニンジンになっちゃてんの! わかる? ニンジン」

「……マジで……?」

「マジで」

……ですよねー。……兎人参化って確かそんな能力あったもんなー。今まですっかり忘れてたけどさ。

走馬灯のように過去の記憶が蘇ったとき薄っすら思い出してはいたんだ。まあ今更なんだが。

しかし触っただけで相手をニンジンにするとかズルくね?

俺なんか結構必死に鍛えてきたってのに。

汚いな兎人参化さすがきたない、と声を大にして言いたい。というか元の世界の某掲示板に書き込んでやりたい。

くそ……俺の努力って報われる事あるのかなあ……。

「……あの、ついでにちょっと聞くんだが……俺、この先天下一武道会決勝トーナメントの初戦を勝ち抜けなかったり、サイバイマンに殺されたりするの?」

「……………………まーね」

「……うわあああああヒデェェェエエ!!」

「ま、待て待て、待てって! 今のナシッ! 嘘! ノーカン! ノーカン! 未来のこと思っちゃダメ。『大丈夫かな? あはぁ~ん』不安になってくるでしょ?」

泣きながら走り去ろうとした俺を火の精が慌てて引き止める。

「そんなことより、いいかよく聞け。寝てる場合じゃねーんだよ!! 早く起きなきゃダメ。今、君人質になってんだから」

「何、その唐突な話題転換。第一起きろったって、今起きても俺ニンジンなんだろ?」

「大丈夫。頑張れば動けるから」

「……そんな無茶な」

無理を通して道理をけっ飛ばす的なことは俺には無理だと思うよ? 主人公補正とか螺旋力とか無いからね、いっとくけど。

「諦めんなよ…… 諦めんなよ、お前!! がんばれ! がんばれ! できる! できる! 絶対できる! がんばれもっとやれるって!! 」

「いきなり何を……って、どわ!?」

火の精が唐突に俺を激励しはじめたと同時に、先ほどまで意識してなかったものの確実に存在していたであろう重力が消え失せた。

いや、むしろこれは俺に浮力が発生してしまったというべきか。舞空術すら使ってないのにプカプカ浮いて両足宙ぶらりんです。

「やれる! 気持ちの問題だ! がんばれ! がんばれそこだ! 」

プカプカどころではなくグングン俺の体が上昇し始める。

熱くなり始めた火の精の姿もどんどんと小さくなるが、不思議な事にその声は一向に遠ざからない。

「そこで諦めんな! 絶対にがんばる! 積極的にポジティブにがんばる! がんばる!! 」

言葉に押し流されるよう一直線に浮上していき、火の精の姿が点ですらなくなった時点で目が覚めた。













ヤムチャしやがって……

第9話『オッス!! オラ、カカロット(野菜的な意味で)』















はじめに感じたのは光で、次に感じたのは音だった。

「…待…なさい! この人参が……いいんですかっ!? 食べちゃいますよっ!」

ぼんやりと聞こえていた声が、意識が覚醒するにしたがって、まるで声そのものが近づいてくるようにハッキリとしてくる。

それと同時に体全体が締め付けられるような圧迫感を覚えた。

「きったねえな……ちくしょう」

悔しそうな悟空の声がする。

光は感じ取れるものの、視覚と呼べるほどのものが無い。ついでに言えば手足の感覚も無い。

……色々ひどい夢見だったが、どうやらマジでニンジン状態でも意識が戻った……らしい。……自分でも超ビックリなんだが。

しかし、まさかアレが本当に火の精だったって事はねーよな? 俺の無意識の集合体とかそんなもんでファイナルアンサーとしておきたい。

深く考えたら精神衛生上良くなさそうだし、それにそんなこと考えてる場合じゃなさそうだ。

周りがよく見えないから正確なところがわからないが、状況を推測するに『俺は人参になってて、兎 人参化の手に握られて、人質として囚われている』『悟空はそれ見て戦闘を躊躇っている』…と、こんな感じだろうか。 

聞こえたセリフと体に感じる圧力なんかから推測したんだが、だいたいあってるだろ、たぶん。

ちなみに聴覚はエコーがかかってるみたいで、少し違和感があるものの問題はない。

んん? ……ちょっと待てよ? これが野菜……っつーかニンジンの感覚か? あるあr……ねーよ。野菜に五感なんかないだろ常識的に考(ry

……あら!? うおお、いかん!! そういうこと考えると急激に感覚が鈍るぞ!? 意識もフッと手放しかけたし。

ひょっとしてクールダウンするとマズいのか!? 

……面白い。だったらこうだっ!

『うおおおっ!! 見える見える! 俺にも敵が見える!! できるできる! やれるやれる!』 

テ ン シ ョ ン あ が っ て き た!!

と、同時に感覚も意識もよりシャープになってきた。

自分でやっといてなんだが、どんだけ単純なんだ俺!!

この状態なら『気』のコントロールもできんじゃね? いや違う!『できる! できる! やれる! やれる!』だ。

なんかもう怪しいカルトみたいなノリになってきてるような気もするが、この際ノリで突っ走るしかないぜ!

普段とはまるで違う体に『気』を通す。そして制御のために集中する。

『気』を制御したときに感じる、言葉にしにくい、熱が体に満ちるような、そんな手応えが返ってきた。

お!? これならいける!! 舞空術でGO!!

「うわっ!? な、なんですか突然」

フッと体にかかっていた圧迫感がなくなった。

へっ……兎野郎め。舞空術で暴れだした俺に驚いて手放しやがったな。

「今だ! 悟空!! やれーッ!!」

いったい何処から声が出ているのか自分でも不明だが、全身を震わせるようにして叫んだ。

「……ヤムチャ!? おめーなんで喋れんだ?」

「ば、馬鹿!! お前こんなときに限って冷静に突っ込むな!!」

確かに俺だってそう思うけど、今そんな事言われたら意識が遠くなって……。



あ………………………。










気がつくと俺は地べたに尻餅をついていた。

さっきまでと比べて明らかにクリアな視界と確かな意識。視界以外の五感もハッキリしている。

「おろろ? 戻った?」

思わず手で体のあちこちを触って確認する。

どうやらどこも欠けることなく、元の俺に戻っているらしい事を確かめてほっと一息つく。

「っ~~ヤムチャさま!!」

「んごぉ!?」

気を抜いていた俺の胸にドーンと衝撃。

見ると元の猫のぬいぐるみみたいな姿に戻ったプーアルが俺の胸元に顔をうずめていた。

「ヤムチャ~! よかったー! もどったのね~!」」

ブルマの声がしたかと思うと、間髪をいれず首がぎゅっと締まる。

反射的に後ろに視界を向けると、ブルマが俺の首に腕を回すようにして抱きついていた。

「おぐぐ…!?」

これなんてチョークスリーパー? 女の細腕が首を締め上げてるせいで思いっきりキマっております。

思わず少しだけ力を入れてそれを振りほどいた。

「いたた~。なにすんのよ!」

振り払われた拍子にドタッと地べたに転んだブルマが頬を膨らませる。

「ゲホッ! ゲホッ! こ…殺す気か!!」

「なによ!! 心配かけるほうが悪いんでしょ!?」

バッと立ち上がって咳き込みながら抗議するも、逆に怒られる始末。ブルマに涙目で上目遣いとかされたら俺の負けと言わざるを得ない。

というか油断しまくってニンジンになった負い目があるんで、ばつが悪いったらないのである。

「……ボクもすごく心配しました」

いまだ胸元に顔を埋めたままぶら下がっているプーアルも、幾分抑えた口調で俺を責める。

いや別にプーアルに責めてるつもりは無いんだろうがね。俺には責められてるようにしか聞こえないのよ、これが。

「……そーいやー。兎 人参化はどーなったのかなー」

目を泳がせつつ話題転換を図る。周囲にキョロキョロと視線をやると、悟空がウサギ団をロープでグルグルと巻いていた。

まあ、俺が元に戻ってる時点で大体そうだろうとは思ってたが、既に終わってますか。そーですか。


「……ウサギ団を…やっつけた……」

「ほ…本当に?」


脱力した俺の耳にがやがやとした人の声。周りがにわかに騒がしくなってきた。

見ると恐る恐るといった具合で町の住人たちが姿を現し始めている。どうやら家の中に閉じこもりながらも、こちらの様子は伺っていたらしい。

しっかし連中の内の誰か一人くらい『兎人参化に触られたらニンジンになる』って事を教えてくれてもよかったろうに。

とんでもない事してくれたな~みたいな事言って逃げたおっさんはいたけどさぁ。

何も知らない旅人に少しくらい注意を促す優しさを期待するのは間違ってるか? いや~間違ってないよな~。

せめて『あんたらニンジンにされるぞー!』とかいって逃げてくれてれば、さすがに俺も思い出してたと思うんだよ。うん。

……畜生。……相手の能力さえ知ってれば瞬殺ものだったのにぃ。

まあ、逆に言えばそれだけの戦闘力の差を埋めるという厄介な能力だったとも言えるわけだが……って、あ!? 厄介っていえばアクマイト光線ってのもあったなあ……。邪心が膨れ上がって爆発するとかいうそんな技だったか。

俺だと絶対抵抗できなさそうだ。具体的に言うとスケベ心あたりが爆発しそうです。

使い手はアックマン……だったな、たしか。戦う事になるか分からんが要注意だ。今度は忘れないようにしよう。

……ほ、他に厄介な能力ってあったかな。確かギニュー特戦隊のグルドが時間を止める能力をもってたなあ。

あとは……えーと、魔人ブウはそもそも能力が厄介とかそういうレベルじゃねーし。……あ、ブウって言えばダーブラの唾に石化能力があったか。まあブウと一緒でそういう問題じゃなさそうではあるが。

そんなことを考えてボーっとしてたら、「……レディに手くらい差し伸べても罰は当たらないわよ?」という不機嫌そうなブルマの声で我にかえった。

まだ尻餅をついたままだったブルマに慌てて手を貸して助け起こす。

「……ありがと。……で、プーアルはいつまでそーしてるつもりかしら」

ブルマはそう言って俺の胸元にくっついたままのプーアルをひょいと摘み上げた。

「あ……な、何するんですか!」

ジタバタと手足を振って暴れるプーアル。

「……いくら正体が小動物チックでもお城での宣戦布告を取り消すつもりはないんだから、黙って見逃しはしないわよ。……だいたいなんでわたしに正体を隠してたの? 牽制のつもりだったのかしら?」

子猫のように首元を掴まれて摘み上げられたプーアルの耳元にブルマが口を寄せて囁くとぴたりとプーアルが動きを止める。

……牛魔王の城でなんか二人で話があるとか言ってたけど、そんな事話してたのか。

と、いうかだね。ヒソヒソ話のつもりなんだろうが、声がでかいっつーの。俺に聞こえちゃダメだろ、それは。

第一俺は将来の他人の嫁にせざるを得ない娘とか小動物(厳密に言えば獣人らしいが)と付き合ったりするつもりはないんだが。

「ヤムチャさまは渡しませんよ!」

「……面白いじゃない」

バチバチと火花を散らす両雄。

なんという居辛い空気。ヘタレと呼ばれても一向に構わん……ものごっつ逃げたい。逃げ出したい。

とはいえ、そういうわけにもいかんので空気を変える工作に打って出る事にした。

「あー……ちょっと聞くんだが、あの後どうなったんだ? 兎 人参化の手から逃げ出した後、すぐ気を失ったからその後のこと知らねーんだ」

「え? …そういえばなんか途中で落っこちてたわね、ヤムチャ」

悟空のツッコミで落ちたとは言いたくない。

「そういえばヤムチャさま何でニンジンにされても動けたんですか?」

「……なんというか…その……気合?」

「気合…? ですか」

まあ、その、なんだ。早い話俺にもようわからんのだ。察してくれプーアル。

……っつーかおにーさんは夢の中で見た炎の妖精の話なんかしたくないのだよ。

「まあ、ソレはさておき、あの後どーなったのかを早くこのヤムチャさんにも教えてくれまいか?」

「……そ、そーですね。えーとヤムチャさまが人質にとられた後なんですけど……」

ブルマとプーアルが語るところによると、俺が人質にされた後、ウーロンはみんなを置いてクルマごと逃げ出したらしい。

道理で姿が見当たらないわけである。あの豚は性根が変わるまで可愛がって(力士的な意味で)やる必要がありそうだ。

で、それから悟空が手を出せずにいたら人参化の手に掴まれていたニンジン、つまり俺が突然暴れだし、その手を振り切って宙に浮かび上がり「今だ! 悟空!! やれーッ!!」と叫んで地面に落っこちたんだそうだ。

……自分でやった事ながら、他人から話として聞かされるとどうにもシュールな絵面しか想像できないな。

あっけにとられた一同が数秒ほど呆然としていると、小鳥に化けたプーアルがニンジン(俺)を加えて飛び立った。で、その隙に悟空が直接触れないように如意棒でフルボッコ。

その後は兎人参化をちょいと脅して俺を元に戻させたとそういう次第だそうな。

手振り身振りを加えつつ説明してくれた話を要約すると、だいたいこんな感じである。

いやーしかし、それにしても、だ。

「えらいぞプーアル。よくやったな。お前、前に鳥に化けるのはあんまり得意じゃないって言ってたのに」

「えへへ。ヤムチャさまが修行してる間、ボクも変身の修行してたんです」

ふむ。向上心があることは素晴らしいね。俺が見てない間にそんな努力をしてたとは。

プーアルの頭を撫でてやると嬉しそうにその目を細めた。

「それに引き換え俺は……ダメダメだっ……」

絶望した!! あれだけ修行しておいて役立たずな自分に絶望した!! 身長伸ばし用のロープはどこだ。

調子ぶっこき過ぎてた結果だよ。あまり調子に乗ってると裏世界でひっそり幕を閉じることになる、ですね。わかりますブ○ントさん。

「それは違います! ヤムチャさまはニンジンになっても頑張ってスキを作ってくれたじゃないですか!!」

シュンとしおれる俺をプーアルが励ましてくれる。

ほんまプーアルさんの優しさは五臓六腑にしみわたるでぇ……。

「そ、そーかな?」

「そうですよ!」

「そーかなあ?」

「そうですよ!!」

「あら、でもヤムチャが捕まらなければそもそもそんな必要もなかったのよね」



ブルマの クールなひとこと! こうかはばつぐんだ! 


ヤムチャは、めのまえが まっくらになった。



その後落ち込む俺にプーアルはなんのかんのとフォローしてくれたが、止まる事をしらない俺の怒りと悲しみの矛先がロープでふん縛られたウサギ団に向くのはごく自然な流れであったといえよう。

とりあえず鉄拳を一発ずつ食らわせて、地元の警察に突き出しておいた。



…おや!? ウサギ団のようすが…! おめでとう! ウサギ団は30万ゼニーに しんかした!



……わかりやすく言うと賞金首だったんですね。彼ら。……そして高いのか安いのか賞金の微妙なラインっぷりが切ない。

え? 月? いやいや思い出してますよ?

実際悟空が如意棒伸ばしてあいつらを月送りにしようとしたのを止めたしね。むしろそれで思い出したみたいなところもあるけど。

だってホラ、俺が覚えてる限り何回か月は破壊されるじゃないか。悪人とはいえ見殺しにするのも……ねえ?

だいたい本当に月までいけるのかも怪しいし、何より月で生きていけるのかも謎ではあるのだが、神様がポンポン復活させてた事から考えても俺の世界の月とは違うモノなんだろう。

元の世界と比べて物凄く小さい&地球との距離が近いんじゃないかと推測してるんだが、こっちの世界に来てからまるで学がないのでわかりません。

きっと神の創造物の一種なんじゃないか? ナメック的なアレではなくて、星の管理者としての能力というかなんというか。

……ま、兎人参化を月送りにしなかったのは実のところ未来において何かに使えるかもしれんっていう思惑もあったりなかったり。

布石として生きるかは完全に未知数だけどね!!

もし何かの役に立ったら、『計画通り』と新世界の神ばりにイイ笑顔をする心の準備だけは完了している。

……『月』だけに。…………『月(ライト)』だけに。大事な事なので二度言いm(ry
















わー。gdgdだー。

しかも1ヶ月以上間をあけてしまいました。

身長伸ばし用ロープはどこだ。



[6783] 第10話『マイも嫁候補! ……そういうのもあるのか。となるとこのプーアルもうれしい。全てが嫁として立ち上がってくる』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:cb7e2b83
Date: 2009/05/22 01:58
【前回までのあらすじ】


ひょんなことから悪魔の実の一つであるヤムヤムの実を食べてしまったヤムチャ。

"足元がお留守になってしまう"という能力と引き換えにカナヅチ体質になってしまう。

だが別に海に出る予定のない砂漠のハイエナ・ロンリーウルフ、つよくて悪い砂漠のヤムチャにはあんまり関係がなかった。

どんな動物でも着せただけで獣耳美少女に変えてしまうという「ひとつなぎのお洋服(ワンピース)」を求めて今旅に出る!

「天下一武道会(一回戦)で おれは勝つ!」 




ハイ、嘘です。すみません。いや天下一武道会では本当に勝ちにいく予定ですが

あえて過去を振り返るならば、俺生まれ変わる。俺=ヤムチャ=人生オワタ。桃白白怖い。プーアルモフモフ。カリン様ワサワサ。ノーパンじゃなかった。ノーパンじゃなかった。ニンジンになる。熱くなれよ!!

と、こんな感じだろーか。……異論は認める。

で、今はというと、間抜けにもドラゴンボールをクルマに積んだまま逃げ出していたウーロンをブルマのドラゴンレーダーで発見し、軽く小突き回してからドラゴンボール最後の一つ一星球目指して街道をさらに西へと向かってクルマに揺られている最中でございます。

「う~ん。かなり近づいてきたわね」

先ほどからドラゴンレーダーと睨み合っていたブルマが少し口元を緩ませてつぶやいた。

ドラゴンボールの最後の一つは確かピラフが持ってたんだっけ。という事はこのままいくとピラフの城にたどりつくわけだな。

「おお! いよいよだな。神龍を目にするのも時間の問題か」

なんかオラ、ワクワクしてきたぞ。だって男の子だもんよ。龍とかやっぱちょっと楽しみだ。

こっちの世界に生まれ変わってから恐竜や翼竜なんてもんは何度も見たことあるんだが、やっぱりああいう感じの龍は別腹というかなんというか。

ただ原作だと……どういう経緯か忘れたが、悟空達がピラフ一味に捕まって先に神龍呼ばれちまうんだよなあ。

そんでもって、ピラフが願いを叶えようとするシーンでウーロンが一仕事して、見事ギャルのパンティをゲットするって流れだ。ウーロンにとっては唯一の見せ場といっても過言ではないシーンだな。

ま、もっともそんな事にドラゴンボールを使わせる気は更々ないんですがね。

今の俺なら仮にピラフ一味に捕まったとしてもあっさり脱出できる……と思いたい。兎人参化にぎゃふんと言わされたばかりだけに、ちょっと自信喪失気味ですよ。

ともかく、みんなを出し抜いて俺が願いを叶える気満々です。

と、なれば叶える願いの事も考えておかないといけないわけで。

……実は元の世界に帰るってのもちょっとだけ考えた事あるんだが、もし可能だとしてもどんな風に帰れるかが問題だ。

仮に『俺を元の世界に戻してくれ』と願うとする。

だが、ヤムチャの姿のまま帰るんだったら色々と面倒な上あんまり意味がないし、もし前世の自分に戻れても時間の経過とか色々心配なこともある。

それに何よりそんな事を願ってしまって、元の世界で全身麻痺になった俺が植物状態から目を覚ますとかそういうオチがついたりするのが恐ろしい。

想像してみてほしい。

白い病室のベッドの上で目が覚めたら衰弱しきった体はろくに動く事もできず、俺が目覚めた事に驚く看護婦に頼んで持ってきてもらった手鏡に映るのは見知らぬ老人の顔。

しかしその顔はどこか見覚えがある。……そう、それは僅かに若いころの名残を残した俺の顔なのだ!!



……怖すぎるだろjk。



さすがにこの現実が夢だとは思えないし思いたくないんだが、ほんの少しだけそんな夢オチの可能性にガクブルしてしまっている。

あるいは『俺をヤムチャに生まれ変わる前、死ぬ1時間に戻してくれ』とか願えばいいのかもしれないが、時間を戻すような大技が可能なのかわからないし、俺は前世では独身で両親を早くに亡くしてて兄弟もいない。残してきた家族ってのが存在しないからか、未練ってもんが薄いのよね。

むしろ今じゃこっちの世界の方のほうに執着があるくらいだ。何しろこっちじゃ親兄弟も生きてる(一応カメハウスで修行中に手紙のやり取りで生存は確認。桃白白に殺されてはいない模様で一安心)し、家族みたいなプーアルがいる。

だからとりあえず元の世界に帰るってのは無しの方向で。

で、一応前々から考えてた候補としては『俺をサイヤ人に、この孫悟空と同じ種族にしてくれ!』と願うってのがある。

基本パワーの底上げ案としては一番最初に思いついたアイデアなんだが、そう悪くないだろう? 正にドラゴンボールを使ってしか無理なパワーアップ方法だと思うぞ。

他にも不老不死を願うとかも、アリっちゃあアリだと思うんだが。……不老不死は……怖いんだよなあ。

前世で両親が死んだときにも思ったが、一人残されていくってのは辛いもんだ。それが永遠に続くのはキツイと思うのよ。

それになにより最悪の展開で地球が破壊されたりしたら、死なない体で宇宙を漂うハメになるだろうしさぁ。

それなんて究極生物(アルティミット・シィング)? 

『死にたいと思っても死ねないので―そのうちヤムチャは考えるのをやめた』とかそういう結末は勘弁して欲しい。この世界だとあの世が存在するだろうだけに余計に救いが無い。

願いが叶う基準はいまいち分からないし、本来なら願い事を叶える優先権はブルマにある訳で、俺が願い事を叶えられるかどうかはその時の状況次第だろうから、あれこれ考えすぎても捕らぬ狸の皮算用になってしまうかもしれないが、今のところチャンスがあればサイヤ人化を狙うってことで一つ。

……ズルイ? チート乙? ふ…ふはははっ! 好きに言えばいいのさ!! 野菜(前回参照)にされた俺がサイヤ人なって何が悪いっつーのよ!?

俺のくらいの年代の生まれの奴は小学生の頃みんなスーパーサイヤ人になりたかったんだよ!! むしろ休み時間にはみんなサイヤ人になってたんだよ!!

子どもの頃なりたかったモノになれる禁断の果実がそこらに転がってたらどーよ? どーなのよう!?

失いかけてた僕らの夢が翼を得て今飛び立つ!!!

俺が脳内で鼻息を荒くしてると、トントンと腕を軽く叩かれて正気に戻った。見ると今まで俺の膝の上で大人しくしていたプーアルが小首をかしげる様な仕草でこちらを見上げていた。

……言っておくがプーアルは元の姿に戻っているぞ。美少女の姿で俺の膝に座るとかそんなおいしい話がそうそうあるわけない。

ブルマに正体が露見してからどうやら変身にこだわりはなくなったらしい。せっかく購入した服も今は折りたたんでカバンにしまってある次第。

あと、俺の膝の上というポジションに関して言わずもがなブルマとの間に小競り合いが発生したりもしたが、もうアレなんで割愛する。

結局ウーロンが運転席、ブルマと俺が後部座席に座って俺の膝の上にプーアル。悟空は引き続き筋斗雲というあまり変わり映えのしないポジションでクルマに収まっている。

いやー、でも狭かった車内が広くなって快適だ。

……べ、別に美少女二人にサンドイッチにされてたのを惜しんでたりなんか……その…ちょっとしかしてないんだからねっ!

「ヤムチャさまー。ずっと思ってたんですけど神龍ってなんですか?」

む? 何かと思えばそんな事かプーアル。って……あれ? ブルマが亀仙人とかに説明してなかったっけ?

……Not・ノーパン事件のショックが大きすぎてあの時のことを良く覚えていないとは、我ながらどれだけショックだったというのか。

しかし、まいったな。てっきりドラゴンボールの概要についてはあの時ブルマが説明してるものとばかり思っていたが。

「あ、そういえばなんでヤムチャは神龍の事知ってたの?」

隣のブルマが訝しげな表情で会話に割り込んできた。……これはまずい。

俺が原作知識を持ってる事について、プーアルには既に未来予知ができるから云々という説明してるから「未来予知だお!」って言えば済むんだが、未来を知っている事をなるべく隠すようカリン様から忠告を受けている手前、ホイホイ他の人間にそんな説明はできん。

「……それは、そのう。……アレだ! 古い巻物に載ってたんだ。ドラゴンボールを七つ集めたら、神龍という龍がでてきて一つだけ何でも願いことをかなえてくれるって!」

無論口からでまかせである。なんか困ると嘘ばっかついてるような気がする。

「へー。そーだったんだ」

「そんなスゴイものだったんですか!? ドラゴンボールって!」

あっさり納得するブルマと大仰に驚くプーアル。

うむ、予め説明しとくべきだったね。ごめんよプーアル。

そしてブルマが素直な娘でよかった。突っ込まれたらなんか色々ボロを出しちゃいそうだもの。

「わたしも実家の倉庫にあった二星球見つけて、コレなんだろー? って調べてるうちに昔の文献でドラゴンボールの記述見つけたのよ。……ただ内容が"どんな願いも叶う~"なんて突拍子もない内容でしょ? わたしも最初は半信半疑だったんだけど前に使った人が王様になったって書いてあってさ。なんか納得しちゃったわけ」

……話の意味が良く分からない。どこにどう納得したんだ。重要な部分がごっそり抜けてる気がするんだが。

「……スマン。もう少し分かるように話してくれないか」

「今のでピンとこない?」

「いや全く」

フルフルと首を横に振る。ピンともティンとも来ません。

「えーっと、わたしも歴史とかそんなに好きでもないから詳しくは知らないんだけど」

ブルマはそう前置きしてから説明を続けた。

「昔は沢山国があってなんか戦争とか色々あったんだって。でもあっさりと今の王様のご先祖様、つまり初代の国王が全世界を統一しちゃったのよ。しかも平和裏にね」

「それは……凄いな」

国が一つしかない事は知ってたが、もうなんかそういうモンなんだろうと思って深く考えた事も調べた事もなかったぜ。一応そういう経緯があったのか。

「そうそう。スゴイ偉業よね。歴史の授業なんかじゃあ世界中の国々を話し合いでまとめたって習ったけど、普通に考えたらありえないわよね」

言われてみれば確かに不自然な話だ。

詳しく知っているわけじゃないが、俺の前世での地球と同じようにこちらの地球にも多数の言語(もっとも共通語の普及率が恐ろしく高いようだが)があり、多数の文化があり、多数の民族がいる。

そしてこっちの世界の人間、こっちの地球人のメンタリティは……ま、少しのん気な連中が多い気もするが元いた世界の人間と極端に異なっているわけじゃない。

だからこそ君主制の元、話し合いで世界を統一するなんてことは不可能に近いと思える。

前世の世界じゃあ国連でさえ大戦で流れた大量の血の上に浮かんだ泥舟だってのに。

ん? ああ……なるほど。話が見えてきた気がする。

「……だからドラゴンボールを使ってなら……ってことか?」

「そういうこと。ピンと来て、腑に落ちたの。……ね、ドラゴンボールに信憑性出てくるでしょ?」

俺は特殊な事情のおかげで最初から疑ったりしてないけど、まあ普通はいきなりこの球を集めれば願いが叶うっていわれても中々信じられんわな。

「今更だけど眉唾な話だよなー」

黙って運転していたウーロンが振り向きもせずに茶々を入れた。

「なんでよ?」

「だってよー。そんなすげーもんがあるならもっと広く知られててもおかしくねーだろ?」

まあ、ウーロンの言う事も一理あるやもしれん。

実際こっちの世界で16年生きてきてドラゴンボールの話なんて聞いた事ないからね。

「それはきっと集めるのが大変だから伝説になって話が風化していったんじゃないかしら。それに初代の国王が情報を隠したのかもしれないわ。なにせまた王様になりたいなんて願いを叶えられたら自分は王様じゃなくなっちゃうわけだし」

自分の後に続くものを恐れる、か。……ありそうといえばありそうな話だが。 

「ま、まあ、それが本当だとしてよ。一度聞きたかったんだけど、ブルマさあドラゴンボール集まったらどういう願いを叶えてもらうんだ?」

「ほっほっほっ!! 言わなかったっけ? 恋人よ! 素敵な恋人!!」

い、いきなり話の次元が低レベルになった……。っつか、こっちを流し目で見るなっ!!

YOUが会話してるのはウーロン君でしょうが!

「何ー!? 恋人!? オレたちが命がけで手伝ってやってそんなしょーもない願いかよ!!」

「しょーもないとはなによ!! ま、もう半分くらい叶っちゃったかもしれないけど」

そう言って微妙に体をすり寄せてくるブルマ。

く、くそーっ!! こんな露骨なアピールで俺を誘惑しようとは……許せるっ!!

そんな餌で俺様が釣られクマ―― 

………………………………………。

………………はて? プーアルさんの反応が薄いのが気になるよ? 嫉妬してくれるのが可愛いとか……正直ちょっと思ってた。

チラ…っと、ウザやかにプーアルの様子をうかがう。

「……どんな願いでも叶う?……ヤムチャさまを……ボクは…」

怖っ!? 俯き加減で影を負った表情でそんなセリフ呟かれるとおにーさんのタダでさえ小さい心臓がさらに縮みあがっちゃうよ? おにーさんはヤンデレに耐性とかないからね!?

「けっ……おもしろくねーな。なあ悟空? ……悟空?」

少しだけ振り返ってこちらの様子を窺ったウーロンが、クルマに追随する筋斗雲上の悟空に同意を求めるも、返事は無い。

返ってくるのは「カー…カー…」という悟空の静かないびきだけだった。

「……ね、眠ってやがる…話が長すぎたんだ」

どうした化け物! それでも世界で最も邪悪な一族の末裔か! 

うん。すまない。言いたかっただけなんだ…って……あれ? だいたいあってね?















ヤムチャしやがって……

第10話『マイも嫁候補! ……そういうのもあるのか。となるとこのプーアルもうれしい。全てが嫁として立ち上がってくる』














……薄く。延ばす。

収束させて貫通力を持たせた『気』を丁寧に押し広げていく。

作りたいものは『気』の刃。

回転は加えない。気円斬はその構成を洗いなおしている最中だ。

だから今はただ『気』を薄く延ばすことに集中する。

気弾系の技のように完全に体から『気』の塊を離してしまうと比較的コントロールが難しくなってしまうので、今回はそれをせずに"あやとり”でもする様に向かい合わせた両手の間に『気』の膜を作る。

収束させた膜は刃に近い性質をもっている……はずだ。

「これって……成功?」

ブブブ……と虫の羽音の様に僅かに空気を振るわせる薄い『気』の塊を睨む。きっと俺の眉根は中央に寄ってしわを作ってしまっているに違いない。

ちょっと思いついてやってみたにしては上手く行き過ぎた。そういう時は大抵何か他の何かが失敗するんだ、俺の経験上。

プーアルやブルマに怪我をさせないよう、車外に腕を突き出して『気』をいじってたんだが、極薄のそれは太陽の光を通すほど薄く、お札の透かしでも見るみたいにして観察すると後ろの風景がぼんやりと見える。

ここまで薄くしちまうと目標に当てたときに『気』の構成が崩れちまうかな?

もっと『気』の量の練り込めば頑丈にはなるだろうが、そうすると薄く収束させるのが難しくなってしまう。

あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たず。結局この方向性でも袋小路に入りそうな予感がするなあ。

「ヤムチャ~何やってんだ?」

逆さまにぶら下がった顔と、『気』の膜ごしに目が合う。

「うお! 悟空っ!」

驚いて、慌てて腕を引き『気』を打ち消そうとする。

「…あら?」

が、慌てたせいか制御をミスって逆に悟空の方に『気』でできた刃を飛ばしてしまった。

「いっ!?」

筋斗雲にしっぽを巻きつけてサルみたいに逆さづりになっていた悟空は短く奇声をあげると、シッポを支点にぐるっとアクロバティックに回転して刃を避けた。

もっとも完全には避けきれずに本人の代わりに前髪が数本切り飛ばされてしまったが。

シュッと空気を切り裂きながら『気』の刃はその勢いを殺すことなく、数百メートルほど離れた場所の巨大なキノコを数本切り倒してから役目を果たしたかのように掻き消える。

うーむ、心配してたとおり構造が脆いらしい。いくら巨大とはいえ菌糸類を切断したくらいであっさり崩壊するようでは格上の防御を抜くには力不足だ。

しかも速度は下の下。何せ至近距離で、かつ結果的に奇襲になったにもかかわらず、今の悟空によけられる様じゃ話にならない。

……まあ避けてくれなかったらとんだ惨劇になるところだったんで結果オーライ……ということにしておきたい。

ふわふわと宙に浮かぶ筋斗雲がクルマと並行になるまで降りてくる。

「ひゃー……たまげたぞ」

あっけらかんとした表情の悟空にホッとするやら、あきれるやら。

「たまげたのはこっちだ」と言ってその頭をペシッと軽く叩いてやろうとしたがスカッと空ぶった。

俺の乗っているエアカーが急停止して、悟空の乗る筋斗雲だけが前に進んだせいだ。

「…っと、どうしたウーロン?」

「いや、なんか今女の声が聞こえなかったか? 悲鳴みたいな」

たらーっと背筋を冷たい汗が流れる。

もしかして……今のアレのせいか? 人影なんか無かったように思うが、キノコの影に隠れてたら目に入らないかもしれない。

け、怪我くらいですんでればいいなあ……。

瞬間、首ちょんぱなイメージが沸いてきて血の気が引いた。

「悪い! ちょっと頼む」

「わわ! 何処いくのよー」

膝の上にいたプーアルをブルマに押し付けるようにして空へ飛び出す。もしグロい事になってたらと思うと、プーアルを連れて行くのはちょっと抵抗がある。

とりあえずキノコを切り倒した方向に向かって飛ぶも、やはり人の姿は見えない。

「……ん?」

切り倒された数本のキノコのうちの一つから手が生えてる?

……なわけない。誰かが下敷きになってんだ!! 

「や、やべええ!!」

慌てて側に着地する。

上空からだと押しつぶされてるように見えたが、実際にはキノコの傘のおかげで柄の部分と地面の間が完全に押しつぶされずに隙間になっており、その下に髪の長い人がうつぶせに倒れていた。

これなら、生きてるかもしれん!

慌てて追いかぶさるキノコを蹴り飛ばして、倒れてた人を抱きかかえるようにゆっくりと仰向けに起こす。

さらと流れる黒髪が腕に掛かる。

「……ふつくしい」

思わず声に出た。

容姿端麗とはこの人のためにあるんじゃないかってくらい綺麗な顔をしている。いわゆる前髪ぱっつんのロングがこれほど似合うのは美人の証明だろう。

ネズミ色のトレンチコートなんか着てどこぞの将校みたいな格好してた上に背が高いから一瞬男かと思ったが、膨らんだ胸元と抱えた手に伝わる筋肉質な男のソレとは明らかに異なる柔らかな感触がそれを否定している。

パッと見た感じ怪我をしているかどうか分からない。ふと思いついて口元に手をかざすと、確かな呼吸を感じた。

「息はある……が、どうしたもんか」

頭を強く打ってる場合はあんまり揺さぶったりしない方がいいだろうし……。

あ、そういやいい物があった!!

ごそごそと懐から小袋を取り出す。中身は俺のとっておき、虎の子の仙豆である。

カリン様のところを出るときに少し分けてもらったのだ。コイツなら脳内出血とかしてても助かるだろう。

一粒豆を取り出し、女性の口元に近づけてから、はたと手が止まる。

気を失っていては飲み込んでもらえないではないか。

「あ……アレしかないのか?」

誰に言うでもなくひとりごちて、ゴクリと唾を飲み込む。

口移しっ……しかも今水がないから噛み砕いた仙豆を俺の唾液とともに流しむハメに……?

ディープキスってレベルじゃねーぞ!?……いやらしい…。

あ、いやいや! 迷ってる暇は無いよね。俺の内面世界の野菜王子も『はやくしろっ!!間にあわなくなってもしらんぞーっ!!』と叫んでいらっしゃることだし、もうコレはやるs「ううん……」……え?

「……うう。……ここ…は」

……ですよねー。そんなうれしはずかしイベントがゴロゴロそこらに転がってるはずないよねー。

いや、分かってたよ? 分かっt……ちくしょうめえぇぇー!!!! ちくしょおおぉぉおおーッ!!!

「気がついたのか? コレを噛んで飲みこめ。薬だ」

そんな俺の内心はおくびにも出さず、あくまでもクールに女性の口にそっと仙豆を押し込む。

カリコリと女性が噛み砕いて飲み込むのを確認して一安心。これで目に見えない部分の怪我があっても死ぬことは無いだろう。

「……え!?……体の痛みが消えた?」

おー驚いてる驚いてる。打ち身なんかも綺麗に治って、スーッと痛みがなくなるからなあ。

俺も初めて怪我に使ったときはこいつはスゲーとビックリしたもんだ。

目をパチパチさせて戸惑っている女性を改めて観察すると、思ったより若いことが分かる。最初に見たときは20代半ばくらいに見えたが、たぶんそれより若い。二十歳前後くらいだろう。

「これで多分体は大丈夫だと思うけど平気か? 立てる?」

「……あ、はい……わっ!!」

問答無用に突き飛ばされました。

膝をついて女性を抱きかかえるようにして支えていたせいで、俺も女性も尻餅をつく。

「あいたっ!…………あ。ご、ごめんなさい!」

「いやいや、良いんです。良いんです。見知らぬ男にいつの間にか抱えられてたら、誰だってそーする。おれもそーする」

砂埃で汚れたケツをパンパンとはたきながら立ち上がる。

「あは、あはは! なんです? それ」

「わははは。何でしょうね」

微妙にテンパってるな、俺。……ブルマとはまた違う種類の美人だから緊張してるのか。

切れ長の瞳で見つめられるとゾクッとするね。

「お嬢さん。お手を拝借」

調子に乗ってちょっと強引に女性の手を取って立ち上がらせる。……っと、上背があるなこの人。スラッとしてモデルみたいだ。

あら? なんだろうこの既視感。なんか見え覚えのある雰囲気。原作の展開を加味して鑑みるに、ひょっとしてひょっとしないかい、コレ?

「あの、つかぬ事をおうかがいしますがお名前はなんと?」

「……名前…………」

女性は目を伏せて考え込んだ後「たぶん、マイ…だと思います」と自信なさげに口を開いた。

ゲェーッ!! やっぱピラフ一味かよっ!!

勝手にもっとケバい感じの人かと思ってたぜ。思いがけず普通に美人だったせいで、その特徴的な服装見ても思い出せなかったぞ。

……あ…ちょっと待てよ。いまこのおねーさん何と言った? "たぶん、マイ"…だと?

「……たぶん?」

「はい、たぶんマイです。私の名前」

んん゛?……どーゆーことー?

俺の記憶の中にあるキャラクターとなんかズレがあるのも気になる。正直断言できるほどマイってキャラクターを覚えていないんだが、こんな感じだったか?

まさか……。いや、ないない。それはない。某国のドラマによくある設定だというアレ(笑)は無いだろ、さすがに。

……………無いよね? 

無いと思うけど一応聞いておこう。

「まさか記憶喪失なんてこたーないよね?」

「……そのまさかみたいです。……今も名前がなかなか思い出せなくて困っちゃいました」

……そーなのかー。

…………………………。

超展開ktkr。

初登場から飛ばしすぎですマイさん。俺置いてきぼり。

なんだこの展開。俺か? 俺の所為なのか?

もう将来ツンデレ野菜王子が金髪ツインテールツンデレ美少女にTSしてても驚かんぞコノヤロウ。

「えーとピラフとかわかる?」

「ピラフ、ですか?……お料理……ですよね」

いいえ、あなたの上司です。

「あー……どーしたものやら」

おにーさん頭が痛くなってきたよ。頭を打ったのは俺じゃなくて、目の前でのほほんと笑ってるこの人だろうにね。

記憶が無いという割には暢気してるようにも見える。ひょっとして演技か? いやいや、俺に対して記憶喪失の演技なんかしてどうなる。

確か原作じゃあここらで一度ドラゴンボールをピラフに奪われたような気がするが、こんなシーンはなかったぞ、絶対。

しかし連中、原作とアニメじゃあ出番の多さに随分差があったからなあ。こんな序盤だとアニメはちょろちょろしか見てないうえに俺も小さかったから、もしアニメのエピソードにこんな話があっても分からないかもしれない。

というか俺がいるのはそもそもどっちの世界なんだ。原作か、アニメか。

……ま、どちらにせよドラゴンボールを奪おうとする展開に変わりは無いハズ。となると、マイがここに居たのはドラゴンボールを奪う前の監視…というか確認か。キノコの上からこちらの様子でもうかがってたのかもしれん。

ピラフ一味もドラゴンレーダーの開発には成功してたはずだから、目視と照らし合わせてドラゴンボールの持ち主を特定でもしてたのか?

そこに俺のあの失敗作が飛んできて、切断されたキノコがグラグラ、マイが落っこちーの、上からキノコがドーン。

……マヌケっぽいが当たらずとも遠からずといったところだろうか。

で、そんなこんなで監視対象の俺に見つかったから記憶喪失の演技……。んーんんー……さすがに無いか。どういう誤魔化しだっつー話だよ。

………………………………………。

……あー。……うん。なんかもう面倒くさくなって来た。ほっといたって適当にピラフが回収するだろうから、このまま放置して帰ってしまおう。

はっはっは。そうだ、そうしよう。面倒事はゴメンだ。いわれなくてもスタコラッサッサだぜぃ。

「じゃ、俺用事あるんで」

しゅたっと手をあげて、さっそうと立ち去ろうとした俺の袖にガシッと何かが掴みかかってくる。

「ちょ……こんな所に一人置いていかないでくださいよ~」

ズルズルと追いすがる何か。

「いや、ホントすいません、放して下さい。っつーか、HA☆NA☆SE! 俺以外の誰かが助けに来るって絶対!!」

「来るわけ無いじゃないですか!! 嫌です! 絶対放しません!! 女の子をこんな荒野に放置するとか、あなた良心が痛まないんですか!?」

「いや、アンタ女の子っつー年齢かy…ぉぶべっ!?」

こ、この女なかなか良い右持ってんじゃねーか。

「女の子ですぅー。女の子はいくつになっても女の子なんですぅー」

「ぶったね!? 親父にも殴られた事無いのに!! っつか初対面の男をグーで殴るか、フツー」

「助けたんなら最後まで責任もって面倒見ろってんですよ!!」

「え゛~……そんな犬猫じゃあるまいし。……いやあ、大丈夫だって君なら一人で生きていけるさ」

「私だって分からないのに、あなたに私の何が分かるってんですか!?」

「大体分かるよ? たぶん年齢は、にじゅ…ボハァッ!!」

「だ~か~ら~女の子に向かって年齢はっ……」

「ぶったね!? 二度もぶっ(ry

その後不毛なやり取りを数分ほど繰り広げたものの、結局強く振り切ることができなかった。

街道からそれほど離れた場所ではないんだが、言ってみればアメリカ西部の荒野みたいな場所だけに、彼女の言うとおり記憶の無いお嬢さんを一人放り出すのは流石に心苦しい。記憶喪失の原因が十中八九俺にあるだけに余計にね。

俺は大きく一つため息をつくと、マイに言った。

「わーった。わかったよ、ったく。俺はどーすりゃいいんだ」

「……えっと、まずあなたの名前を教えてください」

にっこり笑うマイ。第三者から見れば屈託の無い笑顔見えるかもしれないが、俺の主観からすれば『チョロいなコイツ、ククク。完 全 論 破』といった笑みにしか見えない。

まあ、でも確かに相手が誰であれ名乗らせておいて名乗らないのは失礼かねぇ。

「OK。わかった。俺の名前はヤムチャ。旅の武道家……みたいなもんだと思ってくれ。向こうに待ってる仲間たちと旅してる」

悟空達のいる方向に背を向けたまま、立てた親指でそちらを指し示す。

「向こう・・・…ですか?」

「ん?」

なんでそんな不思議そうな顔なんだ。

「……その……あっちで煙があがってるんですけど……大丈夫なんですか? ひょとしてヤムチャさんのお仲間の皆さんじゃあ……?」

「煙?」

慌てて振り返るともうもうとした黒煙が立ち上っていた。間違いなく俺がやってきた方向だ。

今見たところマイが通信機らしきものを持っている様子は無い。だが監視してたと考えるなら、やはり俺達が街道を通るのをピラフあたりに知らせてたと考えるべきだろう。通信機そのものはそれほど大きなものじゃないだろうから、事故の衝撃でどこかに飛んでいったのかもしれないし、ホイポイカプセルにしまってコートのポケットにでも収まっているのかもしれないしな。

そしてピラフ一味といえばメカでドラゴンボールを奪いに来るようなイメージがある。既にマイから連絡がいってるとすれば、ピラフか犬の獣人かがなんか良く分からんメカで襲ってきたのかもしれない。

悟空がいるから簡単にドラゴンボールを奪われるとも思えんが、急いで戻ったほういいだろう。

問題はこの人をどうするかだが……。

ええい!! くそっ!! めんどくせえ!! また妙な押し問答するのは御免だ。

「しっかり捕まっててくれよ!」

有無を言わさず、マイを抱き抱える。いわゆるお姫様抱っこという奴だ。

「え!?……と……飛んだ?」

空に舞い上がると同時にマイがギュッとしがみついてくる。敵だとわかってても嬉しい愚かな俺を許して欲しい。

これが おとこの サガ か。

いかんいかん。馬鹿な事考えてニヤけていると、ブルマあたりにチェーンソーでバラバラにされてしまいかねん。

あっというまにブルマ達が見えてくる。元々そこまで離れてたわけじゃなかったしな。

「あちゃー……」

煙上げてるのはピラフのメカではなく俺達が乗っていたエアカーのほうだった。ありゃもう修理とかそういう問題じゃない。完全にスクラップになってやがる。

しかし、あれほどクルマが破壊されるほどの攻撃だったら相当大きな音を立てただろうに、まるで気がつかなかった。たぶんマイと下らん押し問答してるときだったんだろう。あのとき俺もマイも相当やかましく喚いてたからなあ。

それにしても煙が立ち昇るほどクルマが大破してる割にみんな怪我もなさそうだ。こちらに気づいたのか何処か呆けたような表情でこちらを見上げている。……おろ? 悟空がいないぞ。

ともかくみんなの近くに着地して、マイを降ろさないとな。

「「ヤムチャー(さまー)ッ!!!」」

俺達がゆっくりと着地すると、ブルマとプーアルが駆け寄ってきた。

「おー! お前ら大丈夫か? 何があったんだ?」

あれ? 二人ともお顔が怖いよ?

「「それはこっちのセリフ(です)!」」

ひぃっ!! なにも声を揃えて凄まなくても。

「「その(ひと) 誰(ですか)?」」

恐ろしいくらい息がぴったりである。

マイを連れて帰ったりしたら多少怒られるかなあとは思ってたけど、こんな苛烈な反応がかえってくるとは。

「あ、あの私マイっていいます」

俺が何か言う前にマイが自己紹介した。その一言で、ギロリとした視線がマイに向く。

これは……チャンス!! 

抱きかかえていたマイを手早くおろすと「悟空探してくる~」とだけ言って上空に逃げだした。

「一人にしないで~」とかなんとかマイが言ってたような気がするが、気にしないZE!

一度上空に逃げ出したものの事情を聞きたかった俺は、そこらに転がってたウーロンを獲物を捕らえる鷹のようにゲットすると、近くの巨大キノコの傘の上に降りた。

「何すんだよっ」

「ま、いいから、いいから。で、何があったの?」

ウーロンの抗議は軽くスルーして事情を説明するよう促すと、不満そうに唇を尖らせながらもポツリポツリと語りはじめた。

「……お前がどっかいったあとで、変なロボットが襲ってきたんだよ」

「……変なロボット」

やっぱピラフ一味っぽいな。まさかこの時期にレッドリボン軍ってことは無いだろうし。

「そんでよ、ドラゴンボールをカバンごと盗んでいきやがったんで、悟空の奴がそれを追いかけていったんだよ」

ふーん、なるほど。たしか原作でもそんな感じだったような気がするぞ。

さてどうしたものかと思っていたら、「おーい!! やっほー」と悟空が手を振って、こちらに向かってきた。

ぐんぐんと近づいてくる筋斗雲の上には盗まれたはずのカバンは見当たらない。

この時点でなんとなく結果が見えたような気がしたが、一応首尾を尋ねることにした。

「おー、悟空。で、どうだった?」

「やっつけたぞ」

「ほう。で、ボールは?」

「なかった」

「……何しにいったんだ……お前は。……それでどんな奴だったんだ?」

一応ピラフかどうか確認しておきたい。

全く関係のない連中に奪われたって可能性も無くは無いからな。

「どんな奴って……。うーん、なんか変な奴だったぞ。突付いただけで倒れて動かなくなっちまうし。えーっと足が4つあって、手が2つだった……かな」

悟空は相手の手足の数でも数えてるのか、指を折りながら答える。…………っつかなんだその化け物は。 

「おい、悟空。そりゃあいつが乗ってたロボットじゃないのか?」

ウーロンが口を出してきた。ああそうか、こいつも襲ってきた奴を見てるもんな。

「ロボット? ロボットってなんだ?」

「クルマみたいに人が中に乗って動かしてたろ?」

悟空の疑問にウーロンが簡潔に説明してみせる。

「へー。そういうもんかー。でもアイツ口あけてたけど中に誰もいなかったぞ」

中に誰も居ませんよ……か。うん、あれだね。二股とかよくないよね、人として。……俺も気をつけよう。

それはそれとして、逃げられちまったか。相手がピラフだとすればこれで正史どおりといったところだろうが。

「ま、しかたないな。ブルマたちのところへ戻るぞ」

正直まだ戻るのが怖かったりするが、いつまでもそうしてるわけにもいかん。

マイという生贄でブルマとプーアルの怒りが少しでもおさまってればいいんだけど。

大破したクルマの所までもどると、色々問い詰められたのか憔悴したマイと、多少なりともスッキリしたのか先ほどよりは迫力の和らいだブルマとプーアルが待っていた。

前にスタンドバトルを幻視しちまうほど車内の空気が最悪だったことから考えて、『『質問』はすでに…『拷問』に変わっているんだぜッ!!』くらいのやり取りがあったとしても驚かんね、俺は。

具体的には『ペロッ……この味は……これは嘘をついている『味』だぜ』とか……。

いかん! 女同士でそんな事してる所想像すると、俺のジョナサンが波 紋 疾 走(オーバー・ドライブ)してしまうじゃないか。

馬鹿な想像を頭を振って振り払い、目礼でマイに謝るも、かなり恨みがましい目で見られてしまった。いつか機会があればお返しにジュースを奢ってやろう。

ブルマとプーアルには「犬猫じゃあるまいし女の子を拾ってくるなんて~」とか「抱きかかえ方がいやらしい」とか小言めいた事をを二、三言われもしたが、記憶喪失なんていう事情が事情だけに連れ帰った事には納得していただけた模様。

うん。正直コレくらいですんでホッとした。「計画通り」なんて嘯く余裕もねーよ。女の子に詰め寄られるのは、そういう経験が少ないだけに恐ろしいぜ。

マイを見て「誰だコイツ?」なんていう悟空とウーロンに簡単に事情を説明しつつ、ブルマにドラゴンボールを奪われた事を説明すると、頭を抱えてブルマが喚きはじめた。

「ああ~っ!! もうダメだわ。きっとあいつら最後の1個をもっているんだわ……!! 盗られたボール合わせたら7個全部そろっちゃう」

「オラのがあるじゃないか」

がっくりとうなだれるブルマに、悟空が悟空らしいあっけらかんとした表情で、自分の腰の巾着袋を指差しながら言った。

「は!!……がっはっは!! あいつめ一個忘れておるわい!! ザマーミロ!!! ドラゴンレーダーで泥棒の位置が分かるわ。さあ!! 行くわよ!! 7個全部いただくのはこのわたしだわ!!」

途端に立ち直って、勇ましく宣言するブルマ。なんとも逞しい限りである。

めまぐるしく変わる表情がカワイイなあ、なんてオッサンくさいことを考えてたら、プーアルに頬をつねられてしまった。

「痛っ!!」

「ヤムチャさまは、もう~。ヤムチャさまは、もう~」

なんかお怒りのようです。……俺、そんなに表情に出してたか?

「いくわよ…ったってどうやって……クルマは壊れちまったぜ?」

ブルマのテンションについていけないのか妙に醒めたウーロンが突っ込む。

「ふんふんふーん。前の町でちゃーんとカプセルを買ったわよー!…………………カ……カプセル…ボールと一緒にカバンの中……」

得意げだったブルマの笑みが崩れ、そのままふにゃふにゃとへたり込んでグスグスと音をたてて泣き出した。なんとも落差が激しい事だ。

……やれやれ、仕方ないな。女の涙にゃ勝てん。

「悪いがプーアル。でかい人力車みたいなのに化けられるか?」

「え? それは化けられますけど……クルマになった方がいいんじゃないですか?」

「いやクルマに化けて自分で動くとお前すごく消耗しちまうだろ。俺が引っ張ればそこまで疲れずにすむだろうが」

「……は、はい」

何故かちょっと嬉しそうなプーアルが化けようとしたその時、思いがけない所から声が上がった。

「あ、あの~……」

マイだった。恐る恐るといった様子で手をあげ、その視線はブルマとプーアルの間を泳いでいる。

「マイさん……だったかしら? 何の用?」

先ほどまでの涙は瞬時に引っ込み、言葉に冷気すら漂わせるブルマに一瞬怯むも、マイは勇敢にも言葉を続けた。

「えっと、私、多分クルマ持ってます。……思い出したんです」

「ホント!? 助かったわ~。ありがとうマイさん!」

現金なもので、先ほどまでの何某かを忘れたようにブルマはマイに抱きついた。

だが俺は喜んでばかりもいられない。記憶が戻ったとすればどこまで戻ったのか。

外因性の記憶喪失ってやつは一時的なものが多いらしい。前世でのうろ覚えの知識だが、この調子だと、すぐに自分がピラフ一味だと思い出すかもしれない。

それ自体は別に構わないんだが、変なタイミングで裏切られてハメられると困る事になるかもしれない。

「じゃ、さっそく」

ガサゴソとマイがコートのポケットから取り出したカプセルを投げると御馴染みのポンッとした爆発の後に、小型のジープタイプのクルマが出てきた。

4人の乗りのジープだったので、俺は後ろの後部座席にマイとブルマを押し込み、ウーロンを運転席に蹴りこんで、プーアルを抱えて助手席に座った。もうせ座席で揉めるのはいい加減ゴメンだ。

「悪いな悟空。また筋斗雲で」

ずっと筋斗雲ばかりの悟空に一応謝っておく。

「そん中狭そうだから、オラこっちのがいいぞ」

そいつは重畳。

「俺も運転ばかりだぞ」

ウーロンが不満たらたらにそう言うので、一応「すまんなウーロン」と言ってやったにもかかわらず「けっ……男に言われても嬉しくもなんとも無いぜ」なんてほざきやがるもんで「とっとと出発しろ」と、ポカリと一発頭にくれてやった。



ドラゴンレーダーの指し示す方向に向かってジープを走らせること数十分。

太陽が随分と西に傾いている。

もうそろそろ日が沈もうかという頃合に俺達は、珍妙な建物を目にする事になった。

ピラミッドの上にモスクをのせて、大きなパラボラアンテナを設置したようなデザイン。横幅は30メートルほどで高さは20メートルほどだろう。

本物のギザの3大ピラミッドなんかと比べれば小さいが、単純に建築物としてみれば結構な大きさである。

特筆すべきはそ街道が間近まで伸びていることだろうか。いくら交通量がすくないとはいえ、隠す気ゼロとは恐れ入る。

「でかいなーっ!!」

そういって口をあけて仰ぎ見る悟空の気持ちもわからんではない。

「入り口はどこかしら?」

「あそこじゃないでしょうか?」

マイという共通の敵ができたせいか妙に仲がいいブルマとプーアルが、ピラミッド部分の扉に見える箇所に近づく。

「ふ、不用意に近づくと危なくないか?」

俺の陰に隠れながらウーロンがへたれた発言をかました。うん。なんだろう。俺、お前のこと全然スキじゃないけど微妙に嫌いになれないぜ。

「そうは言ってもここでじっとしてるだけってワケにもいかんだろうが」

ちょい、とウーロンを摘み上げてブルマたちの所へ向かう。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

と、マイが叫んだせいで、俺は足を止めた。

少し考え込むような仕草をしてからマイは口を開いた。

「たぶん、入り口はそこじゃありません」

「え? だって扉になってるわよ、ココ」

「それはダミーです。本当の入り口は……」

ツカツカと俺の脇を抜けて、扉を指差すブルマの側までいくと、マイは扉の横の壁を探るようにコツコツ叩きはじめた。

何がなにやらといった様子で戸惑っているみんなとは違い、俺はマイがいよいよ思い出してきているのだと考えていた。

裏切られる前に、人質にでもしてドラゴンボールを回収した方が話が早いか? 一瞬そんな考えが頭をよぎるが、記憶喪失が本当なら裏切りもクソも無い。はじめから敵だったわけだからな。

それに笑顔を見たことのある女性を人質に取るというのは、どうにも俺の心に後味の良くないものを残しそうだ。できればやりたくない。

敵になった時点で正面から打ち破るというそういう方針で行こう。……大丈夫だよね? 序盤だもの。ピラフとかそんな大した敵じゃないよね?

俺がそんな事を考えている間に、壁が動いてテンキーのような操作盤が現れた。

あっけにとられる俺達を尻目によどみない操作でマイは数字を入力していく。

「………………これで」

マイが言葉を言い終わらぬうちに、今度は壁が大きく内側に凹み、横にスライドしていく。

「……すげえ仕掛けだな。それにしてもあんた、なんでこんなの知ってんだ?」

「そ、そーよね。怪しいわ」

ウーロンとブルマが怪しみだした。ま、当然か。

「私にも……よく分かりません。なんとなくわかっちゃったんです」

静かに俯いて首を振るマイの姿はやはり演技には見えない。

「ヤムチャさま~。大丈夫なんでしょうか」

プーアルもどうやら不安らしい。そっと頭に手をやると、本当のネコのように目を細めた。

「いざとなれば俺がなんとかするさ」

「はい。信じてますヤムチャさま!」

い~い返事だ。嬉しくなるね。

と、マイがしょぼくれたように突っ立ってるのを見て俺の頭に電流が走った。

ここは"ああいうシーン"じゃないか?

「おいおい。なんだよ。しょぼくれちまってよ。自分が信じられないのか?」

「だって過去の記憶が無いんですよ。私皆さんの敵かもしれない」

「自分を信じるな!!」

「え!?」

「俺を信じろ!! お前を信じる俺を信じろ!!」

そして世界三大兄貴といわんばかりにニカッと笑う。

っくぁ~恥ずかしいぃ~。でもいっぺん言ってみたかったんだZE!!

言ってる最中思い切りよく、照れずにいえた自分を褒めてやりたい。こういうのは思い切りよくやらないと受けないからな。アレだ、アニソンを歌うのと同じだ。照れずに思いっきりやる。それが極意だぜ。

…………………あれ? 反応が無い?

改めてマイをみると頬をぽーっとピンク色に染めてこちらを見ていらっしゃる。心なしか目も潤んでないかい?

「はい!! 信じます!! 私を信じてくれるあなたを!!」

……なんか致命的にマズイ事をしてしまったような気がする。

「……って痛てええっ!!? 何すんだよブルマ!!」

ブルマに思いっきり爪先を踏みつけられた。思わず爪先を抱えて蹲る。

「先に行くわっ!! またニンジンにされなきゃいいけどっ! 行くわよ孫君」

グサッと来る一言を残し、悟空をお供にズンズンと奥へと向かって進んでいく。ひ、ひでえ。なんだよ俺が何かしたかよ~。

「ヤムチャさまのばか~」

プーアルよ、お前もか。

一言言い残してすいーっと飛んでブルマたちの後に続く。

「ヤムチャ……お前ばかだなあ」

しみじみとウーロンにまで馬鹿呼ばわりですよ。お前にだけは言われたか無いわっ!!

「うっせーよ」

「へいへい」

ウーロンもひょこひょこっとした軽い足取りでブルマたちを追いかけていった。

後に残ったのは俺とマイだけだ。

「ったく思いっきり踏みつけやがって……」

痛みを誤魔化すように踏まれたつま先を少し揉む。

どうもケチがついて回るな。

話が思いがけない方向に転びそうな嫌な予感がする。とはいっても今更どうにもならないんだろうなあ。だいたい予感って奴は嫌な予感ばっかあたるもんだ。

「……さぁ、俺達も行くぞ」

「……はい」

俺は、俺達は一抹の不安を胸に、ピラフの居城へと乗り込んだのだった。












自分で書いといて…………なんじゃこりゃあああ、です。

感想で

>プーアル、チチ、ブルマ、今後ヤムチャに関わる女性陣にヒロイン候補が居ない!?(原作からマイ、スノくらいしか居ないのだろうか……。

って書いてくださった人がいて、

『スノは分かるが……マイ……マイって誰だっけ?』

と思って調べたらなんとピラフ一味ではないですかっ。ピラフ一味のあの人がヒロイン候補……その発想は無かった。マジで無かった。

そのあまりの驚愕を胸にノリだけで書いてしまいました。正直キャラクターが分からなくて記憶喪失等という禁じ手を使ってしまいましたが……。

もし怒っていても「めーなのですよ、にぱー」くらいで許してください。でないと泣いてしまいます。もうアレです。ボロボロ泣きます。

コレはこうだろ常識的に考えて的なツッコミをどしどしいただけると助かります。正直原作しか手元に無いんで設定とか捏造しまくりです。でも、できるだけ公式設定があれば生かしたいとも考えてます。

あと、マイってこういう性格だよー的なことも教えてくれると超嬉しいです。



ちなみに、別にヒロイン決定したつもりは全然ありません。思い切ってハーレムでもいいんじゃね? くらいの気持ちで書いてます。





[6783] 第11話『ようやく登りはじめたばかりだからな。 このはてしなく遠い龍球坂をよ!』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:198361cd
Date: 2011/08/27 07:45
人生何が起きるかわからないから面白いとかいった人をぶっ飛ばしてやりたいです(二度目)。


「うっひょおおおぉぉぉうっ!?」


巨大な質量が体スレスレを掠めるその迫力に、自分の意志とは無関係に奇声が漏れる。

俺に向かって振り下ろされた毛むくじゃらの巨大な拳。横っ飛びに跳んで辛うじてソレを回避したものの、そのスケールのデカ過ぎるパンチが、ほんの少し前まで俺が立っていた地面を粉々に粉砕した。

「……っ!!」

パラパラと舞い落ちる砂や土の固まりを全身に浴びながら、その破壊力に改めて息を飲む。……嘘みたいだろ、実は先ほど不意打ち気味に一発食らってるんだぜ。

ミンチよりひでえや & 嘘だと言ってよヤムチャ! って状態になってないのが奇跡に思えてきた。なにせまともに食らえばあっけなく再 起 不 能(リ タ イ ア)になってもおかしくない威力である。

当たり所がよかったか、あるいは横殴りに吹っ飛ばされた事が幸いしたか。どちらにせよ運がよかった……っておいィ! 良くね―よ! 運が良かったらそもそもこんなシチュエーションに遭遇しねーよ! 

だいたい、変身したら戦闘力10倍とかずるくね? うん、間違いなくずるい。ずるいったらずるい。いや、もう”ずる”なんて言葉では俺の気持ちは表現できないね! もうね、なんていうか、そう! 汚い。……汚いなさすがサイ(ry


――なんということでしょう変身前(ビフォー)はたった10だった戦闘力が変身後(アフター)には100に……って(たくみ)の遊び心ってレベルじゃねーぞ。劇的すぎるわっ! そんな戦闘力の匠には、まず俺をリフォームして頂きたい。


ちなみに10が100に~なんてやけに具体的に戦闘力の数字を出したが、あくまでも仮の数字である。

こちとらスカウターも無しに戦闘力を測定できるような特殊技能は身につけていないのだ。

……あ、いや、まあ確かに感覚である程度相手の強さはつかめるよ? でもそれは『俺よりかなり強い』とか『俺よりちょっと弱い』とかいう様な、曖昧かつ相対的な指針なのですよ。

しかも厳密に言えば俺が感覚で捕らえているのは『気』の大きさでしかない。戦闘力という概念がどういったものか知らないが、純粋に『気』の大きさのみを測定しているのでなければ無視できないレベルのズレがあるかもしれない。

それでもあえて戦闘力の数値を類推しようとするなら、今の時点で基準として役に立ちそうなのは「戦闘力……たったの5か……ゴミめ」というラディッツの台詞で有名な「普通のおっさん」の戦闘力「5」だ。

『気』=戦闘力と仮定し、一般人の成人男性の平均戦闘力を5だと考えた上で俺の感覚を信じるならば、元の戦闘力はおおよそ10から50の間くらいだろう。

そんでもって、それを前提に10倍になった変身後の戦闘力について考えると……ひぎぃ(大きすぎるの意)。

なにしろラディッツ編での悟空ですら戦闘力は500も無かったハズなのだ。仮に10→100程度ならまだいい。50→500だったりしたら、戦えと言われても「うん、それ無理」と朗らかに答えるしかないではないか。


さて、賢明な人なら……あ、いや、あまり賢明でない人でもおそらく既に分かってると思うが、今俺が戦っているのは大猿です。より厳密に言えば大猿化したサイヤ人でございます。

しかも何故か二匹(・・・・・)います。……いや、まあ、そのなんだ。二匹いる理由は分かってるんだが、もう現実の厳しさを直視したくないワケで。

一匹だけならまだしも二匹。質量保存の法則ガン無視で巨大化しやがって。

……この世界にそんな物理法則があるかどうか知らんけども――

「ってやばッ!!」

慌てて両腕をクロスさせ、身を縮こめてガードする。ちょっと俺の注意がそれてた間に、もう一匹が口を大きく開けて『気』を集中させたのが分かったからだ。

次の瞬間大猿の口から放たれた気功波が俺の全身を飲み込んだ。

すさまじいエネルギーの奔流に歯を食いしばって耐える。

……耐える。

…………耐える。

………………耐えr…って、いい加減にしろ!! この野郎!!

気功波を受け止めた時間などほんの数秒にも満たないだろうが、身をもって体験した俺からすればそんなもんじゃ済まない。体感時間は軽くその数倍である。

「……し……死ぬかと思った……」

なんとか防ぎきったものの、防御に『気』を大きく消費した上に完全にはダメージを防ぐことができなかった。おそらくプスプスと煙を上げる空飛ぶボロぞうきんといった有様になっていることだろうよ。

悟空が大猿化し始めたときにさっさとしっぽを切ってればこんな無様を晒すこともなかったんだろうが、そんな簡単に話が進むと思ったの? 馬鹿なの? と言わんばかりの予想外の妨害にあってその試みは失敗に終わった。

しっぽを切ってやろうと出来損ないの気円斬に集中してたら、もう一匹の大猿に横殴りに殴りつけられてピンボールの玉の気分を味わう羽目になったのさ。そう、その通り! 先に言った『無事だったのが奇跡に思える不意打ち気味の一発』ってやつだ。

きっと集中してた俺の背後では、もう一匹の大猿がモコモコと大きくなってたに違いない。志村~! うしろうしろ~! ですね、わかります。

しかし今更といえば今更だがサイヤ人が二人いりゃ大猿も二匹になるってのは道理である。なんで『悟空→大猿』しか考えてなかったのか、少し前の俺を問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。思い込みにしたってマヌケすぎやしないかい? なあ過去の俺よ。

何せ下手すりゃ……というか上手くいってれば俺すらも大猿になってておかしくなかったワケで、考えが足りなかったと言わざるを得ない。そうなってりゃ、誰も止められない最悪の事態となっていたハズだからな。

そうならなかったのは不幸中の幸いというべきかね? とはいえ暴れる二匹を止められなければ同じ事だ。大猿サイヤ人数匹が本気で暴れ回ったら、ここら一帯は間違いなく壊滅するからな。夜が明けるまでにどれくらいの範囲に被害が出ることやら。

「だからさっさと尻尾を切らせてくれよっとォッ!!」

牽制にエネルギー弾をたたき込み、相手がガードするのを見計らって、後ろに回り込もうと空に飛び上がった。

巨体にしては驚くほど俊敏な大猿ではあるが、さすがに小回りはこちら側に分がある。

戦闘力にもっと差があればその程度の事は問題にもならないのかもしれないが、幸いにして今の俺と大猿どものレベルはそこまで極端に離れた物でもないらしい。

大猿の背後を視界に収めたと同時に、その瞬間に集められるありったけの『気』を手刀に込め、大猿の尻尾に振り下ろす!! 

もらった!! と、俺がそう思った瞬間、ゾクっとした強烈なプレッシャーを感じ、空を蹴るようにして飛び退く。間髪を置かずもう一匹の大猿の裏拳がその場を空振った。

「またかっ!!」

実は戦闘の当初からずっと手こずっているのがこのコンビネーションの良さだ。俺が一匹の尻尾を切ろうとするともう一匹が邪魔に入る。下級戦士のサイヤ人は大猿化すると理性を失うなんて設定をゲームかなんかで見た記憶があるし、実際理性が残ってるとは到底思えないのだが、その割になかなかいいコンビネーションをみせやがるのだ。

となるとコレは一種の習性てことなのか。サイヤ人っていうと自分勝手な印象があってあんまり群れるイメージは無いんだが、思い返してみるに案外『群生』する本能的性質があるのやもしれん。

アニメでも下級戦士のバーダック達が大猿集団で星を襲ってたが、単純に理性を失ってりゃお互い殺し合いそうなモンだろ? 

フリーザがサイヤ人が群れるのを嫌ってたようだったのも、案外この大猿化したときの群れる本能を警戒してのことかもな。サイヤ人は下級戦士でも千から数千くらいの戦闘力はありそうだから大猿化したら大抵数万クラスの戦闘力は発揮するワケで、それが群れればそりゃ鬱陶しいだろうさ。

実際俺も今すごく鬱陶しく感じているしな。連中のしっぽを切る前に俺の集中力の方が切れそうだ。

……もっと無秩序に暴れて隙を見せてくれりゃあ楽なんだがなあ。それこそサイヤ人の凶暴性に身を任せて暴れ回ってるだけなら2匹いても何とかなると思うんだ、うん。

っつーか原作だともっと隙だらけだったような気がするぞ。でないと原作のヤムチャに大猿のしっぽが切れるとは思えん。

む? ひょっとすると、下手に俺が強いのが戦闘種族としての本能を刺激しているのか? だって明らかに敵としてロックオンされてるもん、俺。

戦闘中にも拘わらず暢気にそんなことを考えてると、まるでそれを証明するように、俺に向かい合った大猿が口に『気』を集中させはじめた。しかも先ほどのモノよりも遙かに高密度である。

「ちょっ!」

慌てた俺が何か言う間もなく膨大なエネルギーの塊が放たれ、それこそグレイズ音が聞こえそうなほどの紙一重で辛うじてソレを避ける。

僅かに下向きに角度を持った気功波は一直線に遙か彼方まで飛んでいき、地平線の向こうで大地を振るわせる大爆発とキノコ雲を生み出した。

少しばかり遅れてやってきた衝撃と爆音で肌がビリビリと震える。うーわー……この威力、正直引くわー……。序盤で出していいパワーじゃないよね、常識的に考えて。

ブルマ達が何処にいるか分からんが、このままだと間違いなく巻き添えにしちまう。

ああっ! もうっ! こうなりゃ覚悟を決めるしかねぇっ!

さして間も置かずもう一匹が繰り出してきた拳を避けつつ、ズタボロの上着の懐に手をやって仙豆の入った小袋を確認する。先ほどの気功波で燃え尽きなかったのは幸運だった。

「これなら、とっておきが使える……か」

”とっておき”って俺が言うとフラグに聞こえるのは何でなんだZE? しかもぶっちゃけ使いたくない”とっておき”を使う事に不吉さと不安が倍プッシュである。

すでに消耗してしまっている今の状態では到底技に耐えられないので、仙豆を一粒取り出して口に運ぶ。カリカリとそれを囓って飲み込むと全身の疲れと痛みが取れるのが分かった。ついでに満腹感もあるがそれはこの際どうでもいい。

「さて、じゃ、今から本気出す!!」 

無論俺が何かしようとするからといって大猿どもがそれを見逃してくれるはずもない。続けざまに容赦なく繰り出される攻撃を大きく間をとってかわしながら『気』を全身に漲らせる。

「真・狼牙風風拳!!」

僧帽筋を、広背筋を、大臀筋を、下腿三頭筋を、上腕二頭筋を、外腹斜筋を、腹直筋を、三角筋を、総指伸筋を、その他諸々の骨格筋を賦活する。

心臓が激しく拍を刻みはじめ、肺がはち切れんばかりの収縮をはじめ、血流は怒濤の如く流れはじめ、肝臓は溜め込んだ養分をはき出しはじめる。

『気』によって活性化した体組織から再び『気』をくみ上げれば、強化した分より大きな『気』を得ることができる。そしてそいつを再び体の賦活に当てて、また『気』を絞り出すということを繰り返す。これだけ聞くとそれなんて永久機関? なんて突っ込みが入りそうだが、無論そんな都合のいいモンじゃない。こいつは言うなれば『気』の持久力を瞬発力に変換する作業だ。

例えるなら滑車装置といった所か。一見弱い力で大きな重量を持ち上げているように見えるが、その実引っ張るロープの長さは長くなるというアレだ。必要なエネルギーの総量は結局変わらないという点ではある意味似ているといっても良いだろう。

とはいえ滑車なんかに比べれば、俺の肉体を通してのコレは遙かにエネルギーのロスが大きい。僅かに『気』の出力を上げるだけで、目を覆いたくなるほど戦闘可能時間が短くなってしまう。

「うぎぎッ!」 

膨張した筋肉に軋みをあげる体。痛みはあるがそれを強引に押さえつける。

「っぐわ! …くそ! …また暴れだしやがった…」とか「っは…し、静まれ…俺の腕よ…怒りを静めろ!!」などと邪気眼する余裕すらない。本当はハート様ばりに「いてぇよ~」と暴れ回りたいところなのだが、戦闘中にそんな馬鹿するワケにもいかず、痛みに耐えるために脂汗かきつつ「ひっひっふー」とラマーズ法みたいな呼吸をしてしまっている始末。



「――ッぁああ! 2倍だぁッ!!」



『気』の出力が1.2倍程度で安定したところで、「無印」でも「新」でもない、俺の「真・狼牙風風拳2倍」は完成である。



……え? 界王拳? 何ソレ? おいしいの? ……ハイハイ、ごめんなさいよ。どうせパクリですよ。もともとカリン様のところで修行してた時に、界王拳的なドーンとパワーアップできる方法がないかと模索してできた技ですから。

とはいえ技の理屈に関しては界王拳のソレが分からないので技の発想だけ貰って、肝心要の原理……あ、いや、こういう場合は格好付けて術理とでもいうべきか? 

……ともかくその中身がオリジナル(悪い意味で)な、まるでWiiのパチ物「威力棒 Vii」の如くメイド・イン・チャ○ナな仕様に仕上がっております。まあ、仮に今の時点で界王拳の原理が判明してもそれを習得できるとも思えないけどね。

実のところ界王拳というよりは、原作で亀仙人が牛魔王の城を吹き飛ばす際に見せた筋肉増加現象の方が近いかもしれん。アレはカメハウスでの修行の際に一度見たことがある。

ま、もっとも亀仙人のソレは俺にみたいに無茶なパワーアップの為ではなくて、むしろ安定して『気』を使うための土台の構築ってな感じの物だったが。

なもんで界王拳と比べて出力がへぼいのはご愛敬というところ。1.2倍しか『気』が増えてないのに2倍とか言ってるのはそのほうがハッタリが効いてるからに他ならない。シャアザクだって推力は通常の1.3倍にもかかわらず、その機動によって3倍と恐れられたわけだから問題ないよね? 駄目? でも俺は気にしないZE!!

とはいえ、気にしないZE……なんて言ってられないのが体へ掛かる負担の大きさだ。死ぬほどキツイっていうか、死ぬ。

たかが1.2倍程度でも使用後に仙豆食わないと本気死にかねない。何せ喀血、耳血、鼻血は当たり前、果ては全身から血の噴水ですよ奥さん。こんな所だけ界王拳超えてるってのもどうなのよ。

ハッキリ言って、筋肉が内側から破裂するあの感じを思い出すだけで、かなりの恐怖である。なにせ長時間の使用は頭がパーンどころではなく、体中の筋肉がパーンなのだ。まさに汚い花火といった有様。あれは可能な限り避けたい。

仙豆があっても1.2倍は乱用するな、とカリン様からありがたい言葉を頂いているし、プーアルに1.1倍しか見せたことがなかったりするのも1.2倍の惨状をみたら卒倒しちまうかもしれんからだ。

1.1倍での使用ならそこまで体に負担は掛からないのだが、『気』と体力に関しては同じくらい消耗するので、どうせ仙豆があるなら思い切った方がいい。で、一気に押し切って勝つ。……なんか太平洋戦争前の日本軍の戦略みたいだと思ってしまうのは死亡フラグですか?

ちなみに狼牙風風拳とまったく関連無い技なのにこんな名前つけてるのは、元々狼牙風風拳そのものへの記憶があんまりハッキリしない上に、それを使う気も無かったんで、原作へのリスペクトも含めて名前をもらったという経緯があったり。……なんともどうでもいい話である。

「いくぞ!! こんちくしょーっ!!」

満月と星々の光に満たされた夜空の下、見たくなくてもはっきり見えてしまうその迫力は、こっちの世界でそれなりに恐竜だの猛獣だのと相対してきた俺にとっても相当な物だ。

それに気後れしないよう、俺は己を鼓舞するつもりでヤケクソ気味に雄叫びをあげ、大猿の一匹に躍りかかった。




















ヤムチャしやがって……

第11話『ようやく登りはじめたばかりだからな。 このはてしなく遠い龍球坂をよ!』





















はてさて、『かくかくしかじか、まるまるうまうま』でこういう状況に到った事態が説明ができれば話は簡単なんだが、何がどうしてこうなったのか説明するには、ちょっとばかり時計の針を逆さに回すのが簡単だろう。……たぶん。


俺たちがその部屋に辿り着いたのは、ピラフ城の隠し通路入り口をくぐってから10分も経っていない頃合いである。

少しばかり警戒していた罠なんかが発動する事もなく、ごくごくあっさりと辿り着いてしまった所為か、正直拍子抜けといった感があった。まあ、考えてみれば隠し通路にさらに罠を仕掛けるってのも普通は無いわな。

部屋の入り口の脇に半身になって身を隠しつつ、中の様子をうかがうも人影は見あたらない。警戒しつつ部屋の中に入ると、城の外や内部を映し出したモニター群、映画なんかで良く目にするレーダーやコンソール等々が仰々しく設置されているのが目を引いた。物々しい計器類のせいか管制室か作戦司令室かといった雰囲気だ。

しかし、よくよく見てみると何かおかしい。なんとも言えない違和感がある。そんな俺のモヤモヤは悟空がなんの恐れもなく部屋に入ってきて、トコトコとコンソールに近づいたことであっさり瓦解した。

要はあれだ、操作パネルなんかの位置が低すぎるのだ。今の悟空にぴったりって事は一般的な成人が使うには低すぎる。つまり、ここの主であるピラフの身長は原作通りかなり低く、それに合わせてあると言う事なのだろう。

さて、その肝心要のここの主様だが、少なくとも部屋の中にその姿は見あたらない。

「……誰も、いないな」

俺がそう漏らすと、ほっと安心した表情を見せながら悟空以外のみんなも部屋に入っってきた。

「なんだここ? まるで軍隊の基地みたいだぜ?」

余裕があるように見せたいのか、頭の後ろで手を組みながら軽い調子でウーロンがつぶやく。しかし、その顔は強ばっており、隠しきれない小物臭さが哀愁を誘う。

「……これ、たぶんドラゴンレーダーだわ。私のに比べて精度は悪いみたいだけど」

ブルマがコンソールに近づいて、スイッチやら計器やらをカチカチと弄ってから断言した。

「こいつのせいで私たちがドラゴンボールを持ってたことがばれたのね」

「……らしいな」

苛立たしげなブルマに適当な相槌を打ちながら、ちらりとマイをうかがい見る。

というのも彼女にとってなじみ深いハズの部屋を見れば記憶が一気によみがえるかもしれないと危惧したからだ。しかし、俺のそんな考えとは裏腹に、ぽやーっという擬音が聞こえてきそうな瞳でこちらを見ていた。

……どうにも、記憶が回復したって様子には見えないな。

考えすぎだったかと安堵しつつも一抹の不安に彼女から目を離せずにいると、不意にこちらの視線に気づいたマイと目が合った。瞬間、ビクンと慌てた様子でマイが視線をそらす。そして頬にさっと朱が差した。

え? なにそれ。何その反応。そんな初々しい反応見せられると、むしろこっちが恥ずかしいわ。

頬の辺りが急速に熱くなるのを感じていたら、「ていっ!」という可愛らしいかけ声とともに、何かが俺の両目にダイレクトアタック。眼球のLPが0になった。

「あ~あ~目がぁ~目がぁ~!!」

ふらつきながらも目を押さえると、目蓋の上にモフモフした感触。こ、これはプーアルの手か?

おそらく後ろから目隠ししようと試みたのだろう。しかし、如何せん手のひらのサイズ的な問題は無視できない。これでは目隠しというよりは目潰しですプーアルさん。

なんとか引きはがし、親猫が子猫を咥えるように首の後ろを持って俺の眼前につまみ上げた。

「ははは、こやつめ」

「お、女の子をそんな目でジロジロみちゃダメです!」

「オウフ」

俺の謝罪を要求する言外の圧力にも屈せず、悪びれ無いどころか俺を責めるかのようなプーアルの言葉に思わずうめく。

し、視姦とかしてないですじょ? っていうかそんな目て、お前。

……俺そんなやらしい目してたか? この変態紳士を自負する俺がそんな危ない目で婦女子を見るなんてあり得ないんだZE? あるとすればもっとこう生暖かい、見守るような、そんなアレのはずだ。

それにどうもプーアルは見過ごせない勘違いをしているようだから訂正をしなくてはいけない。

「いいか? プーアル。……お前一つ勘違いしてるぞ。あの人は女の”子”では無――ヘナップ もうごめんなさいホントもう言いません」

状況をオブラートに包みつつ、バトルドーム的に表現すると次の通りである。

マイの拳が俺の顔面にシュゥゥゥーッ!! 超! エキサイティン!! 

……とりあえず拳で語るのはやめた方が良いと思います。女の子として。

「……何遊んでるのよ」

マイの打ち下ろしの右(チョッピングライト)で痛めた鼻筋をさすっていると、ブルマが抑揚のない低い声色で言った。どうやら彼女には遊んでいるようにしか見えなかったらしい。全くひどい誤解もあったものである。

「俺は真剣にふざけているだけで、遊んでなど……」と言いかけた次の瞬間。

「……ふっふっふ! うわーっはっはっは!! まさにその通り! お遊びはそこまでにして貰おう!」と、唐突に部屋に響いた見知らぬ笑い声とともに、安全性をみじんも考慮していない下降速度のシャッターによって、窓と部屋の入り口が閉じられた。

「と、閉じ込められたぞっ!?」

途端に大慌てで騒ぎ出すウーロン。悟空は例外としてもブルマやプーアルだってもう少し落ち着いているぞ? お前ももう少し落ち着け。

続けて一際大きな画面を持っていたモニターがウンッと僅かに音を立てて画像を結んだ。

「私の名前はピラフ大王!」

そこに映し出されたのは……一言で言えば、宇宙人であった。

青くて、どこか両生類を思い起こさせる皮膚。鼻があるべき位置にはその穴すら見あたらず、とがった大きな耳とギョロついた大きな目。

似非中国風な服装をしているために若干不気味さが薄れている感はあるが、純粋な容姿だけみればB級ハリウッド映画辺りに出てきそうなクリーチャーである。

「あんたね! わたしのドラゴンボール奪ったの!」

ピラフの映っているモニターのすぐ上の天井から、いつの間やらぶら下がっていたカメラに向かってブルマが咆えた。

「そう、その通り。そしてそのドラゴンボールだが、ひとつ足らなくてな。だがしかし、お前達が持っている事は分かっているのだ。おとなしくドラゴンボールをわたしてもらおうか」

「……ふん。いったいドラゴンボールでどんな願いをかなえようってのよ?」

「よくぞきいてくれた。私の願いは世界征服。つまりこの世を私が支配するのだ!!」

「あのねぇ……それを聞いて素直にドラゴンボール渡すわけないでしょ!! 誰があんたなんかにやるもんですか! アッカンベーだ!!」

口の端を思いっきり指で広げて舌を突き出すブルマに「……くっ」とうめいてモニターに映るピラフの表情が歪んだ。

「……マイ。そいつらからドラゴンボールを奪え」

ピラフの口から続けて発せられた言葉で、皆の視線がマイに集中する。

もっとも、当の本人は何を言われたのか分からないといった顔でキョトンとしていたのだが、「……は? はぁ。……ええ!? なんで私が!?」と一瞬間を置いてから狼狽しはじめた。

「ふっふっふ……この基地に侵入しようとしていた辺りから監視カメラで見ていたのだぞ? お前はどうやら記憶を失っているらしいではないか。何故自分がこの基地の隠し通路を見つけられたか……いや知っていたかも分かっておらんのだろう? ……私がその答えを教えてやろう! それはお前が元々私の部下だからだ!! だから私の命令に従え!!」

ババーンと効果音でもつきそうなくらいポーズを決めて宣告するピラフに、これまたガーンとわかりやすい効果音があふれ出そうな表情で固まるマイ。

ブルマ、プーアル、ウーロンも「え!?」なんて言って驚いてたが、悟空だけは我関せずでモニターを指さしながら「あの窓割ったら逃げ出せるぞ」などとほざいていていた。

俺もおざなりにだが「えーうそーヤムチャ超ショックー」くらいには驚いてる演技が出来てたと思う。

「そ、そんな……。いえ、やっぱり私、みんなの敵だったんだわ……」

がっくりと膝をつくマイの側に寄り、そっとその肩に手を置く。

「ヤムチャさん……」

そう言ってうるうるとした瞳を濡らすマイの視線を真正面から受け止め、俺は一つ大きく頷いた。そして意識して頬をゆるめ、柔らかな表情を俺なりに作ってから口を開いた。

――俺に言うべき言葉一つしかなかった。

「ピラフの所へお戻り」

それはもうラス○ルを森へ帰そうとする少年の如く。腐海の森へデカいアブみたいな蟲を蟲笛で誘導する姫姉さまの如く。

「……ちょ……え? え、えええーっ!? ソレおかしくないですか!? おかしいですよねえっ!? ここは優しい言葉でもかけて気持ちを引き留める的なアプローチがセオリーでしょう!?」

俺の優しさが伝わらなかったのか、マイが感情を爆発させた。そしてそれはボンバー○ンの爆弾が連鎖するように俺の感情も瞬時に爆発させたのだった。

「知るかーっ!! なんかもー『いつ記憶がもどっちゃうのかなー』とか心配するのメンドイんだよっ! 敵になるなら敵になれ!!」

「お前を信じる俺を信じろとか言ったくせにぃ!! 言ったくせにぃ!!」

「そんなんノリだボケーッ!! 分かれ!! それにだいたいアレだ、人の事遠慮無くボコスカ殴りやがって。結構いてーんだぞアレ!」

「それこそノリじゃないですか!! だいたいヤムチャさんが……その……び、微妙な問題に触れるからいけないんでしょ!!」

「なんだよ微妙な問題って? ああ、年齢のこ……ぐふっ!」

「女の子の方が年上って結構気になるもんなんです!! それとも……あ、姉さん女房でもいいんですか?」

「ナチュラルに殴るな! それから言ってる言葉の意味は分かるが、俺にはお前の言ってる事の意味がわからない!」

突然何を言い出すんだこの娘さん。脳が膿んでるの?

「マイ~? 聞き捨てならないこと言ってくれるじゃないの~? 鳶が油揚げをさらうようなマネは許さないわよ?」

「マイさん……でしたっけ? ヤムチャさまはボクのヤムチャさまなんですよ?」

そして一人と一匹が「HERE COMES A NEW CHALLENGER」である。乱入は乱入台だけでやってくれ。俺はCPU相手に一人で遊びたい年頃なんだ。

「やかましい~~っ!!」

突発的に発生した修羅場空間に耐えられなくなったのか、ピラフが強引に割り込んできた。

「いいからマイ。そやつらからドラゴンボールを奪うのだ」

「嫌です。お断りします。それに奪うのだって言われても、そもそも無理ですよ?」

何かが吹っ切れたのか、マイはキッと鋭い視線でモニター上のピラフと相対した。

「なにぃ?」

「だって武器も何も持ってないですし」

「…………銃を持たせてただろうが」

「さあ? 気がついたときはなかったですけど」

まあ、仮にあったとしても俺はおろか、悟空にも大して意味無いけどね。

「マイ……私に従わないというのか?」

「従うも何も、あなたのことを上司だって認めたわけじゃありませんから」

マイがきっぱりと言うと、ピラフを押しのけるようにして、忍者装束を着た獣人が画面にあらわれた。

「ま、マイ! ピラフさまのところに戻って来い!」

確かにピラフ一味にいたなあ、こんな奴。名前は忘れたけど。

原作だとディフォルメされてた犬の獣人さんですが、実際に見ると思ったよりも犬です。……かなりモフりたいと思ったのはここだけの秘密にしておこう。

「あなたがどなたか知りませんが、世界征服なんて大それた事を企む一員にはなりたくないんです!」

マイがそう言うと、犬の獣人をどんっと弾き飛ばすようにしてピラフが再びモニターにあらわれ、悔しげに唸った。

「うぬぬ……我々を裏切るというんだな。馬鹿め、あとで謝っても許さんからな!」

「いーですよーだ! イーだっ!!」

口の端を手で広げ、歯をむき出してモニターを威嚇するマイに俺は何と言葉をかけるべきか迷った。

その1『いやジブン、アレホンマもんの上司やで? えらい怒ってはるやん』

その2『帰る家、ホームがあるという事実は幸せにつながる。良いことだよ』

その3『君にはまだ帰れるところがあるんだ、こんなにうれしいことは無い』

…………………………………。

……まあ、いいか。一応さっき忠告はしたしな。

彼女が自分で決めた事にこれ以上口出しするのもアレだ。……それに何故ピラフが本当にマイの上司だと知っているかを説明するとなるとまた色々めんどくさくなる。

第一ピラフ一味が分解しようが俺の知った事ではない。思い返す限り、それが後々悪影響を及ぼすようにも思えないし。

そんな事を考えてたら、不意に体から力が抜けて、ストンと床に膝をついた。

「あ……れ?」

周りを見るとみんなも次々と床に倒れ付していく。

「ふははは……ようやく効いてきたか。無味無臭無色の催眠ガスをその部屋に流し込んでいたのだ。少しばかり効きが遅いガスなので、話をして時間稼ぎをさせてもらったというわけだ……ふっふっふ」

なんという説明台詞。説明乙。しかし、ピラフにしてやられるとは何という屈辱。

くそー最近意識失ってばっかりだ…な……ぁ……。







俺が意識を取り戻したのは、ドカンという激しい爆発音でだった。

「な、なんだ!?」

慌てて飛び起きると、そこは薄暗い部屋だった。四方を壁で囲まれた八帖くらいの部屋にマイも含めた全員がいた。

若干ぼんやりとした頭で、ガスで眠らされた事を思い出した。……どうやら捕まったらしい。

ここはおそらく捕虜を捕らえておくための部屋なのだろう。パッと見た感じ入り口らしいものはなく、どこからここに押し込められたのやら分からない。

それにしても、ここにマイもいるって事は本格的にピラフは彼女を切り捨てるつもりなのか?

「ようやく起きたのね。……まったくいくら揺すっても起きないんだから」

おそらく寝起き故の抜けた表情を浮かべていたであろう俺に向かって、そんな風にブツブツ文句をたれるブルマ。ところが彼女は、俺ではなく近くの壁に近づいていく。その壁を見ると、なんとか腕が通りそうなくらいの穴が開いていた。

「ああ、あれか? オラがかめはめ波使ったんだ。ここの壁めちゃんこ硬くてよー。素手じゃ無理だった。でも修行がたんねえから、こんなちっちぇえ穴があいただけだ」

俺が穴の空いた壁を見ていたら、悟空にしては珍しく気の利いた説明をしてくれた。さっきの爆発音はそのときのか。

「とりあえずみんな無事なんだな」

ガスによる眠りの所為か僅かに頭痛がする頭を抑えながら立ち上がる。

「ハイ! ヤムチャさまも大丈夫ですか?」

「ああ。少しだけ頭が痛むがなんてことはない」

ふわーっと浮いて近づいてくるプーアルに笑って答える。

「結構眠っちまってたのか?」

「いや、そーでもないぜ? 俺の腕時計を見る限りせいぜい一時間ってとこだ」

ほとんど独り言のように言った言葉に、律儀にも腕時計を見せながらウーロンが答えてくれた。

一時間か……。ひょっとしてもうドラゴンボールを使われているかも知れないな。

「悟空、ドラゴンボールは?」

一応確認する。たしか残りの一つは悟空の腰の巾着袋に入っていたはずだ。まあ、おそらくピラフに奪われているのだろうが。

「それがよう、とられちまったみてえなんだ」

珍しく悔しげに表情を歪める悟空。まあ、爺さんの形見だからなあ。

「……やっぱりな」

そりゃまあ、向こうもソレが目的で眠らせたんだろうし、当たり前と言えば当たり前か。

俺たちを殺さなかったのは、一義的には最後の一つを何処かに隠していた場合に尋問するためだろう。

だがドラゴンボールを奪われた後も俺たちが死んで無いって事は、ピラフ一味がアニメや原作のように小悪党であっても心底の悪ではない証明だと思いたいな。

「ピラフ一味……か」

ふとマイの様子が気になって視線を向けるが、特に落ち込んでいる様子はない。一応衝撃(?)の事実を告げられたはずなんで、どんなもんかと思ったりもしたのだが。

むしろ俺の視線に気づくと「はやくドラゴンボールっていうのを取り戻さないと世界があの人に征服されちゃうんですよね? 絶対取り戻しましょうね!」なんて言って奮起した様子を見せてくれた。

やれやれ、心配する必要はなかったみたいだな。なんか知らんが吹っ切れてるみたいだし。

と、ブルマが壁にべったりと張り付いてるのが目に入った。

「ブルマなにやってるんだ?」

「ここから外が見えるのよ。……でも、外がもう暗くてよく見えない」

げっ……たしかドラゴンボールを使うと空が暗くなるんだよな……。いやしかし、時間帯から考えてももう夜だからドラゴンボールの所為ってワケでもないのか?

「あっ!! あいつら外にいるわ!! まだ龍は出てないみたい!」

穴を覗いていたブルマがこちらを振り向いてそう叫んだ。

「ヤムチャ!! この壁ぶち抜けるわね?」

「おうともよ!」

霧の掛かったような頭をぶんぶんと振って意識をハッキリさせると、両手で自分の両頬をパシンと叩いて気合いを入れる。

悟空に壊せないくらいだ。相当に硬い壁なんだろう。しかし、今のヤムチャ様にかかればお茶の子さいさい……のはずである。

「だあっ!……だだだだだだぁッ!!」

気合を込めて一発、そして続けざまに幾つも拳を放つ。俺の拳を打ち込まれた壁は型抜きでもされたかのように長方形に崩れさった。

ちなみに一発で壊せなかったから何発も打ち込んだわけじゃないんだぜ? ほ、本当だぜ?

さて、ピラフは……と。……いた! 犬の獣人と二人で、ドラゴンボールを地面に広げて囲んでいる。

「よっしゃ!! さあ行くぞ!!」

気合で誤魔化しつつ、悟空の襟首をつかんで走り出す。

なんやかやで紆余曲折したが、最終的に俺がサイヤ人になればよかろうなのだァァァァッ!!

そのためには悟空が必要! 『俺をサイヤ人にしてくれ!』と願った所で、現時点において地球の神も知り得ぬであろうサイヤ人を神龍が知ってるなんて保証はない。その場合願いがかなえられるかどうかは未知数である。

それにもし『サイヤ人とはなんだ?』 などと神龍に聞き返されでもしたら、その隙にピラフに願いをかなえられてしまうかもしれない。

だから念のため『俺をサイヤ人に、この孫悟空と同じ種族にしてくれ!』と悟空を神龍に示しつつ願う予定なのだ。具体例を出せばたとえ『サイヤ人』が何か分からなくとも誤解はないだろうし、疑問を挟む余地もないだろう。

できるだけ物怖じせずハッキリ言うのも大切だ。願い事を聞き返されるのは山谷の食事所で注文を聞き返されるくらい厄介だ。

何にせよドラゴンボールの細かいルールは不明である。だから『できるだけ一発で叶えられそうな願い方をしよう』と、そういう思惑で以前より計画を練っていたのさ。

「フハハハハーッ!! 俺は人間をやめるぞ! ジョ○ョーッ!!」

最高にハイって奴になった俺は、ピラフに向かって走りながらつい叫んでしまっていた。



……後から考えると、その時もう少し冷静に身の回りを観察できるだけの余裕を持てていれば、俺のサイヤ人計画は上手くいったのかも知れないが、その時の俺はとにかくもうドラゴンボールで頭がいっぱいで、獅子身中の虫……というか悟空にいらんオマケがついてきてたことに気がついていなかったのだった。



「いでよ(ドラゴン)!! そして願いをかなえたまえ!!!」

ピラフがそう言い終えた途端、地面に置かれたドラゴンボールからおびただしい閃光を発した。続けてバシューッと空気を引き裂きながら、地面から空に向かってまるで雷が上るような現象が確認できた。

しかし、その雷は消える事もなく、バチバチと音を立てながら一定の状態を保ちながら徐々に龍としての像を現していった。終いに一際大きく雷がはじけると、完全な実体として巨大な龍がその偉容を現したのだった。

俺たちが到着する前にピラフが神龍を呼び出してしまったことに若干の焦りを感じる。しかし、まだだ、まだここからが勝負である。

「さあ、願いをいえ。どんな願いもひとつだけかなえてやろう……」

神龍がズンと腹に響くような重低音で言葉を発する。どっから声をだしているのやら知らんが、ものすごいプレッシャーだ。

「で、では願いを……」

ピラフが自らの願いを言いかけたその時、それこそインターセプトのチャンスであった。

神龍の偉容に周囲に目がいっていないピラフの側までズサーッと滑り込む。

瞬間驚いた表情でピラフが振り向く。ふん、だが、もう遅いッ! きさまはチェスや将棋でいう『詰み(チェック・メイト)』にはまったのだッ! 

食らえいッ! とばかりに悟空をつかんだ腕を神龍に突き出し、俺は肺の空気を一気に使い切るつもりで声帯を震わせようとした。

「俺を……」

「ボクをこの人と同じ種族にしてください!!」

思いがけない場所から思いがけない言葉が、俺の魂の叫びにかぶせられた気がする。

見ると、悟空をつまみ上げて神龍に向かって突き出した俺の手にプーアルがぶら下がっている。ちょ……え、なんでついてきてんの?

「……たやすいことだ」

ポンっといつもプーアルが変身するときのように煙が上がり、それがはれると、9歳くらいの全裸の幼女(尻尾付き)がトサッと地べたに尻餅をついた。

「願いはかなえてやった。ではさらばだ」

神龍はその言葉とともにあっさりと消え去り、ドラゴンボール自体もバシューッと花火のように上空に飛んでいって、ある程度の高さで四方八方に向かって散らばっていった。

「あ……ああ。……あ」

「あ、ああ……ああ」

俺とピラフは精神的なショックによってへなへなと尻餅をつき、奇しくも同様の呻きをもらしていた。

「あれ? 尻尾がある? 変だな。ヤムチャさまと同じ種族にしてくださいっていったのに」

「……おめえ、プーアルか? そのしっぽオラと一緒だな……ん、でもチンも玉もねえんだな」

どさくさに紛れて、悟空がきわどい台詞を吐いた気がしないでもないが、俺にとってはどうでもいい。

ともかくちょっと落ち着いて整理してみよう。

まずは、プーアルがいつの間にかついてきていた。

次に、俺がピラフをインターセプトしようとしたら、逆にプーアルにインターセプトされた。

曰く、「ボクをこの人と同じ種族にしてください」

そして、プーアルは俺の手を取っていたが、その先には孫悟空がぶら下がっていた。

神龍「……?………………OK!」

結果、プーアルがサイヤ人に。……え?……プーアルがサイヤ人に!?

俺ではなくて? え?

……………………………え?

そんなっ……! バカなっ……! 

バカなっ……! なんで……! こんなことがっ……!

ありえないっ……! あってはならない……! こんなことっ!

こんな理不尽なことが俺の身ばかりにっ………!

福本伸行が今の俺をマンガを書いていたら間違いなく、ぐにゃ~となってるコマのはずである。

「ゆ……ゆるさんぞ!! しょ、処刑だ! 殺してやるっ! あいつらを引っ捕らえろ!!」

「は、はいっ!」

精神の再構築が終わったのか、呆然としていた様子から立ち直ってピラフが犬の獣人に命令を下す。

が、しかし、それは可愛い妹分のプーアルに怒りをぶつけるワケにいかなかった俺の、この滾る感情のぶつけ先が決まった瞬間でしかなかった。

「か~め~は~め~波ぁぁぁぁッ!!!!!!」

一応殺すつもりはなかったので、『気』を調整して押し出すつもりで撃った。だから直接的には殺しては無いと思うが、地平線の彼方に消えるほどの勢いだったので着地の際に死ぬかもしれん。ま、キャラ的に死なないだろう、たぶん。

……あああ……それにしてもなんたることだ。俺の明日への希望が……。

……いや、まてよ。なにもドラゴンボールは未来永劫使えないってわけじゃない。一年後にもう一度探して使えば良いだけの話だ。なんだ、まだまだチャンスはあるじゃないか。

……あ、来年は悟空がウパとかいうやつの父親をよみがえらせるんだっけか? たしかピンク胴着のちょび髭野郎が殺すんだったな。

ふむ、ちょうどいいかもしれない。ウパの親父が殺されるのを防ぐためにもあの桃白白(笑)に引導を渡してくれる。もともとカリン塔で修行しようと思ったのもあの野郎を何とかするためだったしな。

ふぅ……落ち着いたら、周りを見る余裕が出てきた。

ブルマ、マイ、ウーロンも城から脱出できたらしく、手を振りながらこっちへと走ってくる。

何この、そろそろスタッフロールが降りてきそうな一段落さ。……まあ、短い冒険もとりあえずはおしまいって事か。

俺は肩の荷が軽くなった気がして、何気なく空を見上げた。

……月が綺麗じゃないか。まんまるお月様ってのは久しぶりに見るなぁ。

……まん……まる?

…………んんんやべえええええええっ!!

慌てて悟空に向き直ると、既に服はびりびり裂け、2倍近い大きさになっていた。それどころか鼓動のようなリズムでグングンと巨大化していく。

「遅かった……!」

もし尻尾を切るのが間に合わなかった場合、近くにいるのは危険きわまりない。

俺は「ブルマーッ!!! お前達は逃げろー!!」と叫んで警告し、悟空の尻尾を切断するために『気』を集中させはじめた。

おそらく正解の行動は、尻尾を掴み『気』を集めた手刀で切る、だったのだろう。弱点である尻尾をつかまれ防御力の落ちた相手であれば、簡易に『気』を纏わせただけの手刀でも十分だったに違いない。

ところがぎっちょん、慌てていた俺は、『とりあえず尻尾を掴んでしまえば力が抜ける』なんていう重要な設定はすっかり忘れていたのである。

徐々に大きくなる悟空を注視しながら『気』を収束させる事に全神経を集中させていたのだ。これで切れるだろうか? なんてことを心配しながら。

「ヤムチャ~!! 危ないっ!!」

体に衝撃を感じたのと、ブルマの悲鳴が上がったのはほぼ同時だった。

すさまじい勢いで吹き飛ばされながら、俺は俺を吹き飛ばしたものの正体を知った。俺の視界にうつったのは拳を振り抜いた姿のもう一匹の巨大な猿だった。

「ってなんじゃそりゃああああああ!!!?」

心からの叫びだった。







…………そして冒頭へ。


――以上が事のいきさつである。

そして俺は今現在、全裸のまま気持ちよさそうに転がってガーガー&スースーといびきを立てている二匹の――もとい、二人のサイヤ人の側で血まみれで倒れていたりする。

野菜の王子様が見たらまちがいなく「おい! 汚いからかたづけておけよ そのボロクズを!」と吐き捨てられる事うけおいだ。

あの後、真・狼牙風風拳のタイムリミットギリギリで悟空とプーアルの尻尾を狩ることに成功したものの、そのまま空中で爆散(?)したのだ。

遠目から見れば、体中から血を吹き出した俺は、何か別の、そう例えば……例えばなんだ? 割れる瞬間の風船か? ……なんかそんな感じのものに見えたんじゃないだろうか。

「ヤムチャー!」

「悟空ー!」

「プーアルー!」

遠くで俺や悟空、プーアルを呼ぶ声がする。ブルマ達が俺たちを捜しているらしい。

少しほっとした。なにせ周囲の地形がむちゃくちゃになってしまっている。ピラフの城など跡形もない程だ。あいつらが無事だったのは僥倖と言う他無い。

かすれた声で、「おーいここだ」と返事をするも、まともに声が出ていないらしく、向こうが気づく様子はない。

地面が激しく隆起したり陥没したりしている上、すで夜の闇の帳が降りている。このままでは俺たちを発見するのは難しいかも知れない。

無理を押して体を動かそうとしても指一本動かせない。おそらく体中の筋繊維が断絶しているのだろう。

いっそ気絶できればいいのだが、痛みのせいで逆に意識がハッキリとしている。こんな時だけ気絶できないのは何かの呪いだろうか。

体が少しでも動けば懐の仙豆を口に出来るのだが、それも叶わない。……まさに生き地獄。

…………ボスケテ~。



「あ、やっと見つけた。……うわー大丈夫? ひどい事になってるわよ?」

明け方、朝日を拝む頃になってになってようやく発見された時、ブルマが女神に見えたのは言うまでもない。

兎にも角にも、かすれ声を振り絞って、俺の懐の仙豆を取り出し俺の口に入れるよう頼んだ。

「これって豆? こんなのでどうにかなるの?」

不審げな表情を見せながらも、ブルマは俺の言うとおりに仙豆を口に運んでくれた。ところが、消耗しきった俺にはそれをかみ砕き、飲み込む力すらなかった。噛もうとするとポロリと口からこぼしてしまうのである。

二、三度それを繰り返した後、ブルマは「……仕方ないわね。コレを飲めば怪我はよくなるのね?」と俺に確認をとった後、自らの口に仙豆を入れてかみ砕き……そのなんだ……アレだよ、アレ。ほれ、だいたい分かるだろ?

……結論から言えば俺は回復した。それで良いじゃないか。まあ、体力や怪我のみならず、消耗した気力まで一気にMAXまで回復したとだけ言っておこうか!

バラけて俺たちを捜していたらしいマイとウーロンがこちらを見つけて合流する頃には、すっかり日も昇りきり、悟空とプーアルも目を覚ました。

「うう……ん……あ、オハヨーごさいます。ヤムチャさま」

「おう、おはよプーアル」

寝ぼけ眼で挨拶する黒髪の幼女。さすがに全裸はまずかろうと、変身をやめたことで不用になっていたTシャツを、本人が寝ている内に着させている。

サイズのあわないぶかぶかの白いTシャツが、まるで丈の短いワンピースみたいに見える。

髪型が腰くらいまであるロングのワンレングスな所為もあってか、第一印象を訪ねれば大抵の人間が「お嬢」と答える事だろう。

顔立ちも将来結構美人になりそうな感じだがどことなく大人しめで、良いとこの令嬢っぽさがある。しかし、こういっちゃなんだが、あんまりサイヤ人らしくない。戦闘民族とカテゴライズするのに抵抗感を覚える。

「ふわあああぁぁ…………おっす! へへへ。……ん? なんでオラ裸なんだ? 服は?」

次いで大あくびと共に起床した悟空は丸出しで隠す様子もない。

羞恥心のかけらもない悟空に僅かに呆れつつ「お前、昨晩の事全然おぼえてないのか?」と聞くと「なにが?」との返事。

ついでにプーアルにも昨晩の事を訪ねるが「えーと、えーっと……ボクがドラゴンボールに願いを言って……? あれ? それからどーなったんですか?」と返ってきた。

どうやら二人とも大猿の時の記憶はマジでないらしい。まあ、そうだろうなと予想はしていた。だいたい大猿時に理性が残ってたんだとしたら、確実に俺を殺そうとしていた悟空とプーアルはどんだけ俺を恨んでたんだって話になる。さすがにそこまで恨まれる覚えはないぞ。

「ヤムチャさまと同じになれたのかな?」と、自分の手足をなんかをしげしげ眺めつつ自問しているプーアルに「そのことなんだが……」と俺は話を切り出した。

「どうもお前はそこの孫悟空と同じ種族になってしまったらしい」

「……ええ!? そーなんですか?」

「うむ、そーなのだ。……で、だ。なんであんな願いを?」

ぐりぐりと頭頂部のツボを拳で突いてやりながら問うと、「う……だ、だってその……ヤムチャさまと同じになりたかったんです」とプーアルが涙目で見上げてきた。

「う……し、しかし、同じになってどーするんだ?」

「……ヤムチャさまのエッチ!!」

ドンとプーアルに突き飛ばされる。

「げはぁっ!?」

ぅゎ ょぅι゛ょ っょぃ。……いや割とマジで。

無警戒でいたところにいきなり一撃食らったもんで、膝がガクガクです。幼女でもさすがにサイヤ人。同じような一撃でもマイと比べて、ネコパンチとトラパンチくらいの違いがある。

それにマジで今のは理不尽な暴力じゃないか? 俺が何をしたって言うんだ……。

「プーアル。あんたのTシャツ一枚孫くんにあげてもいい?」

「あ、はい」

腹を抱えてうずくまる俺を無視して、女性陣はとりあえず悟空のリトルエレファントを隠す事に決めたらしい。

さながら着せ替えに人形の如くTシャツを着せられた悟空は一部の特殊な性癖を持った男女に人気が出そうな気配があった。

「あら、結構かわいいじゃない。あんたカワイイから都にきたらきっともてるわよ」

「……ああいうのが趣味だったのか?」

うっかり漏らした俺のつぶやきに、ブルマが敏感に反応して振り返った。その反応の良さに思わずびくっとなる。

と、俺の顔をみてブルマがニヤニヤし始めた。

「ぷぷ……なに焼き餅?」

「ち、ちがう!! 別にそんなんじゃねーよ!」

えー!? なにこのツンデレ風味。我が事ながら驚きです。こういうのは野菜王子のキャラのはずだ。

俺が狼狽してるとグイッと破れかけた服の裾を引っ張られた。

「ん?」

そちらを見ると「なあ、オラの玉と棒しらねえか?」と、悟空。

「玉と棒ならそこに……」

そういってマイが指さしたのは悟空の股間だった。

シーンとした沈黙の後「すいません……つい」とマイが顔を赤らめて謝罪した。

「あー、えへんえへん。……えーっと、あんたのドラゴンボールなんだけど、どこか飛んでっちゃったわ」

気まずくなった空気の中、咳払いして、ブルマが悟空に答えた。

「ドラゴンボールは願いをかなえるとまたバラバラになってそこら中に飛んでいっちゃうのよ」

「オラのじいちゃんの形見の玉もかっ!?」

「残念ながらそういうことね……。でもまあ、安心しなさい。願いをかなえるとドラゴンボールはただの石の玉になっちゃうんだけど、一年経ったらまたもとのドラゴンボールにもどるわ。そしたらまたレーダーでさがせるの」

「そっか! じゃあまた探せば良いんだな!」

……超ポジティブだ。あんまり羨ましくもないけど。

「如意棒もどこかに飛んでっちまったのか?」

「……なんでそうなるのよ。あの棒はドラゴンボールと関係ないでしょ。たしかあんたちを探してるとき、どこかに落ちてたのをウーロンが拾ってたわよ」

「あ、ああ。むこうのキノコに立てかけてあるぜ」

ブルマに話を振られたウーロンが親指で指さす方向には、確かに赤い棒らしきものが巨大キノコに立てかけてあった。

「あんがとなっ! あれじっちゃんにもらった大事な棒なんだ」

そういって走りだそうとした悟空だが、一歩踏み出した途端盛大に転んだ。

「あれ? おかしいな」

そう言って、立ち上がり再び走り出そうとして、二三歩で再び転ぶ。

「なんかうまく立てねぇな……」

ん? ああ、尻尾のせいか。

「シッポがなくなったからバランスが変化したんだろう。しばらくすればなれると思うぞ」

「え、シッポ?」

俺の言葉に目を丸くした悟空は大慌てでぺろんとシャツをめくってケツを丸出しにすると、尾てい骨の辺りを盛んに手で探った。しかし既に尻尾の切断面はふさがり、丸い毛の塊のようなものが尻尾の痕跡として残るのみだ。

「あっ!!! ないっ!!…………まあ、いっか!」

がくっと、俺以外のみんなが脱力した。何も知らなければ俺も脱力していただろう。

「おまえホントに軽い性格なんだな……」

苦笑するウーロンに心から同意する。

悟空はなんども転びながら、如意棒に向かって走っていった。

「これからどうするんだ? どっちにしても一年経たないとドラゴンボールは探せないんだからとりあえず解散だろ?」

ウーロンがズボンのポケットに手を突っ込みながらブルマに確認する。

「そういうことになるわね~」

頭の後ろで手を組んだブルマがどこかつまらなさそうに答えた。

気持ちは分からんでも無い、ちょっとした冒険の終わりなんてのは一抹の寂寥感ってのに苛まれるモンだ。

「ま、でもわたしの願いはかなっちゃたし結果オーライね」

パチンとブルマにウインクされてある種の"スゴみ"を感じるのは俺か、スタンド使いくらいだろう。

「願いって……ボーイフレンドだろう? ……カレシ的な意味での」

「そうよ。ボーイフレンドよ。カレシ的な意味での」

まるでオウム返しのようなブルマの返答にゴクリとつばを飲む。

「もしや……お、俺のことか?」

「あったりまえでしょ!? 汚れ無き乙女の唇を奪っといて逃げられるとは思わない事ね」

「「なん……だと……!?」」

不穏当なブルマの発言に幼女と軍服のお姉さんがオサレな死神と化した。

で、結局悟空が如意棒をとってもどってくる頃には、なんやかんやで俺とブルマとプーアルとマイが西の都に行く事になっていた。

え……なんやかんやって何だよって? なんやかんやは……なんやかんやです!!

正直女同士の密談で決まった事なので、俺にも何がどうしてそうなったのかは分からない。

とりあえず、俺の体にいくつかの青あざができたことだけが真実である。

「ケッ……!!」

「なんだ、どうしたんだウーロン」

えらく不機嫌なウーロンに悟空が話しかけた。

「アホらしくてよ。みろよアレ」

ウーロンに指さされた俺たちを悟空が無邪気な瞳で見つめる。

その瞳にはブルマ、プーアル、マイがにらみ合う三すくみの真ん中で、哀れにも縮み上がった切ない男の姿がうつったに違いない。

「……おかしなやつら」

ですよねー……。

「あ! ねえ孫くんはどうする? わたしたち都に行くんだけど」

悟空が帰ってきた事に気がついたブルマが声をかけた。

「オラ、亀仙人のじっちゃんのとこにいく! もっともっと修行して強くなるんだ」

「そう? 残念ね。ウーロンはどうすんの?」

たいして残念そうでもないブルマがついでとばかりにウーロンにも予定を聞いた。

「都か~。女の子がたくさんいるって聞くけどな~」

「いるわよ~あんたスケベで憎たらしいからもてないと思うけど」

「よけいなこといわんでいいっ!! ……でもまあ、予定もないしな。……しょ、しょうがないついて行ってやるか」

ウーロンから時々悲哀を感じてしまうのはなんでだ。

「一年経ったらまたドラゴンボール集めような」

「ああ、もうわたしはドラゴンボールいいのよ。きっと他のみんなもそうね」

悟空の言葉をあっさり拒否するブルマ。俺には異議があるがとても口を出せる雰囲気ではない。

「じゃあ、オラじいちゃんの形見のボールどうやって見つけたらいいんだ? 探し方わからねえよ」

「平気、平気。ドラゴンレーダーあげるから。一年経ったらここんとこピッとおせばレーダーに反応が出ると思うわ」

実にアバウトな説明をしながらブルマは悟空にドラゴンレーダーを渡した。……ああ、アレがないと俺が勝手に探しに行くのも難しくなるなあ……。

「わりぃな!」

うれしそうに受け取る悟空を見て、ま、仕方ないかとため息をつく。

「……さて、じゃいきますか」

ブルマがそう言って懐から取り出したカプセルを投げると、4人乗りの飛行機が表れた。

「……じゃあ、武天老師様によろしくな。俺もその内顔出すよ。なにしろお前の兄弟子になるんだしな」

悟空の小さな手を掴んで握手する。

「うん!」

俺に続いて一人一人、悟空に一声かけて握手する。

「そのうちみんなでまた会いにいくわ」

「悟空さんもお元気で」

「まあ、その元気でな」

ウーロン。お前そのツンデレ風味やめろ。

「短い間でしたけどお世話になりました。またお会いしましょう」

一通り別れが済むと、悟空は大空に向かって「筋斗雲ーっ!!」と自分の愛雲(?)を呼んだ。

相変わらず正体不明の雲の塊が間を置かずに悟空のもとにはせ参じるのを尻目に、俺たちも飛行機へと乗り込む。

「……悟空ーっ!! じゃーなーっ!! また会おうぜ!」

飛行機に乗り込む直前、ウーロンが悟空に振り返って手を振った。……男のデレうぜえw

「おーっ!!」

ウーロンに応えて、手を挙げる悟空の笑顔は見てて恥ずかしいくらいに素直だった。

飛行機も離陸し、いよいよ悟空と分かれるというときキャノピー越しに悟空の大きな声が伝わってきた。

「バイバイ! またなーっ!!」

遠くなっていく筋斗雲の上で手を振る悟空を見て俺も控えめに手を振った。

「バイバーイっ!!」

幼いプーアルは照れもなく大きな声を出して手を振っていた。俺はそれを少しだけ羨ましく感じた。

そして、座席にもたれかかってこう思った。

俺たちの戦いはこれからだ、と。

























長い間ご愛読ありが……い、いえ!! まだほんの少しだけ続きます。

とりあえず一部完という感じで。それにしてもドラゴンボールの場合「ほんの少し」が長いから困りますね。

それにしても前回からえらく間があいてしまいました。マイを一向に加えたのが最大の失敗だったかも知れません。扱いをもてあましました。

今回は「ヤムチャ、サイヤ人化失敗」「プーアル、サイヤ人になる」「ヤムチャ、体中がパーンッ!」の三本でお送りしました。

……………………なにがどうしてこうなったのか自分でもわかりません。ふしぎ!

ヤムチャのサイヤ人化を望んでいた皆さんには期待にそえず申し訳ない限りです。

というか最初はマジにヤムチャをサイヤ人にする予定だったのですが、書いてる途中でしっくりこなくて大幅に改訂したりしました。


ちなみに、ものすごくどうでも良い事ですが、今のヤムチャの戦闘力は140~150くらいの想定です。



それと、資料になるサイトを感想で教えてくれた方ありがとうございました。かなり助かりました。

次からは一応ヤムチャ青春編というか高校編になるのか……な?

これで終わるのもありといえばありですかね……。



[6783] 第12話『少年ジャンプで第一部完!の後、第二部がはじまったのはジョジョ以外だとあまり記憶にないよね』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:da83c077
Date: 2010/05/28 01:53
不気味に胎動する大地。

地層の摩擦によって引き起こされた巨大な静電気が通常ではあり得ない放電現象を引き起こしている。

それは正に星の断末魔だった。

まるで星のそのものが痛みにのたうち回る巨獣の様。

そんな惑星の空に、二人の戦士が対峙する。


一人は異形。

広い意味ではヒューマノイドといえる風貌なのだが、決して地球人に近くはない。

白を基調として、所々に紫の配された体色。

太い尾、三本指の足、内包された超絶的なパワー。

ありとあらゆる意味で真に怪物である。


一人は女。

逆立つ長い金髪は、まるでそれ自体が光を放っているかのように黄金に輝いている。

また、その緑の双眸は成熟した女性には似つかわしくないような稚気を含んだ危うさを秘めていた。

それは戦いを望む戦士の瞳。

決して異形に見劣りしない力の奔流が体から立ち上り、一種の神々しさすら感じさせた。


対峙する両雄の間に張り詰めた空気は尋常の事ではない。

不意に異形から発せられる殺気が高まり、獲物を絞め殺そうとするヘビのように女戦士にまとわりつく。

「この、しつこいくたばりぞこないめ……。いいだろう!!! 今度はこっぱみじんにしてやるあの地球人のように!!!」

異形からぶつけられた殺気まじりの言葉に、ぴくん、と女戦士の片眉がつり上がった。

「あの地球人のように……?」

それは女戦士の琴線に触れる一言だったのだろうか。

ワナワナと震えだした女戦士の力が爆発的に高まっていく。

「ヤムチャさまの事か……ヤムチャさまのことかー――――っ!!!!!!」









じりりりりりり、と耳障りな騒音で目が覚めた。

枕元で騒ぎ立てる目覚ましを拳で叩きつけるようにしてベルを止め、ゆっくりと上半身を起こす。

「はぁ……」

一つため息をついてからしてから額に手を当てた。猛烈に頭が痛い。精神的な意味で。

「……いやいやいや、ねーよ。どーいう展開だ」

明らかにクリリンの代わりに殺されてるよね、俺。台詞的に考えて。

それよりもなによりもフリーザとスーパーサイヤ人的な女が戦ってたが……あれ、ひょっとしてプーアルか?

いやまあ、なんというか……プーアルなんだろうなあ。

「……怖っ」

縁起でもない事この上ない。フロイト的にもどうなのよ、この夢。

ピンク色の象と白いワニが某炎の妖精を乗せてタップダンスを踊る悪夢を見た事があるが、そちらのほうがなんぼかマシである。

……って、ん?

ふと妙な感触を足に覚えて、布団をはぎ取る。

案の定というかなんというべきか、俺の右足にコアラみたいにくっついていたのは、ピンク地にディフォルメされた猫の顔が無数にプリントされた一見に水玉模様のようにも見えるパジャマを着た幼女――早い話がプーアルだった。

きちんと一人部屋を用意してもらっているにも拘わらず、時折こうして俺のベッドにもぐり込んでくるのだ。

普段なら何を思うでもない事だが今朝は酷く夢見が悪い。ひょっとすると妙ちきりんな悪夢を見たのはこいつがもぐり込んできた影響じゃないか? とさえ思えてくる。一瞬、ペシペシと叩き起こしてやろうか、なんて気持ちが沸いたものの、実に幸せそうにほにゃほにゃした表情で眠るプーアルを見てると途端にそれが霧散してしまった。

「……ったく」

自然と顔の筋肉が緩むのを感じた。父性愛半分あきれ半分といったところだ。

ま、幼い頃に一人で寝るのが寂しかったりする人恋しさは分からんでもない。俺にだっておぼろげながら子供の頃のそんな感情の残りカスくらいはあるのだ。

夢が現実にならない事を祈りつつ、習慣となりつつあるプーアルとの朝の修行を始めるとしよう。

「むにゅヤムチャさまぁ……」

まずはこいつが起きるのを待たないとな。

足に張り付いたままのプーアルが寝冷えしないように俺はもう一度布団をかぶった。

……あと10分くらい待ってやってもいいか。

















ヤムチャしやがって……

第12話『少年ジャンプで第一部完!の後、第二部がはじまったのはジョジョ以外だとあまり記憶にないよね』


















「やぁっ!」

幼い、しかし十分に鋭い呼気。それと同時に小さな拳が繰り出される。

しっかりと大地を踏みしめて放たれたその速度、秘められた威力は並ではない。既に並の人間では防ぐ事はおろか視認する事も難しいはずだ。

とはいえ、さすがにまだ俺には遠く及ばない。

「悪くはない、がっ」

俺はその突きを包むように右手に受けるとその勢いを利用して、そのまま後ろに引っ張りプーアルの体勢を崩した。

「うわわ!」

慌ててバランスをとろうとするプーアルの足を蹴り払う。

完全に支えを失ったプーアルがどたっと地面に転がった。

「……突きを打つ事だけに集中しすぎだ。他が留守になってるぞ」

腰に手を当て、俺なりに威厳を演出しつつ指導する。

足下がお留守ですよ、と死ぬほど言いたかったが、自重。

……だって俺が言うのも、ねえ? もし将来神さまに似たような事言われるハメになったらものすごくかっこ悪いじゃないか。

「うっうう~……全然かなわないです」

ぺたぁっと地面にうつぶせになったまま不満げにプーアルがぼやいた。

「そうそう追いつかれてたまるかっ!」

プーアルのあまりと言えばあまりな言い様に思わず本音が漏れた。

幸か不幸かサイヤ人などという羨ま……恐ろしい民族に生まれ変わったからには、力の使い方の一つも心得ておいて損はないだろうと思い、一緒に修行を始めたのが二週間前。それくらいで追いつかれては俺の立つ瀬がないではないか。

ちなみに修行をはじめる前「サイヤ人になったからには、正しい力の使い方をだな~」なんて高説をぶったのだが、プーアルにきょとんとした目で見られてしまったよ。「サイヤ人? サイヤ人って何ですか?」とのこと。

だから「サイヤ人ってのはアレだお前。前言ったように悟空と同じ種族の事だ。スゲーんだぞ? 宇宙最強種族だぞ?」と説明してやったらなんだか可哀想なものを見る目でプーアルに見られた。なんでだ。

「……ま、それはともかくだ。もう少し意識を全体に割り振ったほうがいい」

「全体に、ですか?」

不思議そうに首をかしげるプーアルが服についた土を払いつつ立ち上がる。

修行用にブルマから古着を分けてもらってるから、汚してしまっても何の憂いもないのは保護者的にはありがたい。

「そう全体。自分の体全体、そして相手の体全体だな。一つの所に意識を集中させすぎるのはよくない。相手に動きが読まれるし、自分の視界も狭くなりがちだからな。今のお前は『攻撃したい~攻撃したい~、あそこに攻撃してやる~』なんてのが見え見えだ」

「どうやるんですか?」

「……ん」

素朴な疑問に一瞬言葉を詰まらせてしまう。

「どう、と言われてもな……むぅ……言葉にするのは難しいんだが、こう、意識をニュートラルに保つ、というか」

「はあ」

自分で言うのも何だがいまいち要領を得ない俺の説明に、プーアルが気の抜けた返事をした。

俺はカリカリとこめかみの辺りを軽く掻いてから「そのうちわかる」と話を切り上げた。

「そ、そんないいかげんな」

「こんなもんは慣れだ、慣れ」

実際問題、俺は鶴仙人の所でボコボコにされる毎日の中でいつの間にやら出来るようになってたから、具体的に言葉で説明するとなると如何ともしがたいのだ。

とはいえそんなこちらの事情などプーアルが知るよしもない。俺が適当な指導をしてると思われてそうだ。こいつの「もっと真面目にやって下さい!」とでも言いたげな表情を見るとそれがよく分かる。

考えるな! 感じろ! とトラックスーツのよく似合うあの人の言葉を借りてもいいのだが、ふくれっ面のプーアルを見てると毒気を抜かれてしまう。

…・・やれやれ。

ふくれた頬をツンと人差し指でついてやってから、唇を尖らせた元猫娘の機嫌をとるために「それじゃあ後は舞空術の修行にするか」と、俺は言葉を続けた。

「ブクウジュツ……あ、空の飛び方ですね!? わー! やったー!」

パァッと表情が明るくなったかと思うと飛び跳ねて喜んでくれた。そこまで素直に喜ばれるとこちらも悪くない気分である。

ドラゴンボールの願いでサイヤ人になってしまう前はプカプカと節操なく飛んでいたが、現在プーアルは空を飛ぶ事が出来ない。プーアルが言うにはあれは元々の種族の特性であって『気』のコントロールで空を飛んでいたわけではないらしいのだ。

今まで当たり前に出来てた事が急に出来なくなったのはそれなりにストレスだったらしく、事あるごとに「飛び方を教えて下さい」と申し出てきていた。その都度まだ早いと断ってきたが一応体の使い方くらいは様になってきたので、『気』のコントロールの修行をかねて舞空術を教えはじめるのも悪くないだろう。

「さて、それじゃまずは……ん?」

エンジン音が近付いてきたのでそちらに振り向くと、エアバイクにまたがったブルマがちょうど帰宅したところだった。

「あら、ヤムチャにプーアル。まだやってるの?」

ゴーグルを外してバイクをカプセルに戻した後、俺とプーアルの顔を交互にみてから彼女は一つため息をついた。それから「朝からずっとでしょ。よく飽きないわね」と言ってのけると、やれやれと言わんばかりにオーバーに首を振った。

ブルマの言葉に空を見上げる。太陽は随分と高く、そろそろ中天に達しようとしていた。確かに朝練というにはちょっと長過ぎたかもしれない。

しかし、なんとなく小馬鹿にされた感じがして少しだけ癪に障ったので、ついつい「飽きるとか飽きないとかじゃないんだよ。修行ってのは」と反抗めいた言葉を口にしてしまった。

だが、彼女は「あ、そ」とろくに取り合う事もなく、紙袋をこちらに投げて寄越した。

「うわっと。なんだこれ」

反射的に両手で受け止める。

「何って、明日からあなたも学校でしょ。一応最低限必要そうなもんはそろえてやったのよ。感謝なさいな」

……そういやそうだった。完全に忘れていた。

「あー、そっか。悪い。助かった」

「ん。よろしい」

俺の言葉にブルマは満足げに肯いた。

しかし、明日から学校か……。

個人的には学校などどうでもいい。……どうでもいいのだが、いつの間にか通う事になってしまっていたり。

ブルマの母上曰く「あら~ヤムチャちゃん、学校行ってないの? ダメよ~学校いかないと、お友達つくらないといけないわ~」とのことで、あれよあれよという間に話が進められ、ブルマの父親ことブリーフ博士にも「行っといて損はないから行っといたらどうかね? ん?」などと言われて入学金まで工面してもらえることになってしまったのですよ。

結局の所俺はまだ少年の範疇に入る肉体年齢なのであって、「学校とかいいです」なんて言った所で説得力皆無なんですなあ。

俺だって16、7位の少年が「学校とか別に……」なんて言ってたら、「とりあえず高校くらい出たら」と言っちゃう程度には中身がオッサンだからブルマの両親の気持ちはよく分かってしまう。……分かってしまうだけに無為に逆らう気力も湧いてこず、あきらめて身を任せる事に。

ただでさえ居候させてもらってるというのに、お世話になりっぱなしである。

ちなみに俺だけではなく、プーアルとウーロンおまけにマイもブルマの家にお世話になっていたりするのでブルマのご両親にはホント頭が上がりません。

彼らにとっては旅先で一人娘が男+αを拾ってきたことくらい大したことでもないらしい。ある意味、というか本当に大物だ。

正直なところ、若い一人娘がいるにも拘わらずホイホイ同じ年頃の男を同居させるのはちょっとどうかと思わんではないがね。……ブルマのでかい家の一階中央部分はだだっ広い室内庭園になっていて、そこには拾ってきた恐竜やらがワンサカ居たりするのだが、そいつら飼うのと同じ感覚なんじゃあるまいな、と密かに危惧してたりする。

「やだ、土まみれじゃない」

ブルマがプーアルの服の汚れを見とがめて僅かに顔を曇らせた。確かにブルマ家の広い庭で存分に暴れ回ったせいか、随分と汚してしまっている。

「そこまでして女の子が強くならなくたっていいと思うけどね~」

「いいんです。ボク、ヤムチャさまみたいに強くなりたかったから」

眉をひそめるブルマに、プーアルがすかさず反論した。

ふーむ。確かに修行始めるときも特に嫌がる素振りも見せず、妙に乗り気ではあったが。……もしやサイヤ人になった事で若干性格が変化してるんじゃあるまいな。それはちょっと怖いのだが。

「へー。そんな事言ってヤムチャの側にいたいだけなんじゃない?」

「だ、だったらどうだっていうんですかっ!?」

うむ。あまり心配せずとも良さそうだ。

「いっとくけどアレはわたしのだからね」

「アレなんてヤムチャさまを物みたいに言わないで下さい!」

やいのやいの、と少女と幼女が言葉の応酬を繰り広げる。とてもじゃないがまともには聞いていられないので、若干意識をワープアウトさせて別の地平へと移しておく。

この二人はほっとくとすぐに険悪なムードになっていくのがいただけない。イカン、イカンよ君たち。女の子はもっとキャッキャウフフであるのが極上なのデスよ?

ほらどっかの時空ではどこぞの軽音楽部がキャッキャウフフしてるはずなんだから、そういうのを俺に見せてくれれば存分に生暖かい視線で愛でてくれようというのに。

あるいは俺が美少女で、二人が男だったら「ウフフ、私を取り合ってるのね。罪な私」みたいに自己陶酔出来たかも知れん。やめて! 私のために争わないでっていうのは女子の本懐と言っても過言ではあるまい。……女子になった事無いので実際のとこ分からんが。

だけど、俺は自分をダシに女子が争う所を見ると胃がキリキリ痛んじゃうの。だって男の子だもん。

無論、中には「三股四股上等! ハーレム上等! 男子の本懐也」なんて強者もいるのだろうが、俺には無理です。神経が持ちません。

そもそも幼女とどうにかなっちゃうつもりは全くない。俺はアグ○スとにこやかに握手できる男なのだ。

「幼女じゃないです! ボク、少女です!」

うおっ!? いつの間にか思ってる内容を勝手にしゃべっているというありがちなエロゲ主人公のような陳腐だが高等なテクニックが俺にも?

「どこからどう見ても幼女でしょ!」

「ブルマさんみたいに年増じゃないだけですー!」

どうやら違ったらしい。俺が因果地平の彼方に自意識を飛ばしていた間に、何故か話の中身もワープしていたようだ。

「年増って……わたしまだピッチピチの女子高生よ! 女子高生って響きが気に入ってるからわざわざ高校に通ってるくらいなんだから。いわば女子高生中の女子高生。クイーンオブ女子高生!」

お前……天才のくせに飛び級もせず高校生なんぞやってたのはそんな下らない理由だったのか……。すごい。すごいバカだ。決して胸を張って言う事ではない。

その時、一瞬ちらりとプーアルの視線がこちらに走った。

……ぬぅっ!?

セブンセンシズだかゴーストだかがささやいている。このままだとこのよく分からん言い争いに俺も巻き込まれると。

「まあまあ、ビッチビチ……もといピッチピチの女子高生サマでもなんでもいいけどさ。そろそろメシ時だろ? 俺腹減っちまって……」

話の矛先が俺に向かないうちにやりとりを終わらせようとした俺の努力は次の瞬間に砕けた。

「や、ヤムチャさまはどう思います? ボクのこと」

『命(たま)とったら~ァッ!』と言わんばかりに会話の照準が俺にぴたりと合う。

どうってお前。素直に答えていいの?

「どうみても幼女です。本当にありがとうございm…ぶべらっ!?」

素直に答えたら、お返しにグーパン頂きました。それも、まだ使い方を教えてもいない『気』を十分にまとった素晴らしいパンチを。

「ヤムチャさまのばか~!」

タタッという足音と共に遠くなっていくプーアルの声が倒れ伏した俺の耳に届いた。

「……ほんっとバカよね」

そんな俺の側でブルマが呆れ声で呟いた。

……本日のお前が言うなスレはここですか?







「まったく酷い目にあった」

ぼやいてからキュッとシャワーの蛇口をあける。はじめこそ少々冷たかったが、すぐにほどよいお湯が肌を打つようになった。

修行でかいた汗をシャワーで洗い流す一時は格別である。そしてその後に飲むキンキンに冷えた牛乳はさらに格別であり、この一杯のために生きてると思えるほど最高だ。

……本音を言えば冷えたビールが飲めればもっと最高なのだが。残念ながらこちらの世界でも未成年の飲酒は基本的に認められていない。

10分ほどシャワーを堪能してからタンクトップとハーフパンツに着替え、まだ濡れた髪の毛をタオルでワシャワシャふきながら冷えた牛乳を求めてリビングへと向かっていると、白衣を着たブリーフ博士と同じように白衣姿のマイに廊下でばったりであった。

「ヤムチャさん訓練は終わりですか?」

ひょんなことから記憶を失った元ピラフ一味のマイ。それなりに時間が経った今もかつての記憶はハッキリしないらしく、俺やプーアルと共にブルマ家の世話になっている。とはいえブリーフ博士の秘書兼研究助手のまねごとみたいな事をしているので、居候連中の中ではもっとも負い目が少ない立場だ。住み込みで働いているカプセルコーポレーションの従業員と言ってもいいくらいである。

本人は記憶を取り戻す事に全く熱意が無く、割と飄々としている。本人曰く「今更記憶を取り戻したって、ピラフさんの元に戻るわけにもいかないでしょう?」との事だが、案外平謝りすればあっさり元鞘に収まれるような気がせんでもない。

「訓練っていうとなんか変だな。修行って言ってくれ」

ニュアンスが、こう、ちょっと違うよね。

「修行と言えばヤムチャ君、頼まれていたアレの件なんじゃが」

ブリーフ博士がポンと手を打って不意に話を切り出した。

「アレって……例のアレですか」

「そうそう、そのアレなんだがね、ちーとばっかし時間がかかりそうなんじゃよ。わしも一応天才なんて呼ばれちゃいるが、これがなかなか難しくてね。軽く請け合ったのを少しばかり後悔しとるくらいじゃ」

え? マジすか。

「ちょ、ちょっと待って下さい。エアカー……っていうか反重力装置って大抵カプセルコーポレーション製ですよね?」

「うん。ほとんどウチでつくった製品じゃないかなあ。反重力装置が自作できないメーカーなんかにはOEMで提供なんかもしとるよ」

俺は何か思い違いをしているのだろうか。

「もしかして反重力装置って重力を制御してないんですか?」

「んー? ああ、そういうことかね。まあ、反重力装置って言っても重力を自由自在にしとるわけじゃないよ」

「げげ、そうだったんですか……」

てことは例のアレ、つまり人工重力装置なんてのはすぐには無理なのか。

厚かましいとは思ったが、ブルマの家に来てすぐ博士に土下座してお願いしていたのだ。重力を十倍か百倍とかにできる装置をつくってくださいまし、と。

基本パワーを大きく底上げする方法についての二つ目である。サイヤ人化に失敗したからにはせめて界王星で修行するのと同じ程度の負荷の掛かる環境が欲しかった。

「しかし、君。前に聞いたかぎりじゃあ高重力下で修行するつもりなんじゃろ? 体が壊れちまうんじゃないかね?」

「なんとかなります。っていうかなんとかならないとその内死にます」

「ほうほう、そうかね。よくわからんが頑張りなさい。わしもなるべく頑張ってみるから」

原作だとあっさり人工重力装置を作っていたようだったのでこういう結果は想定外だ。まあ、本来の歴史なら装置を作るのは十数年後だから仕方ないのかも知れない。10年の技術の進歩ってのは馬鹿に出来ないからなぁ。

これはフリーザ編で宇宙船を改造する時までお預けになってしまうのかもわからんね。俺的にはそれじゃあちょっとまずいんで多少は時期が早くなって欲しいところだが……。

……いや、まてよ。宇宙船、宇宙船か……ひょっとすると……。

その時俺の脳にピン! とあるひらめきが生まれた。

「もしも、もしもですよ。恒星間もびゅんびゅん飛んじゃうような異星人の宇宙船があったりしたら、どうです?」

水を得た魚のように生気を得て舞い上がった俺はブリーフ博士に詰め寄った。

「うん? 何をいっとるのかよく分からんが心当たりでもあるのかね?」

「心当たりがなけりゃこんな事言いませんよ。で、どうでしょう、それくらい科学力が進んでれば人工重力装置積んでたりしてませんかね?」

「ふむ……長期間宇宙空間を旅する宇宙船ならそう言うものを積んでいてもおかしくないかもしれんが……。ひょっとしてそれをコピーしろとでも?」

「端的に言ってその通り! ……なんですが……無理ですかね?」

「無理かどうかは実物を見てみん事にゃなんとも言えんわい。そもそも人工重力装置があったとしても君の求めてるような異常な高重力を生み出す機能があるとも思えんから改良もせにゃならんだろうし……。じゃが、もしそんなものがあるなら興味はあるのう。きっと素晴らしい科学の結晶じゃろうしな」

原作でどうだったのかは今更確認のしようがないが、人工重力装置もサイヤ人かナメック星人の宇宙船を分析した副産物だったっていう可能性は結構有りな気がする。

しかし、どちらを持ってくるべきかな。俺の記憶によると、現時点で悟空が赤ん坊の頃に乗ってきたポッド型の宇宙船がパオズ山の近くに。ピッコロと神様の前身であるナメック星人が乗ってきた宇宙船がユンザビット高地にあるはずだ。俺と同世代の奴は大抵そうだと思うが、原作に関する記憶はベジータ編フリーザ編あたりがもっとも鮮明に残っているのでおそらく間違いない。……アニメと漫画の記憶が混同してそうで怖いが。

うーむ。……よし、決めた。両方持ってこよう。何、宇宙船が必要となるフリーザ編は十数年後だ。二隻も宇宙船を分析すれば、それまでにはカプセルコーポレーションの技術力によって宇宙船の一つや二つは作れるようになってるだろ、きっと。

「じゃあ、さっそく宇宙船持ってk「ちょっと待って下さい」い?」

喜び勇んで宇宙船を探しに行こうとした俺にマイが制止をかけた。

「ヤムチャさん明日から学校でしょ」

「あ、はい」

なんだこの妙な迫力は。

「どこまで行くつもりですか?」

「ユンザビット高地とパオズ山……です」

「今日中に帰ってこれますか?」

「帰ってこれません……たぶん」

「なるほど……ではどうするべきかおわかりですね?」

「大人しくしてます……。出かけるのは連休にします」

「よろしい」

満足げに微笑むマイ。……というか何故に俺はマイに管理されてるのだ。お前は俺のお母さんか。

しかし、悪いなマイ、連休は連休でも自主的連休にさせて貰うぜ。

俺が悪巧みしつつ、ふらりとその場を立ち去ろうとしたら、後ろから肩を掴まれた。

「連休を自分で勝手に作るのは無しですよ?」

本当に目が悪いのか、雰囲気を演出するための伊達なのか不明だが、縁のないメガネの位置をついっと直す仕草が実にクールであった。




































何ヶ月ぶりだろうか……。こっそり更新です。





[6783] 第13話『後ろから二番目の窓際は主人公の指定席。俺? 俺は座っていないがそれが何か?』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:ffb5e58f
Date: 2011/08/27 07:56
「転校生入ってこい」と俺を呼んだのは、上下ジャージで首からホイッスルを下げているという、なんともステレオタイプな体育教師であった。

転校生、なんて呼ばれたのは生まれ変わってからはもちろんのこと前世も含めてこれが初めてだ。ま、もっとも別の学校から移ってきたわけではなく第一学年二学期への中途入学といった具合なので、転校生という呼称は余りふさわしくないかもしれない。正しくは編入生あるいは新入生と表現するべきじゃなかろーか。

「おい! 何やってる。早くこっち来て自己紹介しろ」

転校生と言う言葉に一瞬気をとられていたら、体育教師にどやされてしまった。

偉ぶる事に慣れた態度である。こりゃ生徒からの評価が好悪真っ二つに分かれるタイプだろうな~、なんて益体もない事を考えつつ、教師に言われるがままホイホイ教室の入り口をくぐると、途端に喧騒じみた空気に出迎えられた。

何十もの眼球から発せられる好奇の視線が遠慮もなく好き放題に俺を嬲(なぶ)ってくる。教室の床に傾斜がついていて棚田のように階段状に席が連なっているせいで最後列の席からでも視線を遮るものが無いらしい。

く、悔しいっ! ……でも自己紹介しちゃう、ビクンビクン。

「ども~、ヤムチャって言います。田舎モンですがよろしく~」

教卓の側まで寄ってクラスメイトの方に向き直り、一息にそう言ってのけた。俺なりに友好的な笑顔をつくるのも忘れない。

その途端「おおっ」と教室がどよめいた。……え、なにどゆ事この反応。過剰すぎない?

微妙に狼狽えつつも、にこやかな表情を崩さないよう努力しつつ耳を傾けると、「あれが、ブルマの……」とか「へー確かに結構いい男……」とか聞こえる。

……おk。だいたい把握した。

どうやら誰かさんが事前に俺の情報をリークしていたとみえる。

青い髪のお嬢さんを捜すと、教室の後ろのほうの席で「にひひ」とか「ウシシ」とかいった声が聞こえそうな顔で笑っていらっしゃる。……嬉しそうだな、オイ。

「ほんじゃ、ま、そこらの空いてる席に座れ」

むくつけき体育教師は犬か何かを追い払うかのように、俺に対してシッシと手を振った。……野郎、このジャージマン(仮)め。早くもあだ名が俺の中で仮決定である。

見ると教室に各々がまばらに座っている。座席に充分余裕があるせいか、とくに席順などは存在しないようだった。

それじゃあ言われた通り適当に……と、そこらの席に座ろうとしたら、必死に手招きしてる青い髪のお嬢さんが視界に入った。

なんというか、ちょっと無視できないレベルの必死さを醸し出している。

「いいの? 彼女、呼んでるみたいだけど」

俺が座りかけた席の隣にいた金髪の可愛い女の子が苦笑して言った。

「ああ、うん。そーね。ハハ……」

俺も笑うしかない。どうやらブルマさんには『噂とかされると恥ずかしいし……』的なときめきメモリアルチック回路は存在しないようだ。

金髪の女の子に小さく手を振ってからブルマのいる席まで移動する。

ブルマの右隣に腰を落ち着けた途端、左頬を抓られるように引っ張られた。誰が犯人かは言うに及ぶまい。

「いてっ! ……な、何すんだよ」

抗議した俺にズズズイっとブルマが詰め寄った。

「遅い!」

いったい何の話だ? と俺が固まっているとブルマはぷいっとそっぽ向いて小さな声で呟いた。

「…………ガールフレンドの隣が空いてるんだから、真っ先に来なさいよ。全くもう」

……うむ、なんだ可愛らしい所もあるじゃないか。

「いやあ、悪い悪……」

「っていうかいきなりエレンの隣に座ろうとしたのは怪しいわ……。あんたまさかブロンドの方がいいなんて言うんじゃないでしょうね?」

俺の謝罪を遮るようにそう言い放ち、ゆらりと幽鬼の如く振り向いたブルマの表情は正に般若であった。

エレンってさっきの可愛い娘? と反射的に聞き返そうとして俺は慌てて口を押さえた。うっかりと口にしてしまえば世にも恐ろしい目にあうに違いない。

「おーい、後ろの! さっきからうるさいぞ。ホームルームするから静かにしろー!」

バンバンと出席簿らしきものを教卓にたたきつけてジャージマン(仮)が俺たちを注意した。

「……まあ、いいわ。話は後にしましょ」

ブルマは渋々角を引っ込め、頬杖ついて窓の外に視線を背けた。

ふう。正直助かったぜ。ありがとう! ありがとうジャージマン(仮)! あとはホームルームの間にブルマさんの頭が冷えてくれるよう神に祈るだけだ。

……ところで祈る先はやっぱり緑色のナメクジで良いのか?





















ヤムチャしやがって……

第13話『後ろから二番目の窓際は主人公の指定席。俺? 俺は座っていないがそれが何か?』























朝のホームルームが終わると、ほとんど交代するように数学の教師が教室に入って来てそのまま授業がはじまった。

制服もないし教室の雰囲気も日本と随分ちがうせいもあって、てっきりアメリカみたく生徒の方が各学科に教室移動するのかと思っていたから、意外といえば意外な感じがした。

ちなみに入学シーズンも日本と同じように春らしい。妙なところで日本と同じ部分がちらほらとある。このあたりはついつい『原作者が日本人だからかね』なんて穿った見方をしてしまう。こう言う考え方は既に現実としてこの世界で生きている身としてはあまりよろしくない気がするのだが、未だに完全には抜けきらない。 

授業の内容そのものは、世界が違うとはいえ数学はどこまでいっても数学でしかないらしく俺の見る限り、前世と全く同じものだった。過去の記憶を思い出しつつ、なんとか内容についていける。これが物理とかになると結構変わってきそうで怖い。歴史なんかだと覚えるしかないと、諦めもつくのだが。

そんなこんなでしばらく大人しく授業を受けていたのだが、授業中にちょっかいを出してくるのではと予想していた隣のお嬢さんが予想外に静かなので、気になってふと横目で様子をうかがった。機嫌の善し悪しはよく見て取れないが、見る限り冷めた表情で退屈そうに窓の外を眺めていた。

……もしかして高校程度の授業には興味も湧かないのか。単に勉強嫌いって感じでもないしな。しかしお前、そんな風にしてたら空からデスノートやらなんやら落ちてきても知らんぞ。

俺の視線に気づいたのか、不意にブルマが窓の外から目をそらしこちらに振り向いた。

「……なに?」

ブルマが声をひそめるので自然とこちらの声も小さくなる。

「あ、いや。なんつーか、その……もうちょっと俺に構ってくるかと思ってたもんで」

「ふふふ、なに、構って欲しかったわけ?」

くっそう。ニヤニヤしおってからに。

「べ、別にそういうわけじゃねーよ……なんだよ、さっきは怒ってたくせに」

「よく考えたらブロンドだろうが何だろうが、わたしの方が断然可愛いわけだし。嫉妬するのもどうかなって」

なんという傲慢な回答。普通なら冗談半分だろうが、この娘に限っては九割方本気で言ってそうなところが怖い。

「……それにヤムチャが妙に真面目に授業受けてたから、なんか話しかけにくくってさ」

妙? 妙ってお前。……失敬な。

「俺、家でもちゃんと勉強してたろ。編入試験のために」

この高校は私立校であり、俺の一応の保護者にあたるブリーフ博士から莫大な金額の寄付を受けている……らしい。だからといって、もちろん試験も無しに入学することは出来ないので、短期間なれど真面目に勉強にいそしんだのだ。

ただ、小耳に挟んだ話によると寄付金の額はちょっと洒落にならん額らしいので、点が足りない場合に下駄をはかせるくらいの事はしそうな気もする。もっとも自己採点では充分合格圏に入ってたからそれはないと思いたいのだが。

「そう言われればそうなんだけどさ。ヤムチャの顔ってあんまり勉強が似合う顔じゃないんだもん」

どういう顔だ。……いや、実のところ理解はしている。俺はハッキリ言ってイケメンだ。十段階評価でいえば八から九くらいの評価は頂けるものとの自負がある。しかしながらイケメンには賢そうなイケメンと頭が軽そうなイケメンの二種類があり、残念ながらどちらかとえいば俺は後者に属しているのだ。

「悪かったな馬鹿そうで」

「そこまでいってないじゃない。ま、もっと目元が鋭ければ知的に見えるかもとは思うけどね~」

自分でいうのもなんだがちょっとたれ目気味だからな。しかし、目元……目元なぁ……。

「こーか?」

キリッ。

「ぷっ、アハハハ! 何その顔!!」

ウケがとれました。しかし鏡がないのでどんな顔になってるのかわからん。

「お前らいい加減にしろ!」

いつの間にやら声が大きくなりすぎていたらしく、温厚そうだった数学教師が顔を歪め、怒声を上げてチョークを投げてきた。もっともその軌道は俺やブルマからは大きく逸れている。このままだと俺たちより一段前の席に座っている黒髪の女子に当たることになるだろう。

男子ならほっとく所だが、何も悪くない女の子が俺たちのせいで痛い目にあうのはちょいと心苦しい。俺はさほど慌てるでもなく、主観的にはのんびりとさえ言える速度で立ち上がり、女生徒の顔前に後ろから手を伸ばした。

人差し指と中指の間で挟むように作った隙間へと、予定調和のように音もなくチョークが収まる。

「ひっ!?」

黒髪の少女が短く悲鳴を上げた。彼女からすれば、目の前にチョークを挟んだ手がいきなり現れたように見えたろうから、そら、ま、驚くわな。

「先生。騒いで済みませんでした」

一言謝ってからチョークを投げ返す。狙いたがわず投げたままのポーズで固まっている教師の指にスポッとはまった。

「……あ、ああ。うん、分かれば……よろしい」

鳩が豆鉄砲くらったような顔をして、数学教師はチョークと俺とを交互に見てから呟くような声で呻いた。

それをきっかけにワッと教室が湧き、ちょうどそのタイミングでチャイムが鳴った。

「すごーい!! ねえ何? 今の何!?」

前の座席に座っていた黒髪の女生徒がはしゃいだ声を出して、くるりとこちらに向き直った。

ボブカットにメガネ、黒髪もあいまって一見酷く真面目そうな、しかし可愛らしい容貌の持ち主だ。もっとも大人しそうなのは外見だけで、その瞳は好奇心で爛々としていたのだが。

その事に一瞬気圧されて、言葉に詰まった俺は「え、あ」と意味のない言葉を漏らし、彼女に何か答える前に、

「おい! お前スゲーな!!」

「ヤムチャくんだっけ? 今の何なの!?」

「NINJAだろ? おまえ絶対NINJAだろ?」

「汚いなさすが忍者きた(ry

と、同じように好奇心にとりつかれたクラスメイト達に取り囲まれてしまった。

うわぁ……人垣の間にチラチラ見えるブルマさんの表情やばいナリ。

不機嫌さMAXです。たぶん俺を取り囲んでる連中に女子の割合がかなり多いのがまずいとみた。かといってクラスメイトを乱暴に押しのけることもできず、結局次の授業がはじまるまで俺が解放されることはなかった。

その後もほぼ毎度休み時間ごとにクラスメイトに取り囲まれ、授業中はブルマさんの冷たい視線に晒され続けた。俺の心に再び平穏が訪れたのは放課後になってからのことであった。












「目立つの禁止! いいわね」

開口一番、びしっと俺に指を突きつけ、ブルマはそう宣言した。

放課後になるや否や大慌てで下校し、ブルマのエアバイクに2ケツさせてもらってやっとこさ家に着き、バイクから降りてほっと一息ついたところへの急な宣告である。

思わず「え? そんな目立ってた? 美しさって罪だな」と非常に頭の悪いセリフを口走ってしまったのもやむを得ないだろう。

「アホ! 武術だか格闘技だかをやってるせいで身についたその非常識な運動神経を見せびらかすなっていってんの!! ……そりゃ、まあ、確かにあんたはカッコいいわよ? 十段階評価で七をあげてもいいくらいにね。でもそれだけであの食いつきはあり得ないわ」

地味に評価が辛いっすブルマさん。

「あんたの運動神経は言ってみれば誘蛾灯ね! 誘蛾灯」

精々好奇心くらいしか引きつけてなかったような気もするんですが。NINJA! NINJA! 言われてたし。

「……ヤムチャが凄いってことは、わたしがよーっく知ってるんだから、必要以上に周りにアピールしなくてもいいでしょ? ごく常識的な範囲で『運動が得意』くらいにとどめときなさい」

「へいへい、了解ですよ」

「それとあんた女の子見るたびに結構可愛いとか思ってなかった? いや思ってたわよね」

えっ? ちょ……おま……話の矛先変わってね? これだから女は怖い。話がポンポン飛ぶんですもの。

「お、思って……ないですじょ」

すっとブルマから目をそらしつつ答える。

「わたしの目を見る!」

バンっと頬を乱暴に両手で挟まれて、グイッとブルマの目の前に顔を持って行かれた。

「……あの……その、なんでわかったんでしょうか?」

ブルマの迫力に自然と敬語になる。

「あれだけデレデレ鼻の下伸ばしてりゃ嫌でも分かるわよ」

自覚は無い。自覚は無いが、確かに女の子に囲まれて全く嬉しくなかったのか、と問われれば答えはNOである。女っ気の少ない生活(鶴仙流での修行)が長かったのだ。少しばかり大目に見て頂きたい。

「わーお。そいつはビックリだNE☆」

てへっと笑って見せてもブルマの表情は変わらない。変わらないというか益々厳しくなってきた。

「えーと……ほらブルマの方が美しいんだから嫉妬なんてしないんじゃなかったっけ?」

昼間学校でブルマが言ってたセリフを思い返しながら抵抗してみせる。

「それはそれ、これはこれよ。……第一これ嫉妬とかじゃないもん。勘違いしないでよね」

なぜそこでちょっとツン要素が入るのだ。

「……で、でも美しいものを美しいと、可愛いものを可愛いと、そう感じる事はしょうがないだろう? 別にナンパとかしてないし、ちょっと可愛いなーって見てただけだぞ」

と慌てて弁明するも、

「じゃあ、キョロキョロとクラスの女子に目移りしてたボーイフレンドにイライラするのも仕方ないわよね」

と返されれば、ぐうの音も出ない。というかブルマの両手にどんどん力が加わってきたため、頬がむにゅっと押しつぶされており物理的な意味で反論不可能である。

俺をやり込めたことで少しは気が晴れたのか、ブルマは俺を解放すると一つため息をついて言葉を続けた。

「……まあ、いいわ。とにかく! 明日、特に体育の授業では大人しくすること! いいわね!」

いいわね、といわれてもどうせ拒否権など認めてもらえそうにないので、俺にとっての選択肢は『無言で肯く』の一択であった。








次の日、さすがに飽きられたのか俺を取り囲むクラスメイトは激減し、昨日俺が助けた黒髪のメガネ少女と他二、三人を残すのみとなっていた。

これならさほどブルマを刺激することもあるまい、と幾らか安堵していたのだが、どういうわけかブルマの機嫌はむしろ降下し、俺に接近しようとする彼女らをギラリと光る目つきで威嚇して、俺の心胆を寒からしめたのであった。

緊張感で俺の寿命がストレスでマッハ……もとい寿命を著しく削りはしたものの、なんのかんので初日よりは静かな時間が過ぎ去り、本日最後の時間割となるジャージマン(仮)の体育の授業まで無事こぎ着けた。

昨日と色違いではあるものの同じジャージを着ている彼の指導の下、クラスはまず男女で分けられ、つぎにそれをまた半分に割った。つまり男子18人、女子16人なので男子が9人2チーム、女子が8人2チーム出来たことになる。

チーム分けなんぞして何をするのやらと思っていたら、「野球するぞ」とのジャージマン(仮)からのお達し。男子は9人でちょうど良いし、女子にしてもどうせ外野まで打球が飛ぶことはほとんど無いので、外野を減らして調節するという。

「さて、どーしたもんか」と俺がぼけっとしてると、髪を短く刈り上げた少年が近寄って来て、グローブを投げて寄越した。

「ヤムチャだっけ? お前結構な田舎からきたんだろ。野球知ってるか?」

聞きようによってはこちらを馬鹿にしてるようなセリフだが、口調に悪意が込められた感じはしない。

「まあ、一応な。”こっち”の野球と全く同じかどうか分からんが」

前世での野球のルールなら分かるが、こちらの野球が同じものとも限らない。

「ああ、あるよな。地方行くとローカルルールってやつが。俺も昔親父の故郷でベースの数が一つ足りねえやつ見たことあるぜ」

俺のつぶやきを勝手に解釈して、少年はしゃべるのを続けた。……どうでもいいが、はたしてそれは野球と言っていいのか? 三角ベースじゃね?

俺が怪訝そうな表情でも浮かべていたのか、少年はさも大事なことを思い出したかのように「あっ」と表情を変えた。

「わりい。わりい。自己紹介がまだだったな、俺はクリップって言うんだ。よろしくな」

少年、もといクリップ君とやらはそう言うとニカっと笑って右手を差し出してきた。

「こちらこそ、よろしく頼むぜ」

差し出された右手をぐっと掴んで俺も笑った。

俺はそこに友情の萌芽を感じ取っていた。





……後から考えると、これがまずかった。







「あっ!?」

カッキーン、とバットから生じたひどく小気味の良い快音が青空の下で高らか響き渡った瞬間、俺は思わず声を漏らした。

五回裏、我がチームは3対4で負けており、一死三塁の場面で俺に打順が回ってきたのである。

ホームランを打つのは容易いが、昨日のブルマとの約束がある。三塁にいる走者を何とかホームに帰せるくらいの、しかしながら大して目立たない適度な当たりが欲しかった。

ならば犠牲フライでも打ってやろう、と俺としてはボールを優しく小突いてやったつもりだったのだ。ところがゆるーい外野フライに打ち上げたつもりの球は少々力が入りすぎていたらしく、外野を大きくオーバーして大空の彼方に消えていったのであった。完全にホームランである。

こちらに転生してきてから初めて至極真っ当な友達らしいものが出来たことに、少々気が緩んでいたと言わざるを得ない。我ながら恥ずかしいが、どうやら結構嬉しかったらしくフワフワした心持ちだったのだ。

俺は青空に消え行く白球を呆然と見つめつつ――やっちまった、と内心大いに狼狽えた。「やったな! おい」と肩を叩いてくれるクリップにハハハと乾いた笑いを返す。

大いに盛り上がって歓声の沸く我がチームを横目に、「これってブルマさん的にアウト? それともセーフ?」という判断を求めて、女子がプレイしてる側のグラウンドの様子をうかがうと、そこには殺気ばしったブルマさんの姿が。




と、次の瞬間! 「葬らん」とばかりにバットを持って襲い掛かってきたではないか! これにはさすがのヤムチャさんも苦笑い

それにしてもこの少女、ノリノリである。



――1時間後、そこには元気にブルマの説教を受けるヤムチャさんの姿が……!



「もう二度とホームランを打ったりしないよ」

「……誰に向かってしゃべってるわけ?」

ブルマさんの冷たい声にハッと我に返る。回想していたら、途中から世界○見え風味の妄想が混じりはじめていたらしい。

実際にはバットを持ったブルマに襲われたりはしておりませぬ。ただこちらに一睨みくれてから、ブンブンと数度フルスイングの素振りをされたくらいでござる。……あの時ブルマのイメージの中では、ボールの代わりに俺の頭でもカっ飛ばしていたに違いあるまい。

試合が終わった後にこうしてグラウンドの隅でセッキョータイムに突入しているのは残念ながら現実なのだが。

「何もホームランを打つなっていってるワケじゃないの。自重をしなさいっていってんの」

「ぶっちゃけその二つの違いがよく分かりません」

「あの後も、ホームランになりそうなボールをジャンプして捕ったり、ピッチャーやってバッター全員討ち取ったりしてたでしょうがっ! 目立つなって言ったのにいきなり大活躍してどうすんのよっ!?」

一回やっちまったし、まぁいいか、と開き直って結構な活躍をしてしまった俺であった。まあ、ホームラン性の当たりを強引に捕球したのはちょっとやり過ぎで、周りに若干引かれてしまったりもしたのだが。

「はっはっはっはっ!」

「笑ってごまかすなっ!」

「……だって思った以上に歓声が気持ちよかったんだもの」

あれは一種の麻薬だあね。いや間違いない。

地味で目立たない子供がちょっとした特技でウケをとったり、賞賛を受けたりしたことを切っ掛けに、芸人や歌手を目指したりって話をよく聞くが、正直ついさっきまでは「内気な子がそうそう変われるかよ。ハハッ! ワロス」とか思ってた。しかしこれは確かに一度味わうと癖になるかもしれない。

前世ではこういう経験無かったから耐性がなかったってのもあるかもしれないが、賞賛を含んだ歓声を浴びて『もっと……もっと褒めてくれ』とヘブン状態になってしまったのは、後から冷静になるとかなり恥ずかしい。

「ほんと、お調子者なんだから」

うわぁお、ブルマさんの評価が正確すぎますぅ。

「……はぁ。……ま、別にズルしてるワケでもないし、よく考えたら自分のボーイフレンドに目立つなって言うのも変なのかもね」

「は?」

「いっそのこと全部の部活に助っ人で呼ばれるくらい目立っちゃう? ……あ、うん、これ案外良い考えかも! 大活躍させて高嶺の花にしちゃえばいいんだわ。そうすればきっとコバエもたからないハズ……」

コバエて……俺は汚物か何かか。っていうかだな、話がとんでもない方向に行ってないか? 主にブルマさんの中で。

「さ、そうと決まったら早速運動部に売り込みかけるわよ!」

「ちょ、ちょっと待て!」

「待ったげない!」

俺の手を引っ掴んで走り出すブルマはそりゃもう楽しそうであった。

一方の俺はと言えば、面倒だという思いもあれど、懐かしくも新しい学校生活が悔しいことに中々楽しかったりするのだった。











何ヶ月ぶりとかもうそういうレベルじゃない。年をとると時が経つのが早くていかんですな。



[6783] 第14話『その昔、バトルスカウターという玩具があってだな……』
Name: ヤムちゃん◆be3dca6e ID:ffb5e58f
Date: 2011/08/28 20:00
 
眼下をゆるゆると流れる世界は少しずつ姿を変えていき、西の都を発った頃とはまるで違う表情を見せている。ふと腕時計を確認してみると、出発してからかれこれ6時間近く経っていた。
 
速度を落としていたとはいえまだ初心者であるプーアルにこんな長距離飛行は早かったか、と後ろを伺う。ちょっとばかりフラフラしながらもしっかりとプーアルはついて来ていた。なかなかの根性である。……帰りは無理そうだから背中に乗せてやろう。
 
「こんどは見つかりますかね~?」
 
俺の視線に気づいたのか、プーアルはその余裕のなさそうな飛行とは裏腹に気楽な調子で口を開いた。
 
「今回こそは期待したいけどな~。先週行ったユンザビットは正直ちょっと広すぎた。後のほうとか集中力切れちゃってたし」
 
変なところが真面目なマイに押し切られるように宇宙船探しのお預けをくらっていた俺は、最初の連休を迎えるや否や待ってましたとばかりにユンザビット高地へと飛んだ。……飛んだはいいが、結局宇宙船は見つからず仕舞い。あそこはやたら広い上に、似たような景色が延々続くのだ。その時はプーアルだけでなくブルマとマイ、おまけにウーロンまで物見遊山気分でついてきたんだが、あまりに退屈で俺一人を残して早々にみんな帰ってしまったくらいだ。
 
まあ、宇宙船があると確信していたのは俺くらいだったろうし、仕方ないといえば仕方の無いことではある。俺だって前世で友達に「徳川埋蔵金堀に行こうぜ!」っていわれたら、半日も付き合わずに途中で帰るだろうし。……いや、付き合う以前に「アホか」の一言で切って捨てそうだ。……だからこそ今回のパオズ山周辺の探索には、前回みたくブルマたちが同行して無いともいえるわけだが。
 
「そういや、何で今日もついてきたんだ? 別にブルマたちと留守番しててもよかったのに。宇宙船があるかどうかも分からないだろ」
 
ふと疑問を覚えてプーアルにそう尋ねると、不思議そうにカクンと小首をかしげた。
 
「え? ヤムチャさまの超能力で、宇宙船があることを知ってたんじゃないんですか?」
 
「え?」
 
「え?」
 
なにそれこわい。
 
「俺、超能力持ってんの?」
 
「だ、だってカリンさまの所でそうおっしゃってたし、カリンさまもあんまり未来に関して吹聴したりしないようにって注意を……だからボク、みんながいるところではそういう話をしなかったんですよ!?」
 
あ、ああ! 原作知識もとい予知能力(笑)のことな。不意に超能力とか言われたから一瞬何のことだか分からなかったぜ。
 
「すまん、すまん。確かに未来予知的なもので宇宙船があることは知ってた」
 
「『的』?」
 
「まあ、超能力的なモノとは違うんだ俺のは。ま、その、なんだ、あまり深く突っ込まないでくれるとありがたい」
 
「は、はぁ……」
 
あんまり納得いってなさそうだが詳細に説明するのも面倒だし、なによりちょっと抵抗がある。
 
なにせ『実はこの世界は年収十数億といわれるビッグな漫画家が書いた漫画の中の世界なんだぜ! キラッ☆』とか言っても信じがたいだろうし、逆に真に受けられてもそれはそれで困ったことになるやもしれんしな。なんとなれば己が架空の世界のキャラクターだと、自己の実在性を疑う事態にもなりかねんわけで。
 
自己の実在性を証明できるのは主観しかないからね。自分が本当にここにいるのかなんて無意味な問いを自分にに問いかけるのは精神衛生上よろしくないのでないかと思うのですよ。いや、カリン様はあっさり信じてあっさり流してたけども。ま、あの人(猫)は精神的にもそれなりに修行積んでるし。
 
俺にしたってこの世界や自分自身に色々思うところもある。……あるが、それらについては考えても無駄だという結論をとっくに出してしまっているだけの話。それに実は本当に予知能力があって、『現実』なんていうこの世界よりひとつ上のメタな世界があるという妄想を信じている狂人という可能性もなくはないしな。いやむしろその方が可能性としては現実的なんじゃね? やばっ! 考えてたら久しぶりに怖くなってきた。おお、こわいこわい。
 
「あ、そろそろパオズ山のへんですよ」
 
怖くなり始めた俺の思考を遮る一言がプーアルの口から放たれた。いつの間にか地図を広げて地形を確認している。
 
どれどれ、と俺も広げられた地図を覗き込む。空からだと地形を地図と見比べるのが楽だ。等高線からおぼろげに想像できる立体図と眼前の山は、なるほど確かに一致している。アレがパオズ山、か。
 
「……あ、ひょっとしてアレじゃないですかね。宇宙船って」
 
俺がパオズ山の方を見ていたら、突然プーアルがそんな事を言って下に向かって指を差した。いやいや、そんなバカな。
 
「そんなすぐに見つかるわけが……あ、あぁぁ!?」
 
いくらか風化してはいるものの大地を生々しくえぐったクレーターの真ん中に丸い人工物があった。
                          
慌てて降下してよく確認してみるも間違いなくポッド型のあの宇宙船である。
 
「バ……バカな…… か……簡単すぎる…… あっけなさすぎる……」
 
「簡単な方が良くないですか? あ、それより入り口があいてますよ」
 
追いかけるようにして降りてきたプーアルが実も蓋も無い事を言い放って、興味深げに宇宙船内部を覗き込んだ。
 
「なんかボロボロです」
 
「なんだと」
 
続いて中を確認してみると、雨風が入り込んだのか確かにだいぶ汚れてしまっている。赤ん坊の悟空を乗せるためなのかシートの上にクッションのようなものが詰められていたが、ずいぶんボロボロになっているし、シートの横のスイッチコンソールなんかも散々誇りをかぶっていて、尚且つ床には水がたまっている始末。機械的、電子部品的な保全状況についてはかなり期待薄といわざるを得ない。
 
「うーむ、ポイポイカプセルにしまう前にせめて水は出しとくか」
 
「そのほうがいいかもしれませんね」
 
ポッドを持ち上げてからゆっくりと傾け、水をバシャバシャと流しださせていると、ゴトっとポッドの中から何か機械らしきものが落ちてきた。
 
「何か落ちましたよ」
 
プーアルがそれを拾ってこちらに見せた。
 
「なッ……これは!……アレじゃあないかッ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ヤムチャしやがって……
 
第14話『その昔、バトルスカウターという玩具があってだな……』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「えっとちょっと待ってね」
 
ブルマにそう言われて思わず棒立ちになる。昔からカメラに写されたりするのはどうにも苦手なのだ。
 
「別にそんなにかしこまらなくてもいいわよ。カメラじゃないんだし、画面に映らないといけないってわけでもないんだから」
 
「さいですか」
 
こちらとしては、かしこまっているつもりなど毛頭ない。自然とカチコチに体が固まってしまうだけだ。
 
ブルマがカチリと機械を操作すると、ピピピピという小さな電子音がした。
 
「えーっとね……お、さすがね! 137だって」
          
ブルマから伝えられた戦闘力の数値に俺は小さくガッツポーズした。
 
「うおっしゃ! 我ながらなかなかの数値だ! ほんじゃ次はちょい本気で『気』を入れてみるからもう一度頼む」
                                          
ブルマが構える馬鹿でかいビデオカメラみたいな機械の前でゆっくりと『気』を高めていく。ちょい本気とは口では言いつつ、実のところ完璧に本気であったりする。
 
『気』が最高潮に高まったと思われたところで、「どうよ?」とブルマに測定を頼む。
 
「えーと、153だって。結構簡単に上下するもんなのね」
 
ブルマからの報告に我ながらなかなかのモンじゃないかと満足して、一気に力を抜いた。真・狼牙風風拳を使えばもっといくだろうが、こんなことで無茶をするのも馬鹿馬鹿しい。
 
「あのー、ブルマさん。さっきからこれ何なんです?」
 
ラボの端で興味深そうにこちらを伺っていたマイがおもむろに口を開く。
 
「ヤムチャが例の宇宙船から拾ってきた機械を修理したのよ。まぁ、ずいぶん不恰好になっちゃったけど」
 
俺が見つけた機械――というかぶっちゃけスカウターなんだが――は案の定というべきか壊れていた。それを動かない状態のまま持ってかえってブルマに見せたらこうしてあっという間に修理が完了したというわけだ。……もっともブルマの言う『不恰好になっちゃった』とはまさしくその通りで、見た感じ既にスカウターの原型はなかったりする。こんなでかい物をスカウターみたいに装着するのはおそらく無理だろう。
 
「何かの測定器なんですか?」
 
「ああ、そいつは戦闘力をはかる機械なんだ」
 
マイの問いに答えてやると、オウム返しのように「戦闘力?」と返ってきた。
 
「文字通り、強さを数値化したモンだ」
 
「え? そんな事できるものなんですか?」
 
……なるほど、確かによく分からん代物ではある。
 
『気』の量を測定しているのか、総合的な戦闘能力を測定しているのかもわからんしな。十中八九前者だとは思うが、先日宇宙船のおまけで入手しただけの俺が詳しく知っているわけがない。単に原作知識で戦闘力が測れる機械だと知っているに過ぎないんだからな。
 
「理屈はよく分からんができるみたいだぞ」
 
俺が適当に答えると、ブルマが大いに呆れを含んだ視線を向けてきた。
 
「あんたが『これで強さが分かる』なんて言ってきたから半信半疑で修理してあげたけど、なんの根拠もなくわたしに修理を頼んだわけ?」
 
「根拠はあるが理屈までは知らん。というか、どうでもいいがお前もよく初見で異星人の機械なんぞ修理できたな。もう修理というか作り直してるレベルだけど」 
 
「コアな部分はいじってないわよ。だめになってた電子部品を地球製の代用品と交換しただけだし。……とはいっても少しは仕組みも理解できたけど。あんたが『気』って呼んでるエネルギーの量を直接測ってるんじゃなくて、『気』が時空にあたえる歪みを測ってるらしいってことくらいはね」
 
「……時空の歪み?」
 
「極わずかなものだけど、その時間変動が波動として放出されるのよ。重力波……と少し似たようなものっていえばいいかな」
 
思わず問い返すと、なんら理解の手助けにならない回答が返ってきた。俺がよほど渋い表情をしていたのか、ブルマは少しばかり間を空けてから言葉を続けた。
 
「……かなり語弊があるけど、空間を押す圧力みたいなものを測定してるとおもってくれればいいわ」
 
「お、おう」
 
なんとなく分かったような分からんような。……潜在的なパワーをスカウターで測定できないのもあるいは『気』そのものではなくてその圧……みたいなものを測っているからか?
 
「それより、わたしあんたの言う根拠ってやつが気になるんだけど」
 
「もしかして、もしかして! 宇宙船を本当に見つけちゃったことに関係アリですか!?」
 
ブルマの言葉を遮るようにして、唐突にズズイっとマイが間を詰めてきた。というか近すぎです。
 
「ま、まあそんなトコだが、ちょっと待て。顔が近い! 近いって!」
 
その顔を押しのけるようにしてマイを遠ざける。
 
「ふーん……前の連休のときもいきなり『今から宇宙船を探しに行ってくる』とか言うから驚いたけど、アレもある程度確信があっての発言だったわけか……。あの時はてっきり変なオカルトにでもかぶれたのかと思ったわよ」
 
ブルマさん、アナタそんな事思ってたの? もっと俺を信じてくれ、とまでは言わないが、ちょっとばかり酷くはないかい?
 
「要は宇宙人について何か知ってるって事でいいのかしら?」
 
腕組みしてトントンと人差し指でリズムを取りながら、ブルマが推理めいた問いを投げかけてきた。
 
「……確かに、まあ、その、なんだ。ちょっとした伝手で、この地球に少なくとも2種類の宇宙人がいることは知ってるけどな。宇宙船があるってのを知ってたのもそのせいだ。つっても詳細は俺の師匠の一人から口止めされてるんで話せない。それに俺自身もあんまり話したくないんだわ」
 
絶対に話せないわけじゃないけども前世の話とか未来の話とか信じて貰えたら貰えたで面倒事になるかもしれないし、全然信じて貰えなかったら俺がただの痛い人みたいだし、どっちにしろいいことが無い。
 
「……ま、いいわ。空飛んだり、手からビームだかなんだかわかんないもん出しちゃう人だもんね。話せないこともあるわよね」
 
諦め早っ! っていうか、なにその諦め方。正体を明かせない宇宙人(なんかこうウルトラマン的な)が気遣われてるみたいじゃないか。気のせいか妙に視線が生暖かい。
 
「……いっとくが俺は宇宙人じゃないからな」
 
「あら、違ったの?」
 
しれっとした顔でそんな事をのたまうブルマ。そんな彼女を掻い潜るようにしてマイが再び急接近してきた。
 
「私はヤムチャさんの過去に興味ありますけど」
 
「いや、だから近いっての! 距離を、適正な距離を保とう!」
 
グイグイと近寄るマイを押しやって遠ざけてると、「なに騒いでるんですか~」とプーアルがラボに顔を出した。どうやら小学校が終わって帰ってきたばかりらしく、まだカバンも置いていない。プーアルとウーロンの二人も俺と同じく、ブルマの両親の援助の下学校にいかせてもらっているのだ。
 
「あっ、ヤムチャさまからはなれてください~! マイさん! はなれてくださーい!」
 
こちらを見るやトテテーっと走って来て、俺とマイの間に強引に体を割り込んでマイを引き剥がした。そして少し落ち着いてからキョロキョロと辺りを見回すと、プーアルはあらためて疑問を口にした。
 
「えーっと……何やってたんですか? その機械は?」
 
「これ? これはあんた達が持って帰った機械を修理したのよ」
 
「え、形が全然ちがいますけど」
 
ブルマの答えにいぶかしげな表情を作るプーアル。
 
「ま、気持ちは分かるがな。あ、そうだプーアルお前もちょっと測ってやるから、そこにちょっと立ってみ」
 
「はかる?」
 
「いいからいいから」
 
よく分かってなさそうなプーアルにスカウター改を向けさっそく測定する。ピピピッと出た数字は21。ふむん、もうちょいあるかと思ってたがこんなもんか?
 
「プーアル、前教えたように『気』を入れてみろ」
 
「は、はいっ!」
 
俺の言葉に従ってぐっと『気』を練り始めるプーアル。するとスカウター改に表示されていた数字は見る見る上昇し、25で止まった。ほとんど修行もしてない小娘には破格の戦闘力だな。……地球人であれば、だが。ま、サイヤ人としては下級戦士クラスだろうなあ。願いをかなえるときに悟空と同じ種族って解釈されたみたいだから、同じ下級戦士のサイヤ人になったのかしらん?
 
「『気』を入れる前が21、入れた後が25だな」
 
スカウター改をテーブルの上に置きながら、プーアルに数字告げると、「はぁ。……なんの数字ですか?」と小首をかしげた。
 
「戦闘力だ」
 
「?」
 
分かってなさそうなプーアルにブルマが言葉を継いだ。
 
「強さを表す数値、らしいわよ。そこのお調子者が言うにはね」
 
日に日にブルマさんの俺に対する扱いが悪くなっていくのは何故なんだぜ?
 
「ヤムチャさまはお幾つだったんですか?」
 
「137だ。そしてなんと『気』を入れた後は……フフフ、153だ!」
 
「うわああ! スゴイ!! さすがヤムチャさま!」
 
キラキラと目を輝かせた憧れの視線に悪い気がするはずも無い。
 
「うむうむ、苦しゅうないぞ、近うよれ」
 
と、言いつつ自ら近寄ってプーアルの頭をワシャワシャとなでてやる。同じサイヤ人でも悟空の硬い髪質と違って、プーアルの髪はかなりサラサラしている。女だからだろうか?
 
「えへへ」と目を細めて喜ぶプーアルにしばし和んでいると、下からすくい上げるようにして撫でていた手が取り払われた。もちろんプーアルの仕業ではなく、天才女子高生様の所業である。
 
「ロリコンはだめよ」
 
「おまえはなにをいってるんだ」
 
いや、本当に何を言い出すのこの娘?
 
「ちょ、ちょっと待ってください! なんでプーアルさんのときだけそんなに対抗意識を燃やすんですか? さっき私がヤムチャさんに迫った時とか変に冷静だったじゃないですか? 余裕ぶられるのには、なんかこう、釈然としないものを感じるんですが」
 
マイの疑問に、ブルマはチラリと俺のほうを窺うと神妙そうな顔をしてそっとマイに耳打ちした。
 
「わたしより若いって事は、わたしが年取った頃にピチピチだってことなのよ? 若い芽は早めに摘んどかなきゃ」
 
……ひそひそ話はもっと小声でやれよ。俺に聞こえとるがな。……というか、どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。こいつ、早く何とかしないと……どんどんアホの子に……。
 
「……え、それって間接的に私のこと年増だっていってません? わたしだってピチピチですよ? ピチピチですよ?」
 
マイさん、そこ大事なトコなんですね。わかります。
 
「ピチピチ? ふふふ、はたしてそうかしら?」
 
「いやいや、ピチピチですから。触って確かめてみてくださいよ。ほら、ほら!」
 
「やだ、へんな所さわらせないでよ!」
 
あれ。なにこの百合百合しい光景。……素敵やん。
 
俺がホンホンと盛り上がっていたら、クイクイっと裾を引っ張られた。プーアルである。
 
「ヤムチャさまー。そろそろ修行しましょー?」
 
……ああ、そうだな。確かにそろそろ修行の時間だし。こんな教育上よくない光景を小さな娘に見せるのもアレだ。
 
俺はコクリとうなづくと、「だったら、どれだけピチピチか確かめてあげますよ!」「ちょ!? マイ! ホントにやめっ……!」とかの不穏なBGMをバックにプーアルとラボを立ち去ったのだった。
  
ちなみに、ウーロンはラボの入り口の脇に隠れながら息を荒げてカメラを構えてた。なんか切なかったのでそっとしておいた。
 
 
 
 
 
 
 
「おーい、ヤムチャ君」
 
俺とプーアルが中庭(広いブルマ宅の一階にある、例のやたら広い中庭である)で軽く組み手をしてようやく体が温まってきた頃、ブリーフ博士がひょっこりと現れた。
 
「あ、博士。なんスか?」
 
「例の奴、例の奴」
 
そう言われて一瞬何のことだか分からなかったが、すぐにひとつの事柄に思い当たった。
 
「あー。人工重力装置ですか?」
 
「そうそう。完成したよ」
 
「はやっ!?」
 
宇宙船持って帰ったの昨日の今日だぞ!? 仕事速すぎるだろ常識的に考えて。
 
「いやあ、君の持って帰った宇宙船なんじゃがね。ありゃ、すばらしかったぞ。地球の科学の50年、いや100年は先を進んどった。君の望んだような人工重力発生装置もちょっとした応用でわりと簡単に作れたよ」
 
ほれ、といって俺にホイポイカプセルを渡す。これは? という意味を込めて博士を見ると「既製品のカプセルハウスの中に重力装置仕込んどいたから、外の庭の開けた場所で使ってくれ」とのことであった。
 
さっそく外の庭に出て試すと、半球が地面にへばりついたような見慣れた感じのカプセルハウスが現れた。
 
「みた感じ、ふつうのカプセルハウス……ですね」
 
無警戒にカプセルハウスへ入ろうとしたプーアルを手で押しとどめる。
 
「待て待て、一応俺が試してから入ってくれ。いきなり重力100倍とかに暴走する危険性もあるしな。つぶれたカエルみたいになっちまうぞ」
 
「は、はい!」
 
ちょっとばかりビビらせすぎたかも、と思いつつ扉をあけて中に入る。ハウスの中は殺風景というかなんというか、部屋の真ん中に柱が一本あるだけで、窓すらない。その柱には操作盤というかコンソールというかそんなものがついていた。
 
「ふむん」
 
近寄ってみるとデジタル表示で何Gか示せるようになっていて、その横にはUP、DOWNと記されたダイヤル式の目盛、そして決定と解除と書かれたボタンがある。
 
「すげーシンプル。マニュアル要らずだな、こりゃ」
 
おもむろに目盛をいじるとデジタル表示がピピと数字を表示する。とりあえず10Gにあわせて、――この重力で大丈夫か? と少し悩みつつも決定ボタンを押した。
                        
ブオンと少し低い音がしてから、一瞬の間をおいてそれは急にきた。
 
「おう? ……おおぉぉ!?」
 
分かっていたことだが体がすさまじく重い。俺の体重が70キロくらいだから単純に考えると700キロくらいの負担がかかっているわけだ。とはいえ全身でその体重を支えているので、その数字ほどには重さは感じない。30キロの米袋を持ちながら歩き回るのはかなり苦労するが、30キロの甲冑を着込んでで歩き回るのはそれほど難しいことではない、なんて話を聞いたことがある。ようは体全体にうまく重さが分散していれば意外と何とかなるって話だ。それでも常人なら立つことも不可能だろうが、一応俺も常人の壁はすでに破っているので立つくらいは何とかなりそうだ。
 
そんな話を思い出しながら、なるほどなあ、なんて思っていたら急に体に力が入らなくなった。思わず膝をつく。
 
「あらっ……!?」
 
急に色を失ったように周りが薄暗くなった。視界も変だ。視野が狭いと言えばいいのか、周りがよく見えないのだ。思考も鈍くなっていく中でひとつ思い当たることがあった。血流だ。重力は無論のこと体の表面だけにかかっているわけではない。だから血液そのものにもGがかかる。心臓が普段道理に血液を送り出そうとしても上手くいかなくなるのだ。つまり今はいわゆるブラックアウト現象の一歩手前といったところ。このままだと完全に視界を失って、そのまま意識を失うことになるだろう。
 
慌てて心臓に『気』を込めて賦活する。と同時に強化された心臓による高い血圧に耐えられるように血管を意識しながら体全体に『気』を通していく。数秒ほどしてからすっと体が楽になるのを感じた。たぶんなんとなく体に『気』を通すだけでもそれなりに対応できたとは思うが、怖かったのでかなり細かく『気』の制御を行った。
 
今回のことで気がついたが、高速で動き回る俺達クラスの武道家は移動によってかかるGに対して自然と『気』を使って対応しているらしい。ほとんど無意識、というか本能的な行動だ。だから自分たちの動作でレッドアウトやブラックアウトを起こすことが無いのだと思う。
 
「ふう……こえー、高重力こえー」

ゆっくりと一息ついて、膝に手をつきながら立ち上がる。うん、もう大丈夫だ。いや、しかしプーアルをいきなり入れなくて正解だったかも知れんな。なにせ高が10Gでもこれだ。
 
「うわぁ! ヤムチャさまぁぁ体が重いいぃぃですぅぅ」
 
「っておいぃぃぃぃ!?」
 
なーにやってんのこの子はァっ! いつの間に入ってきたんだよ。
 
「お、お前大丈夫なのか?」
 
「体がすごく重いですうぅぅ」
 
「いやいや、いやいやいや。そんな事は分かってる。目の前が暗くなったり、意識が遠くなったりしないか?」
 
「え? いや別にそんなことないですけど……ううぅ重い」
 
「……あ、ああ、そう」
 
……考えてみればサイヤ人は10Gくらいの高重力下で生まれてくるのだ。地球人とは体の作り自体が違うのかもしれない。とはいえ、この環境では俺を含め今までどおりの修行をするのはかなり厳しい。なにせ上手く動けない。まずはコレに対応できるようにしなければ。
 
「……とりあえずこの環境に慣れるために、ここで鬼ごっこでもするか」
 
「ええっそんなー。……耐えるのがやっとですよー」
  
逆に俺はお前がものすごくあっさり適応するんじゃないかと危惧しているわけだが……。一応師匠的存在である俺が置いてきぼりというのも情けない。
 
よろめき、ぎこちなくも何とか歩けているプーアルを見て、一抹の不安に胸を焦がす俺であった。
 






















一年以上間を空けてしまったにもかかわらず、続きを待ってくれている人に感動して一話書き上げてしまいました。


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