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07/11(月曜日)
去る6月30日、社会保障・税一体改革の成案が政府・与党の本部でまとまり、翌7月1日の閣議に報告されました。
これから、この案をベースに与野党間の協議が進められることが期待されるところですが、今回の「歴史的な意義がある」(6月30日付「先を見すえて」での菅総理のことば)社会保障・税の一体改革は、私たちの暮らしに、どのような意味を持つのでしょうか。
この「一歩一歩」のコーナーでは、これから何回かに分けて、今般議論されている社会保障改革の具体的な内容について、なるべく分かりやすくご紹介いたします。
今回は、総論として、改革の背景と改革案の全体像のポイントを概観します。
《まずは、時代に合わなくなってきた社会保障制度を強化する》
この政府・与党の成案を得るに先立ち、「社会保障改革に関する集中検討会議」では、社会保障に関する見識の高い有識者、現場で奮闘されている実務家、様々な改革提案を行っておられる報道機関などから意見を伺った上で、計10回の公式会合と数多くの非公式な会合を積み重ね、精力的に議論を行いました。
政府・与党社会保障改革検討本部会合(第6回)で発言する菅総理
そもそも「社会保障」と聞いて、皆さんはどのようなことを思い浮かべられますか?
定年後にいくら年金をもらえるだろう、といったことでしょうか? それとも、過疎地や産婦人科でのお医者さんの不足は何とかならないのか、といったことでしょうか? 職を失ったら、ハローワークで仕事は見つかるだろうか、といったことでしょうか?
国民の皆さん一人ひとりが、人生のどこかの段階で必ず関わる「人生のセーフティネット」が社会保障です。その「ほころび」を繕うために、社会保障の機能を強化すること。これが今回の改革の大きな狙いの一つです。
ややもすると、社会保障制度改革は、「制度を支えるための財源をどうするか」という点にばかり関心が向きがちです。もちろん、その点は、大きな課題の一つです。しかし、改革に取り組まなければならない理由は、決してそれだけではありません。
世界最高の長寿社会として少子高齢化が急速に進み、これまでの雇用や家族のあり方が大きく変わる中で、高度成長期に築かれた我が国の社会保障制度が時代の要請に合わなくなってきています。そうした制度をどう強化し、国民の皆さんに安心を与えるものにすべきか、という点が議論の出発点にあります。
《高齢世代のみでなく、子どもや若者にもセーフティネットを》
これまでの制度の「ほころび」の一つに、社会保障によるセーフティネットが高齢世代に偏ってしまっていることがあります。こうした「ほころび」は、若者に先行きに対する不安感と負担感をもたらし、若者や子どもたちの世代に負担が先送りされる結果となってしまっています。
そこで、今般の改革案は、待機児童を解消したり、子どもに質の高い学校教育・保育を実現するといった子育て支援サービスの充実や、若者の安定的な雇用の確保といった具体策を提起しています。こうした課題への対応もまた「社会保障」であるということを明確化することで、世代間の公平を確保し、すべての人が社会保障の受益者であることを実感できるようにすることを目標に掲げています。
事業所内保育所の訪問 新卒予定者、職員との座談会
《地域コミュニティを基礎に安心・良質なサービスを提供》
医療、介護は、住み慣れた地域の中で提供される社会保障サービスです。地域や分野ごとの様々な歪みがあり、持続的なサービスが提供できるのか、各地で様々な不安が広がっています。それぞれの地域の実情に応じて、様々な主体が互いに結びつき、質の高いサービスを効率的に提供する体制を作ること。それも今回の改革の目指すものの一つです。
そのために、地域や診療科間の様々なリソースの偏在を是正したり、大病院と身近な診療所の役割分担を明確化したり、在宅医療を充実させたりするなど、課題は山積しています。これらの課題を解決すべく、診療報酬や介護報酬の体系的見直しや基盤整備を行っていくこととしています。
《経済成長との好循環を図る仕掛けづくり》
従来、経済成長の促進と社会保障の充実は、トレードオフ(相反する関係)だとするのが一般的な考え方でした。今回の成案の中では、経済成長と社会保障が好循環を生み出し、安心に基づく活力が生み出されるような仕組みを作ることとしています。
これまでも政府の「新成長戦略」の中で「医療イノベーション」が掲げられてきましたが、これを引き続き推進します。日本発の革新的な医薬品・医療機器の開発促進や、諸外国で使われているような医薬品・医療機器の承認の迅速化で、国民が待ち望む先端技術の迅速な開発・提供を図ります。また、NPO・民間企業など多様な事業主体による多様なサービス提供を促進し、民間の創意工夫で新たなサービスが創出できるような環境づくりを進めていくこととしています。
《制度の持続可能性を高め、安心をもたらす》
1990年代以降、高齢化の進展により社会保障費が増大する一方で、安定財源の確保が先送りされ、財政赤字の拡大の大きな要因になってきました。我が国の社会保障は、給付と負担が均衡しておらず、財源不足を赤字国債で穴埋めしてきているのが実態です。そのため、現在の世代の受益を将来世代の負担につけ回ししている現状にあります。
そのため、今回の成案では、前述のような社会保障の機能強化を果たすことを念頭に、社会保障の各制度の持続可能性を高める取組をしていくこととしています。
具体的には、国民皆保険・皆年金を堅持したうえで、給付と負担のバランスを前提として制度設計を行います。また、消費税収を社会保障財源化するとともに、経済状況の好転を見たうえで、2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げ、安定財源を確保する、といった点が盛り込まれています。
今後、何回かに分けて、具体的な分野ごとに今回の成案が目指すところを詳述したいと思います。