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働かないアリに意義がある 長谷川英祐著

リベラル日誌

上村祐一 プロフィール

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

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長谷川 英祐
メディアファクトリー
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僕はこれまで進化心理学や遺伝子に関する書物に興味深く接してきた。なぜなら、進化や遺伝子が僕らの行動や意思決定に大きく関わってきていると考えるからだ。僕はこれまで多くの人が興味を抱くであろう物事(真面目な方は嫌うかもしれないが)を、進化心理学や遺伝子が原因であるとして2本ほどブログを書いてきた。だからこそ、僕が本書に惹かれたのは必然だったのかもしれない。

本書の感想を述べる前に、僕がこのような学問になぜ興味を持ったのかということを少しだけお話させて頂きたい。僕の所属する組織はスペシャリストと呼ばれる個人が集まった集合体である。それは専門分野での業務を長期的に継続してきたからこそ獲得された技能に他ならない。僕は昔から特定の部門には似たような性質や技能を持った人が集まることに注目していた。

逆にいえば、そのある特定の性質を持っていなければ、その部門において生き残る事は出来ず、淘汰されてしまうのだ。当たり前のように感じるかもしれないが、この特定の性質や技能を十分に理解することが出来れば、企業が採用活動を実施する際、適切な人材を迅速に見つけ出し、競合他社との人材獲得競争の中で優位性を持つことになるし、採用される側にとっても、性質にマッチした業務を遂行出来るというメリットがあるのではないかと考えたわけだ。もちろん実際にこのような方法を採用するには、もう少し時間と研究が必要だと思うが。

そういうわけで進化心理学と遺伝子の研究には多大なる関心をよせているのだ。少なくとも、僕は腰をすえて話す機会があれば、その人がどの分野に適しているか、又はその人がどの分野で現在働いているかは何となくわかる。(もちろん金融に限ったことであるが)

さて前置きが長くなってしまったが、本書は「真社会性生物」に関する研究を、一般の人にわかり易く示すために、人間社会を例示しながら丁寧に説明しているモノだ。ここで紹介されている生態は奇妙でとてもユーモラスだ。そして個体と社会の関係は、ヒトの社会でも十分に見られることなので実に興味深いものである。

では新社会性生物とは一体何を意味するのだろうか。繁殖を専門にする個体と労働を専門にこなす個体(ワーカー。アリでいうと働きアリ)からなる、コロニーと呼ばれる集団をつくる新社会性生物のことであると説明されている。この中で紹介されている生態で興味深いのは、やはり働きアリの特異な性質であろう。「アリとキリギリス」に代表されるように、僕ら人間にとって、アリは常日頃、一生懸命働き、種の生存のために尽力している生物というイメージであろう。ところが、働きアリの7割はボーっとしており、1割は一生働かないのだそうだ。

このことは、色々な所で言われているので、ご存知の方も多いかもしれない。注目したいことは、働かない理由である。それは「反応閾値を原因として、働きたいのに働けない」というものである。つまり「反応閾値=仕事に関する腰の軽さの個体差」があるため、ある一定程度の仕事量だと働く必要があると感じるものだけが活動を起こし、それ以外は何もしないのである。それを証明する実験として、働かないアリだけを別の場所に集めると、一部は活動し始め、またある一部はそのまま働かないことが分かっている。

著者は働かないアリがいることのメリットを次のように説明している。仕事が一定期間以上処理されないコロニーは死滅するという条件を付加した場合、働かないものがいるシステムのほうが、コロニーは長い時間存続することがわかったというのだ。働いていたものが疲労して動けなくなると、仕事が処理されずに残るため、労働刺激が大きくなり、いままで「働けなかった」固体がいる、つまり反応閾値が異なる個体が働きだす。そしてまたそれらの個体が疲労してくると、別の個体が動き出す。こうして、誰もが働き続け、コロニー内の労働力がゼロになることはなくなるわけである。

これを人間社会に置き換えると、常にある一定量は反社会的勢力が存在しえるので、撲滅することは難しいということが言えるのではないだろうか。逆に常に「まっとうな」人間を別の空間に移動させた場合、うっかりすると、一部が反社会勢力として活動を始めるかもしれない。これは少々強引な推測かもしれないが。ただ、好景気になり、仕事量が増加すると、働く機会に恵まれるので、犯罪率は減少する。つまり反応閾値により、働き始めたとも言えるかもしれない。

まあこれは単純に犯罪を犯して捕まることによる社会的制裁という費用が、犯罪を犯すことによる得られる利益(仮にPとおこう)を超過するだけかもしれない。つまりある人が犯罪を犯すのは、Pが1−aの可能性を持つ時であろう。ここでaはその人が逮捕される確率であり、同時にこの確率aは、その行為について様々なコストを払う確率でもある。つまり仕事量が増加した反応閾値を原因としたわけではなく、損得勘定が原因なのかもしれないということである。ただ反応閾値を原因と考えることもなかなかユニークでいいのではないだろうか。

さらに後半になって、新社会性生物が子孫を残さないで進化してきた理由を丁寧に説明しているところが興味を惹く。ある生物においては、遺伝子構造がヒトと異なるので、自分の子供を残すよりも、自分の遺伝子を多く受け継いでいる可能性がある血縁者を残した方が、自分の遺伝子を多く次世代に残せるというのだ。

あらゆる生物は遺伝子を後世に残すため、そして個体が長期間生存するために進化し続けてきた。確かに人類の進化論を考える時は、種が近いチンパンジーやボノボといった動物に焦点があてられる。ただ、新社会性生物といった興味深い生き物が我々人類に教えてくれることも多々あることを著書は示してくれたのである。

参考文献
働かないアリに意義がある

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