東京で環境行政訴訟を行う6団体が集結して「東京環境行政訴訟原告団協議会」を結成した。結成に参加したのは、以下の団体である。 ◇ 小田急高架と街づくりを見直す会 協議会結成の背景には、行政訴訟への期待と失望がある。 違法な行政処分に対しては、行政訴訟によって、取消しを求めることができる。しかし、日本では原告適格で厳しく排除されたことなどが理由で、行政訴訟により救済される例は少なかった。 行政事件訴訟法は、行政訴訟を提起できるのは、処分の取消しを求めることに「法律上の利益を有する者」に限定する。この「法律上の利益」が、狭く解釈されていたことが問題であった。 即ち開発や公共事業で、健康や生活面で被る周辺住民の不利益を、反射的ないしは事実上のもので、法律上の利益には該当しないと解釈する傾向が強かった。このため、環境行政訴訟を起こしても、行政処分が違法であるか否か、調べることもせずに却下されてしまう(門前払い)。 これに対し、2005年4月に行政事件訴訟法が改正され、法律上の利益について、 「当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする」 とされた(第9条第2項)。 そして、同年12月7日に、最高裁大法廷は小田急高架化訴訟において「騒音や振動で、健康や生活環境に著しい被害を直接受けるおそれがある者は原告適格がある」として、原告適格を広く認める画期的な判決を出した。 これは東京都世田谷区の小田急線高架化事業に反対する沿線住民が、都の都市計画事業を国が認可したのは違法として、処分取り消しを求めた訴訟の判決である。 小田急事件最高裁大法廷判決は、行政訴訟による救済を求める人々によって歓迎された。しかし、原告団協議会結成の契機となった浜田山・三井グランド環境裁判において失望を味わうことになる。 三井グランド環境裁判は、小田急事件最高裁判決後の環境裁判であり、小田急判決に則って判断されることが期待された。ところが、三井グランド環境裁判の関連事件として、申し立てられた工事車両通行認定処分執行停止事件で裏切られることになった。 この事件は、建設工事用の大型車両の通行により、原告住民らの生命、身体に危険が切迫しているため、通行認定処分の執行停止を申し立てたものである。 この事件は関連事件として本体の裁判と同じ裁判官が担当したが、「周辺住民には処分を争う法律上の利益はなく、反射的利益があるに過ぎない」として、申し立てを却下するものであった。 小田急最高裁判決以前の論理に、逆戻りしたことになる。しかも申し立て却下の決定申し立てから、4カ月も経過した後の、本体の訴訟の判決言い渡し の直前になされたものであった。これを原告側は「騙まし討ち」と受け止め、2007年9月29日に裁判官忌避の申し立てをした。 この三井グランド環境裁判の経緯は、他の環境訴訟を行っている原告団体にも危機感を抱かせた。小田急訴訟最高裁判決で、救済の道が開けたと期待し たのに、実際は旧来の論理で門前払いされかねないためである。団結して、対応していこうということで原告団協議会結成となった。 「協議会発足記念集会」は、2007年11月29日に弁護士会館2階の講堂で開催された。集会では、最初に結成経過報告がなされ、続いて斎藤驍弁 護団長の基調報告がなされた。来賓挨拶では、福川裕一千葉大学教授、石川幹子慶応義塾大学教授、交告尚史東京大学教授、稲垣道子氏が話した。 福川教授は、日本の都市計画ではル・コルビジェ流の「Towers in Space」という思想が、未だに大手を振っているのが問題と指摘した。 建物を高層化することでオープンスペースを増やすことで、都市の過密を下げる思想である。しかし、これは地域の社会関係を決定的に崩してしまうと 批判され、欧米では公的な高層住宅を、低層住宅へ立て替える事業さえ行われている。日本では未だに「Towers in Space」の思想でいることが問題と主張した。 石川教授からは「サラリーマン化してしまっているのが問題」と指摘された。サラリーマンでは、目先の利益を追うことしかできず、環境への考慮という発想が出てこないとする。 これは私も、東急リバブル東急不動産の不動産トラブルで強く感じていたことである。 交告教授は風邪で欠席した阿部泰隆・中央大学教授の代理で挨拶し、趣味の昆虫の話で会場を和ませた。 稲垣道子氏からは、 「手続きがおかしい。説明がおかしい。聞いても答えてくれない。人間性が踏みにじられている」 と指摘された。これも私が、東急リバブル東急不動産の不動産トラブルで強く感じていたことであり、東急不動産と裁判を続けた原動力は、東急不動産の不誠実な対応への怒りであった。 最後に「官民一体となった違法行為を糾すため、共に手を携え、司法の扉をしっかりと開き、歩んでいきたい」とのアピール宣言を読み上げて、発足記念集会は終了した。 協議会の発展を期待して3点ほど指摘したい。 第1に前述の通り、行政訴訟の原告適格を巡る専門的な論点が、協議会結成の背景となっている。発足会でも専門家との協同を訴えており、専門家の助力が必要である。 一方、専門的な論点であるが故に、一般人には分かりにくい面がある。内輪の集まりならば分かりきっているかもしれないし、配布資料を読み通せば理解できるが、支持を広げるためには分かりやすい論点説明があった方が良いように感じる。 第2に原告団が裁判期日を「公判」と発言していたのは残念であった。公判は刑事訴訟の用語で、民事訴訟では口頭弁論である。 行政訴訟も民事訴訟の一類型であり、口頭弁論が正しい。現実には刑事訴訟と民事訴訟の用語が混同されることはある。 例えば、東急不動産消費者契約法違反訴訟において東急不動産は、民事訴訟であるのに控訴理由書ではなく、控訴趣意書を提出した。行政相手の訴訟ということで、「お上」意識が抜けられずに、刑事訴訟の用語を用いたならば発想を転換する必要がある。 第3に「東京」環境行政訴訟原告団協議会と名乗っているが、構成団体の所在地は、渋谷区・杉並区・世田谷区に限定されている。 これら城西3区でしか紛争が起きていないのか、協議会結成の原動力となった人脈が3区の地縁に限定されていたのかの、何れかであるが、恐らく後者であると推測する。 この協議会発足を機に東京全体、さらには全国へと広がっていくことを期待する。
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