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民主党代表選が告示され、過去最多の5人が立候補した。党内の最大勢力を率いる小沢一郎元代表は、海江田万里経済産業相を支持し、前原誠司前外相らと対決する構図になった。だが、[記事全文]
福島第一原発の事故でまき散らされた放射性物質の除去(除染)について、政府がようやく基本方針を決め、きのう地元自治体に説明した。2年で住民の被曝(ひばく)線量を半減させ、[記事全文]
民主党代表選が告示され、過去最多の5人が立候補した。党内の最大勢力を率いる小沢一郎元代表は、海江田万里経済産業相を支持し、前原誠司前外相らと対決する構図になった。
だが、代表選がまたも「脱小沢」か「親小沢」かという対立に終始するようでは、民主党政権に展望は開けない。不毛な内紛を乗り越えるために、ここは候補者同士が政策論争の真剣勝負をしなければならない。
その際に、とりわけ立ち位置を問われるのは、菅内閣の重要閣僚でありながら、菅路線を否定する小沢氏らのグループに推される海江田氏だ。
菅内閣は東日本大震災の復興財源を賄う臨時増税と、社会保障を維持するための消費税率引き上げの方針を決めた。その内閣の一員だった海江田氏は共同責任を負っている。にもかかわらず、公約に「増税なき復興」や消費増税の先送りを掲げているのは、どうしたことか。
政府・与党で厳しい議論を重ねて、やっとまとめた方針を白紙に戻すつもりなのだろうか。
政権公約の見直しについても、しかりである。
海江田氏は、菅政権で「マニフェストが弊履(へいり)のごとく捨てられている」と批判する。それでは「子ども手当」の見直しなどで、自民、公明両党と交わした3党合意を反古(ほご)にしてしまいたいのだろうか。
そんな対応をすれば、両党の協力を得られず、何より急がれる復興のための第3次補正予算の成立に支障をきたすのは明らかだ。
エネルギー政策でも、海江田氏はきのうになって突然、「40年以内に原発ゼロをめざす」と表明した。菅首相の「脱原発」路線に疑問を呈していたのに、なぜ一変したのだろうか。
日本記者クラブでの共同記者会見でも、「小沢氏の処遇」などで海江田氏に質問が集中しがちだったが、政策的にも説明が足りない。きょうの党主催の公開討論会で答えてほしい。
各候補者の主張を並べてみれば、自民党との大連立などに差異がある。なかでも最も違いが鮮明なのは「増税」への姿勢だ。政府の増税方針の堅持を掲げる野田佳彦財務相を除いて、他の4人は濃淡はあれど、後退した見解が多い。
私たちが懸念してきた通り、幅広い支持獲得を狙って、あえてあいまいにする作戦なのだろう。だが、それは「次の首相」として無責任過ぎる。
政府・与党の方針を転換するという候補者は、明確な対案と成算を示すべきだ。
福島第一原発の事故でまき散らされた放射性物質の除去(除染)について、政府がようやく基本方針を決め、きのう地元自治体に説明した。
2年で住民の被曝(ひばく)線量を半減させ、子どもについては、学校や通学路などの除染を徹底して6割減らす。そして年間の被曝線量が20ミリシーベルト以上の地域を「段階的かつ迅速に縮小」させるのが柱だ。
しかし、こんな目標では、住民はとても安心できないのではないか。何もしなくても、雨や風で2年後には約4割減る、というのが政府の試算である。上乗せ分が1〜2割というのはあまりに低い目標だ。
しかも、今回の基本方針だけでは、避難している人たちがいつごろ元の生活に戻れるのか、大まかなメドも分からない。
大事なのは、総合的な戦略である。
そのために、まず汚染の詳しい実態の把握が不可欠だ。100〜500メートル四方くらいの細かさで調べる必要がある。避難している人たちも自宅周辺の汚染の程度を知りたがっている。
菅首相はきのう、福島県知事に対し、原発の近くでは長期間帰れない場合が出てくると述べて、事故について陳謝した。
確かに汚染のひどい所では、事実上、帰ることを断念せざるを得ない場合もあるかもしれない。しかし、その基準とデータが示されないままでは、住民は納得できないだろう。
汚染の実態把握と並行して、除染作業にかかるコストや投入できる人員をはじき出す。そのうえで、どの地域からどう進めていくのか、どの程度の時間がかかりそうか、国は全体像を示す工程表作りを急がなければならない。
実際の作業も、ばらばらではいけない。住宅に加え、学校などの公共施設や道路、さらに田畑や周辺の森林にも目を配らなければ、住民は安心して元の生活に戻ることはできない。
一方、除染を進めるうえで大きな障害となっているのが、はぎとった土などの保管場所だ。基本方針では、各自治体に仮置き場を設け、処分場は国の責任で確保することになっている。
ところが、菅首相は福島県知事に対し、同県内に「中間貯蔵施設」を整備せざるを得ないと述べた。今の段階で、唐突に新たな保管施設のことを持ち出しても、混乱を招くばかりだ。
処分場の確保も含め、除染は簡単な問題ではない。きちんと手順を踏みつつ、綿密に計画を作る。同時に作業は急がなければならない。