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コーヒー、そしてカレー。香りに魅せられ今日も行く。

「うちは、宣伝するような店ちゃう」
と、しきりと謙遜していた店長の吉田さんが、取材当日にぽつりとつぶやいた。
「全部一から、うちで作ってる。それだけのことや」

表のショーケースには、珈琲の他にもカレーや大きなデザートのサンプルが並ぶ。「こだわりの豆」と「日本で最初の特殊焙煎技術」を守った珈琲はもちろんだが、他のメニューでも一切インスタントには頼らないという言葉に、出すもの全てへの妥協のなさがこめられる。
元々神戸のお店で働いていた吉田さんが、現在の場所に珈琲店を構えたのは30年以上も前のことだ。京阪の出町柳駅もなかった創業当時、訪れる学生の数こそ今と変わらず多かったそうだが、人通りは少なく、今から考えると淋しいところだったと話す。そしてその頃のカミ家のメニューに、まだカレーはなかった。こだわり珈琲店の店長が本格カレーを出し始めたきっかけは、お客さんと交わしたちょっとした会話にあった。

店を始めて1年ほど経った日のことを吉田さんは語る。
「昼時店を出て行く学生に、『どこ行くんや?』て聞いたらね、『お昼食べにー』て、言うんや。今から自転車飛ばして食べに行くんかーって思ったら、何かかわいそうなってね」
うちでも何か食べられるようにしてあげたい。じっくり煮込んだ本格カレーを作るため、店が終ってから朝の5時まで、仕込みをする日々が始まった。それを経て登場したのが、現在の本格ジャワカレー(650円)。薫り高いコーヒーに負けず劣らずの魅力に、お茶に入ったつもりでつい注文してしまう。
「明け方まで仕込みしてたその頃はね、大変やったよ。『コーヒー屋がカレー売り始めた』って言うてね、始めは笑われたりもした」
大変だったと当時を振り返りながら、吉田さんはちょっと楽しそうな顔をする。1杯30円だった珈琲と90円だったカレーは、値段に関わらずどれも「最高の味」を目指したもの。学生と言わず多くのお客さんの間で、人気が出ないわけがない。

自ら宣伝したことはないと話されるものの、その本格コーヒーの魅力も口コミで広がり、北海道から沖縄までファンを作った。地方発送していた頃のコーヒー豆の量は1ヶ月で2トンにもなったというから、これには驚きだ。
店長の手にすっかり馴染んだ古いファイルを開くと、北から南から、送り先の住所がぎっしりと、しかも丁寧に書き込まれている。「堅苦しくならず好きな時に来て、休んでいってくれたらいい」という店長なだけにお客さんと直接話すことはあまりないらしいが、これならばという自信作を介して一人一人とつながっている姿は、硬派なコーヒー職人そのものだ。

出町柳が変わっても、来る学生が毎年流れ変わっていっても、カミ家珈琲には今日も変わらないコーヒーとカレー、そして自慢のデザートがある。
たくさんの人が行き交う駅前。控えめな店構えなのに、自家焙煎された珈琲豆とカレーの薫りがふわふわと外まで漂ってきて、学生も、他のお客さんも、ついついとまた店に入ってしまうのだ。

［メニュー］
・本格ジャワカレー　680円
・コーヒーゼリー（夏季限定）　430円