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[29475] (習作)まどマギ二次 男オリ主
Name: ケッド◆8ba8260a ID:987c686d
Date: 2011/08/27 05:51
みなさん、初めましてケッドともうします。
このたび、理想郷で二次小説を投稿させていただきました。
つたない文章ではありますが、楽しんでいただけましたら幸いです。

文章の間違いや改善すべき点、矛盾点がありましたらどんどんご指摘ください。



[29475] 第一話
Name: ケッド◆8ba8260a ID:987c686d
Date: 2011/08/27 05:48
第一話


浅野信也は混乱していた。
学校に行き、担任ののろけ話を聞き、友達と好きなテレビやゲームについて話し、授業を
受け、帰宅する。いつもと変わらない一日のはずだった。
しかし、日常は崩壊したのだ。
通学路の途中、見滝原大橋を渡るときに世界は歪み塗り替えられ、塗り替わった世界はま
るで気持ちの悪い芸術の世界に迷い込んだようだった。
シンヤとて美術の教科書に出てくるようなゴッホやピカソの絵や彫像ぐらいは題名はとも
かくも見たことはある。
それらを無茶苦茶に混ぜ合わせたらこのような世界になるだろう。

「なんなんだよ、いったい……」

あまりの状況の変化に呆然としているとやや離れたところに絵にかいたような門が現れた。
いや、それだけではなく同じようなタッチの人形も一緒に現れ、こっちに向かってくる。

「あ、ああ…」

逃げろ、頭はそう命令してくる。しかし、体はなかなか動かなかった。
体が震え、呼吸が乱れる。
それでも、足を一歩二歩と踏み出すことで少しずつ体の自由を取り戻していく。そのまま走り出すと、門からできるだけ遠ざかろうとする。
幸いにも人形はそれほど速くない、これなら逃げられるかも、とまだ上手く働かない頭で考えるが希望はすぐに裏切られることとなる。
そこら中から同じような人形が湧いて出てくるではないか。
シンヤは走るスピードを上げた。今なら陸上部の人間にも勝つことができるだろう。
ただし、それはあまりの状況に頭がついていけなくなり、パニックに陥っているだけの事だった。
当然、そんなもので化け物たちから逃げ切れるはずがなく、一体に腕をつかまれ足が止ま
ると、そのまま囲まれて押さえつけられる。
持っていたカバンを振り回し、必死にもがくがどうにもならなかった。

「はなせ、はなせよぉ!」

シンヤは半泣きになりながら、もがくが化け物の力はあまりにも強く振りほどくことはおろか、骨が折れるかと思われるほどだった。

「……!」

もはや叫ぶこともできなくなり、眼をつむり、歯を食いしばって恐怖に抵抗するだけとなる。
思い出されるのは家族と友人、そしてクラスメートの女の子だった。
しかし、今度は絶望が裏切られる番だった。
爆竹を連続で爆発させるような音が響き渡るとシンヤを抑えていた力が失われていった。
シンヤは疑問に思いながらも少しづづ目を開けると、そこにいるはずの化け物たちは倒れ伏せていた。
そして、一人の少女が降り立つのが見えた。
その少女は黒い艶やかな長髪をなびかせて、紫を基調とした不思議な服を身に着け、感情をあまり映していない瞳でシンヤを見下ろしている。
今いるのが混沌とした世界の中ということもあり、幻想的な光景だった。しかし、少女が手の持っているのはそんな光景とは程遠いものだった。
それは黒光りする無骨な鉄塊、拳銃である。

「あ、あなたはいった「動かないで」」

紫の少女が言葉を遮ると銃を構え発砲した。
一瞬のことでシンヤは何の反応もできなかったが、後ろで何かが倒れる音を聞き、振り向くとそこにいたのは頭らしい場所を撃ち抜かれて倒れている人形の化け物だった。
少女は周りを一瞥して再び化け物たちが湧きだしてくるのを確認すると軽く舌打ちして、シンヤに向き直った。

「着いてきて」
「へ?あの?」
「早くして、……死にたいの?」

死、という言葉にさっき感じたばかりの恐怖を思い出しシンヤは大急ぎで立ち上がった。
それを確認すると少女は駆け出し、シンヤもそれを追いかけていった。
そこからはまるでアクション映画のワンシーンを切り取ったかのようだった。
そこら中から湧き出てくるが少女は拳銃で自分たちの邪魔になりそうなものだけを選んで撃ち倒していく。
右の一体、左にもう一体、前方の三体が瞬く間に撃ち倒されいていく。
今もまた、左のオブジェらしき物の影から現れた化け物を一発で倒す。

(すごい)

シンヤはその力に感動に近いものを覚えていた。
そして、少女の右から化け物がとびかかろうとしているのに気付いた。少女は左を向いていて気づいていない。

「危ない、右!」

振り向こうとしたが間に合わない、そう頭のどこかで思ったがそれは間違いだった。
突然、化け物たちの目の前にこぶし大のボールが現れ、爆発するのと少女がシンヤを突き飛ばすのは同時だった。
爆風と爆音に頭がくらくらとして耳鳴りが酷いが何とか再び立ち上がった。
少女が悠然と立ち、見つめるさきには先ほど現れた絵にかいたような門が建っていた。その門が軋みをあげ、歪んでいく。

「……」

少女はそれを感情の感じられない目で見つめ、こぶし大のボールを取り出した。

(あれって、手りゅう弾!?」

シンヤも当然ながら本物を見たことなどないが、映画やゲームでの知識として知っている。
少女はピンを引き抜くと門に投げつける、そして爆発。
衝撃が走り、シンヤは破片ともに吹き飛ばされる。
門は爆発に飲みこまれ、煙が晴れるころには跡形もなく消滅していた。

「すごい……」

門のあった場所、爆発の中心に進んだ紫の少女は何かを探しているようだった。
シンヤが声をかけようとすると世界は再び歪み出した。

「また!?今度はなに!!??」

次々と変わる状況に驚いてばかりだが、今度は危険はなかった。
世界の歪みがなくなると元の場所、見滝原大橋に戻っていた。

「助かった、のか」

シンヤが安堵の溜息をもらすと何かが足元に落ちているのに気付いた。
拾い上げるとそれは不思議な装飾が施された黒い宝石のようなものだった。

(綺麗だけど、何か、嫌だ)

それを見つめていると少女が傍にきていることに気づいた。

「あの、助けてくれて「それを渡して」……はい?」
「それはあなたが持っていていいものじゃない、こっちによこしなさい」

少女は手を差し出して、黒い宝石を渡すように言ってくる。
相変わらず、感情の読めない表情だが、有無を言わせない迫力があった。
おずおずと宝石を渡すともう興味を失ったかのように踵を返しどこかに行こうとする。

「ま、待って!」
「……」
「あなたは、一体なんなんだ!?あの気持ち悪い場所に化け物は、それにその宝石は何か教えてよ」
「……、もう済んだことよ。忘れなさい。」

紫の少女は振り向きもせずにそう告げたが、シンヤは納得できるはずもなく、さらに引き留めようとするが、それにも構わずどんどんと進んでいく。
慌てて後を追いかけて、少女に追いつき触れようとしたが手は空を切った。

「消えた!?」

今まで目の前にいたはずの少女が消えていたのだ。慌てて周りを見渡すがどこにもいない。

「何なんだよ、いったい……」

シンヤの呟きは夕暮れの中にきえていった。





浅野信也は目覚まし時計のアラームで目を覚ました。
飛び起きて周りを見渡すと見えるのは本棚にデスク、テレビとゲーム、見慣れた自分の部屋だった。
枕元の時計が示す時間は7時過ぎ、学校に行くにはそろそろ起きなければならない時間だ。

「なんだ、夢か」

息が上がっているが現実に戻ってこれたことで安堵の溜息をもらす。
起き上がろうとすると寝汗が酷かったので、朝食の前にシャワーを浴びることにした。
一回の洗面所でパジャマを脱ぎながら、まだ夢のことを考えていた。
異世界らしき所で化け物に襲われ、不思議な少女に救われる。考えれば考えるほど非現実的だ。
そうだよな、いくらなんでもあんな気味の悪いファンタジーが現実であるはずがない。
一人でそう納得して、鏡に映った自分の姿を見る。
黒目にやや茶色がかった黒髪に母親似の中性的な顔つき、体は贅肉はないが筋肉も並みでしかない平凡な容姿、見慣れた姿だったが一つだけ昨日までと違う点があった。

「ウソだろ……」

シンヤは自分の声が上ずり、また呼吸が荒くなっていくのを感じる。
自分の腕にはくっきりと手の形をしたあざが浮かんでいたのだ。




[29475] 第二話
Name: ケッド◆8ba8260a ID:987c686d
Date: 2011/08/27 05:49
第二話


シンヤが腕のアザで先ほどの夢が現実に起きたことだと理解して今に行くと母・恵子が朝食の支度をしていた。
警官の父・信弘が新聞を読みながら、みそ汁を啜っている。
シンヤも自分の席に着くと食べ始めた。
聞くところによると昨日は帰ってきたのが8時ごろだったらしく、そのまま夕飯も食べず着替えて眠ったらしい。

「なにがあったのか知らんが、遅くなるなら連絡ぐらいしろ」
「ごめん」
「母さんにあまり心配かけるなよ」
「うん、わかってるよ」

父はそれだけを言うと、母と行ってきますのキスをして仕事に向かっていった。

「僕も、もう行ってくるよ」
「いってらっしゃい」

朝食を食べ終わるころにはちょうどいい時間になっていた。
持ち物の確認をするとさっさと学校に行くことにした





普段は見滝原大橋を通るのだが、昨日の今日で行きたい場所ではない。
しかたなく、大回りになるが中央公園を通る道で行くことした。
道中で頭にあるのは、昨日の不可思議な世界の事だけだった。

(異世界に化け物、とどめに戦う女の子、か。わけがわからないよ)

シンヤが立ち止まって周りを見ると、スズメの囀り、暖かい日の光に綺麗な緑、平和な光景が写った。
ところが一瞬、周りが歪み混沌とした世界に塗り替えられる光景が目に浮かび、あわてていやな想像をやめた。
そうして道の真ん中で立ちすくんでいるとクラスメートの女子が三人近くに来ていた。

「あれ、浅野じゃん、おはよう」

朝から元気な美樹さやか、スポーティーな印象を受けるが、幼馴染の影響で以外にもクラシックにも詳しい。

「浅野さん、おはようございます」

ウェーブのかかった髪のお嬢様なのは志筑仁美。学年で一番モテる人でラブレターは今月ですでに二通目である。

「浅野君、おはよ~」

三人目はツインテールが目印の鹿目まどか、三人の中じゃ一番地味だと言われているが優しい女の子だった。

「おはようございます」
「あんた、家こっちの方だっけ?見たことないんだけど」
「いや、今日はちょっと事情があって」
「ふ~ん、とこでさ、まどかのリボンどう思う?」

言われて鹿目まどかをみるとリボンがいつもとは違って、赤いものだった。

(かわいい)

信也はそう思った。

「いいんじゃないですか、よく似合ってますよ」

口に出すことばは少々違ったが。

「だってさ、まどか」
「あ、ありがとう……」

鹿目まどかは照れるようにうつむきながらお礼のことばを紡いだ。
 そうこうしているうちに予鈴が鳴り響き、4人は教室まで朝一の短距離走をする羽目になった。





朝のHRでは担任の早乙女先生が

「卵の焼き加減にケチをつけるような男とは交際しないように」

と唐突に言い出しため、それだけでクラス中が担任の失恋を知った。
その時、信也は自分の世界に入りかけていた。

(鹿目さん、赤いのも似合ってるよなぁ)

浅野信也と鹿目まどかの付き合いはあまり長くはない。
一年の時も同じクラスであったが初めは何の意識もしていなかった。
しかし、ある出来事の時に彼女の優しさを知って、何度か話をしたりするうちに気になり始めたのだ。
そうしていると「あー、あと転校生紹介しまーす」という先生の声に興味をひかれた。
新学期がとっくに始まっているこの時期に、おもいつつ顔を上げた。
その時、頭をよぎったのは黒い艶やかな長髪をなびかせて、紫を基調とした不思議な服を身に着け、感情をあまり映して瞳の少女。

「睦美ほむらです。よろしくおねがいします」

今、その少女が転校生として自己紹介を済ませて拍手を受けていた。

「うわぁぁ!!」

シンヤが思わず悲鳴を上げながら、立ちあがあると拍手はやみ、クラス中の注目を浴びた。
転校生・睦美ほむらもシンヤのことを見て、わずかに眉をよせるという反応を見せる。

「あ、浅野君?」

「す、すいません。なんでもありません!」

早乙女先生が心配そうにしていたが、シンヤが席に着くと納得したのか、ホムラに席に着くように言い、英語の授業を始めた。



その日の放課後、シンヤは友人の中沢と一緒に帰路についていた。

「でさ、アサノと睦美さんとはどんな関係な訳?」
「だから、何にもないって言ってるだろ」
「本当に?」
「本当に!」

この話題になるのはもう一回や二回ではない。
ほかの友達はもちろん、ゴシップ好きな女子に聞かれ、先生には呼び出しまで受けた。
女子転校生をみてクラスメートが悲鳴を上げたのだから当然ではある。
あの後、話す機会を見つけようとしていたが結局は常に周りには好奇心旺盛なクラスメートたちが取り囲んでいたためダメだった。
シンヤは転校生がわざわざ鹿目まどかを指定して保健室に行ったのが気になっていた。

「しっかし、すごいよな、あの人」

そのことについてはシンヤも納得だった。
数学では難解な問題をスラスラと解き、体育では棒高跳びで県内記録を残す。
文武両道、才色兼備とはあの子のためにある言葉ではないかと思わせるほどだ。
そうこうしていると市の中心部にあるショッピングモールのところまで来ていた

「おっと、じゃあ俺こっちだから」
「じゃあ、また明日」
「今度はちゃんと話せよ」
「しつこい」

中沢と別れるとこれからどうしようかと思案に暮れる。
朝と同じ理由からいつもとは違う道で帰っているがまだ五時前、このまま帰るのも何だし、ということで本屋でもよっていこうかとショッピングモールの足を向けた時、見つけた。
見滝原中の制服に流れる黒髪、見間違いなどではなく、確かに睦美ほむらの姿だった。

「ちょっと、すいません、通してください!」

ほとんど反射的にあとを追いかけ始めた。
人ごみの間を縫うように進んでいくがホムラの姿はどんどん先へ行ってしまい、ついに見失ってしまう。
それでもシンヤはあきらめなかった。
昨日のことを聞くために周りの店を一軒一軒ホムラの姿がないか探していく。
ブティック、小物店、パン屋、そして四軒目のCDショップ。

「ここにもいないか?」

このCDショップは結構な広さがある。
店内を探していると声をかけられた。

「あれ、浅野君?」
「鹿目さん!?どうしてこんなところに」
「さやかちゃんに誘われて」

そこにいたのは鹿目まどかだった。
突然のこと慌てたシンヤは口を滑らせてしまう。

「ここで睦美さんって見なかった?」
「……ホムラちゃん?」
「あ……」

しまった、そう思った時にはもう遅かった。

「浅野君て、やっぱりホムラちゃんと何かあったの?」
「え、ああ、まあ、少しだけね」

「化け物に襲われた時に助けてもらった」などと言う訳にもいかず、しどろもどろになってうまく答えることができない。
どう誤魔化したものか必死に考えているとマドカは何かに気づいたようだった。

「どうかしたの?」
「いま、誰かが助けてって」

その言葉にシンヤも耳に集中するが聞こえてくるのは周りの雑音だけだった。

「僕には何も聞こえ「また!」って鹿目さん!?」

まどかには助けを求める声が聞こえたらしく近くにあった従業員用の扉の向こうに行ってしまった。
ほうっておく訳にもいかず、シンヤも慌てて後を追いかけた。


「誰?どこにいるの?」

扉の向こうはまだテナントがまだ入っておらず、そこら中にパイプや鎖といったものが放置されており、明かりもあまりないため薄暗かった。
そんな中をマドカは誰かを探しているようだった。

「鹿目さんどうしたんだよ、いったい」
「分かんないけど、助けって、てキャア!」

シンヤが追いついて声をかけた時、天井のパネルがけたたましい音とともに落ちてきた。
思わず身を固くしてしまう二人であったが、マドカは何かを見つけたらしく駆け寄っていき、抱きかかえる。

「あなたなの!?ひどい怪我してる、どうしたの!?」
「……、鹿目さんなにしてるの?」
「何って!この子、こんなひどい怪我してるじゃない!」
「この子って、……何もいないじゃないか」
「浅野君、なにいってるの?」

マドカはなにかを抱きかかえ、心配している様子だったが、シンヤには何をしているのかまったくもって理解できなかった。
マドカの手の中に怪我をしている子など、いなかったからだ。

「そいつから、離れて!」

二人がかみ合わない会話をしているとき、怒声が響き渡る。

「ほ、ホムラちゃん!?」
「昨日の……」

そこには転校生の睦美ホムラが建っていた。
ただし、着ているのは学校の制服ではない、それは紫を基調とした不思議な服だった。
ホムラはシンヤがいることに一瞬だけ怪訝な顔をしたが、すぐに表情を消すとまどかに向き直った。

「そいつを渡して」
「ホムラちゃんがやったの?だめだよ、こんなこと!」
「早く渡して、あなたには関係ないことよ」
「イヤ、だってこの子私をよんでたの!助けてって」
「……鹿目まどか、あなたを傷つけたくないけど、わたさないというのなら……」

ほむらが冷たい気配を振りまきながらにじり寄ってくる。
彼女が使っていた物騒な武器のことがシンヤの頭をよぎった。
思わずマドカの前に進みでる。

「睦美さん、まって、ちょっと落ち着こう」
「……、浅野信也、だったわね。あなたにも関係のないことよ、下がってなさい」
「関係ないって……、大体、鹿目さんはなにも持ってないじゃないか」
「……」
「それに、その恰好は昨日の「二人ともっ!こっち!!」のうわぁ」

会話を遮って白煙が噴き出してきた。
二人に気づいて追いかけてきた美樹さやかが消火器をぶちまけたのだ。

「さやかちゃん!」
「ゲホッ、美樹さん!」

白煙に紛れて三人は表のCD屋の方に向けて駆け出した。
美樹さやかが走りながら吠えだした。

「何よあいつ、今度はコスプレで通り魔かよ!ていうか、なんで浅野がいるのよ?」
「いろいろあったんだよ!」
「それにまどか何よそれ、ぬいぐるみじゃないよ、生き物?」
「分かんない、わかんないけど、この子助けなきゃ」
「あの、二人とも何言ってるのさ?」。
「はぁ?見てわかんないの、あんた。マドカが抱いてる子のことよ!」
「抱いてるって、何もいないじゃないか」
「浅野君、なに言ってるの?」

美樹さやかが加わっても、会話がかみ合わないのが治るどころかさらにひどくなった。
二人は明らかになにかを心配しているようだったが、シンヤには訳が分からなかった。
演技やごまかしではなく、本当に何も見えないのだ。

そして、世界はふたたび塗り替えられていく。



[29475] 第三話
Name: ケッド◆8ba8260a ID:987c686d
Date: 2011/08/27 17:33
第三話


「ウソだろ……」
「何よこれ、非常口は?」
「変だよ、ここどんどん道が変わってる」

マドカとサヤカは突然のことに困惑している。
また、シンヤにとっては困惑よりも恐怖が付きまとった。
心臓の鼓動は早く、呼吸は浅くなり足が震えるが、それでもなんとか周りを見渡すことはできた。
今日の異世界は柵や鉄条網に花壇のようなもの、さしずめ混沌の庭といったところか。

「あ~もう!どうなってんのさ!」
「やだ、あそこ何かいる!」

マドカの叫ぶような声にそちらを見ると、居た。
昨日のような人型ではないが、毛玉にひげを付けたような何かが外国のものらしい歌を歌いながら近づいてくる。
それはどこか愛嬌のある姿だが、それ以上に怖気を感じさせる。

「二人とも!走って!!」
「え、ちょっと」

シンヤはもと来たほうに走り出した。
女子二人は戸惑っており、出遅れた。特にマドカは足が少々すくんでいるようだった。
シンヤはとって返すとマドカの手をつかんで再び走り出すと、サヤカも慌てて後を追いかける。

「早く!」
「待ちなさいよ、そっちには転校生が!」
「ここよりはいい!あの人なら助けてくれるかもしれない」
「なんで分かるのさ!」
「昨日、助けられた!」
「ハァ!?」

そんなやり取りをしながら走っている間にも、毛玉の妖怪たちは包囲の輪を縮めてきた。
動きは遅いが数が多くいたるところから湧いて出てくる。
加えて、道が変わっているせいで全く違う方に進んでしまうことになっていく。
それでも、三人は走り続けるが逃亡の終わりは訪れた。

「囲まれた!」

逃げ道はないか探すが、前後左右どこになかった。
握っている手の力が強くなり、シンヤも強く握り返す。
三人は寄り添って、恐怖に耐える。
毛玉の妖怪はもう5メートルと離れていない。
そのとき、上から下がっていた鎖がはじけ三人を囲み眩い光を放った。
それと同時に鳴り響いたのは爆竹のような音、銃声だった。
シンヤは助かった、と思いながら音のした方を見る。

「陸美さん!……じゃない?」
「誰と勘違いしたのかは知らないけど、もう大丈夫よ」

そこにいたのはホムラではなかった。
金髪を縦ロールにした少女が微笑みながら近づいてくる。
その恰好は一言でいえば、少女風ガンマンだった。
黒いニーソックスに黄色いスカート、真っ白のシャツ、頭には鳥打帽をかぶり黄色い宝石のついた髪飾りを付けていた。
手には三人を囲む鎖の先端と装飾の施されたマスケット銃を持っている。
それはホムラが紫とすれば、黄色の印象を受ける少女だった。

「あら、キュウベエを助けてくれたのね、その子は私のお友達なの、ありがとう」
「あなたは」
「ごめんなさい、話は仕事を終わらせてからね」

そう言うと黄色の少女は飛び上がった。
高い、学校の三階ほどまで上がっていく、どう考えても人間の出せる力ではなかった。
少女がそのまま、宙にとどまり両手を広げと何もない空間から無数のマスケットが現れる。
マスケットたちは少女の発した気合の声と共に撃鉄を打ち鳴らし、弾丸を打ち出した。
それは毛玉の妖怪たちに降り注ぎ、爆発ともに蹴散らした。

「すごい」

サヤカが感嘆の声をもらすと、黄色の少女も地面に降り立つ。
世界も薄れていき、もとの薄暗い通路に戻ってきた。
すると、奥の通路から誰かが駆け寄っていくる足音が聞こえる。
現れたのは睦美ほむらだった。

「あの「魔女なら逃げたわ、いまならまだ間に合うかもね」」

シンヤの言葉は黄色の少女に遮られた。
それだけではなく、彼女は三人をかばうように前へ進み出る。

「私が用があるのはソイツだけ」
「見逃してあげるって言ってるのが分からないかしら、早くきえて頂戴」
「……」
「お互い、無駄な戦いは避けた方がいいと思わない?」

ホムラはしばしの沈黙の後、身を翻して通路の奥に消えていく。
シンヤには一瞬だけホムラのいつもの無表情な顔が辛そうにゆがんだように見えた。
マドカとサヤカは安堵の溜息をもらすが、シンヤはホムラを追おうとする。

「陸美さん、待って!」
「追いかけてはダメ、彼女は危険よ」

シンヤの行動は黄色の少女に止められる。
そして当然の疑問を口にする。

「けど……、あなた達は一体なんなんです?」
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。」

少女がそういうと体が一瞬だけ光ると、三人と同じ見滝原中の制服姿で現れた。

「私は巴マミ、あなた達と同じ見滝原中の三年生。
 そして……、キュウベエと契約した魔法少女よ」

それはかわいらしい言葉ながら、どこか力強さと神秘的なものを含んでいた。


ホムラが去り、巴マミが衝撃的な事実を告げるとシンヤは考え事を始めた

(キュウベエ?それに魔法少女?それに今、魔女って……。たぶん昨日のやつも同じ、か)

シンヤが自分の世界に入りかけるとおずおずと鹿目まどかが声をかけてきた。

「ね、ねえ、浅野君」
「あ、すみません、何かあった?」
「あの、その、ね」
「?」

マドカが頬を赤く染めながらなにか言いづらそうにしている。
シンヤの方が少々背が高いこともあり、小動物のような印象を受けた。

(かわいい)

シンヤが思わず見とれていると、マドカは顔をそらした。
すると、さやかがやれやれといった風に声をかける。

「あんた、いつまでマドカの手握ってるのよ?」
「はい?」

そう言われて、自分の左手をみるとマドカの右手としっかりとつながっていた。
マドカの顔はますます赤くなっている。

「のうわぁたぁ!!すみません!」

シンヤは妙な声を上げると慌てて手を放した。
マドカはまだ恥ずかしそうに、サヤカはにやにやとチャシャ猫のような笑みを浮かべ、巴マミは相変わらず微笑みを浮かべている。
この時、シンヤ達はこれからのひと月足らずの間に起こる希望と絶望に彩られた運命を知る由はなかった。


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