「縦割りによる密室性を排除し、病院長が医療安全の先頭に立つ」
副院長として調査委に参加した経験を踏まえ、新任の与芝真彰病院長は04年、病院改革に乗り出した。
昨年9月、操さんの両親をオブザーバーとして招いた、新たな「外部調査委員会」の報告書が完成。なぜ、技量が不十分な執刀医が医長らの指導や管理を受けずに手術を行い、術後の対応も徹底していなかったのか。報告書は、その背景を検証し、組織体制にまで踏み込んだ様々な改善策を提言した。操さんの3回目の命日には、約600人の職員が安全研修に参加、再発防止を胸に刻んだ。
この外部調査委が成功した理由は、次の3点だ。〈1〉両親のオブザーバー参加を認めた〈2〉8人の委員に、腹腔鏡手術のスペシャリストや、医療過誤問題に詳しい弁護士、医療ジャーナリストらを選んだ〈3〉問題の背景を医師の判断、感情を含めて細かく検証した――。
同病院は現在、不慮の死や患者側から苦情が出たケースは、病院長を中心に検証を行っており、手術ごとに、難易度や執刀医の基準、予定時間、手術責任者などの一覧も作った。医療事故などの検証については、まず内部調査を徹底し、専門鑑定などが必要な場合は外部の医師に依頼する、という体制をとる方針だ。
これに対し、母親は、病院側の取り組みを評価しつつも、「調査に患者側の立場を理解してくれる委員の存在は不可欠。オブザーバーがルールや節度を保てば、参加は可能なはず」と話す。
医療事故にあった患者や家族はまず、「何が、なぜ起きたのか」を知りたいと願い、初めから損害賠償訴訟を考える人は少ない。
事故検証では、「内部調査」「外部調査」「内部調査のうえでの外部評価」といった手法を、大学病院などが採用しているが、どれが“正解”かは見えていない。内部調査は「透明性」「公平性」の確保が難しい。一方で、結果が不本意だったすべてのケースについて、優秀な外部委員をそろえることも困難だ。
医療問題弁護団幹事の中川素充弁護士は、「外部調査委の設置がルール化しているのは、全国でもまだ数十団体で、人材の育成が急務。今は様々なトライアルを積み重ねる時期」と話している。