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事故検証 客観性「手探り」
内部調査 透明性・公平性に難 / 外部調査 優秀な委員集まるか

事故調査委員会の不十分な調査に基づき、「医療ミスとは考えていない」と繰り返した昭和大学藤が丘病院の記者会見(2003年10月9日)

 医療事故の客観的な検証はどうあるべきか。泌尿器科の腹腔(ふっくう)鏡手術で29歳の患者を死なせた昭和大藤が丘病院(横浜市青葉区、648床)の実践から、課題を探った。(鈴木敦秋)

 副腎の腫瘍(しゅよう)摘出手術を受けた会社員中澤操さんが死亡したのは、2002年10月。1年後に発足した「事故調査委員会」は、“客観性”の担保でつまずいた。

 当事者の泌尿器科医長の推薦で参加した他病院の泌尿器科医は、「手術に問題はない」と分析した。ところが、この医師には同種の手術経験が1件しかなかったうえ、その事実を委員会に伝えていなかった。医師の意見をうのみにして、いったん報告書をまとめたが、事件を捜査していた神奈川県警の依頼で行われた専門学会の検証により、膵臓(すいぞう)の一部を損傷する手術ミスが判明した。

 その後も、弁護士を通したやり取りでは互いの真意が伝えきれず、「ご家族は何を望んでいるのか」(病院側)、「クレーマーでないことを理解してもらうのが大変」(操さんの母親)と溝は埋まらなかった。

 

「縦割りによる密室性を排除し、病院長が医療安全の先頭に立つ」

 副院長として調査委に参加した経験を踏まえ、新任の与芝真彰病院長は04年、病院改革に乗り出した。

 昨年9月、操さんの両親をオブザーバーとして招いた、新たな「外部調査委員会」の報告書が完成。なぜ、技量が不十分な執刀医が医長らの指導や管理を受けずに手術を行い、術後の対応も徹底していなかったのか。報告書は、その背景を検証し、組織体制にまで踏み込んだ様々な改善策を提言した。操さんの3回目の命日には、約600人の職員が安全研修に参加、再発防止を胸に刻んだ。

 この外部調査委が成功した理由は、次の3点だ。〈1〉両親のオブザーバー参加を認めた〈2〉8人の委員に、腹腔鏡手術のスペシャリストや、医療過誤問題に詳しい弁護士、医療ジャーナリストらを選んだ〈3〉問題の背景を医師の判断、感情を含めて細かく検証した――。

 同病院は現在、不慮の死や患者側から苦情が出たケースは、病院長を中心に検証を行っており、手術ごとに、難易度や執刀医の基準、予定時間、手術責任者などの一覧も作った。医療事故などの検証については、まず内部調査を徹底し、専門鑑定などが必要な場合は外部の医師に依頼する、という体制をとる方針だ。

 これに対し、母親は、病院側の取り組みを評価しつつも、「調査に患者側の立場を理解してくれる委員の存在は不可欠。オブザーバーがルールや節度を保てば、参加は可能なはず」と話す。

 医療事故にあった患者や家族はまず、「何が、なぜ起きたのか」を知りたいと願い、初めから損害賠償訴訟を考える人は少ない。

 事故検証では、「内部調査」「外部調査」「内部調査のうえでの外部評価」といった手法を、大学病院などが採用しているが、どれが“正解”かは見えていない。内部調査は「透明性」「公平性」の確保が難しい。一方で、結果が不本意だったすべてのケースについて、優秀な外部委員をそろえることも困難だ。

 医療問題弁護団幹事の中川素充弁護士は、「外部調査委の設置がルール化しているのは、全国でもまだ数十団体で、人材の育成が急務。今は様々なトライアルを積み重ねる時期」と話している。



昭和大藤が丘病院の医療事故
 手術ミスをした執刀医、急変後の検査などを怠った研修医(当時)、出血原因の判断を誤った医長(同)の3人が、業務上過失致死容疑で書類送検、起訴された。

 ◎外部調査報告書の概要を載せた昭和大藤が丘病院のホームページは、http://www.showa-university-fujigaoka.gr.jp/



(2006年3月8日読売新聞)