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権力の真ん中で「市民運動」続けた菅首相

2011/8/26付
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 菅直人首相がいよいよ退陣する。6月2日の民主党代議士会での退陣表明から、もうじき3カ月。異常な事態に、いちおうのケリがつく。

 小泉純一郎首相のあと、ほぼ1年交代だった自民党の安倍晋三、福田康夫、麻生太郎の各氏。政権交代からわずか8カ月半で首相の座を去った鳩山由紀夫氏。それに比べると、30日に交代するとして在任449日は、けっこう長い。

 現行憲法下での30人の首相の中では、森喜朗氏を抜き、故大平正芳氏に次いで19番目だ。それにしても毎年、首相が定期異動のように交代するいびつな政治がつづいている。

「脱」で世論の支持狙う

 残念ながら、菅首相の政権運営に高い評価は与えられない。

 円高は歴史的な水準で推移し、株価は低迷、電力の供給不安から産業の空洞化への懸念が強まる。沖縄の米軍普天間基地の移設で何の進展もなく、昨年9月の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件でも外交力の弱さを見せつけた。

 もちろん最大の問題は3月11日の東日本大震災の発生で、東京電力福島第1原子力発電所の事故をはじめ、その対応に追われたわけだが、みるべき成果が思い当たらない。対応のまずさばかりが目立った。

 なぜだろうかとふり返ると、政治手法に問題があったことが指摘できる。権力のど真ん中にいても、権力をチェックする役割である市民運動の行動様式をつづけ、統治側のトップになれなかったとみえるからだ。

 菅首相の政治手法の特徴は「脱」にある。3つの脱だ。脱とは、既成のものをチェックし、取り除き、のがれる現状否定の考え方である。

 まず「脱官僚依存」を徹底したのが1つ目。次は福島原発の事故を受けて打ち出した「脱原発依存」だ。もうひとつ、やや角度は異なるが、党運営での小沢一郎元代表を排除する「脱小沢」路線もある。

 脱官僚依存は、自民党政権下で官僚が主導してきた統治の仕組みを改めて、国会議員が中心となり、内閣主導でものごとを決定していこうという政治主導の考え方だ。それは決して間違っていない。

 ところが、官僚排除に動いてしまい、官僚組織の機能を大きく低下させた。運用の失敗である。大震災のあと、政府の対応が後手に回ったひとつの理由だ。

 脱原発依存も結局、首相の「個人的な考え方」になってしまった。5月に中部電力の浜岡原発の全面的な運転停止を求め、7月にはさらに原発依存からの脱却と、原発のない社会の実現にまで踏み込んだ。

 しかし、閣内からも異論が相次ぎ、内閣としての方針は「減原発」におちついた。首相の言動が政府・与党を戸惑わせ、経済界に混乱をもたらす結果となった。

 なぜ脱路線なのか。それは世論の支持が得られるとの読みからである。脱官僚にしても脱原発にしても、脱小沢にしても、みなそうだ。

 市民運動家としてのしあがってきた首相は、常にメディアがどう取り上げ、有権者がどんな反応をするかに関心がゆき、それが政治判断の基準になっている――首相のもとで政権運営に当たったある党幹部が分析する通りだ。

 政権運営にも市民運動家の思想と行動を持ち込んだ、といえる。

 もうひとつ、首相の政治手法の特徴は、次から次へと政策の課題設定を変えていくことにある。昨年7月の参院選では、消費税の引き上げであり、次は環太平洋経済連携協定(TPP)への参加であり、大震災のあとは脱原発である。

統治の機能不全を招く

 財政や社会保障の将来を展望すれば負担増大は避けがたく、消費税改革の旗は間違っていない。だが選挙に敗れると、とりあえず旗を巻く。

 TPPにしても方向性は正しいのだが、党内をはじめ関係団体などからの強い反発にあうと、腰が引ける。こうしたテーマを実現していくためには、反対派の説得など周到な調整なしに、うまくいくわけがない。

 政治リーダーに必要な情熱と責任感と判断力が、菅首相にはどこまであったのだろうか。

 浜岡原発の運転停止や脱原発依存も、手続きなどお構いなしに発信する。組織を動かす発想ではない。常に動いていることで組織の求心力を維持する運動体の発想だ。ここにも市民運動家の顔がのぞく。

 忘れてならないのは、昨年の参院選での敗北で衆参ねじれ状況となった中、法案処理への与野党の枠組みを最後までつくることができなかった点だ。政策実現にスピード感がなかったもうひとつの理由である。

 民主党は鳩山政権で安全保障問題を危うくし、菅政権で統治の機能不全を招き、政治不信を助長した。今回の代表選を通じても変化がなければ、次の総選挙で有権者が突きつけるのは「脱民主」だろう。

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