「うう、夜の学校ってこわいなぁ……」
「がんばってなのは、魔力反応はすぐ近くだよ」
「うん、そうだね。
お化けとかでても魔法でやっつけちゃうんだから!!
いくよ、ユーノ君」
夜の学校を散策するなのは、自分の机の中から17番のジュエルシードが出てきてびっくりするまであと少し。
学校の校門前で、ちょっとしたいたずらが発覚するのを、アールワンは今か今かと待ち続けている。
「---------赦せ高町、プールは鬼門なのでな」
先んじて海鳴のプールへ足を運び、回収したものである。
なぜか付いて来たサディスト親父集団が水着女子を備え付けのステージへ担ぎ上げ、歌を歌わせるという
カオス極まりない状況を呼んだ。
まあ、おまけにスナック感覚で下着ドロをとっ捕まえておいたゆえ、社会的収支はプラスのはずである。
「ぱんつさーん、ジュエルシードとってきたよ~」
「ていうか、これも貴方が回収したものでしょう?
---------ねっとりしてるし」
「さて、拭いたつもりだったが、存外あっさりとばれてしまうものだな。
では、コレと一緒にデバイスにしまいたまえ」
『I feel the sense of resistance. (私は抵抗感覚を感じます)』
「我慢したまえ、いずれ気持ちよくなる。
ところで高町、其の愛称は何とかならないものか?」
「私の事も名前でよんでくれたら考えるよ?」
先の一個と合わせて二つを受け渡し、合計四つのジュエルシードを回収したなのはと、
アールワンは今後について打ち合わせを始めた。
「では、これからの捜索なのだが。
君は放課後から門限までの間、ユーノは昼間、そして私は深夜のほうを引き受けよう」
「あ~、ユーノ君だけは名前でよんでる、ズルイ」
「--------スクライアは部族名だろう?君の事を『日本人』と呼ぶようなものだ」
「……其れでいきましょう。
手際を考えればどうやらそちらは効率もいいみたいですし。
但し悪用はしないでくださいね」
釘を刺すフェレット、解かっていると二人の手の中にアーモンドチョコレートを落とすオリ主。
「……またアーモンドチョコだ。
好きなんですか?」
「仕事柄よく貰うのでね、余ってるんだ。
ところでユーノ、ここ数日は彼女に魔法を教えてあげるように。
見たところ高町は私よりもはるかに魔力量が多い、手に負えぬときは寧ろ彼女のほうが立ち回りやすかろう」
「わはりまひた……もきゅもきゅ……しはらくはひゃんと魔法を使えるようにとっくんします」
小さな体では一口大のチョコレートも苦戦する相手である、食って万全になれ。
「ああそれと、休日はしっかり休むように。
学校にもちゃんと出て、授業はしっかり受けるようにな」
「そういえば、ぱんつさんの学校は?」
「大検を受けて、今はそちらに通っている」
ろくに出席していないがね、と付け足しながらオリ主はその場を後にする。
*
そして、魔力を探りながら夜の街を巡回するアールワン。
やがて目的の二人が柄の悪い男達に絡まれているのを発見。
「なあなあ譲ちゃんたちィ、女二人でこの辺歩き回るのあぶないんでねぇの?」
「俺達みたいなヤツらに声かけられちまうよ?」
金髪の幼女、そして野生的な赤い髪を持つミドルティーンの少女である。
姉妹のような二人であったが姉のほうはともかくとして、小さいほうをあの男達はどうしようというのか。
どうこうするつもりなのだろう、変態め赦さん。
そんな事を考えたときだった、幼女が金属片を取り出したのは。
アールワンは懐からコンドームを取り出し、手首のスナップだけでそちらに投擲。
「まかせときなフェイト、こんな奴らにデバイスを抜くまでも無いよ」
「……でもアルフ、数が多いし、二人でやれば一瞬で終わるよ」
「アアン!!俺達が早漏だって言いてぇのかガキァァァァァァァァァァァ!
--------今夜は寝かさねえゾ」
悪漢、見当違いの逆ギレ。
しかし、フェイトは手にした其れの今までとは違う感触にいぶかしむ。
「……なんだろう、コレ」
カラフルなビニールで包装された、ペタンとした其れ。
己がデバイスを気づかぬ内に弾かれ、手にした其れを検分する。
--------その場にいた者たちの顔色が変わった。
「捨てなフェイト、其れの意味を知るのはまだ早いよ!」
「うわァァァァァァァァァァ!
--------コッ、コンドームじゃねぇか!?」
幼女からその包みをひったくると、悪漢たちは封を破り、呼吸の続く限り膨らませ始める。
でかでかと書かれた『Guilty』の文字が、悪漢たちの視界に広がる。
「--------コンドームじゃねえか!!!!」
風船だったのか、とフェイトが理解した瞬間、彼女の武器が其の風船の上に落ち、
ボヨンと跳ね返って少女の手の中に入る。
『Then, it is not possible to transform. (その時、変形するのは、可能ではありません。)』
「うん、間違ってごめんねバルディッシュ」
自身の愛機を指先で撫でる、其の時である。
「ハウァ!!」
一番奥にいる悪漢が悲鳴をあげた。
何事かと其の男のほうを見る群れ、そしてフェイトとアルフは、彼の存在に気がつくのである。
「まさか!」
「--------テメェは!!」
「いかにも-------アールワン・D・B・カクテルだ」
オリ主である……男の腰パンに躊躇無く手を差し込み、臀部の最奥にある穴へ指を突っ込み、
屈強な男を文字通り指一本で制する様、変態的。
男であろうとノンケであろうと、構わずに食っちまう様、容赦なし。
「ヘッ!てめえがヒーロー気取りのアールワンかッ!」
「テメェをしばき倒せば俺達がこの町の頭(ヘッド)を名乗れるってもんだぜ」
刃物を取り出そうとする悪漢たちだがしかし……。
「--------ほう」
自分の名前が小悪党達にまで知れ渡っていることを知ると、さらに深く、男のパンツに腕を差し込む。
「私を、どうにかできるつもりかね」
「ば、バカヤロウ息巻くんじゃねぇよお前ら……手が…手首がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げる悪漢、脂汗を流し、無意識にガタガタと奥歯がなる。
どうにかされてしまうと恐れをなし、逃げて行く悪漢達。
最後の一人も尻を抑えて、命からがらその場から離れて行く。
*
「--------君、すまないが其処の自販機で水を買ってきてくれないか?
手を洗いたいのでね」
アルフは、あっという間に男達をいなしたオリ主に請われ、意識を取り戻した。
「あ、アンタ一体何者なんだい?
その……容赦が無いじゃないか……」
「アルフ--------魔力を感じる、その人は魔導師だ」
再び武装しようとバルディッシュを構えるフェイト、アールワンは其れを手で制した。
フェイトをかばって後ずさるアルフ。
「名前は先も言ったとおり、ただの街の掃除屋だ。
そしてなるほど、自身は魔導師でもある--------ところで水を買ってきてくれないか?」
「どうして魔導師がこんなところにいるの?--------管理局の人間!?」
「其れは否、君も無闇やたらに魔法を使うと彼らに嗅ぎ付けられる、気をつけるがいい。
隠遁生活の先達から忠告だ--------そして水を買ってきてくれないか?」
男は自分と同じく管理局の目を逃れる現地の魔導師であった。
其れを知るとフェイトの表情から険がはがれ、肩から力が抜ける。
加えて、なんという達人であろうか、いかに相手は非魔導師とはいえ、腰元を手で触れるだけで、
屈強な男が悶絶したのであろう。
何と言う魔法か、とても興味がある。
「あの、知っているようですが、私達も管理局の目を盗んで『あるもの』を探しているんです。
良かったら協力してくれませんか?」
土地勘もあろう、現地の協力者がいれば母のいいつけも進むであろうし、
何よりも---危機とはいえまいが---自分達を救ってくれた其の男は、頼りがいがありそうである。
そして近づいて行こうとするフェイトを羽交い絞めにして食い止めるアルフ、
其の男は、こう、なんか危険だと。
「--------天から降りそそいだ厄債の種、ジュエルシードの事かな?」
「知っているんですか!」
「すでに二度、暴走体となってこの世界を脅かしている。
其れを管理していた少年が、現地の協力者と退けたがね」
まだ、この街にも魔導師がいた、其れも自分と同じジュエルシードの捜索者が。
「残念ながら私はそちらに加担している、残念ながら君達の力にはなれそうも無いな。
尤も少年の協力者、桃光の魔導師は優しい子だ--------ひょっとしたら君達の力になってくれるかもしれないが」
「……ならば、ここで貴方を倒しておきます」
「ほう、面白い」
今度こそ一触即発、三度バリアジャケットを纏おうとデバイスを翳すフェイト。
アールワンは右手を前に、左手は胸元からはさみのような、銀色の器具を取り出した。
先端はペリカンの嘴に似ている。
「私は君達があの魔具を求める訳、御身に聞かせてもらうとしよう。
そして水を--------」
これ以上まかりならぬと、アルフはフェイトを引っつかんで空へ逃げる。
「アルフ!どうして!」
「どうしても駄目なんだ、アイツとは渡り合っても分かり合ってもいけないよ!!
とても、危険なんだ、道徳的にね!!」
己の使い魔がここまで血相を変えるとは、いかなる強敵か!?
アールワン・D・B・カクテル、道徳的に恐ろしい敵よ、フェイトは其の名をしかとその身に刻み込んだ。
*
そのようにして数度、昼と夜がめぐる。
予想より早く海鳴の町に着いていたフェイト、彼女を出し抜いてジュエルシードを集めるのは、
うろ覚えの原作知識ではどうにも無理であった。
もちろん魔法教育に専念してもらっているなのは・ユーノ組にしても成果は無く、しかしあせる事はさせぬ。
予定など立てると足元を掬われそうで怖いが、次の暴走体は『木』、原作でも町に大きな被害を出した難敵。
本来なら惨状を見た少女が、信念たる『不屈』に目覚める、いわば試練の時であるが……。
アールワンは愛馬から降り、サッカーに興じる少年達を眺めていた。
本日は日曜である、言いつけどおり万全の体調管理を施されたなのはが、小さな体を目一杯使って
少年達を応援している。
果報者達め、勝利と青春を勝ち得るが良い。
そんな事を思いつつ、どうしても視線はゴール前、キーパーを務める少年に向かってしまう。
--------おそらく、彼がジュエルシードを持っている。
気になるあの子に其れを渡したとき、この町を悪夢が襲うのであろうが……
(--------どうして其れを取り上げられよう)
オリ主は、其の小さな愛を育むことしか出来ぬ、騒動がひとたび起これば、迅速に救い出せばよい。
もちろん、受け渡しの際なのはが気がついたならば、そして声をかけたならば其れまでなのだ。
人其れを、まる投げと呼ぶ。
翠屋JFC、試合後半にして最大のピンチ。
相手チームはフォワード、ミッドフィルダー共に陣地へ深く切り込み、ゴール前で組み体操の様な動きを見せた。
はるか上空から放たれる三人同時の蹴撃、吹き飛ばされる翠屋ディフェンダー陣。
--------だがしかし、コート上に響くゴールキーパーの剛声、気合と共に少年の手がゴール一杯に膨れ上がり、
敵チーム必殺のシュートをしかと受け止める。
後は攻勢に殉ずるのみ、遠く、遠くへと蹴り飛ばされたボールは反撃に転じる翠屋攻勢陣へわたり、
尤も前衛へ位置取っていた少年が利き足を振りかぶると、地面が爆ぜ、其処から四匹のペンギンが姿を現す。
それらはボールと共に見事な編隊飛行を見せ、やがて相手のゴールへ共に突き刺さる。
凍りつくゴールネットの前で膝を付く相手キーパー--------そこで試合終了のホイッスル。
--------翠屋JFCの勝利である。
「やったねお父さん、勝ったよ」
「ああ……無理を言ってみんなに応援に来てもらってよかったよ、アリサちゃんもすずかちゃんもありがとう」
「いえ、どういたしまして。
--------たまには観戦と応援だけっていうのも楽しいです」
笑いながらすずかが言う。
自身が試合に出ていたら、まあ、ここまでの接戦にはならなかったろうという自信が見て取れる。
「……ていうか、サッカーってこんなアクロバティックな競技だったっけ?」
「ブラジルの人とかと違って、日本人は基礎体力が低いから。
どうしても技に頼るしかないんだよ、ね?お父さん」
「そうだよなのは。
お父さんも足腰を痛めていなければまだネオサイクロンが撃てたものだが……」
残念そうに士郎が言う。
「……どうしたのアリサちゃん?」
不審気を感じ取ったのか、すずかがアリサの顔を覗き込む。
そういえば彼女も先週のドッジボールの試合の際、ボールを餅のように伸ばしてから放っていた。
小学生の球技とは、きっとそういうものなのだろう。
「さあ、みんな集合だ。
--------ウチの店で祝勝会をやるぞ!!」
*
そして、欠食児童たちの腹に程よく桃子謹製の菓子が詰まった頃、先の試合でファインセーブを見せたキーパーが、
鞄から『ソレ』を取り出し、気になるマネージャーの少女へ走り寄って行く。
(今の……ひょっとしてジュエルシードの気配!?)
(なのは、どうしたの)
なのはは念話でユーノに今感じた感情を伝えようとしたが、俺が知っている俺に任せろする前に、
残念ながらアリサに念話を遮られてしまう。
「ねえ、時折アンタとユーノじっと見詰め合ってるんだけどさ、どうも怪しくない?」
「そうだね、ひょっとしてユーノ君、普通のフェレットじゃないとか?」
なのはは焦った、このままではユーノが魔法の世界の住人(住獣?)であることがばれてしまう。
「そ、そんなこと無いよ?
ユーノ君は一寸……いや、だいぶお利口なだけのただのフェレットだよ?」
「キューキュー」
相槌を打つように何度も頷くフェレット。
「それは解かるけどさ……じゃあなんか芸を見せてよ」
「わ、解かったよ、い~よ、見せてあげるの。
----------------ユーノ君」
なのははポケットからボーダー柄の下着を取り出し、相棒に命じた。
「--------縞パン」
「キュッ!!」
一際太い横断線と一体化するユーノ、見事な横一文字。
それを微妙な表情で見つめる親友二人、やっとの思いで感想を言葉にした。
「……よ、よく出来たね~えらいね~」
「……ていうか、なんか粗相をしたように見えるんだけど」
二人の手がそっとユーノをパンツの上からどける、所在なさげ彼は、机の上にあるスティックシュガーを数え始めた。
「まぁ、いいわ。
この前家の鮫島と峠を攻めた馬みたいな珍獣も世界にはいるわけだし……」
「そういえば、あの人今日来てたね。
なのはちゃんのシマウマの王子様」
--------なのはの顔色が変わった。
彼が、アールワンが姿を現したならば、其処にジュエルシードが絡んでいる事は明白。
だが、アリサはその態度の急変を別の意味でとってしまった。
「ねえ、なのは?
ひょっとしてこれからあのエグダチ(EXILEのメンバーのような、総じて強面でお友達に成り難いタイプ)と、
待ち合わせてデートとか……」
「ち、違うよ!!
パンツさんとはただのパン友(パンツに一過言ある、総じてお友達に成りえない変態)だもん」
「パンツさん……でもこの前一緒に学校から帰ってたよね?」
「雄範誅(おぱんちゅ)号と一緒だったでしょ!?
ユーノ君に何食べさせたら乗って歩けるくらいまで成長するか質問してただけだよ!!」
(なん……だと……!?)
「「それ馬ァ!?」」
驚愕するフェレット、巨馬の名前に総ツッコミな二人。
話を聞いてまんじりともしない士郎や恭也を踏まえて、ぐだぐだのまま祝勝会はお開きとなった。
*
--------かくして、海鳴の町に巨木が出現する。
--------しかも町を覆いつくすほどに枝葉を広げた、想像し得ない規模の、である。
「コレは……予想以上だな……」
根が張られた市街地は、さながら大地震に見舞われたかのような有様であった。
救急車が通る隙間も無いほど捲れあがったアスファルトの上を、巧みな轡さばきで進むオリ主。
雄範誅(おぱんちゅ)号の背に乗せ一人、また一人比較的安全な場所へ被災者を運んで行く。
誰かの鳴き声、どこからか響く爆発音。
天高く、其れこそ電離層に届くか、という位置で開いた枝葉は、空を夜のように暗く埋め尽くしていた。
「--------パンツさん!!」
月光のように頭上を照らす桃色の光、高町なのはの到着。
しばらくの間、店の前で友人が見張っていた手前、到着が遅れた。
尤も、この騒ぎが起こって間もなく、二人は家族が迎えに来たのだが、
今度は、自身の家族が武器を携えて店を飛び出した、なのはは最後発、桃子の目を盗んでの出発となったのだ。
「ごめんなさい、今回のジュエルシードの発現、私気づいていたんです!
もっと早くあの子達に声をかけていれば、こんなことになるはずじゃ……」
「--------いい、皆まで言うな!!」
愛馬から飛び降りたアールワン、なのはとユーノに視線を合わせ、言い聞かせる。
落ち着いて、ゆっくりと、しかし力強く。
「自分も先程、サッカーをしていた少年達からジュエルシードの反応を感じ取っていた。
持ち主を絞り込めず、取り上げることもままならず放置していたのは自分も同じだ。
今はただ、我々に出来ることを成し遂げよう。
ユーノ、一つ問いたいが、ジュエルシードとは人間が発動させればここまで巨大になるものなのか!?」
「はい、人間が発動させたとき、ジュエルシードはもっとも危険なんです。
でも、ここまで酷い状況になるなんて……自分もあのロストロギアを、甘く見ていたかもしれない」
アールワンはぐっとユーノの頭を抑えつけた、どうも自虐に走る少年少女が多すぎる。
「とにかくだ、私は引き続き被災者を救援して回る。
二人は核たるジュエルシードを見つけて、其れを封印してもらいたい。
こうまで高く伸びてしまっては、さしもの雄範誅(おぱんちゅ)号とて飛び上がれぬ」
「わかりました……なのは、この前教えたワイドエリアサーチ、できるね?」
一つ頷くと、頭上高く舞い上がる白いバリアジャケットの魔導師。
デバイスを巨木へ突きつけ、力強く宣言する。
「町を破壊し根を広げるジュエルシードモンスター、人の子として決して赦せません!
この額のパンツにかけて、今、この場で封印します!!」
「--------oh……」
微妙なキメ台詞が解き放たれてしまった、オリ主は場違いにも額に手を当てる。
*
「--------なのは、察知したかい?
この向こうに、核になっている二人がいるよ」
肩のユーノが声をかけると、なのはは射抜かんばかりの瞳で大樹を見つめ、一つ呼吸を整えると、デバイスを構えた。
「行くよ、レイジングハート……シュ-ティングモ-ドッ!」
『Shooting Mode』
形を変える愛杖、己が魔力を集中させ生涯に初、天地を揺るがす砲撃魔法を解き放つ!!
「ディバイィィィィィン・バスタァァァァァァァァァァァァッッッ!!」
着弾、しかし其の一撃をもってしてもありえぬほどの威容を誇る此度の暴走体には、深く傷をつけるだけで核には届かぬ。
人知れず奥歯をかむオリ主、さらに、容易には信じられぬ異変が巨木に起こった。
ドーム上に光り輝くユグドラシルの文様、見ただけで肌をあわ立たせる其の威容。
其れに留まらず、少女が傷をつけた大樹の表面から、膨大な量の軍勢があふれ出したのだ。
「--------木人(ぼくじん)だとッ!?」
推定十万、丸太を組み合わせたような不恰好なその人型が、いっせいに逃げ遅れた人々を襲い始める。
--------乳に、尻に、太ももに、或いはサラリーマンのスラックスに備えられた社会の窓を降ろし始める。
----------------近年の小学生は、早熟であった。
「くっ……ショートストックゥゥゥゥ!!」
オリ主は剣を抜き、今まさに夫人に襲い掛かろうとする不貞の輩に切りかかった。
*
「父さん、コレは一体ッ!?」
「解からん、だが来るぞ!構えろ!!」
「「応ッ」」
御神の剣士が三人の前に立ちふさがったのは木彫りの熊、力任せに手にしたシャケを振り回し、行く手をさえぎる。
敗北は無かろう、誰もが知る裏の兵、しかし問題は其の姿を其の娘が、頭上の魔術師が垣間見てしまった事だ。
「あ……あぁ……」
「なのは、なのはしっかりして!!」
自らが魔法を放った場所からあふれ出る怪物、今尚罪無き人へ襲い掛かるおびただしい数の威容
--------少女の心の中を抗えぬ恐慌が襲った。
「全て…………全て焼き尽くしてやるッツ!!!!!!」
いくつもの光弾と光帯が、何度と無く闇を切り裂く、果たしてそれらが通る先は次々と浄化されてゆくが……
「危険だ、なのは!こんな大規模攻撃魔法、続けて撃ったらリンカーコアが持たないよ!!」
「あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
そんな出鱈目な攻撃を繰り返して幾つ時が分けたのか、やがて主の危険を察したレイジングハート、
全ての強制停止をかけ、ゆっくりと其の身を地面に降ろして行く。
「なのは、ごめんよなのは……こんなことに巻き込んだ僕を、いくらでも恨んでくれていい」
この地に下りて再び、フェレットの小さな瞳から涙があふれ出た。
だがしかし、二人の体は硬い地面に触れることは無い。
地面に落着する前、そっと、黒と金色のバリアジャケットに身を包んだ少女に抱きとめられた。
「--------あなたは一体……」
「アルフ、この二人を安全な場所まで運んで。
あなたは、回復魔法、できる?
起きたらその娘に伝えてほしいんだ、よくがんばったねって。
----------------ここから先は、私が引き受けるから」
「フェイト、本当に手を出すのかい?
いっちゃなんだけど、あれは本当にやばいよ?」
「ジュエルシードがあるんだ、あそこに、確実に一個。
--------それにこんな状況を見捨てたら、きっとお母さんも赦してくれないよ」
連れの、おそらくは使い魔であろう女になのはを引き渡すと、迅雷の魔導師は戦斧を振りかざし、巨木へ歩を進める。
ユーノは其の後姿を見つめながら、3人目の魔導師の出現に声を奪われつつも、一刻も早い事態の終結を願う。
*
「おお、おおなんということか……」
迅速に救い出したはずの女性、其の口元から赤い線が一筋、引かれていた。
アールワンは其の女性を抱き起こす、名も知らぬただのOLである。
だが、そんな彼女はオリ主の眼前で、木人の性的暴行から逃れんと自ら舌を噛んだのだ。
--------何と言う勇気、誇るべき貞淑である。
オリ主は己を恥じた、一刻前の日和見思考が紛れも無く今、ここにいる女を見殺しにしようとしている。
すまぬ、すまぬと心中詫びながら、不出来な回復魔法を掛け続けた。
そのときである、ぐったりと力を失った其の女の下腹から、心打つ幻聴が響いたのは。
『--------私は、貴方が抱きとめている女性がまとうパンツであります。
彼女は故郷を離れ、勤めて初めての給金で私を買い求めここぞというときは常に傍に置きました。
やがて結ばれるであろう恋人との、初めての褥の折にも私は其処に居りました。
貴方、名も知らぬ優しく力強い貴方、私は口惜しいのです。
やっと手にした幸福の最中このような不可解に身をおかれ、
虫の息をしている主が置かれている状況が、たまらなく悔しいのです。
この薄い我が身にたぎる憤りを感じましょうか、怒りを感じましょうか?
--------私は仇を獲りたいのです、他ならぬ私と貴方で、仇が獲りたいのです』
辛抱たまらず、オリ主は女のプリーツスカートをたくし上げた。
--------黒地に艶やかなレースで縁取りをされた、勝負パンツである。
たちまちアールワンの瞳から熱いものがあふれ出て、其の姿が滲んだ。
(私が戻してやる--------お前を、幸福を取り戻した主の元へ、私が必ず戻してやる。
だから今は、今はお前の力を借り受けよう!!)
「--------雄範誅(おぱんちゅ)号、彼女を安全な所へ運んでくれ」
するり、女の腰からパンツを抜き取り、愛馬の背に其の身を預ける、
雄範誅(おぱんちゅ)号、オリ主へ向けて貴様はどうするかと瞳で問う。
「--------私は、一線を超えるッ!!」
今にして思う、どうして自分は2年もの間、パンツを被らなかったのか。
有るべき物を有るべきところへ、為すべきことから背を向けて過ごしてきたのか、と。
そんな恥も後悔も、今この瞬間で終わり。
この勝負パンツを広げ、さあ、顔をつっこもう----------------
「--------ニート証券ッッっっっっっっ!!」
顔面を覆う温もりと、たちまち広がるフィット感。
混然が一体となり、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オリ主を中心に、白と黒の魔力光が爆裂した。
身にまとうロングコートがたちまちひび割れ--------
「クロス・アウッッッッ(脱衣)!!」
服(バリアジャケット)など着ていられるか、とばかりにものすごい勢いで周囲に弾け飛ぶ。
やがて其処に頭上と腰、すなわち天地に二つのパンツを纏うオリ主が身を表すわけだが、
--------解かっているだろう、諸君。
----------------此度の変身はここで終わらぬ。
「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォヴァァァァァァアァァッァァァァ・ドルァイヴッ!!!!」
--------自身のパンツの裾を引き、引手は天に、弓手は地に拳を突き出す。
そして胸の中央、自身のリンカーコアを引き締めるようにゴムの部分を交差させ、肩にかけるスタンダードVフォーム。
腕を、足を幻獣の血で描かれた魔導式が網タイツのように彩り、その目から質量炎を噴いた。
パンツに温もりが残っているうちは、其の威力数倍に跳ね上がる。
原作三期高町なのはにおけるブラスターモードに匹敵する其の名も高出力『オーバードライブ』モード。
さあ諸君、完璧だ、そしてただただ満足である。
今ここに、愛に目掛け地に落ちた太陽------------------------
「……へんたい、だ」
おぼろげながら意識を取り戻した名も知らぬ女性、しかし彼は彼女を一瞥すると、其の意を否定する。
「変態ではない--------私は変態仮面だ!!」
オリ主、アールワン・D・B・カクテル、改め『変態仮面』は女に背を向けて、眼前の死地へ一歩を踏み出す。
敵は半数を失ったとて、推定十万を下らない『魔導木人』の群れ。
懲伏するは果たして、いかなる『変態秘奥義』か----------------