きょうの社説 2011年8月26日

◎世界農業遺産発信 キャンパス構想とも連動を
 石川県が9月補正予算案で世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」の発信策を検 討するなど、産学官の動きが本格化してきたが、世界農業遺産の魅力を引き出すうえで、とりわけ期待したいのは「学」の力である。

 能登を一つのキャンパスに見立て、高等教育機関の研究、実践を促す能登キャンパス構 想推進協議会が今年3月、県と金大、奧能登2市2町で発足した。その3カ月後に世界農業遺産の認定が決まったが、キャンパス構想も認定名称にふさわしく、もっと大きな視点で具体像を描く必要がある。

 能登ではこれまでも各大学が地域貢献活動を展開してきたが、地域活性化の取り組みは 、一朝一夕には成果が表れない。大学が世界農業遺産の「頭脳」を担うような持続的な仕組みができれば、里山里海を生かす可能性も大きく広がっていくだろう。

 地元の大学だけでなく、金沢に拠点を置く国連大との連携も極めて重要である。キャン パス構想を単なるイメージにとどめず、能登に「学都」の新たな拠点を構築する意気込みで受け入れ体制などを整えていきたい。

 能登キャンパス構想推進協議会は今年度ゼミナール事業として、柳田地区の文化遺産「 町野荘」の利活用(能登町、金沢学院大)や伝統的景観である間垣の継承(輪島市、金大)、祭礼の観光資源化と祭礼文化の継承(珠洲市、石川高専)、地域人材マップ作成による交流人口促進(穴水町、金沢星稜大)の4件を採択した。それぞれ世界農業遺産の構成資産であり、活用、継承策を探ることで他の地域資源にも役立つヒントが見つかるだろう。

 輪島市などでは9月1日から3日まで全国50大学の関係者が集う「地域再生人材大学 サミット」が開かれ、能登活性化策を話し合う。歴史を振り返れば、能登では昭和20年代に、民俗、考古、言語など九学会連合会が総合調査を実施し、埋もれた歴史文化を掘り起こす大きな成果を収めている。世界農業遺産の活性化や発信策も、大学などが総掛かりで取り組むに値するテーマである。サミットは県内外の大学がネットワークを広げる絶好の機会といえる。

◎ロ朝首脳会談 6カ国協議の意思見えぬ
 北朝鮮の金正日総書記がロシアのメドベージェフ大統領との会談で、6カ国協議への無 条件復帰と核実験の一時停止の用意があることを表明した。金総書記自らが公式に表明した意義の大きさをロシア側は強調しているが、6カ国協議再開の条件として非核化に向けた具体的な行動を求める日米韓からすれば、前向きな評価はし難い。

 核実験の一時停止は、北朝鮮にとって軽いカードである。金総書記は6カ国協議再開に 積極的で、日米韓に譲歩したように見える。しかし、核実験は2009年から行われておらず、事実上、一時停止状態にある。協議再開条件の要である、ウラン濃縮を含めた核開発活動の停止に踏み込もうという意思はうかがえず、北朝鮮を説得して核廃棄を促すロシアの強い意思も伝わってこない。

 大量破壊兵器放棄の道を選択したリビアのカダフィ政権が崩壊したことで、北朝鮮がま すます核に固執する懸念もある。

 伝統的に友好関係にあるロ朝の首脳会談は9年ぶりである。北朝鮮には、中国一辺倒で はなくロシアとの関係も拡大して権力継承と経済再建の道を開く狙いがあり、ロシアには米中に対抗して北朝鮮への影響力を回復し、存在感を示す思惑があるとみられる。

 来年は、北朝鮮にとって故金日成主席生誕100周年を記念し、強盛国家の実現を図る 年とされる。ロシアにとっては大統領選の年であり、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議がウラジオストクで開かれる外交上重要な年である。朝鮮半島安定化に寄与する姿を見せることは、APEC首脳会議を成功させ、アジアの経済力を取り込んでシベリア開発を進める上でも役に立つ。

 ロ朝それぞれに意義づけできる首脳会談では、ロシアの天然ガスパイプラインを北朝鮮 経由で韓国にまで敷設する構想を具体化するため、特別委員会の設置で合意した。北朝鮮の核廃棄の見返りにもなるとロシアは積極的であるが、途中でガスが抜き取られない保証はなく、韓国が本気になるかどうか不透明である。