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米国の通貨政策を既定する3つの重要ファクター
昨日のマーケットでは、リスクアセットの代表である世界の主要株価指数か大幅続伸する一方、安全資産として高騰を続けてきたNY金先物が売り戻される展開となっている。
ひときわ上昇が顕著なのが米主要3株価指数であり、米株式市場全体のベンチマークS&P500は3日続伸で、この間の上昇率は4.81%に達している。 米メディアによれば、市場ではバーナンキ議長が26日の講演で何らかの発表を行うのではないかとの楽観論にも期待が維持されており、最高値圏にある金を売って割安感のある株式に乗り換える動きが生じていると解説している。
実際、S&P500は今月に入ってからの下落幅の3分の1を戻したに過ぎず、市場にはグリーンスパン前FRB議長の時代から難局に対して金融当局が積極的に対応してくれるという「グリーンスパン・プット」という期待感が染み付いているため、バーゲンハント的な買いが入っているとしても不思議ではない。
加えて、米国では大統領選挙の前年は株高という経験則にも似たアノマリー(⇒理論的根拠の無い経験則)が存在しており、来月5日のLabor Day明けにオバマ大統領が発表する経済対策に対する期待も高まっているといえよう。
今週を振り返れば、23日は7月の新築一戸建て住宅販売や8月のリッチモンド連銀業況指数が悪化基調を示したが、市場ではむしろ経済指標の悪化が追加緩和期待を高め、米国株の大幅高を促した。 そして24日は、7月の耐久財受注が予想を上回る増加となり、過度な景気後退に対する懸念を幾分和らげたとして大幅続伸している。
つまり、いいとこ取りでどっちに転んでもリスクオンによる株高に賭けているというわけである。
もっとも、米紙WSJが報じているように、米経済は日本の「失われた10年」を後追いしており、「日本化(ジャパナイゼーション)」のリスクが懸念されているのが実情である。
「日本化」の教訓の一つは、バランスシート不況下では債務返済が優先されるため、金融政策は効かないということであった。 米国ではFEDが2008年12月にFFレートの誘導目標を実質ゼロ%に引き下げ、2009年3月には総額1兆7千億㌦の資産買入れプログラムである「QE1」(量的緩和第1弾)を導入し、2010年11月には総額6千億㌦の国債買入れプログラムである「QE2」(量的緩和第2弾)を導入したが、住宅価格は一向に下げ止まらず、失業率は9%台で高止まりしている。
今年5月頃までは、米景気減速は一時的な軟弱局面を示唆するソフトパッチ(ぬかるみ)と解説されてきたが、8月のFOMC声明は一時的な要素だけではないと認め、景気判断の下方修正と同時に見通しに対する下方リスクが増大したと記述している。 つまり、FEDの景気見通は、日本化を意味する「ニューノーマル(新たな標準)」を認めるものでもあり、これが安全資産としての金や米国債への資金流入を促してきた原動力であったといえよう。
日本のメディアは米ドル安を大きく取り上げているが、今月に入ってからの米ドルはほぼ全ての通貨に対して上昇していることを見逃してはならない。
そして内外メディアは連日、今週末に行われるバーナンキFRB議長の講演を昨年との対比により大きく取り上げているが、昨年と大きく異なることの一つに米ドル相場の動向が挙げられる。
昨年の場合は、6月のFOMC声明で景気判断が下方修正されたのを境にして、追加緩和を念頭に置いたコミュニケーション政策により金利低下とドル安誘導がなされた経緯がある。
(⇒ちょっと解説:政策的にドル安誘導される場合は「ドルは暴落しない」という読みがあるとされている)
主要6通貨に対するドルの値動きを示すICE(インターコンチネンタル取引所)のドル指数は、昨年6月8日の88.473をピークにして下落に転じ、「QE2」導入が決定された同年11月3日のFOMC直後に76.000まで下落している。 今年はどうか、米政策当局者から目立ったドル安誘導はなされていない。
それもそのはず、絶対的なインフレ指標がデフレリスクが警戒された昨年とは大きく異なっているためである。 米国の通貨政策を既定する重要ファクターは「経常不均衡」「金融資本市場」「インフレ」の3つと考えられており、経常赤字が常態化しているためドル安放置策「ビナインネグレクト(華麗なる相場黙認)」が採られることが多いが、株式・債券市場が不安定となる場合やインフレが警戒される状況下ではドル高が促されてきた経緯がある。 つまり、ここからのドル安はメリットよりもデメリットの方が大きくなるということであり、足下のドル高はドルキャリー・トレードとして世界中のリスク資産に投じられた米系リスクマネーが母国回帰しつつある兆候と解釈することもできよう。
こうした観点からは、オバマ大統領が9月に発表する雇用創出に向けた経済対策の中に、「HIA(本国雇用創出法内国投資促進条項=Home Land Investment Act)」が含まれる可能性も否定できず、実効相場ベースで最安値圏にあるドルの底入れにつながるイベントとすることもできよう。
ご参考までにECBが算出するユーロの総合的な実力を示す実効為替相場は、8月24日時点で105.427に位置し、過去15年間の平均101.60を3.76%上回っている。
ユーロは欧州債務問題で大きく揺れているものの、決して大きく売り込まれてきたわけでないということである。 言い換えれば、下落余地が十分に存在しているといえよう。
(8月25日 11:35記)
2011年08月25日 | 米国の通貨政策を既定する3つの重要ファクター |
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プロフィール
- 森 好治郎(もりこうじろう)
日本テクニカルアナリスト協会
認定テクニカルアナリスト(CMTA1)会員番号200762
米国CTA(商品投資顧問)出身の異色ストラテジストフューチャーズアナリスト時代に培った独自分析手法を武器に外国為替ストラテジストに転身、現在に至る。"国内外の新聞・テレビ・ラジオ"出演多数。
1993年
全米証券取引業協会(NASD)商品投資顧問(CTA)
資格NFA ID:0260098
1994年
日本ファイナンシャルプランナーAFP資格
ライセンスNo.30078027
1998年
金融先物取引業協会内部管理責任者資格
2001年
証券内部管理責任者資格