係は認められない。その為、墓壙内での器種組成と、遺跡間の器種組成における排他的な関係を見出し、遺跡間
の相対関係と型式学的な相対関係によって新旧関係を判断していく。まず上記の遺跡の内、資料的に最も充実し、
アムール女真文化の古手をその一部に持つとされるコルサコフ遺跡の分析を行う。
これまでの研究から、コルサコフ遺跡には古手の土器組成があるという点で意見の一致を見ている。特に、
ヂャーコヴァ氏(1993)や趣氏等(趣ほか 2000)、臼杵氏(2004)は、靺鞨罐の変化として、胴部が長胴から
短胴に変化すると指摘している。本稿での分類を対応させると、前者は靺鞨罐1類に、後者は靺鞨罐2類にあて
られよう。靺鞨罐1類と2類の出土状況を検討すると、共伴事例は 4 例のみである(表 3)。また靺鞨罐1類と
2類に共伴する他の器種についてみると、靺鞨罐1類では、長頸壷1類、短頸瓶、孟を主体とし、これに碗、盆
が加わる。靺鞨罐2類ではこれらに加えて、短頸壷、盤口壷、短頸壷 1 類、広口罐が主体となる。また長頸壷 1
類のように両者に共通する器種においても数量的な変化が認められる。つづいて文様についてみると、靺鞨罐1
類の土器組成では、長頸壷の文様帯は1類あるいは2類に限られるのに対し(表 4 − 1)、靺鞨罐2類の土器組
成では、文様帯 3 類、4 類が増え、把手、瓜棱文が付加される(表 4 − 3)。また同じ文様帯 2 類中でも、前者
は単一文様種による構成であるのに対し、後者は 2 種以上の文様種の混合による(表 4 − 3.2RS 等の増加)。尚、
靺鞨罐 1 類の組成中でも、短頸瓶は文様帯 4 類となるが、この器種は胴部全面に文様帯を持つことを基本的な
特徴としている。以上から、靺鞨罐1類と 2 類を指標とした土器組成は、明確に排他的な関係にあるといえる。
ではこの相違は何に起因するのであろうか。靺鞨罐 1 類の頚部が伸張する形状は、靺鞨文化のナイフェリト群
(Дьякова 1984)に類似するが、口縁部のキザミや胴部文様に型押しや沈線を付さない点では同文化の
トロイツコエ群と類似する。ナイフェリト群とトロイツコエ群は新旧関係にあるとされる(Дьякова1984、
臼杵 2004 ほか)。この関係は同仁文化一期と二期における靺鞨罐の差からも追認することができるが(譚ほか
1991)、同仁遺跡の詳細は公表されておらず、層位的な関係については不明な部分が多かった。近年、渤海領内
である牡丹江中流域における河口遺跡、振興遺跡等の発掘調査で両者の関係が層位的に実証されている(黒龍
江文物考古研究所・吉林大学考古学系 2001)。振興遺跡では、ナイフェリト群にあたる土器 4 期で、口縁部の
キザミが消出し胴部文様として隆帯を持つトロイツコエ群に比定できる靺鞨罐が 5 期でそれぞれ出土しており、
新旧関係が明らかとなっている。振興 5 期の土器と本稿の靺鞨罐 1 類の特徴は基本的に一致しており、相対的
関係としてナイフェリト群に後続する位置を与えることができる。
靺鞨罐 2 類についてはどうであろうか。この土器組成の内、注目されるのは瓜棱文を持つ盤口壷(以下、盤
口瓜棱壷とする)である。盤口瓜棱壷は、遼代の契丹土器としても知られる資料である。契丹の盤口瓜棱壷と比
較すると、共通性が高いことは明らかである。遼代の契丹土器研究によれば(今野 2002、彭 2003)、耶律羽之
墓(941 年没)(内蒙古文物考古研究所 1994、盖 2004)や沙子溝墓(敖漢文物管理所 1987)等で出土し、遼
代でも 10 世紀中葉頃に盛行している。その共通性からしてアムール女真文化においても盤口瓜棱壷を中心とす
る土器組成は、概ね同時期と考えてもいいだろう。
以上からすると、靺鞨罐1類を含む土器組成は、アムール女真文化において初期の段階であり、靺鞨罐 2 類
を含む土器組成との排他的関係は時間差に起因するものと考えられよう。また靺鞨罐1類の土器組成で注目され
るのは、硬質土器の存在である。靺鞨罐1類が出土する墓壙 29 基の内、硬質土器を伴わない墓壙は 13 基を数え、
一定して存在している。ナイフェリト群以前の段階には硬質土器は共伴しない ³。一方、靺鞨罐 2 類の土器組成
では、硬質土器が器種、数量ともに増加している。年代が下るに従い硬質土器が組成に編入され、器種が増加す
ると考えることができよう。土器組成の変化方向からすると、靺鞨罐 1 類の土器組成においても硬質土器の共
伴の有無を基準として、時間的な細分を行うことは可能と思われる。
では靺鞨罐 2 類における土器組成は全て一時期といえようか。次に靺鞨罐 2 類の土器組成について文様の変
化を見ていく。先に見たように瓜棱文は時間差を見極める指標となりえる。瓜棱文は長頸壷 3 類、短頸壷1、2
類、盤口罐 1 類に認められる文様種である。これらに対して瓜棱文の有無を基準にして共伴関係を見てみる(表
4 - 3)。瓜棱文の有無を基準としても器種組成に顕著な変化は認められないものの、上記 4 種の中で瓜棱文を持
つ土器を出土する墓壙 24 基中、瓜棱文を持たない土器が伴う例は 13 号墓、154 墓、292 号墓、48 号墓のみで
ある。コルサコフ遺跡において瓜棱文を持つ個体と持たない個体は、基本的には共伴しないと考えられよう。
瓜棱文は、他のアムール女真文化の遺跡でも出土している(表 5)。これらの遺跡の年代については後述するが、