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特集ワイド:民主党代表選--政治記者討論 裏の軍師の争いだ

 ◇小沢さん、火中の栗拾う覚悟できるか

 ◇前原さんなら早期解散論も

 「ポスト菅」を巡る民主党代表選。候補者乱立の様相で、「挙党一致」「大連立」「脱原発」から「小沢史観」までさまざまなキーワードが飛び交う。この国の政治はどうなるのか。岩見隆夫・客員編集委員、松田喬和・専門編集委員、小菅洋人・編集編成局次長のベテラン政治記者3人が論じた。【構成・中澤雄大】

松田 前原誠司前外相の出馬表明で代表選はどうなるか。

岩見 多数派工作の状況が変わった。今度の代表選は民主党最後の起死回生の機会になるが、議員には危機感が乏しい。前原さんを含めた候補者の顔ぶれが、政界はおろか、世間からも「軽量候補」と思われている。挙党態勢による集団指導的枠組みを作るか、野田佳彦財務相が提案した野党を含めた救国内閣、大連立を作っていくかしかない。菅さんがダメだから、新しい人を選ぶという次元では、この局面をとても乗り切れない。

小菅 前原さん、野田さんが激突するとなると、仙谷由人官房副長官(党代表代行)の調整能力への疑問も感じる。前原さんに主流派を一本化しないと、戦いは厳しい。

松田 反主流派の小沢一郎元代表、鳩山由紀夫前首相の小鳩ラインは、鹿野道彦農相と海江田万里経済産業相に絞ってきている。4人の争いか、3人になるのか、新たな人が出てくるのかは分からないが、基本的には裏の軍師、仙谷さん対小沢さんの争いだ。

岩見 小沢さんが今までのように自分が権力を握るんだという政治的欲望を貫こうとする限り、挙党態勢はできない。もう69歳、当選14回の大長老なんだから、国のため、政治のため、火中の栗(くり)を拾うくらいの決意をすれば、世間の見る目は変わる。そういう発想ができるかどうかだ。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある。挙党のカギは小沢さんが握っていると思う。

小菅 同感だ。小沢さんが思い切って前原さんに乗れるかどうかがポイント。党員資格停止問題など争点にすべきではない。代表選が再び親小沢か反小沢かでは非常に不幸だ。政策論争は大事だが、民主党議員全員が菅政権崩壊の原因をかみしめてほしい。菅さん個人への批判は強いが、党の体質の方がより問題だ。

   ■

松田 小沢さんは「知識と経験のある人」を支持すると言った。世代交代を進めないためには鹿野さんが都合がいいが、次の衆院選には勝てないだろう。大連立にしても、自民党長老が「野田代表-岡田克也幹事長ラインならばゼロではない」と言うのを聞いてヘーと思った。逆に言えば、民主が分裂しても構わないぐらいの勢いで連立をぶち上げる必要がある。小沢さんを含めて党内結束なら、自民は乗ってこない。党内結束を図りながら、国会運営もうまく運ぼうというのは矛盾だ。

小菅 前原さんが代表になれば、自民は相当警戒する。第3次補正予算案が成立すると政権の手柄にもなるし、前原首班の大連立となれば、自民は埋没しかねない。自民の事情で大連立は難しいから、民主は党をまとめるしかない。

岩見 このままだと自民と公明は乗りそうにないね。大連立を組む時、自民にとりあえず首班を譲るくらいの決意が必要になるだろう。小沢さんの決断か、主流派の決断か。誰かが決断しないと局面転換はできないな。

小菅 新代表が大連立を目指せば30日に首相指名と組閣という日程ではとても無理だ。

岩見 前原代表になれば、彼は大連立論者だから、首相指名選挙をずらすことになる。

   ■

松田 「脱原発」はどうなるか。税と社会保障の一体改革の問題もある。

岩見 菅さんは首相の適格性を欠いたが、「脱原発」発言は功績だろう。議論の出発点を作った。ただ代表選は脱原発を避ける流れだな。

小菅 出馬を目指す人たちからは原発政策への意欲を感じられず、議論のペースは落ちるだろう。復興財源では、前原さんは増税に慎重だし、野田さんほどの財政健全化論者は他にいない。自民が次期衆院選を意識すると、ねじれ国会では対決モードになって本格議論は期待できない。

岩見 でも小沢さんが歩み寄って民主が一枚岩になれば相当強い。野党も違う対応をせざるを得ず、復興問題は進むはずだ。でも2年以内に総選挙があるとなると、議員心理としては自分の当落が気になる。

松田 大連立となれば民主は分裂するのでは。

岩見 民主、自民、公明の3党が丸ごと大連立すると、全衆院議員の90%以上が与党になり、それはちょっと考えにくい。同調しない人が出て、政界再編が始まる。大連立をやるとしても期限を切って解散してばらける。民主と自民の2大政党による政権交代はもう無理だ。いずれも内部が水と油でねじれている。解消するには、双方の水と水、油と油がくっつき合う再編が必要だ。

   ■

松田 ポスト菅に誰がなろうが、ねじれは残る。解散ムードが高まることは必至だ。

岩見 それは分からないな。民主党の評価が上向きになれば別だが。

松田 最有力の前原さんならば、就任時のご祝儀相場が残っている早い時期に解散を打つしかないのでは。

岩見 前原さんは大連立論を捨てることになるけど。

松田 最新の民意で、議席数を減らしても政権を維持できれば基盤は強化される。最近の歴代政権は発足時の支持率がピーク。解散のチャンスだ。

小菅 前原さんは、選挙には自分が有利だとして、若手議員の票を集めるだろう。世論調査では早期解散を望む声が多いが、前原人気が続くとは限らないし、民主も自民も勝てる確信は持てない。ずるずると任期満了までいくかも。

松田 一方の小沢さんは保身のために、同世代の鹿野さんを推したという構図が透けてみえてしまう。だから基礎票では圧倒的に小沢さんが有利なのに、前原さんが本命だと見られている。前原さんと小沢さんをつなぐキーパーソンは京セラの稲盛和夫名誉会長(日航会長)だ。

岩見 稲盛さんは前原さんに「小沢さんと組め」と言っているはずだよ。前原さんが05年の代表選に出た時に「幹事長を小沢さんにしろ」と言って、前原さんはそれを蹴っているんだ。あの頃は若気の至りだったんだろうけどね。

松田 最近は公の席に2人で出たり、関係が修復したといわれる。

岩見 2人が手を結べば、それで代表選は終わりだ。対決となると、必ずしも前原さんが勝利するとは限らないな。

小菅 民主、自民とも党内に異論を抱え、もはや再編しかないという見方もある。今回の代表選は民主が単独で生き残るのかの大きな試金石だ。

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毎日新聞 2011年8月25日 東京夕刊

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