【八重山】来年度以降の八重山地区の中学校教科書を選定する教科用図書八重山採択地区協議会(会長・玉津博克石垣市教育長)が23日、「新しい歴史教科書をつくる会」系の育鵬社の公民教科書「新しいみんなの公民」を選定したことが、複数の関係者の話で分かった。歴史は従来通り帝国書院「中学生の歴史」が選ばれた。選定に当たり、現場教員ら調査員が推薦した教科書の中に「つくる会」系の社会科教科書が含まれていなかったことも明らかになった。現場教員の意向や専門性を無視する選定にも受け取れ、協議会の運営のあり方が問われそうだ。(又吉嘉例)
「つくる会」系の公民教科書は米軍普天間飛行場の移設問題を記述しないなど、教育関係者が問題視。県内外で不採択を求める市民運動が広がっていた。選定を受け、教育関係者らでつくる市民団体は25日までに3市町の各教育委員会に対し、育鵬社公民教科書の不採択を求める要請を行う。
協議会は23日午後から石垣市教育委員会で開かれ、3市町の各教育長と教育委員、保護者代表、学識経験者の委員8人による無記名投票で選定された。関係者によると、公民教科書の票数の内訳は育鵬社5、東京書籍3だった。歴史は帝国書院4、育鵬社3、東京書籍1で帝国書院に決まった。
協議会後に会見した玉津会長は各教科でどの教科書を選定したかは公表しなかったが、「しかるべきときに3市町の教委らから公表された際、理解を得られればありがたい」と述べた。
同地区では今回の教科書選定から玉津会長の主導で制度を変更し、調査員による推薦教科書の「順位付け」方式を廃止。順位を付けない複数推薦方式に変えたことに加え、「特徴・特色のある教科書」も同時に報告させる仕組みに改めた。
玉津会長は「協議会の責任と権限でしっかり論議したいと、組織も規約も変え、しっかりと研究を重ねて、教科書を選定できた」と語った。調査員の推薦から外れた教科書を選定した協議会の対応に、教育関係者から「調査員の形骸化だ」と批判が高まっている。
協議会会場の市教育委員会の周辺は「つくる会」系教科書の不採択や協議会の公開を求める島内外の市民約100人が座り込みやプラカードの掲示などでアピールした。県内外から集まった報道陣約30人も建物の外から選定を注視した。
協議会の答申を受け、石垣市と与那国町は26日、竹富町は29日に教科書の採択を審議する。
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八重山教科書選定問題 2012年度中学校教科書の選定作業で、県内6地区の採択協議会のうち、八重山地区だけが今年、教師による調査員の「順位付け」を廃止し、協議会委員の無記名投票に変更。現場の専門性が弱められ、説明責任も果たせなくなると指摘された。同様の手続き改変は「自由主義史観」を打ち出した「新しい歴史教科書をつくる会」系の教科書を選定した他県の例と類似しており、県内外から懸念の声が上がっている。