八重山教科書:育鵬社「公民」 懸念14カ所

2011年8月25日 09時45分このエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録
(3時間47分前に更新)

 八重山採択地区協議会が23日に選定した、2012年度使用の中学校教科書「新しいみんなの公民」(育鵬社)について、選定前に地元の調査員が研究調査し、協議会に提出した意見の全容が24日、明らかになった。「生徒が主体的に学習できるよう配慮されている」などの評価がある一方で「表紙の写真は沖縄県が遮られている」「原発問題に矛盾を抱えている」など14カ所もの懸念や注文が指摘されていた。

 同書は、協議会から任命された調査員(現場教師)が、200ページ以上の教科書を読み込み、特徴や傾向についてまとめた資料。1日付で、検定を通った7社全てについて協議会に提出されている。

 「調査の視点」は(1)学習指導要領に示された目標を達成するのに十分か(2)学習内容の質・量が適切か(3)発展的な学習内容として適切か(4)表現や表記が適切か―など。項目ごとに調査員らが特徴や意見を述べ「各学校の実態に応じた柔軟な指導計画の作成に対応している」「タイトル、見出し、本文など工夫されている」など、1項目四―五つの評価が提示されている。

 だが「その他」「沖縄戦や八重山との関連事項についてどう記載されているか」の中では、多くの懸念材料も示された。

 表紙に使われている日本全体の写真では、沖縄本島の上に他の写真がかぶり、沖縄県の姿はない。また米国のオバマ大統領が腰を折って天皇陛下と握手している写真では「対等関係であるはずの両国において、一方が頭を垂れる写真を掲載するのは、生徒に誤解を与える」との意見もあった。

 今回、調査員が協議会に推薦した図書の中に育鵬社の教科書は入っておらず、協議会の審議でも「あえて、マイナスの意見のある教科書を選ぶのか」との疑問を呈する声も上がっていた。

「憲法の基本軽視」市民団体ら不採択要請

 八重山地区の中学校で来年度から使用される「公民」教科書に育鵬社版が選ばれたことを受け、教育関係者や市民団体らによる「沖縄戦の歴史歪曲(わいきょく)を許さず、沖縄から平和教育をすすめる会」は24日、県庁で会見を開き、3市町の教育委員会に対し「公正、適正な教科書の採択を求める」とする声明を発表した。

 高教組の玉那覇哲委員長は「公民分野は未来の主権者を育てる義務教育の最終段階の重要科目。一方的な考えや政治思想を注入するようなものであってはならない」と強調。

 会見には、沖縄平和ネットワーク関西の会の平井美津子共同代表、同首都圏の会事務局の松永和子さんも参加し「八重山のすぐ隣は中国。いたずらに敵対心をあおる教科書で、平和な国家社会を形成していく子どもたちを育てていけるのか」と、危機感を示した。

 沖教組も、同日付で3市町の教育長宛てに(1)選定理由、経過の説明責任(2)各教育委員会の採択審議の公開(3)育鵬社版の不採択―を求める要請書を送った。

 自由法曹団沖縄支部も24日、県庁で会見を開き、選定結果に抗議し、同教科書の不採択を要請した。同日付で石垣市、竹富町、与那国町の各教育委員会に送付した。同団体は、全国約2千人の弁護士が平和憲法の理念に基づいて活動を続けている。

 新垣勉支部長は育鵬社版を「憲法という視点、国民の教育権、子ども自身の学習権などに照らし合わせると、重大な問題がある」と指摘。その上で「憲法改正という、国の根幹に関わる政治的な意図を教育現場に持ち込んだ。事実に基づき子どもの考える力を育てる教育の本質から外れている」と指摘した。

 仲山忠克事務局長は「教科書の中でも、『公民』は国民の権利や国のあり方などを子どもたちが考えていく大本になるもの。憲法の基本原理をことごとく軽視する育鵬社版は採択するべきではない」と訴えた。

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