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民主党代表選では、政府が決めた増税策への異論が噴出しそうだ。菅政権は、大震災からの復興を賄う臨時増税と、社会保障と税の一体改革に伴う消費税率の段階的な引き上げを決定したが、立候補予定者の間で[記事全文]
あの毒で笑えないのは、さびしい気もする。けれど本人が後から気づいた通り、これはやっぱり「アウト」だ。しゃべくりの天才にして、テレビの顔。島田紳助さん(55)が暴力団関係[記事全文]
民主党代表選では、政府が決めた増税策への異論が噴出しそうだ。菅政権は、大震災からの復興を賄う臨時増税と、社会保障と税の一体改革に伴う消費税率の段階的な引き上げを決定したが、立候補予定者の間では特に復興増税への批判が強い。
復興事業では、すでに成立した二つの補正予算で6兆円が計上されている。このほかに、今後5年間で見込まれる13兆円の支出を、国有財産の売却や復興債の発行で確保する。復興債は数年間の臨時増税で返済する。これが復興増税の概略だ。
これに対し、立候補予定者からは「景気に悪影響を与える」などとして、増税の先送り論が目立つ。こうした懸念への配慮は欠かせないが、先送りによる弊害の大きさを認識しなければならない。
この夏、米国と欧州は債務危機に陥った。政府が抱える債務の返済に市場が不安を募らせ、米国では米国債が初めて格下げされた。欧州は南欧諸国の財政危機への対応にもたつき、関係国の国債を持つ金融機関への危機の波及も心配されている。
市場では足もとの安心感から円が買われているが、日本の債務残高は国内総生産の2倍近くに膨れ、欧米より深刻だ。国債消化の原資となる国民の貯蓄は高齢化とともに減っていく。復興財源は臨時増税で賄うと政府が決めたのも、こうした現実を踏まえてのことだ。
折しも、米大手格付け会社の一角がきのう、日本国債の格下げを発表した。首相が頻繁に交代することで一貫した政策が妨げられ、大震災で財政赤字削減目標の達成が困難になったことなどが、格下げの理由として挙げられている。
今後、被災地では復興事業が本格化する。今秋に成立する予定の第3次補正予算がテコとなり、来年度からある程度の経済成長が見込まれる。そのタイミングを逃さずに増税を実施することが、財政的にも景気への影響の面でも最も望ましい。もちろん、世界経済がリーマン・ショックの再来のような混乱に陥った場合は延期すればよい。
規制緩和や経済連携協定で日本経済自体を大きくする。政策のムダを徹底して洗い直す。これらの取り組みで増税幅をできるだけ抑えることは当然だ。ただ、それで増税を避ける余裕は、日本の財政にはない。
「次の世代に負担を先送りせず、今を生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合う」。政府の復興構想会議が提言で訴えたこの言葉を、代表選に立つ候補者は改めてかみしめてほしい。
あの毒で笑えないのは、さびしい気もする。けれど本人が後から気づいた通り、これはやっぱり「アウト」だ。
しゃべくりの天才にして、テレビの顔。島田紳助さん(55)が暴力団関係者との親交を理由に、画面から消える。
島田さんによれば、十数年前に番組での発言がトラブルを招いた際に、知人の仲介で暴力団関係者が解決してくれた。「人として恩を感じた」といい、その後もメールのやりとりをし、何度か会っていた。吉本興業の内部調査に対し事実だと認め、引退を決めたという。
時間がたっているとはいえ、交際のきっかけが暴力団の力を借りたもめごとの処理というのだから、問題は深刻だ。本人の説明には、あいまいな部分が多い。吉本興業はきっちり調べるべきだろう。
芸能界と暴力団とのつながりは、深くて、広い。山口組が昭和の時代、浪曲の興行に進出したのが始まりとされる。
芸能の主舞台がテレビに移っても、タニマチになったり、争いごとに介入したりと、いろんな場面で見え隠れしてきた。多少のヤンチャは芸の肥やし、とみる向きもあった。
だが、もはやそんな時代ではないことは、誰でもわかっているはずだ。
暴力団対策法が施行されてから、すでに19年。けれど構成員・準構成員の数は8万人前後で、大きな変化はない。かたぎを装う「共生者」とともに市民生活や企業活動に巧みに入り込み、稼ぎ続けているのだ。
そこで、ここ数年、暴力団に利益を与えた側を罰する条例があちこちにでき、各業界は暴力団排除の約款作りに乗り出している。大相撲も野球賭博事件を機に、関係断絶を迫られた。
暴力団に対して、より厳しい態度で臨もうという意識が社会全体に強まっている。それだけに、この一件は看過できない。
日本弁護士連合会の対策チームでは、芸能界の暴力団排除が不十分とみて、昨年度から、テレビ局などを対象にヒアリングを始めていたという。
今回のことは、放送界の体質も問わずにはおかない。
島田さんは7年前、傷害事件で30万円の罰金刑を受けたことがある。このときは2カ月余の謹慎で復帰し、「早すぎる」との批判も受けていた。
視聴率がとれる人気者なら、多少の不祥事は形ばかりの謹慎で済ませ、よからぬうわさには目をつむりたい。そんな空気がテレビ局にあるのだとしたら、お笑い番組にも笑えない。