エドゥアール・マネ「アスパラガス、静物」1880年、ヴァルラフ・リヒャルツ美術館/コルブー財団所蔵 (C)Rheinisches Bildarchiv, Köln 【提供元キャプション】Wallraf-Richartz-Museum, WRM |
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印象派が絵画を変えた。そんな美術史の「常識」を多角的に検証する「光を描く 印象派展」が、青森県立美術館(青森市)で開かれている。独ケルンにあるヴァルラフ・リヒャルツ美術館が、4年がかりで同館などの印象派コレクションを精査したプロジェクトの成果という。
プロジェクトの主体は同館などの保存・修復士。エックス線や顕微鏡など科学の「目」で印象派の技法に迫る。例えばマネの「アスパラガス、静物」。背後からの透過光によって、平筆を駆使した流麗な筆致が明らかになった。赤外線による調査では、構図のための補助線や放棄された下絵などが浮かび上がり、ゴッホやゴーギャンら巨匠の苦心をうかがわせる。
印象派の時代には光学・色彩理論研究が進み、画家たちが光と色彩の関係を直感的に把握していたことも明らかにされた。モネが季節や時刻を変えて描き続けた連作「積みわら」はその好例。スーラやシニャックらの点描技法は、当時提唱された「絵の具から反射した光は網膜上で溶け合い明度の高い色彩となる」という理論と響きあう。
そうした制作を支えたのが新たに開発された画材。チューブ入りの絵の具や野外用イーゼルなどが画家たちを風景の中へといざなった。カイユボットの「セーヌ河畔の洗濯物」は約105センチ×150センチの大作だが、屋外で制作されたことが判明した。顕微鏡調査で画面からポプラの芽が発見されたからだ。別の画家の作品に砂粒が付着していた例もある。
展示作品は約70点。丁寧な解説で、いわば画家の肩越しに制作中の画面をのぞきこむような展観。「常識」が「確信」に変わる。10月10日まで。(西岡一正)