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防災―起きてから、どうするのかではなく、起きる前にどうするのか―

2011/08/23 

 全国管工事業協同組合連合会(全管連、大澤規郎会長)の防災への取り組みは、建設業界団体の中でも際立って能動的だ。「地震等緊急時における応急復旧工事対応マニュアル」を作成する一方、資機材メーカーや建設リース業者などと防災協定を締結。広域かつ大規模な災害の発生を想定し、自らの意志で自らの機能強化を進めてきた。そうした中で発生した東日本大震災。ライフラインである「水道」を守り続けてきた全管連が、これまでの経験を通して学び、体感してきた防災とは何か、「平時の備え」はどうあるべきか、大澤規郎会長に聞いた。(聞き手は編集局=脇坂章博)

 ―全管連は、大規模な災害の発生を想定し、応急復旧を支援する独自の取り組みを意欲的に進めている。その動機は何か。

 「きっかけは、新潟中越沖地震での『にがい経験』だ。柏崎に駆けつけたものの、管が埋設されている市街地は砂地。矢板を打って、土止めをしてからでないと掘れないし、直せない。破裂していた管径300_の導水管を交換しようにも、持ち込んでいた建機は小型ショベルだけ。そもそも300_の管材や継手をストックしている管材問屋がない。事前の情報不足、準備不足は否定しようがなかった。このときの『しまった!これはまずい!』という忸怩(じくじ)たる思いが、いまの全管連の防災への取り組みの動機であり、原点だといっていいだろう。『起きてから、どうするのかではなく、起きる前にどうするのか』を考え、準備しなければならないということを肝に銘じる契機となった貴重な経験だ」

 ―東日本大震災での復旧支援と、全管連がこれまで行ってきた支援との違いは。

 「これまで発生した戦後の震災は、阪神・淡路大震災にせよ、新潟中越・中越沖にせよ、同一県内か隣接県だけにとどまっていた。ところが、今回の大震災の被害は、岩手・宮城・福島は言うに及ばず、東日本全域に及んでいる。地震の規模も被害の大きさもまるで違う」
 「今回の震災の大きな特徴は、千葉では液状化によって水道管も大きなダメージを受けたものの、大きな被害を出した岩手・宮城・福島には、復旧すべき水道管などが予想していたほどにはなかった、という点だ。まだまだ不十分だとはいえ、阪神・淡路大震災以降、厚生労働省や水道事業体が取り組みはじめた水道管の耐震化が功を奏したものと考えられる」
 「もちろん、被害がまったくなかったわけではない。場所によっては、口径の大きな配水管などの中にも被害を受けたものはあった。それでも、これまでの震災と比べると驚くほど少なく、これまでの震災のようにベンド管が割れたりしたものはあまりなかった。復旧工事の対象はほとんどが給水管だった」
 「今回の応急復旧作業には、これまでのそれとは違う困難があった。その原因は津波だ。沿岸部の建物は破壊され、原型をとどめているものはなかった」
 「給水管の漏水を止めようにも水道メーターががれき類に埋もれていて、どこにあるのかも分からない。がれき類を取り除いてからでないと工事ができないから時間もかかるし、コストもかさむ。水もないし、食べ物もない。目に見えない仕事がやたらと多く、阪神・淡路大震災や新潟中越地震などの時とは勝手がまったく違った。福島の原発事故とその後の状況は想定外だ」

 ―全管連が建機リース会社などと締結している災害協定は、この震災の復旧活動では機能したのか。

 「被災地の応援復旧と一口に言っても、建機を現地に運び入れるだけでも大変だ。建機リースのアクティオとは全国どこであっても災害復旧の際には、建機を優先的に供給してもらえるようにしていたし、管材にしても橋本総業や渡辺パイプとの協定で、緊急時に必要な管材を必要な量だけ調達できるようにしていたことが功を奏した。石巻市のケースがその良い例だ」 
 「震災の起きた3月11日、被災地はたいへん冷たい一日だったそうだが、震災後も寒い日が続いていた。防災協定を結んでいる橋本総業、渡辺パイプなどの被災地のスタッフからは『損傷を免れた給水管、給湯器の凍結への対応も必要』などの情報が寄せられた」
 「応援を要請された石巻市内の現場は管材の問屋まで1時間以上かかる所だった。現場に着いてから、被災地の状況を知ったのでは必要な資機材が足らず、貴重な時間を浪費する事態に陥ったかもしれない。『現地はいま、どのような状況にあるのか、何が必要とされているのか』を的確に把握し、つかんだ情報を共有することができた、その好例だ」

 ―水道事業体と水道工事業者が「平時に備えておくべきこと」とは。

 「水道工事を担う者しか知らないことだと思うが、水道事業体によって使用している管材は異なる。こうした状況が迅速・円滑な復旧の大きな妨げとなっている。少なくとも配水管から水道メーターまで、いわゆる1次側に使用する管材を統一する必要がある。水道事業体が使用している管材などの情報を整理して公開し、復旧支援に駆けつける私たちと共有しておくことが緊急時に即応するための『平時の備え』の一つだ。将来的には、全国の水道事業者が管材を統一することが望ましい」
 「もし、口径1000_、800_といった管材が被害を受けたら、直せる技能を持った人はほとんどいないことも問題だ。これからは全管連も消防のレスキュー隊のように『特別な事態に備える機能』も持つ必要があると考えている。さいたま市管工事業協同組合ではすでに1組10人のスペシャリストチームを10組養成中だ。『命の水』を守り、供給するためには、いかなる事態にも即応できる体制を平時から用意しておかなければならない」

 ―全管連は、発注者に対し、『被災地会員傘下企業の受注機会確保』『地域保全型工事の発注による地元企業の優先』を求めていくという2011年度活動方針を掲げている。

 「被災地では、全管連の会員である管工事協同組合などのメンバーたちが、余震が続く中、凍えるような寒さと闘いながら不眠不休で応急復旧に当たった。中には、自ら被災し、大切な家族や友人・知人を失った人がいるにもかかわらずに、だ」
 「今回の大震災では被災地の行政機関の多くが機能不全に陥った。そうした悲惨な状況下にあっても、水道の復旧をこれほどまでに迅速に行うことができたのは、地域に根付いた水道事業者、私たち全管連の仲間がいたからだ」
 「本格的な復興までにクリアすべき課題が多いとはいえ、復興の主役が被災者自身であることに変わりはない。発注者には、地域の『命の水』を守り、経営規模は小さいながらも地域の雇用を支え続けてきた『地域の水道工事業者』の思いを汲み取ってほしい。地域の水道の復活には、彼らの『地域精通力』に裏付けされた経験とノウハウを存分に活用すべきだ」

■全管連の災害協定
 2009年12月、全管連の賛助会員であるキャタピラージャパン、コマツレンタル、アクティオ、渡辺パイプ、小泉、橋本総業―の6社と「災害時における応急復旧活動の応援協力にかかわる覚書」を締結し、災害発生時に迅速・円滑に必要な資機材を調達・確保できる体制を整えた。
 この協定締結によって、全管連傘下の会員団体と、6社の最寄の事業所や関連会社が任意に災害協定を締結し、それぞれの個別の事情や状況に応じた復旧支援を受けられるようになっている。

■中央防災会議の予測
 政府の中央防災会議は、向こう30年以内に首都直下型や東海、東南海、南海地震など大規模・広域災害の発生する確率が概ね60%〜87%あるとみている。また、東日本大震災の発生によって日本列島付近の地殻が不安定化した結果、活断層型地震の発生確率も高まっているとの学識者などからの指摘もある。


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