ねぶた制作の第一人者で「北村兄弟」として知られる63歳の双子のねぶた師、北村隆さん、蓮明さんのそれぞれの子供が、今年の青森ねぶた祭でデビューした。蓮明さんの長男春一さん(30)は初めて大型ねぶたを、隆さんの次女麻子さん(28)は運行団体を先導する「前ねぶた」を制作した。2人は偶然にも同じ07年夏に父親への弟子入りを決意。4年後の今、夢を実現させた。【鈴木久美】
春一さんは弟子入り後わずか4年で、制作者があこがれる大型ねぶたを手掛けた。10年はかかると言われる世界で異例の早さだ。通常弟子は他の仕事と兼業が多いが、春一さんは時期外れのアルバイトを除き、父の元でみっちり制作を学んだ。
「自分は環境に恵まれた。キャリアは少ないが、朝から晩までねぶたと接してきた」と自信をのぞかせる。
専門学校でデザインを学んだ後、東京で紳士服の営業などをして働いた。生計を立てるため、冬に出稼ぎに行くなど苦労する父の姿を幼いころから見て、後を継ぐ気はまったくなかった。
だが、都内の駅で父のねぶたのポスターを見て、初めて心が動いた。「ねぶたは全国に誇れる存在。その顔を父が作っている」
07年の祭りが終わるとすぐ、「仕事を辞める」とねぶた師を目指す意思を暗に告げた。父は無言で受け入れたが後日、「そんな予感がした」と漏らした。
初めての大型ねぶただが「賞をもらって初めて一人前。号はおろか、まだねぶた師と名乗るつもりもない」と気を引き締める。「10年、20年たっても人の記憶に残るねぶたを作りたい」
◆ ◆
麻子さんも、ねぶた師を目指したのは社会人になってからだ。幼いころから、紙張りの手伝いはしていたが、色付けなど大事な工程を担うのは男ばかり。ねぶた師にあこがれはしたが、「女はなれない」と思っていた。
だが、07年の祭りで父の制作した大型ねぶた「聖人 聖徳太子」を見て、これまで感じたことのない感動を覚えた。「男も女も関係ないから、ねぶたを作りたい」と熱望した。
すぐには父に打ち明けられなかった。内緒でねぶたの下絵を練習し、納得の行く物を描き上げ、突然父に見せた。
「これはお前が描いたのか」。熱意が伝わったのか、隆さんは驚きながらも、描き方の助言をしてくれた。それが弟子入りの日になった。以来、平日の事務仕事が終わってから制作に打ち込む日々が続いている。
目標は「北村兄弟」の精神を受け継ぐこと。「2人は年を重ねても勉強を怠らない。そんな向上心を持ち続けたい」。最近、互いに弟子入りしたことを知った、いとこの春一さんも気になる存在だ。「私よりずっと前を走っているけれど、父と叔父のように、お互い切磋琢磨(せっさたくま)できる関係になれたらいいですね」
毎日新聞 2011年8月6日 地方版