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きょうの社説 2011年8月24日
◎21美が1千万人突破 この勢いを金沢の牽引力に
金沢21世紀美術館の入館者が開館から6年10カ月で1千万人を突破した。05〜0
7年度は130万人台で推移したが、08年度からは3年連続で150万人を超え、勢いは一段と加速した。知名度、集客力ともに兼六園と並ぶ金沢の顔になったといえる。北陸新幹線開業の14年度は開館10年の節目に当たる。短期間で1千万人を超えた勢 いは金沢にとって欠かせぬ牽引力である。次の節目へ向け、美術館を生かした街づくりをさらに強力に推進したい。 21世紀美術館は現代アートを狭い枠に閉じこめず、誰もが楽しめるパフォーマンス的 な要素を加えて発信してきた。市民ギャラリーで開催中の「大鉄道展」など親しみやすい企画も、入館者数を押し上げた大きな要因だろう。 昨年のルーブル美術館との合同企画展に続き、14年度にはポンピドゥー・センターと の企画展も検討され、フランスとの交流も担う。美術館の設計者が建築界のノーベル賞とされるプリツカー賞を受賞するなど、開館後も途切れなく話題を提供してきたことが入館者増につながったといえる。 21世紀美術館は「都市政策」のなかで明確に位置づけられた施設である。県立美術館 や音楽堂は、美術、音楽振興を目的とした「文化政策」としての施設だが、この美術館は都心のにぎわい創出、中心商店街の活性化、観光拠点など幅広い役割を担っている。 昨年の金沢学会の基調スピーチでは、21世紀美術館について、美術館そのものだけで なく、周辺にもにぎわいをもたらした奇跡であるとの指摘がなされた。新幹線開業へ向け、この「奇跡」を地域全体に波及させたい。 「金沢アートプラットホーム」という企画では、町家や空き店舗、公園などで作品を展 示したが、活動の舞台を街に求める企画は積極的に試みられていい。文化財の制約があるとはいえ、例えば兼六園や金沢城も会場にできないか。 城下町遺産が息づく街だからこそ、伝統と現代、和と洋の対比が鮮明になり、それが金 沢の文化土壌をさらに耕すことになる。館内で繰り広げられてきた野心的な試みを、都市全体で表現していくことも、金沢の新たな挑戦である。
◎与那国島に陸自配備 丁寧に計画を進めたい
防衛省は沖縄県与那国島の町有地を取得し、陸上自衛隊の駐屯地を建設する方針を固め
た。政府は東シナ海などにおける中国海軍の活発な活動もにらみ、昨年末に閣議決定した新たな防衛計画大綱で、南西諸島など島嶼(とうしょ)防衛の強化方針を初めて明確に打ち出した。与那国島に沿岸監視の陸自部隊を配備する計画は、その具体的な一歩となる。現地では与那国町長が経済効果にも期待して、陸自部隊誘致を積極的に推進しているが 、反対や不安を訴える住民も多い。沖縄では在日米軍に加えて自衛隊の基地負担まで重くなることに抵抗感が強く、政府は合意形成に向けて丁寧に計画を進めてもらいたい。 もし米軍普天間飛行場移設問題のように計画がとん挫すれば、離島防衛に本腰を入れる 新防衛計画大綱とそれに基づく中期防衛力整備計画に大きなほころびが生じることになり、失敗はできない。 日本は世界有数の広さの排他的経済水域(EEZ)を有する海洋国家でありながら、こ れまで海洋権益保全の意識は低く、EEZの基点となる離島の防衛力も手薄である。奄美群島や沖縄諸島、宮古列島、尖閣諸島などに代表される南西諸島は広大な海域に点在しているが、このうち陸自部隊が配備されているのは沖縄本島だけという状況は、海洋国家の安全保障体制の欠陥といってよい。 防衛省は沖縄本島以西の防衛の「空白域」を埋めるため、石垣島や宮古島にも部隊を置 くことを検討している。防衛の空白域を放置しないというのは安全保障の国際常識に沿った対応である。 与那国島などへの陸自部隊配備計画に対しては、尖閣諸島の領有権を争う中国を刺激し 、日中関係を損ねるという反対意見も聞かれる。防衛省が与那国島にまず配置する陸自部隊を軽武装の沿岸監視部隊にするのは、中国などの反応をみる思惑からともいわれるが、南西諸島の防衛力整備を国防政策として決めた以上は、敢然と遂行する覚悟が必要である。圧力や摩擦を恐れて防衛計画を覆すようなことになれば、国の安全保障は成り立たなくなる。
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