きょうのコラム「時鐘」 2011年8月24日

 「腰につけた水筒の水を忘れて、砂漠をさまよう」という警句がある。自分の中に困難を解決する力があるのに、他人に頼りがちになるのを戒める言葉だ

昨年の「金沢学」で講演した民俗研究家の結城登美雄さんが本紙「きょうの人」に登場していた。仙台を拠点に各地の農山村を訪ね歩く研究者だ。「限界集落と呼ばれる地域にいる、まっとうな人々の所へご用聞きに行く」のが仕事だと言う

地産地消や特産品作り運動も「金を掛けて新しいものを作るより地元のことを知るのが先決」だと言い、ふるさと学習に似た「地元学」を提唱してきた。自分の特長を生かしてこそ、魅力的な品物が誕生するとの信念である

過疎の原因はどこも同じように見えるが、住民の願いや悩みはそれぞれ違う。その違いを大事にし、引き出すのが地元学の役割である。「地域おこし」が自分の個性や潜在力に気づくことから始まるのと同様に、震災復興も「住民の心の立ち上がりが必要」と結城さんは考えている

東北の人たちが自分の力を信じ、地道な研究が震災後の荒野を行く旅人の、水筒の水になるよう願っている。