そもそも国産コンテンツが貧弱ではどうしても大衆の心は外国のソフトパワーに奪われる。なので、中国も自国のパブリック・ディプロマシー戦略の研究とソフトパワー(軟実力)開発に力を入れ始めた。
特に北京五輪の開催が決まってからは、盛んにその方面の研究会やシンポジウムが北京で行われていた。中国はその頃、北京五輪を機に、中国の国際社会でのイメージを一党独裁の途上国国家から責任ある大国に変えたい、変えてゆけるとかなり本気で思っていたようだ。
中国は“パクリ”は得意だが
中国が取ったパブリック・ディプロマシー戦略でそれなりの効果をあげたのは2004年から始まった中国語・中国文化学習機関としての「孔子学院」の海外進出だ。
それまで西側社会で中国語の語学学校を経営する人の多くは、1989年の天安門事件を契機に国外に出た元留学生などで基本的に反共産主義、反中国の立場で、語学教育とともに中国に対するマイナスイメージを教え込むとして、中国当局は問題視していた。そこで孔子学院を海外に開設し、外国人に語学とともに中国のプラスイメージを教えこむ。ソウル校を皮切りに2010年までに96カ国・地域で332校と分校扱いの教室が400前後できている。
外国のメディアや報道機関、外国人ジャーナリスト、文化人に特権を与えたりして親中的に育て上げ、対外的に中国のプラスイメージを発信してもらう、というのも、エドガー・スノーの例を引くまでもなく、中国当局の得意とするところである。
しかし、やはり、中国に興味を持たない普通の人に、中国のプラスイメージを刷り込むには、映画、ドラマ、アニメ、ポップスといった大衆娯楽の流行に勝るものはない。ただ、これは難しい。つまり、魅力あるコンテンツを作る実力が必要だからだ。
中国はいわゆる“パクリ”は得意としても、国際市場に売り込めるレベルのオリジナルの中国コンテンツを作るだけの実力はまだなかった。戦略としてはかなり研究を重ねているが、実際の戦術を支えるコンテンツ産業が十分に育っていないことが中国の悩みだった。
「日本はばかだね」
こんな風に、米国も、中国も、パブリック・ディプロマシー戦略の研究を重ねているのだから、韓国も当然、研究しているだろう。2003年末から爆発的に起きた日本の韓流ブームは、偶然の産物だったかもしれないが、韓国が中国で起こした韓流ブームはかなり戦略的だ。中国の某テレビ局関係者がこんなことを言っていた。
「韓国政府は中国における、韓国産コンテンツの契約外放送、違法コピーなど、すべて黙認してくれている。それは知的財産権侵害による経済損失以上に、中国で韓流ブームを起こすことのメリットがはるかに大きいと認めているからだ。中国人の対韓国人感情を好転させ、市場が韓国を選ぶように仕向ければ、テレビ用コンテンツだけでなく、韓国製品も売れるし、韓国企業の海外進出もスムーズにいき、最終的には対中外交もやりやすくなる」
「日本は反対に、大局的な利益、国家としての利益よりも、企業レベルの知的財産権保護ばかりを気にして、契約条件は厳しいし、コンテンツ使用料も高い。日本のドラマ1本買う金で韓国ドラマが3本買える。日本を優れたコンテンツを持っていても戦略的に生かし切れていない」
そして、こう締めくくった。
「日本はばかだね」