日本では男性の未婚率の急上昇が社会問題になっている。最新の調査では、2005年の日本人男性の生涯未婚率は15.96%、女性は7.25%だそうだ。だが米国では黒人女性の結婚問題が注目されているという。その複雑さは日本人には想像しにくいところがある。
日本男性の生涯未婚率の上昇は著しい。1965年には1.5%で女性より低かったが、1990年調査で女性を逆転して5.57%、そのころから加速度的に上昇している。
不況や製造業の海外移転によって、生活の安定しない非正規労働者が増えたことなどがその理由として挙げられている。だが、筆者の周辺を見わたしてみると、昔のように親や親戚から結婚しろと迫られることが少なくなったことや、コンビニエンスストアや電気製品の普及で1人の生活の不便さがなくなったので、結婚へのインセンティブが薄れたためと思われる人が多い。
若い頃は結婚に幻想や夢を持っていても、年齢とともに「どうしてもこの人と」といった情熱は薄れる。冷静に相手を見極め始めると、だんだん面倒くさくなってくる。米国の場合、そうした事情に加え、人種問題も絡んで黒人女性の未婚率が上がっているという。
「Is Marriage for White People? How the African American Marriage Decline Affects Everyone(結婚は白人だけのもの?アフリカ系米国人の結婚の減少がなぜ社会全体に影響するか(仮題)」という9月1日発売予定の著書について、著者のスタンフォード大学法科大学院のラルフ・リチャード・バンクス教授に語ってもらったウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事が、先週末の掲載以来、長くWSJ人気ランキングの上位を占めた。多くの日本人にとっては考えたこともない問題かもしれないが、米国人の関心は高いようだ。
米国では黒人女性は、70%近くが結婚していないという。また、大学教育を受けた40歳未満の黒人女性の3割が結婚しておらず、この比率は同様な白人女性の2倍だという。
そこには実にさまざまな原因がからんでいる。冷酷な事実として、20-30代の結婚適齢期の男性の10%以上が塀の中だという米国黒人社会の問題がある。刑務所に入っている男性200万人のうち約40%つまり80万人が黒人だそうだ。
教育レベルの問題もある。黒人女性は140万人が大学で学んでいるが黒人男性は90万人。教育は所得と比例する。そして所得と結婚もかなり比例している。
しかし、年10万ドル以上稼ぐ黒人男性も結婚しない。バンクス教授は、稼ぎのいい黒人男性は少ないのでモテる。たくさん相手がいるので、早々と楽しい生活を諦めようとしない結果、結婚しない、と分析している。黒人女性は高学歴の人が自分と同程度の教育水準の相手を見付けられないが、高学歴高収入の黒人男性は数が少なく相手に事欠かないため結婚しようとしないという皮肉な状況が生じているという。既婚大卒黒人女性の約半分は夫より学歴が高いそうだ。
異人種にならもっといい人を見つけられるはずなのに、異人種と結婚している黒人女性は5%にすぎない。バンクス教授は、なぜ黒人女性が他の人種の人と結婚しないのだろうと疑問に思って聞いてみた。その理由はいろいろだ。黒人女性に魅力を感じない異人種男性が多いとはいうものの、かなりの男性が黒人女性を結婚の対象として考えている。
しかし女性の方で、異人種間の結婚に非常に消極的なのだ。米国には40年ほど前まで南部を中心に法律で白人と非白人の結婚を禁ずる州があったのは事実だ。が、最近では450万組以上の異人種カップルがいる。それに同性間結婚のような他国ではほとんど認められていない関係を容認する懐の深さがある米国で、なぜ、ここまで保守的なのかと思うぐらい黒人女性は異人種間結婚に腰が引けている。
その理由として彼女たちが挙げるのは、恋人の家族から拒否されるのではないかといった容易に想像のつく懸念も多い。だが、ワシントン在住の教師である31歳の黒人女性は「黒人男性とデートするのは気楽。わたしが髪を毎日洗わないとか、寝るときにスカーフを被るとかわたしの髪の毛のことを知っているから」という。また「白い赤ちゃんができたら、乳母だと思われてしまう」(コロンビア大卒業の弁護士)といったことを気にしている女性も多いという。
バンクス教授は、高学歴高収入の黒人女性は、もっと異人種の男性を結婚の対象とみなすべきだと提案する。その方が話も合って相性が良いはずだからだ。そうした女性が異人種間の結婚に積極的になれば、もっと相性のいい黒人同士のカップルも増え、皆が幸せになるのに・・・と考えている。