殺し屋と批判されても日本ツアーを再開したわけ
プレジデント 8月23日(火)10時30分配信
それでも弊社は震災後も日本ツアーを続行していました。私はガイドとして日本国内を隅々まで訪ねており、体で覚えた経験、土地勘がある。被災地以外は大丈夫という確信があったからです。
ところが、香港のマスコミや消費者から非難の声がわき起こりました。あるメディアから「(死地に客を送り込む)殺し屋」とさえ言われ、香港の議員数名が弊社に乗り込み、「キャンセル料を返金せよ」と迫りました。そしてやむなく震災の4日後、日本ツアーを中止したのです。
ツアー再開の時期を探るべく、3.11から2カ月間で合計5回来日しました。最初は3月30日で、弊社からの1000万香港ドル(約1億500万円)と私個人の100万香港ドル(約1050万円)の義援金を被災地に届けるためでした。当初、香港赤十字社に渡そうかと考えましたが、すぐに分配されないと知り、岩手、宮城、福島の県庁へ直接届けました。
株主の中には多額の義援金を出すことに反対意見もありましたが、弊社は2004年のタイの津波や08年の中国四川地震にも義援金を送っています。何より弊社が今日こうしてあるのは日本のおかげ、その恩返しがしたかったのです。
中国には「飲水思源」という言葉があります。水を飲むときはその源に思いをはせるという意味で、弊社のモットーでもあります。1972年に初来日して以来、留学時代を経て86年に東京で手配会社を設立、94年に香港で旅行会社を創業しました。その翌年に起きたのが阪神大震災です。香港の旅行会社は一斉に日本ツアーを取りやめましたが、私は「危機こそチャンス」とツアーを催行し続けたことで大きな飛躍を遂げることができ、97年には日本向け市場で香港一の旅行会社となりました。
その教訓を今こそ活かすべきと考え、3月27日にツアー再開第一弾の新聞広告を出しました。弊社の日本市場の売り上げシェアは4割ほどですが、日本行きの専属ガイドが約100名います。日本には広東語のできるガイドがほとんどいないからで、彼らの失業も心配でした。それに日本には多くのビジネスパートナーがいる。ホテルやバス会社の運転手の方たちも大変なことでしょう。一日も早くツアーを再開させたいと思いました。
とはいえ、お客様は原発事故による放射能汚染を心配しています。そこでツアー訪問地と福島からの距離を明示した広告を打ちました。ただ数字だけでは香港のお客様は土地感覚がないので、意味がない。香港から広州までは約180kmですが、福島・大阪間はその3.5倍。沖縄は10倍以上あることを書き添えました。さらに、ツアー期間中訪問地でマグニチュード6以上の地震が起きたら全額返金にすることをアピールしました。4泊5日のツアーで4日目に起きても全額払い戻し。これはいわばバクチです。
でも、こういうギャンブルに乗ってみようというのが、香港のお客様なのです。「マカオのリスボアホテルのカジノと同じだなあ」とあるお客様の口から冗談が出て、これは明るい兆しだと思いました。
今必要なのは、観光地のPRでなく、日本では通常の生活が送られているという強いメッセージです。第一印象が大切ですから、成田空港は節電しないで、通常のように明るくしてください。それとこれは私からの提案ですが、この夏に東アジアの人気歌手を東京に呼んで復興コンサートを開いてみてはどうでしょう。大勢のファンが必ず来ます。口コミの影響力は計り知れないと思います。日本の皆さん、一緒に頑張りましょう。
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中村 正人=構成
坂井 和=撮影
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最終更新:8月23日(火)10時30分
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