23日に告示された岩手県大槌町長選は、同日午前11時までに新人3氏が立候補を届け出た。死者・行方不明者が約1400人に上ったうえ、町中心部が津波で壊滅し、どこに支持者がいるのか分からない中の選挙。陣営は名前を連呼しないなど被災者に配慮するが、どう訴えていくかは「毎日模索するしかない」と戸惑う。町は期日前投票を呼び掛けるなど投票率の確保に努めるが、行方不明の有権者も少なくなく、80%近くあった前回の投票率を下回るのは確実視されている。【神足俊輔、池田知広】
立候補を届け出たのは▽元町議長、岡本大作氏(62)▽元町総務課長、碇川(いかりがわ)豊氏(60)▽名古屋市の環境団体理事長、小川文一氏(65)=届け出順。事実上、岡本氏と碇川氏の一騎打ちとみられる。
大槌町では有権者1万1841人(22日現在)の半数近くが、48ある仮設住宅で暮らす。町選管は当初、公職選挙法に抵触する恐れがあるとして「仮設住宅内にある集会所で選挙活動はできない」としていた。しかし告示直前に総務省が活動は可能と判断。「人が集まる場所が町内にない」(陣営幹部)ため、岡本氏と碇川氏の両陣営とも、仮設住宅での訴えを重視している。
自宅を流された岡本氏は、現在暮らす自身の造船会社の倉庫を選挙事務所にした。選挙カーに看板は付けず「仮設住宅の前に行ってマイクで呼びかける」と話す。23日朝、町内の広場で第一声を上げ、「お祭り騒ぎのような選挙はできない」「減災の考えに基づき、津波が来ても多くの人命をなくさない町作りをしたい」と訴えた。
碇川氏は津波浸水域の空き地に構えたプレハブの選挙事務所前で第一声。「本来は選挙どころではないが、選挙こそが復興への第一歩」「一日も早く復興計画を決めることが被災者の復興にもつながる」などと訴えた。選挙カーに名前を書いた看板を掲げ、スピーカーも設けたが「音量は最低限にする」と話している。
両陣営とも日が暮れる午後7時前に選挙活動を取りやめるという。仮設住宅で暮らす有権者の小川久美子さん(42)は「以前は家にいても外から演説が聞こえてきたが、今回はそうもいかない。まだ家族が行方不明の方もいるから、仕方ないのかな」と話す。
町によると、町外へ転出届を出した住民は1275人(13日現在)。有権者の把握が最大の課題で、選挙の実施を伝えるはがきは159人分が届かず戻ってしまった。投票当日は公職選挙法の規定により、住民票のある地区でしか投票できないが、投票所まで15キロも離れた仮設住宅で暮らす有権者もいる。町は役場仮庁舎に設ける期日前投票所までバスを1日1往復走らせる。
毎日新聞 2011年8月23日 11時49分(最終更新 8月23日 12時05分)