2011年8月22日
大阪市天王寺区で切断された遺体が入った一斗缶3個が見つかった事件は、21日で発覚から1週間がたった。少なくとも2人分とされる遺体の身元は今もわからない。DNA鑑定や歯型とともに、死亡推定時期も手がかりとなるが、約2カ月前とする司法解剖結果とは食い違う状況もあり、捜査は多くの謎に包まれている。
■街の真ん中
3個の缶は寺院や学校、マンションが立ち並ぶ大阪市中心部に近い文教地区の一角で見つかった。約300メートル南には近鉄のターミナル・大阪上本町駅があり、デパートやホテル、多数の飲食店がひしめく地域にも近い。
住民らによると、最初に缶が目撃されたのは、7月下旬。同月20日には近所の主婦(56)が、駐車場前の路上と向かいのマンションのゴミ置き場に1缶ずつが置かれているのに気づいた。これと前後して、別の主婦(57)が約100メートル離れた公園内のベンチの前にある缶に気づいた。ほかにも複数の住民がこれらの缶を目撃していたが、公園で清掃活動中の男性が缶の中から遺体を発見するまで届け出る人はいなかった。
「近隣は廃油や家電製品の不法投棄が多く、まさか遺体が入っているとは思わなかった」と住民の一人は話す。だが、人目につきにくい山中などに遺棄せず、都会の真ん中に缶を放置した理由は不明だ。
■冷凍保存か
缶の一つには40〜60歳くらいの男性とみられる頭部が入っていた。腐敗の進み具合から、司法解剖では今年6月前後に死亡したと推定された。しかし、二つの缶の中から見つかった新聞紙は2006年に発行されたもので、別の1缶には富山市の薬品会社が05年に製造した薬品原料のラベルが貼られていた。
遺棄する際に、わざわざ古い缶や新聞紙を準備したとは考えにくいことから、捜査関係者は、遺体は電動ノコギリなどで切断された後に缶の中で冷凍保存され、腐敗の進みが遅かった可能性があるとみている。
■長期捜査も
遺体の身元が特定されれば捜査は進むが、死亡時期もわからない状態では、所在不明者の中から絞り込むことも難しい。
頼りはDNA鑑定だが、04年に運用を始めた警察庁のデータベースには、過去に罪を犯した人物や、性犯罪事件の現場で採取されるなどした計約15万件の登録しかない。
次に期待がかかるのは頭部に残っていた歯だ。歯科医のもとに残る診療記録で歯型や治療痕が近い人が浮かべば、その人の住まいなどからDNA型を採取し、遺体の型と比べることができるが、時間がかかる。
捜査幹部は「身元の特定と並行して、缶の放置現場周辺の防犯カメラ映像や目撃者の発見など基礎捜査に全力を注ぐ」と語り、捜査の長期化も覚悟している。
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〈一斗缶死体損壊・遺棄事件〉 今月14日、大阪市天王寺区東高津(こうづ)町の東高津公園と西約100メートルの路上で切断された遺体の入った一斗缶2個を住民が発見。翌日、大阪市環境局が回収後に保管していた缶からも遺体が見つかった。遺体は頭と右足二つ、左足一つ、肩と背中、足の骨などで、少なくとも成人2人分とみられている。1缶には富山市の薬品会社が約5年前に製造を中止した薬品原料「重酒石酸(じゅうしゅせきさん)コリン」のラベルが貼られていた。