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きょうの社説 2011年8月22日
◎「野々市市」誕生へ 独自の歴史、文化を旗印に
野々市町の「野々市市」への移行が、総務省の官報告示により正式に確定した。県内で
は11番目の市で、合併を伴わない単独の市制施行は、1970年の旧松任市(白山市)以来、41年ぶりとなる。金沢市の「ベッドタウン」として、市制施行要件の5万人まで人口を増やした野々市だ が、その間、生活圏や商圏で金沢との一体化も進んだ。県都に隣接する自治体の宿命とはいえ、これからは金沢の力も巧みに生かし、市としての独自性を発揮する必要がある。そのかぎを握るのは、粟貴章町長も繰り返すように、固有の歴史や文化に目を向け、それを市民の拠って立つ基盤、旗印にすることである。 野々市町初のボランティアガイド団体を設立した帆苅宏典さんが本紙インタビューで、 こんなエピソードを紹介している。夏のじょんからまつり会場でゲストのタレントが舞台上から「野々市を見て回りたいけど、どんなところある」と会場の子どもたちに尋ねると、返ってきた答えは大型店や遊技施設の名前だったという。 野々市には「住民」が多くても「町民」は少ない。子どもたちが郷土を愛して誇れるよ うに地域の本当の良さを伝えたい。5月にガイド団体を設立したのも、そんな思いからである。 石川を代表する縄文集落の御経塚遺跡、県内最古の寺院とされる末松廃寺など、野々市 にはその時代の拠点であったことを示す遺跡がある。加賀守護の富樫氏が守護所を置き、中世は加賀の政治、経済の中心だった。 交通の要衝であり、人が行き交う「市」としての歴史にも厚みがある。今は区画整理で 分散型の都市構造になっているが、小さな面積の割りには豊富にある史跡をつなげていけば歴史の縦糸がくっきりと見える。街並みがどれほど変貌しようとも、それらは変わることのない人々の結集軸である。 人口増加は都市の活力であり、県内の過疎自治体からみればうらやましい限りだろう。 生活都市、住宅都市としての個性も生かしながら、土地の魅力をいかに引き出していくか。今年11月の市制施行へ向け、町民同士で地域の将来像を大いに語ってほしい。
◎林業基金延長 木材需要の拡大に期待
林野庁は、東日本大震災の復興に向けて木材需要が膨らむと予想されることから、国の
交付金を使って都道府県がつくる「森林整備加速化・林業再生基金」の設置期間を3年間延長する方針を固めた。石川、富山でも、市町村や森林組合で、木材加工施設の整備や林業機械の導入などに同基金が使われているが、県産材の活用によって、山林の荒廃防止を促す意味でも、需要の拡大に期待したい。基金は後継者不足など構造的な問題を抱える林業・木材産業の再生を目的に、2009 年度に創設され、11年度いっぱいで廃止される予定だった。しかし大震災による津波や揺れで倒壊した住宅の再建に木材需要が膨らむことや、被災地の山林の復活などに取り組む必要も出てきたため、設置期間を延長することにした。 現行の基金総額1393億円を上回る額が、11年度第3次補正予算に計上される見通 しとなっているが、被災地のみならず広域に森林を抱えている北陸各地でも、山林の環境保全、林業の担い手確保、さらには木質バイオマスの活用などへの追い風として、幅広く基金を生かしていきたい。 今年の森林・林業白書によると、日本の09年の木材自給率は27・8%となっている 。政府は先に、20年の国産木材の自給率を50%にするため、供給量を09年の2・2倍となる3900万立方メートルに増やすことを柱とした新たな森林・林業基本計画を決めた。合わせて生物多様性の保全など、森林の多面的機能の維持も目標として掲げており、基金を幅広く活用する素地が整ってきたといえよう。 震災を受けて、マレーシアなどの輸出国が、合板などで攻勢をかける状況も見えてきた が、ポスト震災で国内林業を取り巻く環境が大きく変化している時だけに、良質な国産材を供給することで確固とした木材の「国産国消」の基礎を築きたい。 公共施設の整備に木材利用を進める法律が施行され、住宅とともに木造建築への頼もし い追い風も吹いてきた。自治体の積極的な取り組みをあらためて求めたい。
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