石油系列取引の終焉:ブランド力低下、SSの元売離れ顕著

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  ガソリンスタンド(以下SS)は長らく、石油元売ブランドを掲示する特約店制度を主軸とした「系列店政策」の下に展開してきた。旧通産省時代の規制が効いていた時代は様々な流通行政策によって系列販売が保護された。具体的にはSS建設の制限、特定地域のSS新設禁止、営業日の制限、元売系列移動の自粛、販売促進活動の自粛、ガソリンの生産規制、製油所の稼働規制など、元売を主体とした系列販売の保護政策が行われた。
 
  その共通のキーワードは「市況維持」にあった。系列特約店は、競争を排除して企業成長を鈍化させる対価として、仕入価格の事後調整、決算の損失補てん、販売促進補助等々の手厚い利益保全を受けた。「石油村」と称せられた行政・メーカー・小売トライアングルによる権益維持システムが構築されていた。独自の価格戦略を取るPB(プライベートブランド)あるいは系列ブランドを掲げながらも独立独歩の経営方針を貫く独立系業者=安売り業者も存在したが少数者であり、市場競争は限定的で系列は保護されていた。
 
  しかし1996年の市場の国際化以降、状況は一変する。「石油村社会」という完結していた石油供給システムに、自由化=国際化によって海外からの「製品輸入」という新たな「元売機能」が出現したのだ。1998年にはセルフサービスも解禁された。国際化による価格透明性を高めるべく、石油元売と系列特約店の仕切価格(卸価格)のあいまいさ排除の動きが高まったこともある。1999年には東京工業品取引所にガソリンと灯油が上場され、中部大阪商品取引所にも拡大、価格指標が従前より明快さを増したことや、取引所を経由した現物仕入ソースの拡大など、96年以前の取引関係が大きく変動する。
 
  さらにSSの新設など様々な規制と手続きが撤廃・緩和された結果、イオン、ジョイフル本田など流通系企業の新規参入が開始され、セルフサービスがこの動きを加速させた。こういう業界環境の変化にバブル崩壊後の金融危機が追い打ちをかけて、元売は系列特約店との取引信用管理を強化する。この過程で、利益が出ないから補填という系列保護システムは事実上消滅した。
 
  元売は、特約店政策で3つの大きな変化を遂げた。1つは仕切政策。特約店と役員、支店長、担当者との人的関係をはじめとする「特殊事情」が投影された相対交渉もあったが、先物や価格指標会社の登場に加え、公取委による不透明な価格体系の指摘もあって、曲がりなりにも仕切指標を作ったこと。2つめは、これに関連して引取数量の多寡と支払条件も反映されるようになったこと。そして3つめは、元売自身がセルフサービスを小売市場に直営SSとして展開し始めたことである。
 
  この結果、元売は支店の縮小・統合・閉鎖を進め、価格の決定権は本社統括となった。法令順守義務も「追い風」となって、特約店の特殊事情は勘案されにくい状況にある。元売直営セルフSSは特約店への賃貸物件も含めて日本のSS総数の1割弱程度だが、販売シェアにすると3割を超える。既存SS業者の市場はSS数9割が7割市場に矮小化されてことになり、文字通りの「ゼロサムゲーム」に直面している。加えて流通大手の新規参入によって市場を大きく奪われている。系列権益維持の「この世の楽園」は、今や地獄と化しているのだ。
 
  96年以降、毎年1000カ所強のSS閉鎖が続く中で、特約店の「系列ロイヤリティ」は大きく後退している。平成20年度末で4万2000カ所のSSのうち、元売系列SSは10年で1万3000カ所減少する一方で、伊藤忠商事、三菱商事、JA全農、独立系業者などのPBSSは約2000カ所増加している。様々な理由はあろうが、「脱元売宣言」を突き付けるSS事業者が形になってきた。

  日本国内で石油を製造し流通する大元は石油元売以外にない。直営セルフSSや流通大手の価格破壊も源流は元売にあることを、系列特約店はようやく理解し始めたが時すでに遅しの感は否めない。
 
  石油情報センターがまとめた平成20年度のSS事業者経営実態報告によると、「系列販売を評価する」という系列業者は、平成11年の74.4%が20年度には61.0%へと目に見えて減少。また、「系列販売のメリット」として過半数(68.6%)が「安定した品質の保証」をあげる。しかし、元売系列業者は法的に(品質確保法)で年1回だが、PB業者の場合は10日に1回の品質検査を義務付けられており、年1回の系列SSよりも年36回も検査しているPB業者の方が実効的には品質の信頼性が高い。品質の「確保」は36回の検査によって、元売でなくとも代替が可能なのである。
 
  石油に関わらず系列販売の本質を象徴するものは「ブランド力」にある。しかし、系列メリットとしてブランドをあげる回答は29.7%だった。すなわち7割=過半数以上の「系列特約店」がブランド価値を評価していないことになる。

  しかし元売にしか出来ない“切り札”がある。「安定供給」だ。上記の調査でも59%が評価している。元売以外に供給元が存在しないからだ。では、系列外のPB業者たちが「不安定供給」であったのか。オイルショック、二度の湾岸戦争その他石油不足の期間を彼らは生き抜いてきた。何故か? お金を出せば供給されたからだ。PB業者は現金取引(キャッシュ・オン・デリバリー=COD)に慣れており、モノがなければ借金してでも現金取引で安定供給を維持したからである。かつて元売が蛇蝎(だかつ)のごとく忌み嫌った筈のPBであるが、自由化以降の系列取引はCODなどPBの取引条件が適用され隔世の感がある。

  石油はカネ、ブランドを掲げようがPB(含む流通大手)であろうが、製油所の稼働率に貢献して現金で支払ってくれるSS事業者こそ至高の取引先。それが現実であり、系列販売の終焉を元売自らが宣言していることに他ならない。(執筆者:関匡(せき・ただし)中央石油販売事業共同組合(COC)事務局、情報提供:オーバルネクスト 編集担当:水野陽子)
 
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