リアル脱出ゲームとは

ある部屋にあなたは突然閉じ込められる。周りには同じ境遇の人たちがたくさんいる。
部屋にはさまざまなアイテム、暗号、パズルが隠されているようだ。
暗号を解き、鍵を開き、箱を開け、制限時間内に最後の鍵を手に入れることができれば
あなたは脱出に成功する。
しかし、時間内に脱出できなくても悲しむことはない。
また次の謎に挑めばいいのだから。

リアル脱出ゲームについて思っていること

「どうやってリアル脱出ゲームを思いついたのですか?」と最近よくインタビューで聞かれる。実はこれといった気の利いた返事はできなくて「たまたまなにか新しいイベントをしたいなあと思っていたら、隣の席の女の子が”私最近ネットで脱出ゲームにはまってるんですよ”って言ったからやってみたんです」と答えている。それが正確ですべての答えだ。そんなふうになんとなくやってみたこの参加型ゲームイベントは物凄い人を集め、そこかしこで熱狂を巻き起こし、瞬く間にずいぶんとたくさんの人たちが参加してくれるようになった。

京都で最初にやったときは、フリー・ペーパーの一ページでひっそりと告知しただけだった。あっというまに予定のチケットは売り切れ、会場はものすごい熱気で人々は必死でその場所から脱出したがった。しかし、150人ほど集まった人々の中から脱出できたのはたったの6人だけだった。我々の作るリアル脱出ゲームは最初からずいぶん難しかった。次に大阪のHEPHALLというところでかなり大規模なリアル脱出ゲームを開催してみた。

それもあっという間にチケットは売り切れた。天井から死体が落ちてきて、赤外線を乗り越えて、暗闇を手探りで進み、鏡を使って光を壁に当てることで物語は進行した。人々はすさまじく熱狂していた。

たぶん、これは必要とされていたけれどまだ世の中になかったものなのだ。と我々は思った。論理上なにをしても良い場所に私たちは生きて生活している。でもその場所で自由に動き、誰かと熱狂を分かち合うことは意外と難しい。「見知らぬ人とともに閉じ込められる」という限定された状況でこそ、人は自由に熱狂できる。なぜならその場所にはきちんと自分で切り開くべき物語があるからだ。物語の中で、きちんとした役割を果たすことができればこの空間から脱出できる。きちんとしたひらめきと、クリエイティビティと、丁寧なコミュニケーションさえあれば誰しもここから脱出できるように我々のゲームはデザインされている。
でも、そういう場所は他にたくさんあるわけではない。ここは、必要とされていたけれど、他の場所にはまだないエネルギーを生む場所なのだ。限定された空間と時間は、自由な発想と大規模な熱狂を生んだ。

さて、これからどうなるのですか?とよく質問される。
我々はいつも困った顔をして「さあ?」と答える。僕らは物語の空間を作り出したけれど、「リアル脱出ゲーム物語」の作者というわけじゃない。
この物語の結末はしらない。
我々に前に待ち受ける困難がどれほどのものか想像すらできない。
しかし、今我々が作り出しているものをたくさんの人たちが熱狂をもって迎えてくれていることを我々は理解している。これからも求められる限り熱狂をつくりだしていくし、そのためにありとあらゆるアイデアと情熱を注ごうと思っている。

よく思うことは、今生きているこの日常の空間も、ほんの少し見方を変えればすばらしく意味深いものになるということだ。この机の裏側に暗号が隠されていたり、ソファーの下には鍵が落ちていたり、隣の青年は秘密文書を隠し持っているかもしれない。物語を通して世界を見ると、なんとステキでおかしくて謎めいているのだろうと思う。

リアル脱出ゲームというこの新しく愛しい遊びが、今あなたの隣にある現実を謎めいたものに変えてしまったらいいのに、といつも思っている。リアル脱出ゲームが物語と現実を繋ぐ、ちょっとした架け橋みたいになれば、我々はもう誇らしくって、残りの人生はずーっとビールでぐでんぐでんに酔っ払って居続けるだけで、意味ある人生だと胸をはっていえるだろう。

さて、準備はいいだろうか?
物語に入るための心の準備は大丈夫?
それはとても簡単なことだ。
物語を眺めるように世界を眺めてみればいい。

もしそれができないなら、リアル脱出ゲームに来てみればいい。
ここでは現実と物語が混ざり合っている。
一度来てみれば、そのどちらの理解も深まるだろう。

text by 加藤隆生