集合住宅でも一軒家でも、騒音やマナーを巡る“隣人トラブル”が発生するケースは少なくない。誰もが周囲に迷惑をかけぬようにと心がけながら生活することが大切なのだが、特に相手が習慣や文化の異なる外国人となると、時に思ってもいなかったすれ違いが生まれてしまうケースもある。多くの国から人々が集まるシンガポールでは、先日、地元紙が紹介したあるトラブルを巡り、ネットを中心に騒動が広がった。そのトラブルは、移住してきた中国人家族の苦情により、隣に住むインド人家族が「カレーは中国人家族がいないときに作るように」とのお達しを受けたというものだ。
この騒動の引き金となったのは、8月8日にシンガポール英字紙トゥデーが紹介した“隣人トラブル”の一例。同紙では、毎年多くの人たちが移住してくるシンガポールで、ここ最近“隣人トラブル”が増加しているとの話が伝えられ、その中で具体的なトラブルの例が2つ紹介された。その1つが移住してきたばかりの中国人家族が、隣に住むインド人家族の作るカレーの匂いに我慢ができず、政府組織の住民調停センターに仲裁申し立てを行ったケース。これがシンガポール国内で大きな注目を集めることになった。
苦情の内容はこうだ。隣家から漂うカレーの匂いに耐えられなくなった中国人家族は住民調停センターに仲裁を依頼。これを受けて調停センターのスタッフが両家族から話を聞いた上で仲裁に動き、インド人家族には「カレーは中国人家族が不在のときだけ作る」ことで同意を取り付け、中国人家族には匂いに慣れていくよう「自分たちも作ってみるよう」進言したという。互いの思いを尊重して当事者間では解決したかに見えたこの一件なのだが、トゥデー紙が紹介した後に大きな波紋を広げることになる。
同紙ウェブ版のコメント欄には、カレーを嫌った中国人家族への反発意見が数多く寄せられ、中には「人種差別的」と激しい言葉も。どうやら市民の多くが、新たにやって来た中国人家族がシンガポールの文化を否定したかのように捉えているようだ。そのため、裁定した調停センターの判断自体も、「シンガポール人たちを激怒させた」(英紙デイリー・テレグラフより)と伝えられ、「シンガポールのほとんどの家庭がカレーを作る。調停者は、移住家族にシンガポールの生活様式に適応するよう言うべきだ」と、まさに“郷に入れば郷に従え”といったコメントも少なくない。
騒ぎはシンガポール国内のネットを中心に広がりを見せ、Facebookには8月21日に「カレーを作ろう」と呼び掛けるグループも登場。これには5万人以上が参加の意思を表明し、シンガポールのカレー騒動は大きな動きになっているようだ。きっかけとなったトゥデー紙は、参加者の一部に中国への反感があるのを理解した上で、この機会にインド人や中国人以外の住民も誘って、みんなでシンガポールのカレーを楽しもうと呼び掛けている。
また、この騒ぎを受け、シンガポールのK・シャンムガム法務大臣は8月16日に会見を行い、一部市民の見解に誤解があるとし、外国人排斥にも繋がる動きに警鐘を鳴らした。大臣は、両者の合意はあくまでも家族同士の話し合いによって導き出されたもので「調停者によって提案されたものではない」ことを強調。そして住民調停センターの決定は裁判とは違うため「法的に強要されるものではない」としている。ちなみに、両家族は解決後に「お互い握手をした」そうだ。
発端となったトゥデー紙も予期せぬ形で広がりを見せたこの騒動。果たして21日に予定されるカレーキャンペーンが友好的な雰囲気で盛り上がれるかどうか。まずは注目したいところだ。