きょうのコラム「時鐘」 2011年8月21日

 天気予報ではまだ暑さが去りそうにないが、紙面の「市場便り」は秋の訪れを告げる。北海道からサンマ入荷、とあった

子どものころ、サンマは謎の魚だった。漫画や映画で知ったが、こんろの上の黒こげを喜んで食べる人たちの舌を疑った。そんなものよりおいしい魚が北陸にはいくらもある

実物と対面を果たしたころ、「さんま苦いか、塩(しぉ)っぱいか」という詩の一節も知った。そう歌われては食指は動かぬ。聞きかじりの生半可な情報が災いして、謎の魚の正体を知るのに時間がかかった

幻の魚は美味だった。加えて、脳卒中予防やがん抑制の働きもあるという。焦げた魚が頼もしく見える。その一方で、黒こげはがんの大敵、という情報もちらつく。だからといって、焦がさぬサンマはまずかろう。情報があふれると頭が痛くなる

有名な三陸沖のサンマはまだ「入荷未定」とある。放射性物質の検査でひと騒ぎあるのだろうか。サンマは美味で、体にも良い。断じてそうなのだが、見えない放射能と風評被害が災いとならないか心配にもなる。「苦くて塩っぱい」思いで、サンマを食べたくはない。