前書き とある時代劇小説を読んだら、この話を書きたくなりました。 基本、短編の連作です。 未熟な文章ですが、お楽しみいいただければ幸いです。 騎士と呼ばれる者達がいる。 今は衰退したベルカ式魔法の使い手の中でも、特に優れた者達に授けられる称号であり栄誉である。 当然、騎士達はその称号を誇りに思い、騎士として恥じることの無い生き様、戦い様を貫いてきた。 その気高い精神は多くの伝承に語り継がれ、かつてよりベルカ式の使い手が激減した現代にも生きていた。 騎士として生きる者、騎士を目指す者は過去の先達の背を追いかけ、多くの苦難が待ち受けるだろう道をあえて選んできた。 ・・・・・・だがしかし、当然例外は存在した。
聖王教会。 古き時代の偉人を奉り、喪われた古代魔法文明の遺産『ロストロギア』の保守管理を使命とした次元世界最大規模の宗教組織。 その使命のため、教会は独自の戦力『教会騎士団』を擁していた。「騎士カリムーーーーー!!何処ですかーーーーーー!!!」 怒り交じりの声が教会の廊下に響き、その声の主であろうシスターが憤怒の形相で疾風の如く駆け抜ける。 彼女こそ教会のとある有力者の護衛兼秘書を勤める、教会でも腕利きと名高いシスター、シャッハ・ヌエラ。 生真面目な性格をしている普段の彼女なら大声で叫びながら教会の廊下を爆走するなど絶対しないだろうが、今の彼女はそうとう怒っていた。「まったく、いったい何処に・・・「・・・何かあったんですか?」!!?」 突然背後から掛けられた声に、シャッハは驚愕しながらも背後に身構える。「・・・驚かせましたか?」「気配を消して後ろを取らないでください、騎士秋助!」 少年、名を佐井秋助というのだが、彼は困った顔で頭をかいた。 年は十代半ばくらいだろうか? Tシャツにジーパンというラフな格好の上に法衣のような黒い上着を羽織っている。 とても騎士と呼ばれるような実力者には見えなかったが、シャッハほどの実力者の背後を察知されること無く取ったのは偶然だろうか?「それで、騎士カリムに何かあったんですか?」「いえ、ですが先程執務室に行ったらこれが・・・・・・」 そう言って一枚の紙を見せるシャッハ。 そこには・・・・・・「・・・・・・シャッハ。 俺はまだこっちの字を覚えきっていないんですが」「『ちょっと出かけてきます カリム』と書かれているんです!!」「・・・・・・騎士カリムは仕事をサボるような人では無かったと思っていたんですが」「いえ、今日の仕事はすべて終えていました」「? なら何が問題なんですか?」「秋助、騎士カリムは教会の重要人物なのですよ! 護衛も無く外に出させる訳にはいかないでしょうが!!」「あー、成る程」 納得する秋助。 騎士を名乗ってはいるが、カリムの戦闘能力は正規の騎士称号を持っていない秋助から見ても低い。 もっとも、カリムの主な仕事は戦闘ではないが・・・・・・・「もう外に出たんじゃ?」「く、その可能性が大きいですね。 行きますよ!!」「・・・俺も?」「当然です!!」「・・・ロッサは? 探索はあの人の得意分野では?」「残念ながら、彼は今別任務で教会にいません! さあ、いきますよ!!」「やれやれ・・・」 聖王教会本部があるベルカ自治領は古い歴史と伝統を有しており、その町並みも近代都市とは一線画する趣がある。 そこに最近、一件の喫茶店が開店した。 おいしいケーキや軽食、紅茶やコーヒー、その店『シルバーリーフ』は瞬く間に自治領の評判になった。「いい加減にしてください!! 迷惑です!!」「ああ? 騎士の俺様が茶に誘ってやってるってーのに迷惑だあ!?」 噂のシルバーリーフ店内では何やら揉め事が起きていた。 この主犯はこのベルカ自治領にある学校の制服を着た学生同士であった。 一方は高等部の制服を着崩しており見るからにガラが悪い不良学生。 もう一人は同じく高等部の制服を着た真面目そうな金髪の女子学生。 大方、不良学生が女子学生をナンパでもしていたのだろうが、彼女の断り方が悪かったのか、その不良が余りに性質が悪かったのか・・・・・・「何が騎士ですか! 無闇に力を振りかざすようなチンピラに、騎士を名乗る資格などありません!!」「このアマ!大人しくしてればいい気になりやがって!!」「お客様! 店内での騒ぎは他のお客様に・・・」 そこで店員が制止しようとするが「うるせえ!!」 キれかけた不良学生が槍型のアームドデバイスを起動し、店員に突きつけようとする。 だがその時・・・「やりすぎたな」「!?」 突然背後からの声と同時に、喉に冷たい何かが当てられた。 男が動く、あるいは声を上げる間もなく、魔力を纏った刃が喉笛を掻き切った。 女子学生の目の前で不良が倒れると、その背後に立つ少年が姿を見せた。「あら、秋助?」 女子学生が驚いたように少年、秋助を呼ぶ。 手にはクナイ型アームドデバイス『影刃』を逆手に握っていた。「・・・そんな格好で何しているんですか?」 やや疲れを感じながら秋助は、彼女が着ている制服を見て訊ねる。「似合いませんか?」「・・・質問に答えてください」 悪戯っぽい笑顔で訊ねる女子学生の質問を疲れた顔で無視する秋助。 女子学生はつまらなそうな顔をしながら答える。「見ての通り変装です。 このお店の評判をロッサに聞いて、一度行ってみたいと思っていましたから、ちょうど今日の仕事が早めに終わったので」「何でシスターシャッハに一言も言わないで?」「書置きはしましたが?」「・・・・・・はぁ」 疲れたように溜息を吐いて影刃を服の下にしまう秋助。 元々クナイ型という小型な形状をした影刃は携行も楽で、わざわざ待機形態にする必要が無かった。「それより秋助。 いくら相手があんな人でも、背後から襲うのは騎士としてどうかと思いますよ」 女子学生の窘める様な言葉に、秋助は肩をすくめた。 秋助は魔法の才に乏しく公式ランクはDと騎士団内でも特に低かったが、故郷である地球のとある武術を修得しており、隠密行動と死角からの奇襲攻撃を得意としていた。 しかし闇に紛れ、気配を絶ち、必殺のみを追求したその戦い方は普通の騎士のような正々堂々とした物ではなく、まるで暗殺者のような戦い方と騎士団では批判の意見も多かった。 だが同時に、秋助はその戦い方で騎士団の窮地を救った事があり、正規とは違う名誉称号とは言え騎士称号を若くして得ていた。 この為、面と向かって非難されることは少なかったが、騎士団の水にまったく合わない彼を『はぐれ騎士』と呼ぶ者は多かった。「それよりも・・・」 女子学生が尚も何か言おうとするが、その前に秋助は店の窓の外を指差す。 きょとんとした顔でそちらを見た女子学生(偽)はその顔を引きつらせ、冷や汗をかき始める。「えーと・・・・・・ 秋助、あそこにいるのって・・・」「もはや怒りのせいで表情には面影が無いが、あんたの護衛役のシスターです」「・・・・・・」 逃げようとする女子学生の姿をしたカリムだったが、疾風の如く店に入ってきた修道服の夜叉ッハに襟首掴まれ、何処かへと連れ去られてしまった・・・・・・「やれやれ・・・・・・」 夕日に朱く染まる町並みを歩きながら秋助は呟く。 シャッハがカリムを連れ去った後、その場の後始末をしたのは当然、秋助だった。 シルバーリーフの店員に騒がせた事を謝罪し(逆に御礼を言われたが)、遅参した自治領警務隊に非殺傷設定攻撃で気を失った不良の身柄を預け、そのまま少し早い夕食を注文し、丁度日が沈み始めた頃に教会への帰路についた。 その手に怒り疲れているだろうシスターと結局あの店で何も食べられなかったらしい上司へのお土産が詰まった箱を持って・・・