【習作・ネタ】 水龍になりました 【ゲート二次】
ミケさんが書いてくれたのにちょっと対抗心を燃やしてやっちゃった☆
どっちが良いかは好みが分かれると思う。
コンクリートで舗装された道
その上を行き交う自動車と排ガスの臭い
見上げれば聳え立つビル郡
忙しなく道を歩く人々
そこに紛れる様に暮らす自分
そして、家に帰れば食卓には美味しい食事が…
懐かしき、もう戻ってこないであろう日常の姿だった。
そこまで見てから、眼を覚ます。
あぁ、また辛く苦しい時間の始まりだ。
動かず、周りを確認する。
明かりの一切無い穴倉の中でも、今の自分にはよく見える。
巨大な尾、翼、爪、鱗……
どれも嘗ての自分には無かった代物。
あぁ、やはりこの姿の、この体のままなのか。
絶望と共に、穴倉を塞いでいた岩山を腕でどかす。
以前より遥かに強力になった身なら、重機を大量投入するような作業も一分もしない内に終わる。
穴倉から這い出て、久しぶりの日光に眼を細め、次いで改めて己の身を確認し、叫ぶ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!」
サファイアの様な鱗を全身に纏った古龍が、慟哭するかの様に咆哮した。
トラックに轢かれ、気付けば何処かの穴倉にいた。
傍らには巨大なドラゴン。
そして己自身もまた幼いドラゴンとなっていた。
絶望した。ただ絶望した。
しかし、苦痛は容赦無く降りかかる。
幼い体は成長するために多くの食料を求め、常に飢えている。
だが、ドラゴンが持って来るのは常に生の肉。それも人型のそれだ。
一部は人間と異なる特徴を持つのもあったが、絶対に食べる気にはなれない。
しかし、幼い体は成長するために多くの食料を求め、常に飢えている。
我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢し続けた。
そして飢えと疲労で意識が朦朧となり、天地の区別もつかなくなった時
自分は人を食べていた。
親ドラゴンが狩ってきた多くの人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人。
それを、気付いたら、一心不乱に、貪っていた。
そこから先は、詳しく覚えていない。
ただ、自分はそれ以来必要な時には人も食べる様に、おぞましいナニカに成り果てたという事だけだった。
まるで山月記の李徴だ。
ただ自分は長きに渡る間未だに人間としての意識を忘れていない。忘れたくない。
だが、それすらも遠い時の彼方に磨耗しようとしていた。
穴倉から出て直ぐにオークの集落を襲った。
肉は硬く不味いが、それでも量は人やエルフよりも多いし、数も一定以上あるので腹ごしらえには丁度良い。
バリバリバリバリガツガツガツガツグチャグチャグチャグチャ
男も女も子どもも老人も容赦無く一人も逃さず貪りつくす。
逃がさない様にするのは軍勢などの厄介なものを寄り付かせないためだ。
龍の中でも相当大きい部類に入る自分を討伐するとなれば、この世界の軍勢なら百や二百ではきかない。大軍と言って差し支えない規模を動員する必要がある。
そのため、動くには何処かの国家が動く必要がある。
だが、何処からも被害報告が無ければ、どんな国も動く事は無い。
以前、大量の軍勢に攻撃された経験から学んだ処世術だ。
まだ足りない。
オークの集落を全滅させた後、また飛び立つ。
空を飛ぶ事はこの体になってから唯一人の頃よりも良いと思える点だ。
青空の中をただ飛ぶ。
耳と眼と鼻を駆使して獲物を探すと同時、久しぶりに体が風を切って飛ぶ感触を楽しむ。
そんな時、十時の方角から何かが近づいて来た。
羽のある人、亜人という奴だろうか。
その割には獣としての感覚が相手が尋常ならざる手合いだと告げている。
間違ってもただの獲物ではない。鋭い爪と牙を持っている。
接触するのは危険と判断して急いで方向転換、全速でその場を離脱した。
しかし、件の亜人も迷う事無くこちらを追ってきた。
こうなれば、後はどちらかが力尽きるかであった。
結果、追い付かれた自分は一度だけだが亜人の命令を聞く事となった。
内容も特に自分にとって害となる訳ではな………否、大いに精神的にクルものがったが、友好的ではない手段に訴えられるよりはマシだろう。
内容は、炎の古龍と番う事。
子育てはメスの役目であるため、負担がかかる訳ではない。
しかし、龍相手に脱童貞はしたくなかった。
やっとこさ前人未到なエベレストもかくやという山の頂にある巣穴に戻れた。
龍相手だというのについつい励んでしまった自分に自己嫌悪しつつ、休憩を挟んでまたも餌探しに飛び立つ。
次に狙うのは……どうせだから野生の大型生物でも探すか?
幸い、この世界には見たことも無い妙ちきりんな生物が多いので、すぐに見つかるだろう。
そんな事を考えていると、不意にありえない香りを嗅いだ。
(え?)
まさかまさかまさかまさか
いや、有り得る筈が無い。
この香りはこの世界には無い。
せめてまともな食事を探し求めて大陸中を探したが、それでもこの香りに該当する料理は見つける事は出来なかった。
時には隊商を襲い、商船を沈没させ、都市部を強襲しても、この香りには終ぞ出会う事は無かった。
だがだがだがだがだが!
それでは、今鼻腔を擽るこの香りは何だというのだ!
疑問は数瞬。しかし、行動に移るのは半瞬も無かった。
(カレーの香り!)
懐かしき好物の、故郷の料理の香りに、理性は吹き飛んだ。
あぁしかもこれ粉から炒めた本格派の香り!
食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい!!!
全速力で香りの元へと向かった。
(カレーカレーカレーカレーカレー!!)
最早思考はカレー一色。
年月すらも数える事を忘れた身だが、それでも嘗ての大好物の香りは覚えている。
香りを辿り、その元へと全速力を出していく。
そして、見えた。
緑の野戦服に身を包んだ、明らかに軍事訓練を受けたであろう者達。
だが、今飢えに飢えている自分には一切関係ない。
視界にあるのはただ一つ、カレーのみ!!
「くっそ!今日は厄日か!」
伊丹は愚痴を零しながら走る走る。
「吉田、下がれ下がれ!」
「眼を狙え!」
「パンツァーファースト急げ!」
折角避難民の住居を立て、昼飯を取ろうという所でいきなり空から青い古龍が飛来してきたのだ。
自衛隊と避難民は控えめに行ってもパニックになった。
予め古龍の存在を知っていたためか、自衛隊は混乱しつつも素早く反撃の準備を整えていった。
しかし、古龍はさっぱり人を襲う様子は無い。
それどころか人を避け、まっすぐ昼食のカレーに向かう。
そして一瞬でそれらを全て口に含むと、来た時同様瞬く間に駐屯地から飛び立っていった。
残ったのは、綺麗に空になった大鍋と古龍の足跡ばかりだった。
(ああ、ああ、確かにこんな味だった!)
一方、まんまと自衛隊からカレーを食い逃げした青古龍は歓喜の涙を流していた。
(思い出した思い出した!)
ああそうだ、カレーとはこんな味だった。
こんな体になる前は、毎月必ず食べていた味だ。
カレーを食べて思い出すのは、他の多くの食べ物の事だ。
カツ丼、寿司、納豆、味噌汁、羊羹、ハンバーガー、ポテトサラダ、ハンバーグ、天ぷら、そば、うどん、餅、秋刀魚の塩焼き……
涙は止まらない。
遠い時間の中で霞み続けるしかなかった記憶が、今鮮明に蘇りつつあった。
(食べたいよぅ…。)
懐かしくて、恋しくて、愛しくて
ただただ焦燥だけが募っていく。
(明日も、行こう。)
野戦服の軍人達。彼らの容姿から彼らの所属は解っていた。
自衛隊、嘗ての故郷を守ってくれていた人たち。
魔法や弓矢、ワイバーンに乗った騎兵よりも、遥かに強力な火器を持った者達。
次は、死ぬかもしれない。
当たればこちらの強固な鱗すら貫通する武器を彼らは保有している。
戦闘機やヘリも出てくるかもしれない。
もし迎撃網が完成していたら、高確率で死ぬ。
だが、それがどうした?
この苦界が終わるなら、あの懐かしい料理を食べられるのなら
この命、惜しくは無い。
自衛隊は現地協力者のカトー老師やコダ村の生き残りの証言から、相手が古龍の中でも更に伝承によく登場する程に長命かつ強力な個体だという事が判明した。
青の古龍。それは大陸中にその姿を知られた災厄の象徴。
大陸のあちらこちらに出現し、時には同じ古龍すら食い殺すほどの個体だという。
「だが、駐屯地を襲うからには駆除しなけりゃならん。」
狭間の声に忌々しさを隠さずに柳田が頷く。
「装備の申請をしておきます。問題は奴の巣がどこにあるかですね。」
早々また来るとは思わないが、帝国軍よりも危険な相手となれば確実に退治しなければならないだろう。
「どうにかやっこさんの居場所を特定できないもんかね…。」
「発信機というのも手ですね。」
そして夜
駐屯地ではまたしても青古龍の来襲があった。
「またかよ畜生!」
「今度は逃がすな!」
二度目で慣れたのか、自衛隊員たちは素早く体勢を整えて迎撃を開始する。
パンツァーファーストが、重機関銃が、ロケット砲が、バズーカが、対物ライフルが、地対空ミサイルが、対空砲が狙いを定める。
帝国軍との戦いで主に相手の竜騎士や重装歩兵に使用される火力がたった一つの生物に向けられるという異常事態。
だがしかし、それが許される相手が今存在しているという事実。
「ミサイルと対空砲は奴が飛ぶ瞬間を狙え!歩兵部隊は奴の目と足を狙うんだ!」
的確な指揮と高い錬度。特地という異常地帯で戦う彼らは上から下まで精鋭ぞろいだ(一部誇張並び例外あり)。
だが、青の古龍もまた、ただで殺られるつもりはなかった。
「■■■■ッ!」
周囲の人間が鼓膜を破裂させかねない程の咆哮。
思わず耳を押さえる者も出るほどのそれに、照準が僅かだがぶれてしまう。
直後、青古龍はブレスを吐き出した。
「んなに!?」
「凍った!?」
放たれた氷のブレスが氷壁を展開、体高差からどうしても下から狙う形になる歩兵の視界を遮る。
更に、設置された大鍋を躊躇うこと無く咥えると、即座に飛び立たずに四肢で猛然と走り出す。
当初の予定では歩兵部隊の攻撃に逃げ出そうとした所を対空砲と地対空ミサイルで仕留める予定だったのだが、相手はものの見事にこちらの思惑を外れた。
「撃て撃て!足を止めろ!」
だが、連射されるブレスが作る氷壁越しに撃っては命中率も威力も期待できない。
いくつかの弾が辛うじて命中したが、角度上有効打は殆ど無いだろう。
青古龍はまたも逃げおおせたのだ。
残ったのは足跡と大量の氷、そして近くの森に打ち捨てられた大鍋だけ。
「あ・の・や・ろ・う~~……ッ!」
「何か古田のキャラが変わってるな…。」
「食べ物の恨みを恐ろしいって事ですかね。」
事実、この二度の襲撃で殺気立ってる隊員は大勢いた。
それに、多少なりとは言え戦果はあった。
「けど発信機は取り付けました。これで奴の巣の場所が解ります。」
「国境越えてなきゃいいんですけどね。」
どうせ行くのは自分らなんだし。
今後を考えて憂鬱そうに溜息をつく伊丹だった。
今回は豚汁と白米、野菜炒めでした。
ベリーベリーデリシャス!
自衛隊員たちの思いなぞ露も知らず、青古龍は先程の食事の味を反芻していたのだった。