銀輪の死角

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銀輪の死角:どうなる走行規制/5止 「一方通行」期待も課題も

 歩道でも車道でも危うい自転車。その実感はじわりと広がっている。

 東京都国分寺市のNPO法人理事、島森秀夫さん(60)は「ほかの自転車が怖くて、自転車に乗らなくなった」という。

 28年前、黄色い、いわゆる「ママチャリ」を購入。自宅から最寄り駅まで約2キロの通勤の足となり、10年前に退職してからは買い物で重宝した。現役時は輸入自動車の整備士で、「物は直して長く使う」が持論。自転車のハンドルが真っ黒にさびても、タイヤやブレーキワイヤを何度も交換して大切に使ってきた。

 ところが、5年前から次第に乗らなくなった。街を走る自転車が増え、右側走行や乱暴に乗り回す人も目立ってきた。交差点で一時停止せず急に曲がってきた自転車にひやっとしたのは一度や二度でない。夜道に無灯火で、音楽を聴き、携帯電話を操作している自転車も見た。

 本当は、もっと自転車に乗りたい。でも、安全に気持ちよく走れる場所がない。「健康や環境にいい自転車を悪者にしたくはない。自分にも他人にも安全に走りたいが、そう思えば思うほど乗れなくなる」

     ◇

 歩道での自転車の一方通行規制を打ち出した警察庁。狙いの一つは、歩道上の自転車用通路の整備促進だ。すれ違う必要のない一方通行にすれば通路幅は少なくて済む。

 今ある歩道にも適用でき、対面通行を禁じれば事故の減少が見込まれる。しかし、警察庁の担当者は「なかなか難しい」と漏らす。商店などのある場所で規制すると「不便さから客足が遠のく」などの反発が予想されるからだ。

 一方、自転車政策を提言するNPO法人「自転車活用推進研究会」の小林成基理事長はこう苦言する。「歩道は歩行者のもの。そこで自転車の一方通行規制をすれば、自転車用の道だとの誤った認識を広めてしまう」

 自転車の歩道走行はあくまで例外として認められ、しかも徐行が義務。一方通行の標識を設置すれば、大手を振って歩道を走り回り、障害者や高齢者、ベビーカーの危険が高まるかもしれない。

 小林さんは「道路交通法に従い、シンプルに『自転車は車道の左端に寄って走行』とすべきだ」と主張する。新たな規制でルールが複雑になれば混乱が生じるとの考えだ。ただ、規制導入に伴い、自転車の左側通行が利用者に浸透することは期待できる。

 期待と一緒に課題も抱え、新たな規制は年内にも施行される。=おわり

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 馬場直子、北村和巳が担当しました。

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 情報やご意見、体験談をメール(t.shakaibu@mainichi.co.jp)、ファクス(03・3212・0635)、手紙(〒100-8051毎日新聞社会部「銀輪の死角」係)でお寄せください。

毎日新聞 2011年8月20日 東京夕刊

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