2010年11月11日放送

脳の誤作動


1_01 【スカイダイビングで激突死】
 2002年6月、ウィスコンシン州イーストトロイの飛行場で、ある怪事件が起こった。 ベテランスカイダイバーのベルテットさんはこの日も、ダイビングを楽しんでいた。 いつものように空中を舞い、数分後には、無事地上に着地するはずだった。 だが・・・地面に激突し、死亡。 死因は、地面に叩きつけられた衝撃による激突死。
 ところがこの事故には不可解な点があった。 それは、ベルデットさんが地面と衝突するまでパラシュートを開こうとした形跡がまったくなかったのだ。 一体なぜベルテットさんはパラシュートを開くためのロープを引かなかったのか? 考えられる原因を専門家に聞いてみると、心臓発作、失神などを起こしたとしか考えられないという。
 しかし、当時この事故を担当した検死官によると、医学上、ベルテットさんの身体に異常が起こった形跡は見当たらなかったという報告が上がっている。 身体に異常がなく、パラシュートのロープを故意に引かなかったとすれば・・・考えられるのは自殺説。 だが、当時を知る空港スタッフは、ベルテットさんが自殺する訳がないという。 事故当日も婚約者と一緒に来て、女性はベルテットさんの帰りを待っていたというのだ。
1_02  死の真相を探る中、我々はスカイダイビングに関する驚くべき数字を見つけ出す。 それは・・・、心理学教授のグリフィス氏が発見した奇妙な数字だった。
 グリフィス教授によると、このような事故はごく少数ではあるが、毎年起きているというのだ!! それは、驚くべき現象が原因だった! これらの事故の原因は“脳の誤作動”によるものだというのだ。 脳の誤作動とは、一体どういうことなのか? 実は近年の研究で、人間の脳は様々なトラブルを起こすことがわかってきた。
1_03  グリフィス教授によると、ベルテットさんにブレインロック現象が起こっていたというのだ。 「ブレインロック現象」これは文字通り、脳の停止を意味している。 脳の活動が停止することなど本当にあるのだろうか!?
 ブレインロック現象には長期記憶が大きく関与しているという。 記憶には大きく分けて「短期記憶」と「長期記憶」がある。 短期記憶とは、一時的に情報を貯蔵するので、すぐに忘れてしまう。
 例えば、電話番号などを聞いたとき、会話などをしていると、すぐに忘れてしまう。 しかし、何度もその電話番号を使うことで、情報は脳の長期記憶エリアに貯蔵され、長期記憶となる。 長期記憶エリアは、膨大な量の情報の保存が可能で、そこに一旦貯蔵された記憶は容易に忘れることはない。
1_04  ベルテットさんの場合、パラシュートを開くという記憶は長期記憶に保管されていたはず。 しかし、ちょっとしたこと・・・例えば、慣れない高度な技に挑戦していたり、ちょっとした考え事や気になることがあると、不安やストレスホルモンの分泌が増してしまい、長期記憶へのアクセスが一時的に遮断され、本来忘れるはずない当たり前の行動を忘れてしまうことがあるという。
 このブレインロック現象は、我々の日常の中にも起こりえる。 例えば、隣の部屋に忘れ物を取りに行った時、一瞬違うことを考えたことで、「あれ?何を取りに来たんだっけ?」と忘れてしまうこと。 さらにブレーキとアクセルを踏み間違え、そのまま激突してしまうなどの事故もブレインロック現象の一種。
 このように我々は脳の誤作動によって、いつ危険にさらされるかわからない。 ベルテットさんの事故もこのブレインロック現象によって引き起こされていた可能性は高い。
1_05 【衝撃!筋力が約10倍に増加】
 ここに興味深い映像がある。 1996年にハワイでヘリコプターが墜落。 下敷きになり、川の中で呼吸ができなくなっているパイロットを、一般人の男性が救出しようと試みている。
 ヘリコプターの重さは1トン。 人間が持ち上げることなど不可能な重さである。 だが次の瞬間!画面左は市の男性が、1トン近いヘリコプターを一瞬だが持ち上げた!! この勇敢な行動により、パイロットは一命を取り留めたのだ。
 このように、人間は極限状態に陥ったとき、実際は不可能と思われるような、爆発的な力を発揮するケースがある。 この火事場のバカ力とも言われる驚くべき人間の能力。 一体、身体の中では何が起こっているのか!?
1_06  最近の研究で、DNAは働いていない部分がほとんどで、働いているのは10%程度だということが分かってきた。 人間は危機的状況に置かれると、その瞬間、脳から全身に指令が出され、本来眠っている爆発的な力を発揮するのだという。
 なんとその力は、通常時の10倍にも達する。 普段50キロのものを持ち上げられる人は、火事場の馬鹿力では500キロを持ち上げられるというのだ。 しかし!!普段の生活ではリミットまでやる必要はなく、そしていつも火事場の馬鹿力が出ていたら、人間として持たないとうのだ。
 すなわち、いくら強靱な力を持っていたとしても一歩間違えると体を壊し、生命の危機に陥る可能性があると言うのだ。 一見、優れた能力かと思われる火事場のバカ力。 しかし、これも死と隣合わせの「脳の誤作動」なのである!!
1_07 【極限状態で現れる謎の存在】
 1983年4月。ニューハンプシャー州の大学院生ジェームズさんが友人のリチャードとカナディアンロッキーを登山していたときのこと。 突然、大規模な雪崩が二人を襲った。
 数時間後、ジェームズさんは意識を取り戻した。 しかし、背骨を2カ所、両腕も骨折していた重傷だった。 友人は変わり果てた姿となっていた。
ジェームスさんも、激しい損傷と低体温で意識は朦朧とし、死を覚悟した瞬間だった。  その時、ジェームズさんは、突然そばに見えない「存在」を感じたという。 そしてハッキリと声として聞き取れた・・「諦めてはいけない、頑張りなさい」と。 その声はキャンプまでどう動いて帰ればいいのかまで具体的に指示までしてくれたという。 そしてその見えない「存在」によりジェームズさんは、無事に生還を果たせたのだ!!
 実は、この「見えない存在」の力によって一命を取り留めたのは、ジェームズさんだけではない。 記憶に新しい、911テロ事件、宇宙ステーションの乗組員や海難事故、南極探検隊など、死と隣合わせになり、生還した人達の中に、この「見えない存在」を感じた人は少なくないという。
1_08  歴史上では、ニューヨーク、パリを初めて単独飛行に成功したチャールズ・リンドバーグでさえ、「見えない存在」のお陰で成功することが出来たと、回顧録で発表している。 では一体、彼らを救った謎の存在とは、何なのか? それは、「サードマン現象」。
 この見えない「存在」に遭遇するという現象は、高山病の一種である脳浮腫が原因であると言われている。 しかし専門家によると、「脳浮腫」とか「低酸素状態」などの病的な状態でなくても、例えば、真っ暗闇のお化け出るよって言われているようなところに行くと、妙な存在を感じるなどは普通に起きることだという。
 ここに、一つの興味深い実験結果がある。 1930年代、アメリカの脳神経学者ワイルダー・ペンフィールドはある実験を行った。 今では倫理的に許されないが、ペンフィールドは、てんかん患者を治療するために、意識のある被験者の頭蓋骨を切り開き、どこの部位を切除すれば機能が回復するかをテストした。
 このとき、ペンフィールドは電気で側頭葉を刺激すると、患者は「自分の体が浮かび上がっている」、「自分の魂が体から離れていっている」という感覚に襲われることを偶然突きとめたのだ。 このように、人間は極限状態に陥った時、側頭葉に何らかの刺激が加わり、脳の誤作動によってサードマン現象が生じたのではないか?と考える学者もいる。 精密かつ超高性能と言われる人間の「脳」は、時にふっとしたきっかけで誤作動を起こすことがある!!
1_09 【アメリカ大使の衝撃体験】
 1980年2月、コロンビアの首都ボゴタにあるドミニカ共和国大使館で、各国の大使達を招き、自国の独立記念パーティーが開かれていた。。 アメリカ大使、ディエゴ・アセンシオも招待された一人だった。 しかしその中に、招かれざる客が紛れ込む。
 優雅なパーティーが行われる中、2組の男女が会場の中に入ると・・突然ピストルを引き出し、天井めがけて乱射した。 ほとんどの客は全く動けず、立ちすくんでいた。 銃声音に気がついたアセンシオ大使は、とっさにソファーの陰に隠れ、恐怖に震えながら様子を伺った。
 パーティー会場を襲ったのは、コロンビアの過激なテロリストだった。 この日、訪れた大使達を人質に取ることが目的だったという。 そして・・・ボディーガードとテロリストの間でおぞましい銃撃戦が展開!!
 その瞬間!信じられない光景がアセンシオ大使の目に飛び込んだ!! アセンシオ大使は後にこう証言した。 「まるで、全てがスローモーションの様に展開され、撃たれた人がゆっくり倒れていった」と。
1_10  このスローモーション現象は、交通事故にあった人たちからも、数多くの報告が聞かれている。 危険な目に遭遇した際、度々聞かれるスローモーション現象。 これは科学者の間では「タキサイキア現象」と呼ばれ、ギリシャ語で「頭の中の速度」を意味している。
 このタキサイキア現象が生じた時、人間の体内ではある変化が起きているという。 まず人間は、銃声などの90デシベル以上の音を思いがけなく聞いた場合、本能的に恐怖を覚えるという。 その恐怖のシグナルが聴神経を伝って脳へと送られる。 シグナルが脳幹に達すると側頭葉の奥深くにある扁桃体に刺激が伝わり・・次の瞬間、本人の意思には関係なく、体内では大量の出血を防ぐよう、血管が収縮し、血液の科学物質は出血しても凝固しやすい成分へと変化する。
 つまり、危険に陥ったと判断した脳は、本人の意思など関係なく、何を優先すべきかを咄嗟に判断。 この場合、もし銃弾が当たっても出血を最小限に抑えるよう体を変化させることを最優先に選択したのだ。 それは一見、素晴らしい能力のようにも思える。 しかし、そこには大きな落とし穴があった。
1_11  脳が本人の意志に関係なく、体の機能を取捨選択する。 これはようするに、脳が体を守るということ意外は二の次であると判断し、活動停止状態へと変化していまうことを意味している。 そのことで、体に異常事態が発生する。
 こんな奇妙な報告がある。 戦場から帰還した兵士たちの半数近くが、戦闘中、無意識のうちに、失禁、脱糞してしまった経験があるという。 体を守ることを優先した脳は排泄機能のコントロールすらも放棄してしまったのだ。
 大使館のケースにおいても、脳は生命維持を優先。 その結果、銃撃戦の中、どうすることも出来ずに全員が逃げ遅れるという事態を招いてしまったと考えられる。
1_12  では、アセンシオ大使が見た、スローモーションに映る「タキサイキア現象」は、一体なぜ起こったのだろうか? その秘密を解き明かす、興味深い実験結果がある。 ヒューストンにあるベイラー医科大学の神経科学者デビッド・イーグルマンは「タキサイキア現象」を解明すべく、人を危険な状況下に追い込み、スローモーション体験を起こさせる実験を試みた。
 23人の学生ボランティアを集め、45メートルの鉄塔から後ろ向きに防護ネットに向かって自由落下させたのだ。 時速110キロで落下するこの実験で、学生たちのほとんどがスローモーションに感じたと報告した。
 続いて、イーグルマン博士はスローモーション現象による、時間の歪みを測定する。 その方法は自由落下を行なう途中、腕につけたデジタル表示バンドに、通常では認識できない速さで二桁の数字を点滅させ、読み取れるかどうかを見極めるものだった。 もし、スローモーションにより時間がゆっくりと流れるのなら、普段なら絶対読み取れない数字の点滅も読み取れるはずである。 そして、もし学生たちが、数字を読み取ることができたなら、映画「マトリックス」の主人公のように、極限状態に陥った人間には、銃弾さえも避けることが出来る特殊能力が備わっていることが証明されるのだ。
 結果は・・・予想に反し、誰一人として、数字を読み取れなかったのだ。 すなわち、スローモーションに見えた感覚がしただけで、実際にはスローモーションは起こっていなかったのだ。
1_13  では、学生たちをはじめ、アセンシオ大使には、なぜ目の前の光景がスローモーションのように映ったのか? それは、まさに脳が引き起こした誤作動だった。
 出血を最小限に抑え、体を守ることを最優先とした脳は、それ以外の活動を低下させてしまった。 そのため、目から入った情報も上手く処理することができず、ぎこちないコマ落としの映像のようにしか処理できなくなってしまった。 それを、スローモーションのように感じたのだ。
 つまり、「タキサイキア現象」とは、特殊能力ではなく、スローモーションのように見えたと錯覚する脳の誤作動だったのである。 人間の脳が引き起す様々な誤作動。 それが行き過ぎた暴走を起こした時・・・我々は、生死の境へと誘われてしまうのかもしれない。




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