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きょうの社説 2011年8月20日
◎川下り転覆事故 自然を甘く見てはならない
浜松市の天竜川で5人が死亡、行方不明になった川下り船の転覆事故は、救命胴衣着用
が徹底されず、安全対策は現場の船頭任せになっていたことなど、運航会社のリスク管理の不備が次々と明らかになっている。川は流れや水量の変化が複雑で、スリルも売り物にするような川下りに「絶対安全」は ありえない。人為ミスや自然の変化による事故が起きうることを前提に、可能な限り安全策を講じるのが観光事業者の務めである。今回の会社側の無防備さは、自然を甘く見ていたと言わざるを得ない。 こうした川下りは北陸など全国各地でみられ、重要な観光資源になっている。だが、自 然に接するルールをあいまいにしたままでは同様の事故を防ぐことはできない。法整備を含め、事故の教訓を生かす必要がある。 転覆した川下り船は、渦に巻かれて船が制御困難になり、岸壁に衝突したという。行方 不明者のなかには、2歳の子や80歳の高齢者もいる。いずれも救命胴衣は着けていなかった。 川下りが人気を集めるのは、自然の醍醐味、スケールが味わえる非日常的な体験だから である。自然のなかに入り込むからには一定のリスクは避けられない。絶対的な安全を求めるなら、川下りは成り立たないだろう。そうした自然体験を提供する以上、潜在的なリスクに十分配慮した手立てを講じるのは当然である。 川の観光と言っても、野趣あふれる急流下りから、船頭がこぐ姿や川辺の景観を楽しむ 遊覧までスタイルは多様である。安全管理の責任は事業者にあるとはいえ、国土交通省には、一律でなく、それぞれの特徴に応じたきめ細かな規制や指導が求められている。 一方、富山県の黒部川支流では、川下り中の家族ら計7人が増水で川岸に取り残される 遭難事故があった。ヘリで救助され、けが人はいなかったが、大雨や洪水が予想されていたときに川下りするのは無謀の極みである。 地形を熟知している人でも自然のなかではリスクから逃れられない。自然は人間の思い 通りにならないという当たり前の事実を一つ一つの事例から謙虚に学びたい。
◎東北で津波注意報 素早い避難はできたのか
東北地方で久しぶりに強い地震があり、50センチの津波注意報が出された。幸いなこ
とに目立った被害はなかったが、東日本大震災の余震は今後も続くだろう。大きな余震が起き、再び津波が襲うことも想定しておかねばならない。今回の注意報発令時に、素早い避難ができたのか、しっかりと検証しておく必要がある。何より心すべきは油断だ。警報や注意報が何度も空振りに終わると、「またか」という 思いから気が緩み、知らず知らずのうちに行動が鈍くなっていく。そんな心を戒め、常に素早い避難行動が取れるようにするには、日ごろの訓練と啓発活動を粘り強く繰り返していくしかない。 内閣府などが岩手、宮城、福島の3県の被災者を対象に行った調査では、震災発生直後 に避難した人は57%にとどまり、42%の住民は避難をしなかった。地震直後に避難した人は、津波に流されたり、体がぬれるなどしたケースは5%にすぎなかったが、避難が遅れた人は、ほぼ半数が津波に巻き込まれて流されたり津波が迫ってくるといった危険に遭遇していた。調査結果は、素早い避難が何にも増して重要であることを示している。多くの人に知ってもらいたいデータである。 すぐに避難しなかった人の半数近くは自宅に戻ったり、家族を捜しに行ったりしていた 。東北の三陸海岸地域には「津波てんでんこ」という言葉がある。津波のときだけは、親子といえども人を頼らず、てんでんばらばらに逃げよ。そして一家全滅を防ぎなさい、という教えである。この伝承に学んだ避難訓練が必要ではないか。 今回の調査で分かったもう一つの重要な点は、津波警報を見聞きした人が全体の約4割 にとどまったことである。特に三陸海岸では今、1階が津波で被災した自宅の2階などで生活する「在宅避難者」が増えている。宮城県石巻市だけで、その数は約1万人に上るという。こうした危険と隣り合わせの人々を含めて、警報や注意報を住民に伝える手段をあらためて考え直さねばならない。住民への訓練や教育が一層重要になる。
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