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きょうのコラム「時鐘」 2011年8月20日
天竜川の川下り船転覆事故で不明になった船頭が66歳だったことに、一種の感慨を覚えた人も少なくなかろう
ベテランかと思ったら経験はわずか3年。かじ取りは3月に始めたばかりの「新人船頭」だったという。66歳で新人とは厳しい。「頭ではなくしっかり体で覚えるまで経験を積むしかない」との同業者の指摘が重い かじ取りになるための必要な練習時間や規定もなく、国家資格は不要だというが、国家資格が必要なら、成り手はいるだろうか。同業者が言うように、免許があればいいという仕事ではなく「経験に勝る資格」はないはずだ 「村の渡しの船頭さんはことし六十のおじいさん」の歌がある。ひと昔まで60歳で「おじいさん」と呼ばれていた世代は、船頭一筋で生きられた時代だった。今の60歳はとても「おじいさん」とは呼べないが、還暦過ぎてから転職せざるをえない世代である。事故はその厳しさを浮き彫りにした 川下りはスリルを求めてあえて渦に突っ込むという。失敗した責任は大きいが、慣れぬ仕事に挑戦し続けた「老船頭」を思うと、ここは経営責任の重さの方を問いたい。 |