この前、吉川さんと一緒に歩いている女の子がいた。その子は、岸本蛍と言う子で、少しほんわりとする感じの女の子だった。
学校からの帰り道、バイト先に向かう俺は少し急いでいた。遅刻しそうだった。なんで遅刻しそうかって?それは、校門の前で挙動不審の女の子に遭遇したからで・・・
「今日もバイトか」
そうつぶやいた頃、俺は校門付近にいた。そうつぶやいた後、校門の前で、なんだか妙にキョロキョロした桜庭校の制服を着た女子を発見した。誰か待っているのか、桜庭校の子が来ているなんて珍しい。何か嫌な予感がする。まあ、気のせいだよな。かかわらなければ何にも問題は無いしな。と、無視を決め込んでその子の横を素通りしようとした瞬間。
「探していました上木君」
俺は走った。とっさに俺の脳が危険を察知したのだろう。なんとしてでもここから離れるんだ!脳内のもう一人の俺がそう叫んでいる。俺はその声にしたがって走った。とりあえずその場から離れようとした。しかし、逃げられなかった。なぜかって?それは走り出した瞬間に、その子にきれいな足払いを決められたからだ。宙を半回転し、一瞬無重力になったんじゃない?この世界?俺、浮いてる!と思ったさ。でもそんなことは無い、しっかり地面にボディプレスをかました。そんな俺を上から見下ろして
「繭の紹介で来ました。お話、いいですか?」
なんと!今のはスルーですか!お嬢さん!地面にうつ伏せになったまま動かない俺を見て、周りががやがやしだした。恥ずかしいったらこの上ない。とりあえず立ち上がり
「話を聞こう」
そういってその子と学校を離れた。
学校の近くのマックに入ることにした。俺はマックシェイクを、彼女はガッツリビックマックのLLセットを2つ注文。出来上がるのを待ち、席に着いた。落ち着いてよく見てみると、なかなかかわいいと言うか、かなりかわいい。て、言うか食うなこいつ!
「はじめまして、岸本蛍です。さっきも言ったけど、繭の紹介で来ました。」
岸本さんはそういうと、さっそくハンバーガーに手をつけた。
「俺になんか相談事?・・・なんで?」
不思議そうな顔をしている俺をよそ目にハンバーガーをほおばる岸本とか言う女の子。その口に入ったものをごくんと飲み込み真剣な顔で
「そうなの、私、今ストーカー被害にあっているの」
何でまた俺にストーカの相談だよ、ここははっきり言っておかないと。
「なんか勘違いしてるかもしんないから言っておくけど、俺、探偵とかなんかそういうヤツじゃないし、一介のコンビニのアルバイトだしお役には立てそうも無いんですが・・・。」
「いいからきいて!」
いきなりそう叫んで立ち上がった。何が何だか分からない俺は、ただただ驚いた表情のまま頷いていた。
話を詳しく聞いたところ、一週間前に家のポストに自分を隠し撮りしたみたいな写真が入っていて、最初は変ないたずらと思うことにしていたが、それがエスカレート。無言電話や、プレゼントが家においてあったりと、気持ち悪くなり友達の吉川さんに相談したところ俺を紹介されたそうだ。明日、絶対に文句を言ってやろう。
「そういうことなら、吉川さんも交えて話したほうがいいな。」
「そうね。二人だけって言うのもなんだし、捜査員は多いほうがいいものね」
「もう一人、手伝ってくれそうなのがいるから、そいつも連れてくるよ」
「それじゃあ、今日はこれで解散」
なんだかんだ言って、手伝うことになってしまった。まあ、あんなに真剣に悩んでます!て表情されたら断れないし、嫌だといっても、最終的には見捨てられないしで、なんとも損な性格なのやら。
「こんなことがあったので遅刻しました」
バイト先のコンビニの先輩、長谷川さんに遅刻の理由を報告すると
「昨日、コナンでも見たのか?早く着替えて来い」
と呆れ顔で言われた。
長谷川さんはバイトの先輩で大学生だ。バイトの時はいつも一緒で仲もいい。だからこんな噓っぽい話もおおよそ信じてくれる。
「仮にその話がホントだとしてお前、どうするつもりなんだよ?」
帰り道。家の方向が一緒なので途中までは一緒に帰ることが多い。こうやってよく話を聞いてもらっている。
「特に何にも考えちゃいないんですよね、実際」
そういうと、長谷川さんは呆れたかおおした。
「お前の頭じゃ、そりゃあ何にも思い付かないだろうな」
「ひどいなあ、とりあえず明日から捜査開始なので、がんばりますよ」
背伸びしながらそういう俺に対して、まあ、がんばれ。と声をかけてくれる長谷川さんはやはり、いい人である。
「ただいま」
俺は一人暮らしだ。実家から離れて一人暮らしをしている。なので本来、ただいまなんて言った所で言葉が返ってくるわけが無いのだが、今は違う。
「お帰り。遅くなるんじゃなかったの?ごはん今からなんだけど食べる?」
「是非とも頂きます」
この子は高津ナエカお嬢様でございますハイ。お嬢様生活に飽き飽きしてしまったナエカお嬢様は、家を出て、一人暮らしの社会勉強真っ最中の高校2年生。(同学年)でございます。部屋がこのぼろアパートの隣の部屋の203号室。202号室の俺の部屋の隣にお住まい中。先に「お嬢様生活に飽き飽きした」と言ったが、それは冗談で、本来は違う理由があったりもする。
「別に待ってる必要なんか無いのに先に食ってろよ」
俺がそう言うと
「なんとなく、待ってたかったの」
別に、いいのにな。
「お前いつまでここにいるつもりだ?」
ちゃぶ台に座り、台所(台所といえるほどのものではないが)で皿に料理を盛り付けているナエカに対して聞いた。するとこちらに背中を向けながら、
「何時だっていいでしょ。別に上木に迷惑かけてるわけでもないし、むしろこうやってご飯作ったりしてあげてるくらいじゃない。何かご不満でも?」
その意見はご最もで反論する気はないが他にいろいろな不満がある。
「不満1、壁に穴あけて部屋同士をつなげない。不満2、人の部屋を自分好みに模様替えしない。不満3・・・」
ナエカは料理を持って振り返った。
「別にいいじゃない、部屋を行き来するのに便利だし、もともと殺風景な部屋だったんだから」
「穴は無いだろ、穴は」
もともと、ベットとパソコンしか無かった部屋に冷蔵庫やら洗濯機やら、家事道具一式がそろえられた。もともと足の踏み場の無かった部屋が、さらに狭くなってしまった。そして、俺の通帳からお金が消えた。ちなみに家事はナエカの趣味である。
「はいはい、ご飯で来ましたよ。今日は肉じゃがです。」
ちゃぶ台にホカホカの肉じゃがとごはんか置かれた。とてもおいしそうだ。
毎日、いや大体の日はナエカが勝手に俺の部屋の台所で料理をする。俺がバイトで遅くなる日もラップしておいといてくれる。日によっちゃあ待っていてくれたりもする。前に、何でご飯作って待ってんだ?と聞いたことがあった。ナエカいわく、寂しいでしょ。だそうだ。家に帰って、誰かが待っていてくれることはとても嬉しいことで、本当は、迷惑だなんて微塵も思ったことが無い。だからと言って、それに甘えてばかりもいられないことは重々承知の上だ。ただ、ひとつ確かなのは、「一人は寂しい」と言うことだ。
「いただきます」
両手を合わせ、早速肉じゃがを食べた。うまい。ナエカは料理も上手なのだ。
「おいしそうで何よりです」
俺は今、幸せなのだと思う。
次の日
「犯人探し手伝ってくれるんでしょう?」
教室に入り、すでに席についている吉川さんに後ろから話しかけようとした瞬間に、いきなり振り返り、先に言われてしまった。
「手伝いますとも。ただ、何で俺を巻き込んだのさ」
そう聞くと、吉川さんは前に向き直り、
「手伝ってくれそうだから。そうでしょう?違った?」
まあ、そうなんだけどさ。
「シンプルでいい理由だ」
そっと振り返り、呆れた顔をした俺を見てふっと笑い、話を続けた。
「とりあえず恩田を読んできて、話は通してあるから」
そう命じられた俺は無二の親友、恩田を召喚した。
「俺、何にも聞いてないけど?」
今、自分の置かれている状況がまったくつかめっていない男、恩田は俺の親友だ。家が金持ちで、人がいい。単純で、だまされやすい。なので、からかいたくなる。
「出ましたよ吉川さん、恩田君の空気よめない」
俺は、吉川さんに耳打ちするようにして言った。吉川さんは立ち上がり腕を組み困ったような表情を浮かべて
「まったく。これだからお坊ちゃまは」
吉川さんは、乗りがいい。しかし、恩田もからかわれるのには慣れているので、
「え?なに、俺が悪いの?よくわかんないけど、からかうんだったらやめろよ」
と、強気な態度で応戦。俺はまた耳打ちするようにして
「出ました、俺は悪くない。自分の失態を認めたくが無いゆえにとってしまう、みっともない」
すると、腕組した吉川さんが振り返り、こしに手をあてて窓から遠くを見つめて
「いいのよ。やる気の無い子は置いていくわ」
「そんな!ヤツは俺の俺の・・・」
肩ひざを突いて俯く俺を見て、恩田が、
「いつまでやってんの?」
と真顔で注意された。
放課後、岸本さんも交えてマックで会議が開かれた。
「はじめまして、岸本蛍です」
初めて会った恩田は一目ぼれしたらしく、嫌に張り切りだした。
「犯人は僕が必ず捕まえて見せます!」
岸本さんの手を握る
「ありがとう。お願いします」
手を握り返す岸本さん
席に着くなり恩田がなにやら二枚目面で話し始める。
「それでは蛍ちゃん犯人に心当たりは無い?」
「まったく思い当たる節が無いの。でも、気がかりな点があるの。話しは聞いたと思うけど、写真は最近のものばかりで、プレゼントも私が最近ほしいなって思ってたものが入ってたりして、とても私に詳しい人物の犯行なんじゃないかって」
おっと、なんかそれっぽい話が展開されている。でも、とても詳しいねぇ。確かに写真は最近の写真でもおかしくは無いが、プレゼントは分かんないよな普通。
「プレゼントって何が入っていたの?」
吉川さんが聞いた
「ブリーチの31巻。この前、読み返してたら31巻だけ無いのに気づいて」
「ずいぶんとコアなプレゼントだね。これはとても重要な手がかりに・・・」
考え込む恩田と吉川さん。いや、コアすぎるでしょう!24時間密着取材してないとわかんないよそんなこと!犯人絶対に知り合いでしょう!限りなく近しい、部屋に招きいれたことのあるような人物しかいないでしょう・・・ん?吉川さんの様子が変だ。どうかしたのか?まさか何か気づいたことでもあったのか?いや、そんな感じではないな、むしろ脅えているような・・・。
「ちょっと、トイレに言ってくる」
吉川さんはそう言うと、トイレとはまったく逆の入り口のほうに歩いて行く。
何かあったな。てか、知ってんな。そう確信した俺は、マックを出た瞬間ダッシュした吉川さんの後を追って外に出た。
「上木!どこ行くんだよ!」
「トイレ!」
俺はトイレとはまったく逆方向にダッシュした。
俺が思っていた以上に吉川さんの足が速かった。角を二つ曲がったあたりで見失ってしまった。どうなっているんだ。あいつの足は。立ち止まり、ぜいぜい言っていると、後ろからポンと叩かれた。振り返ると爺さんが立っていた。
「孫は元気にしているか?あいつはまったく連絡もよこさない」
青い着物にセッタ。駅前の風景には似合わない格好をしたこの爺さんは、ナエカの祖父に当たる人物。
「何だよ爺さんかよ。孫は元気だよ。てか、いつまで置いとくのお孫さん」
額から流れる汗をぬぐいながら、俺は、爺さんに聞いた。
「あれが帰りたいと言うまで」
そんな悠長な。
「いや、何時帰るんだよ、いつ」
そう聞くと爺さんは後ろに無に直り、
「それは、本人にきいてくれ」
そういい残して去って行ってしまった。
俺は、この爺さんのお孫さんのナエカを預かっていることになっている。と言うか見張っている。いきさつはまたの機会に。
そうやって爺さんに捕まっている間に (まあ、その前にすでに見失っていたが)、吉川さんを見失ってどうしようもなくなってしまった俺は、そのまま家に帰ることにした。
「明日、何か予定ある?買い物につき合ってほしいんだけど」
吉川さんを見失って、やる気をなくした俺は恩田に「今日は帰る」とメールしてそのまま帰宅。今日はバイトも無いので、ナエカと晩御飯を食べていた。
「かまわないけど、何かいにいくの?」
「日用品。明日特売日なの。大荷物になるから、手伝って」
正座して背筋を伸ばして座り、育ちのよさを見せ付けられる。胡坐をかいて、飯にがっつく俺とは正反対だ。
「あいよ。了解です」
たまにこうやって二人で出かけたりもする。まあ、出かけると言っても、日用品の買出しとかで、映画を見に行くとか、カラオケに行くとか、デート紛いのものではない。
「それじゃあ、明日、10時に駅前でね」
相変わらず姿勢がいい。疲れないのだろうか?
「ああ、駅前ね」
高津はたまに、何をしたいのか分からないところがある。別に隣に住んでるんだから、一緒に出かければいいものなのに。そういえば、話し合いはそうなったのだろう。ま、どうでもいいか。次に日、投げやりというのはよくない物だと俺は今回の件でひとつ学ぶこととなる。
言われた通りに10時に駅前に行くと、まだナエカは来ていなかった。確かに10時だよなと携帯を開き確認する。確かに、10時2分。少し遅れてついたことに気づいた。まさか先に行ってしまったと言うことは無いと思う。が、ナエカが遅れて来るというのも考えにくい。一度しまった携帯をまた取り出し、電話してみることにした。呼び出し音が4回なったところでナエカが出た。
「もしもし」
「上木だけど、今どこにいるんだよお前」
「どこって、駅前にいるけど?」
「いやいや、俺も駅前にいるけど?」
「何駅にいるの?」
「差身駅」
「そっちじゃないよ。新野駅のほう」
「そっち!そっちかよ!そういえばどこいくか聞いてなかったな・・・」
なんというミス。
「分かった。先に買い物してるから、着いたら連絡ちょうだい」
「分かった。悪い」
急ごうと思い、ケータイを切ろうとすると、いきなり後ろから肩を叩かれた。また爺さんかと振り返ると、岸本さんがにこやかな表情で立っていた。
「ナエカ、ちょっと時間かかるかも」
岸本さんに捕まった俺は、マックに連行された。
「マック好きなの?」
この前と同じ4人がけの席に座り、相変わらずのLLセット。しかも2つに話をする気があるのかと言うくらい、食べることに夢中。抜け出しても大丈夫なんじゃないかと思い席を立とうとすると足を踏まれた。
「ちょっとトイレに・・・」
額から汗がだらだら流れ出す。
「君には前科があるからね」
俺とは反対に、とてもにこやかな岸本さん。この笑顔に恐怖心を感じるのは俺だけなのだろうか?
「いや、人を待たせてるんで・・・」
汗が止まらないどころか、全身から汗が吹き出る。
「私、犯人わかったの」
逃げたい。とても真剣な顔で犯人が分かったという岸本さんがなんだか怖いものに見えてきた。
「それはよかった!事件解決!」
逃げようとするが、そうもいかなかった。
「今日は話、聞いてもらうからね」
オーラに負けた。禍々しいオーラに。
「犯人は、繭よ」
以外でしょ?そんなちょっと得意げな岸本さん。コーラを飲みながら推理を聞く俺。
「だろうね」
そっけない返事に残念がる岸本さん。
「知ってたの!?」
そんな、驚かられてもなあ。
「いや、あの場面でもうダッシュで逃げたんだから、それはそれはやましいことがあるってことでしょう?」
岸本さんは、自分の長い髪をなでながら、
「あの後、考えてみたらあの写真、ゴールデンウィークに繭ん家と家で旅行に行ったときの写真なの。それに、本も前に繭が遊びに来たときに、読んでたの、多分だけど」
ああ、人騒がせな人だな~。
「まあ、これで解決でしょ。後は吉川さんと話し合ってくれ」
そういい残して席を立とうとすると、また足を踏まれた。
「いや、もう解決でしょう?」
めんどくさそうにする俺に、おびえた表情で訴える岸本さん。
「無言電話。それは誰だかわからないの。繭なら、携帯に電話するだろうし・・・」
言われてみればそうだ。何も携帯にかければいい。もし吉川さんが岸本さんの家の方に電話したとしても、履歴で分かるはずだ。公衆電話なら別だが、そこまですることもないだろうし。
「確かに。それは怖いね」
もう、解決したとばかり思っていた俺だが、こうも問題が浮き彫りになると、帰る気がうせた。とても不安そうな岸本さんを見ていると、岸本さんの後ろでなにやらもぞもぞしたいかにも怪しい高校生男子が立っていた。
「やっぱり、ストーカー、いるのかな」
岸本さんは両手で頭を抱え、俯いている。
「うん。今、目の前に」
岸本さんの後ろに立っている男子を指差す。
「悪い冗談はやめてよ」
俯きながら、かれたような声で嘆く岸本さん。
「あの、すいません」
もぞもぞしていたヤツが声をかけてきた。
「どちらさまで?」
俺が聞いた。
「桜庭校の結城敬です。お、俺、片桐の吉川繭の事が好きなんだ!それで、無言電話を・・・」
なにやら、テンパっているらしく、何を言いたいのかよく分からない。
「落ち着こうか、とりあえず座って」
俺は、キョトンとしている岸本さんを端によせ、結城と言うやつを座らせ、話を聞くことにした。
「おれ、前に岸本さんと吉川さんが一緒に歩いているのを見たんだ。そのときに一目惚れだったんだ、なんか、それで、どうにか知り合いになれないかと思って、岸本さんに仲を取り持ってもらおうと思って、岸本さんと同じクラスのヤツに連絡網で、電話かけたんだけど、なんか恥ずかしくなって、出てすぐに切っちゃたりしたから、直接謝ろうと思ってたんだ。そしたら今日、彼氏とこの店に入ってきたから、謝ろうと思って話しかけたんだ。」
まだ興奮気味で、言葉にまとまりが無いが、大体のことは飲み込めた。
「こいつ、彼氏じゃないから、何~だそんなことなら、いつでも紹介するよ?直接言ってくれればいいのに~」
さっきとは打って変わって、元気になった岸本さん。俺が彼氏ではないことだけは、しっかり否定してくれた岸本さん。
「マジ?」
隣に座っている岸本さんの両手をがっしりつかみ、懇願知るように高い声を上げる結城。
「折角だから、今から行こう」
握られた手をぎゅっと握り返し、立ち上がる。
「え?今から?心の準備が・・・」
戸惑う結城は、岸本さんに手を引かれて、二人ともそそくさ消えてしまった。
「とんだ茶番だったな~。とりあえず、ナエカのところに行かないとな」
重い腰を上げようとしたその時、
「上木君、君なら解決してくれると確信していたよ」
どこに隠れていたのやら、二人が出て行ったのを見計らって裏側の席から吉川さんがひょっこり顔を出した。
「ちょっとこっちに来なさい」
裏側の席にいた吉川さんを、こっちの席にとりあえず座らせた。
「ホントによかったね。解決して」
ジュースを飲みながら、外を見ながらそう話す吉川さん。
「あんたはホントに人騒がせな・・・」
俺はここまでしか声が出なかった。なぜなら、目の前に両手に大荷物を抱えた、高津が仁王立ちしていたからだ。
「何も、そういう用事なら、断ればよかったじゃない。買出しなんか」
怒っている。表情には出ていないが、確実に怒っている。返す言葉も無い。確かに時間を食いすぎた。何よりこのトラブルメーカーと出会ってしまったのが、大誤算だった。もとより、岸本さんに捕まってしまったときから、こうなることは決まっていたのだろうか。いや、何を言ってもどうしようも無い。いや、駅、間違えたからか。
「「ごめんなさい」」
同時に吉川さんも頭を下げた。
「荷物持ちます。ほら上木も!」
さっと荷物を掻っ攫うと、半分を俺に突きつけてきた。
「ああ、はい!お持ちします!」
とりあえず、荷物を家に運ぶことにした。
帰る途中、とても重い空気になるのではないかと、気が重かった。しかし、まったくそんなことは無く、むしろ和気藹々だった。
「最終的に、俺が全部持つのね」
さっきまで、吉川さんも持っていたが、3メートルも歩かないうちに、これあげる大切に使ってね☆と押し付けられた。楽しそうに話しながら俺の前を歩く2人をのしのしと追いかける。
「当たり前でしょ?私は、隣の駅からこれ全部一人で運んできたんだから」
ハイ、まったくそのとうりでございます。
「そうそう、上木が悪いんだから、文句を言わない。みっともないわよ」
ハイ、あなたには言われたくない!
「繭、帰ったら、夕飯作るんだけど、食べて行かない?」
「食べてく食べてく。あ、私も手伝うよ」
「仲がよさそうでなによりです。」
二人とも相性がいいみたいで、会ってから5分としないうちに打ち解けていた。思い返してみれば、ナエカが人とこんなに楽しそうに話しているのを見たことが無かった。ナエカはこんな顔して笑うんだな。ある意味、と言うか、今日の出来事は、ナエカに対してプラスに働いたのではないか?まあ、吉川さんにいいタイミングで出会えたのがとても大きかったと思う。吉川さんには他の人には無い魅力がある。多分、今日の結城とかゆうやつはそれに気づいたんだろうな。多分。
「安心したよ。ナエカが笑ってくれて」
「私だって笑います。保護者面しないで」
ナエカも吉川さんも前を向いたまま
「兄弟げんか?仲良いね」
「兄弟じゃないよ。赤の他人」
そうだよね~。こんなのと一緒にされてもなあ~とおれ自身そう思う。
「いいじゃん。兄弟だと思ってるよ。俺は」
皮肉の意味もこめて。
「よくない」
やたら強く反論するナエカ。そんなに嫌ですか。俺と兄弟と思われるのが。
「そうだよ、ナエカは上木のこと、うふふふふ」
やっぱりだよ。便乗してきたよこの人は。
「そんなんじゃない!」
今までに聞いたことの無いくらいの大声に俺と吉川さんはびっくりして、動きが止まった。ふざけ半分だった吉川さんは、申し訳なさそうに、
「なんか、・・・ゴメン。」
ナエカは意外と気性が荒い。物静かなだけで、大人しい訳ではないのだ。
「まあまあ、帰って飯にすんべ」
アパートに着いたので、とりあえず上がることにした。
俺の部屋に3人も入れるのかと、玄関のドアノブに手をかけたときに気がついた。しかし、入ってみると、何とかなるもので、狭いが3人までなら入れることが実証された。ナエカは怒っているのだろうか、無言のまま台所に立ち、晩御飯の仕度を始めた。吉川さんはというと、やってしまったと言うような表情で、そわそわしている。俺はというと、この居づらいらい空気の中、どうこの状況を打開するか考えていた。俺が思うに、ナエカは気に入らないことを言われたことに対して腹を立てているわけで、ちょっと機嫌が悪いだけだ。頬って置けば次第に機嫌も直るだろう。