連日の猛暑で電力不足が懸念される日本列島。企業や家庭が節電に知恵を絞る中、宮崎県延岡市の旭化成グループは主力ラインを自家発電で賄っており、電力不足とは基本的に無縁だ。ここの電力周波数は、九州電力をはじめ西日本で使われる60ヘルツではなく、東京電力など東日本と同じ50ヘルツ。なぜこんな“ねじれ”が生まれたのだろうか。
日向灘沿いの広大な工場群で化学繊維製品や医薬品を生産する旭化成延岡支社。巨大なプラントの間で蒸気を上げるのが自家発電設備だ。同市内の火力3カ所、ディーゼル5カ所のほか、市外も含む水力9カ所があり、総発電能力は18万8千キロワットに上る。
このほか新日本製鉄と共同出資した発電会社もあり、九電から買うのは全体の約16%。来年7月にはバイオマス発電所も稼働して、発電能力をさらに高める計画だ。
だが、このうち60ヘルツは他社から買収した水力2カ所だけで売電専用。支社で使う周波数はほぼ全て50ヘルツに統一されている。
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旭化成の創業者は「電気化学工業の父」と呼ばれる野口遵(したがう)(1873-1944)。ドイツの電力会社の東京支社で技師として学んだ後に独立した。1906(明治39)年、現在の鹿児島県伊佐市に水力発電所を開設し、この電力を使って次々と事業を起こした。
当時は現在のような地域別の電力会社はなく、大規模工場の多くは自前の水力発電所を備えていた。野口は50ヘルツの発電機を採用するドイツとの関係をもとに設備を整え、旭化成はその設備を引き継いで発展した。同じく野口が創業した熊本県水俣市のJNC(旧チッソ)水俣製造所も、50ヘルツを引き継いで現在に至る。
九州経済産業局によると、九州の50ヘルツの事業所を調べた資料はないが「創業が早かった企業ほどこうしたケースはあり得る」という。
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電力需給が逼迫(ひっぱく)する東日本への電力融通は、周波数変換所が3カ所しかないことがネックになっている。ならば同じ50ヘルツの旭化成の電力を東日本に送って支援できないか。「残念ながら現実的には難しい」(同支社)という。
同支社の発電設備はあくまでも社内用。仮に社外で使うには、九電の送電線を通すため、いったん60ヘルツに変換しなければならない。結局、東電との境界で再び50ヘルツに戻す手順を踏むことになる。ちなみに電力は変換すると3-5%ほどが失われ、2度変換するのは非効率でもある。
ただ、同支社は日中の生産ラインを絞って夜間の操業を拡充。部署対抗の省エネコンテストも開き節電意識を徹底する。「送電はできなくても気持ちは寄り添いたい」という。
=2011/08/18付 西日本新聞朝刊=