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[29343] 白鯨 【なのはSTS番外編 COWBOY BEBOPクロス】
Name: saki◆c45b560a ID:db494c30
Date: 2011/08/18 21:19
 前書き
 ・COWBOY BEBOPとのクロスですがメインキャラは出てきません
 ・設定すり合わせのため一部に矛盾と粗が存在します
 ・なのはSTS番外編となります。JS事件はとりあえず忘れて下さい
 ・序盤で出てくるオットーはナンバーズとは全く関係ありません。COWBOY BEBOP側のキャラです
 ・全19シーンほどの中篇を予定













 01/ Moby-Dick



 暗闇に無数の光点が浮かび主張する半無重力のステーション。
 その先頭、リング状の位相差空間ゲート入り口を前に様々な輸送船、もしくはエアカーが並び列を成す。
 
『イオ#OF4012、ゲートを通過します』
 
 確認をとるため周波数を合わせたところで、合成音のアナウンスが現在の進行状況を端的に告げる。
 最初のイオとはステーションが設置された衛星名。その後のOFがドックNO、最後の数字がそれぞれの船に与えられた転移ゲート使用の順番である。番号にしてあと八番、何らかの都合で二隻が消えたおかげで六番目に並ぶトラック型キャリパー。その運転席となるモノ・ポットでオットーは操縦をオートに設定すると、航路と運賃の項目だけを念入りに確かめ、めんどくさげにあくびをして一息ついた。
 
「だりぃ」 
 
 ただひたすらに重く軽い一言をボソリ。
 しかしそれは、別に順番待ちが長かったという訳でもなく。単純にこの男が前日に酒を飲みすぎた影響である。
 そんな仕事にだらしない男を乗せて、健気にも自動で全てを計算、操縦しながらトラックは順番待ちの列をじわじわと進む。といっても時間にすればそれも一分と少しといったところ。安全性考慮のため船間距離は約600㎞と定められてはいるが、この位相差空間ゲートの中では通常の240倍ものスピードが出る。前者の潜行から数秒待てば、十分といえる数字だ。惑星間移動が夢物語だった数十年前と比べ、便利な世の中となったものである。

 男の向かう先は偏狭地にぽっかりと浮かぶ無機質な小惑星。
 イオ、ガニメデ、カリスト、タイタンらが連なる衛星群とは違い、資源採掘用として利用されるライナスの炭鉱だ。
 
 テラフォーミング(生態適正化)されていないこの星、というよりも巨大隕石にドッグを取り付けただけの場所は、現在特需景気に沸く第17管理世界の主要な物資採掘源の一つとなっている。今はなんでもやれば儲かる稼ぎ時。しがないトラッカーの一人だったオットーもその景気に煽られ、だいぶ懐が暖まってきた頃である。まぁ、それが原因でいま盛大に頭痛と吐き気を感じているのだから難儀なものだが。
 
 ほどなくして位相差空間へと入り、順調に進むこと約ニ十分。
 良い感じに眠気が訪れ、今まさにウトウトと夢の世界に向かう寸前。
 ビビーと耳に痛いブザーの音がポットに鳴り響く。
 
「こちらラブマシン。馬鹿オットー、聞こえてるかーっ! 聞こえてたら返事せぇ」

 同じトラック仲間からの緊急通信。
 普段は使用しないブザーが鳴った直後、軽薄そうな男の声が大音量でポットに響き渡る。

「じゃかーしいわ、アホ。お前ば俺を殺す気か、こっちは二日酔いで死に掛けてるんぞ! わざわざうるさい方の回線使いやがってからに、なんの恨みがあるんじゃいコラ!!」

「アホはお前だ馬鹿オットー。いいから範囲無設定にした詮索レーダーで後ろ眺めてみぃ、そいだらさっさと荷物捨てて逃げろ馬鹿」

「馬鹿馬鹿うるさいんじゃ、馬鹿。だいたい後ろってなんじゃい、後ろって」

 着信時のブザーを使った仲間同士のイタズラ。そんな遊びでしか使ったことのなかった緊急通信だったが、それ故に仲間うちで決めておいたルールもある。遊びのときは直ぐに明かして謝罪とジョークを一発。そのはずだったが、妙に焦った様子でとにかくレーダーを確認しろと騒ぐ声に、流石にオットーも不審さを感じてコンソールを弄っていく。
 
 ただ何かがあるとは思っていない。 
 大体、自動操縦とはなってはいるが、事故に繋がるような他の船の接近でもあれば即座にわかる安全装置が稼動したままでいるのだ。範囲無制限の詮索レーダーを使えといっているが、それはあくまでゲートを抜けた先で稼動させるデブリ対策のもの。基本的に一度中に入ってしまえば、船同士の衝突か故障でもなければ安全といっていい位相差空間ゲート内で無駄に起こしておくシステムではない。

 そのはずだった。

「あぁ! なんじゃこりゃあ」

 レーダーには信じられないほどの巨大な影。
 いや、それはもう影と呼べる生易しいものでなく。トンネル状となったゲート内の一部を完全に塞ぎ、それでもまだ余りある大きさで位相差空間を歪めてしまっている。ここにきてオットーも事態の異常さと緊急性にようやく気がつく。あれはとてもではないが此処にあって良い類のものではない。間違いなく入り口となる転送ゲートを潜ることすら出来ないだろう。それがどうして?

「おい、あれっ、なんじゃあれは!?」

「いいから黙ってカーゴ捨てろっ。まだなんも入っとりゃせんやろ?」

「それはそっだが」

 男の仕事はトラックによる惑星間の資源運搬。
 現在は積み込み先への移動最中だから、勿論まだ連結して運ぶカーゴに物資は積んでいない。しかし、それはあくまで当人と仕事先、それに親しい仲間ぐらいしか知ることのない情報だ。位相差空間ゲートは幾つかの幹線に分かれつつも、その行き先は様々。これだけ騒がれたのだから馬鹿と呼ばれるオットーであれ、差し迫ってきた何かの目的に予測はついた。あれはこっちの荷物を狙っている。なら命をとられる前に、それだけ捨てて逃げてしまうのが利口な手だ。

 オットーの乗るスペーストラック。物資運搬のために使われる惑星間移動が可能な宇宙戦は大きく分けて三つの機構で出来ている。貨物を積載する連結カーゴ。船を動かす推進力を生むキャリアー。そして、Machine、Operation、Navigation、of Outer Spaceの頭文字をとった通称MONO。大気圏外活動に必要な機体制御・位置確認・自動計算などを一括したコクピット兼脱出用のポッドシステムである。

 口惜しさで頬を引きつらせながらオットーはコンソールを操作する。途端現れる確認ウィンドウ。警告と一緒に記された文字は彼の働きにして半年以上の資産を捨てるか否かを聞いてくる。迷っている時間はない。オットーは目をつぶりYESを選択。暫く待つ、けれど何も起こらない。目を開き直すとウィンドウには注意勧告、機体を停止して下さいとの文字が浮かんでいる。イラ立ちでモジュールをぶん殴りたくなる。それを抑え、強制的な連結解除を選択。

 ガタン。
 輸送列車に似た方式で繋ぐ二連の連結カーゴのうち片方がゴリゴリと嫌な音と振動をたてて外れる。

 コンソールには再び確認ウィンドウ。続けるか否かを簡潔に聞いてくる。機械ってのはこういうところがだいっ嫌いだ。情ってものを全く理解しやがらねぇ。悪態をつきながら、ともかく赤い文字を使いたがる強制解除の項目に対してYES、YES、YES。
 
 
 危険です。

「わかってるよ」
 
 ベルトを締めてください。
 
「とっくにやってる」
 
 身体を固定してください。

「わかってらぁ」


 四秒のカウントが表示され、それが終わると同時キャリアーに装着された推進ブーストが逆側に噴き出す。凄まじいまでの減速G。歯を食いしばり、物が錯乱して渦をまくモノ・ポッドで身を硬くする。ガタン。先ほどとは比べ物にならない嫌な音。ギシリ、ガキン。これだけの無茶をしたのだから当然か、キャリアーとの連結部分である回転型ナックルリンクが衝撃とねじれ負荷により破損し砕け散る。これで修理費もプラス。更に、直るまで期間は代車を借りるか休業しなくてはならなくなった。
  
「だらっしゃあ~~っ、糞ったれの海賊どもが!!」

 振り回されるキャリパーの動きがゲート内でなんとか維持できたところで、オットーの堪忍袋の緒がぶち切れる。殆ど管制システム頼みだった運行操作をオートからマニュアルに切り替え、補助ブーストを小刻みに噴かしながら向きを反転させる。

「その鼻っ面、いてこましたるわい」

「やめろ馬鹿ったれ。相手がなんだかわかっとるんか?」

「勿論じゃアホ。これが鯨なんやろ? ちくしょう、まさか俺んとこにまでくるか? 大損害もいいとこや」

 鯨。宇宙を泳ぎ、位相差空間ゲート内でトラッカーの貨物ばかりを狙う巨大艦船。
 数年前から被害はちょくちょくと出ていたが、被害者による報告がそろって現実離れしすぎていたために長く空想扱いされていた海賊集団がこの化け物だ。曰く、転送ゲートすら通らず不可視の未知領域から位相差空間に割り込んでくる化け物。曰く、モノ・システムを一切使用していないため質量を補足する単位レーダーでしか発見できない出鱈目。曰く、貨物を積載するカーゴやコンテナをまるで飲み込むようにして巨大な艦船内部に取り込んでいく規格外。
 
「オットー、お前真っ裸もいいとこのそんなキャリパー一つでなにするつもりだってんだぁ。いいから逃げろ、噂どおりなら追っかけては来ないって話だぞ。慰めの酒ぐらい奢ったる。そこで死なれたら、笑い話にもできないやろうが」

「ちっ、ちっ、わかっとるわい。だけどなぁ、」

 そこまで啖呵をきったところでメインモニターが前方の化け物を映し出した。
 先ほど範囲無制限の詮索レーダーが知らせていたようにゲートの道筋を塞いで尚余りある巨大な顔。レーダーは更にその巨大艦船の全形が後ろに長い魚型をしていることを告げている。どこかの海で実在していたらしいマッコウクジラなる海洋生物。それと酷似したフォルムだという流線型の白くごつごつとした塊。別の世界に住む不可思議な住人達が認定したロストロギアなる厄災の権化。
 通称を、白鯨。
 
 時間が途切れたかのようにコマ送りで流れる。
 そのコマ送りとなったスピードで、オットーは目の前でカーゴを飲み込む鯨を見た。

 位相差空間ゲートの内壁ともいえる1/48秒周期の明滅流素の光によって鯨の皮膚、そう、皮膚としか表現のつかない生物的な息吹を感じる見たことのない金属壁が淡く白色に映し出されている。そして何よりも特筆すべきは、真ん中より僅か下ほどから裂けたようにして開かれる大きな口。
 
 グシャリ、ガシャリ。

 聞こえる訳がないそんな音を響かせて、カーゴが噛み砕かれる。
 大きく開いた口からは、より一層生物色の濃い不思議な金属が垣間見えた。オットーは混乱する。あれが艦船か? かといって本当に鯨だとかいう生物である筈もない。思い描くのは、ふるき良き時代に生まれたという怪獣映画。等身も違えば、形だってまったく似つきもしない風体だが、そんな映画の第一作目でちょうどこんなシーンを見た記憶がある。ボリボリと列車を砕く怪獣。人々は何も出来ず、ただ呆然とすることしか出来ない。

「おい、オットー! オットー!!」

「あぁ、……ああ」

「くっそ心配させやがって。まだ生きてるな、死んじゃいないな」

「わからん。もしかしたらもう天国にいるかもしれん」

「大馬鹿が、お前の向かう先が天国かってんだよ。けどまぁ、そんな図々しい冗談言えるなら十分だ。いまそっち向かってる。元々、反対側のゴール地点におったからな。あと五分もせんうちに着くわ。そんでお前まだ船動かせるのか? 出来るならこっち向かって進んできてみぃ。座標も送る。キリキリ手を動かせよ、このスカタン」

 焦りによるものか、そもそもの地声か、妙に頭に響いてくるかすれた高音。
 大衆映画に入れ込めば不評もいいとこであろうその声を聞いて、ようやくオットーの意識が返ってくる。
 これは現実で俺はまだ生きている。

 キリキリ手を動かせという仲間の言葉通り、計器の類には一目もせずコンソールを荒々しく叩く。巨大な怪物を前にしてあまりにも無防備な旋回。ふと視線を感じてメインモニターに目をやると鯨の前方側面についた瞳がこちらを向いていた。さぁ、早く逃げろ。そう告げているかのような涼しい瞳孔。あるはずのないそんな意思のやり取りを感じ、オットーはこの状況では有り得ざる安堵という感情に包まれた。
 
 もしあいつが本当に海賊だったならば、命はなかっただろう。
 
 テレビか何かで見た白鯨被害者が吐いた世迷いごと。まさか自分までもが感じることになるとは、な。機体が完全に反転する。続けて推進ブーストの噴射。ギリギリと加速Gが増していくモノ・ポッド。オットーは押し黙ったまま操縦席に深く腰を据え、たばこに火を灯す。そして自らの記憶に強く、白い鯨の姿を刻み付けた。













[29343] 時空管理局遺失物管理部 機動六課
Name: saki◆c45b560a ID:db494c30
Date: 2011/08/18 21:18











 02/ 時空管理局遺失物管理部 機動六課



 次元世界の秩序を保つため、保有する魔法文化によって幾つもの世界を管理する平和維持機構、時空管理局。
 その時空管理局内において危険な古代遺物「ロストロギア」の保守管理を選任で執り行う遺失物管理部。そこに期間限定の試験運用として増設された部隊がある。
 
 異なる世界に拡散し広がる時空管理局という超巨大組織。その中でも上位数パーセントしか存在しない魔道師ランクÅ以上。
 それに対し、隊長格全員がオーバーS。副隊長もそろってニアSランク。
 管制官やその他局員に至ってもエリートばかりを集めた文字通りの先鋭。虎の子部隊。
 それが機動六課である。
 
 第17管理世界で起きた資源強奪事件。詳細は不明なれど、通常有り得る筈のない現地文明を逸脱した兵器の運用が成された「白鯨事件」は昨日付けで正式にロストロギア関連災害と認定された。任務を受け持ったのは機動六課。それだけで、この任務がどれほど難しいものであるのかを局内の誰もが認識する。そして今日、六課隊舎内にあるブリーフィングルームにて前線二つのフォワード部隊「スターズ」「ライトニング」、中枢司令部である「ロングアーチ」。さらには一部の一般局員を合わせた数十名の人間が召集された。
 
 
 
 
「さて、物々しくこうしてみんなに集まってもらったわけやけど。第17管理世界において白鯨っちゅう大型兵器がこの都度ロストロギアに認定され、六課にその対処が任されることとなりました。ただ、それだけなら普段の任務とそれほど変わりないねんけれども。この第17管理世界って場所とそこが持つ科学文明ってやつが色々とありまして。今作戦においては、こうして説明会を開く運びとなりました」
 
 普段使用するミーティングルームや執務室とは違い、全席を埋めれば百人ほどの人数を一度に収容できる巨大スクリーン付の広い講堂。その前面舞台に立った部隊長、八神はやてはそう言葉を置くと、傍に控える部隊長補佐のグリフィス・ロウランに目配せした。
 すっと前に出ると軽い会釈をとるグリフィス。
 そんな彼の動きに合わせるように巨大スクリーン及び、各席に備え付けられたモニターに資料が表示される。
 
「それでは、今回の封印対象であるロストロギア白鯨及び、これより向かうこととなる第17管理世界について説明させて戴きます。まずは当作戦の基盤ともなります第17管理世界の詳細から」

 世界と世界を結ぶ次元空間。そこには異なる文明、文化、歴史。果ては教養、知識などを有する様々な人と世界が存在する。次元世界の秩序を保つ時空管理局。その本拠地たる場所があるのは「魔法技術」が安定して栄えるミッドチルダであるが、中には勿論この「魔法技術」が殆ど認識されもしていない世界というものも存在する。
 
 その一つが第17管理世界。
 衛星イオ、ガニメデ、カリスト、タイタンらを中心にして形成された複合都市国家アステロイドである。
 
 次元世界の中において最も栄え、魔法技術が発達したミッドチルダ。しかし、このアステロイドにおいてはこの魔法技術を一切含まない技術と文明が築かれてきた。それが未開拓惑星生態化システム:テラ・フォーミング、明滅宇宙論にて認識される別の時空を渡る転移装置:位相差空間ゲート、精神さえ飲み込む巨大コンピューターネットワーク:Solar Systems Webなどに代表される第二文明科学なる技術形態だ。

「えっと、質問いいですか? 資料によると位相差空間ゲートというのは、通常の世界から比べて空間サイズが1/240という特殊な時空へ渡ることが出来る転移ゲートということですが。本当にそんなことが魔法をなしに可能なんですか?」

 緊張した雰囲気で静まったブリーフィングルームにて、隊長陣が並ぶ前面席から前線フォワード部隊の一つ「スターズ分隊」隊長である高町なのはが手をあげ許可を求めてから発言する。

 彼女が不思議に思うことには訳がある。
 機動六課に居る人間、ひいては管理局員としても珍しい部類となるが、彼女とそして部隊長である八神はやての二人は魔法が存在しない管理外世界からきた住人だ。その地球と呼ばれる惑星において、魔法の代わりとして発達していたのは説明にあったアステロイドという衛星群と同じく科学という技術であった。しかし、彼女の世界にはそこまで発達した技術や知識は存在しない。それも対応する理論でさえ聞いたことがないというレベルの開きがある。個人席に設置されたモニターには、現地住人の生活水準などの資料もあった。それによると彼女が生まれ育った地球とそれほど差があるとは思えない。
 ならば何故、かの夢物語のような技術が実用化までされているのか。

「可能、ではありません」

 ふわりと驚きに目を開き、彼の憧れでもあるなのはの発言をグリフィスは少し嬉しそうなそぶりを滲ませながら肯定する。
 
「戴いた指摘から推察される通り、今しがた名前を挙げた主に第二文明科学と呼ばれるものには、この世界でいう魔法技術の一部が使用されています。しかし間違えてはいけないのは、あくまでも第17管理世界アステロイドの住民にとっては既存科学の延長線上でこれらの技術が発達していったということです。現在もまだ、彼らの殆どは魔法という存在を知りません。それは前途した第二文明科学を扱う科学者達も例外ではない。知っているのは機密のトップに程近い開発者とアステロイド連合政府の一部分のみ。他にはブラックボックスという体裁でしか告げられていないのです」

「なんかややっこしいなぁ。つまり、本当は魔法なんだけど大多数の人間は知らないって訳なんだな。となると当然、個人の持つリンカーコアをどうこうしてる奴もいないってか」

「そう考えて戴いて構いません」

 説明に複雑さが増してきたところで、簡潔を好む性格であるスターズ分隊副隊長ヴィータが見えてきた要点を掻い摘み、話を収束させる。大規模な作戦時、隊員各人にはあまり情報を詰め込まず、やるべきことだけを明確にしておくことは部隊運用の基本だ。事実、彼女ら隊長、副隊長が座る席のすぐ後ろ。若くしてこの機動六課に配属された新人フォワード組みのなかの一人、スバル・ナカジマに至っては頭から湯気を放ち、目をぐるぐると回している。その点、隣に座るティアナ・ランスターは対象的だ。うんうんと頷きながら、細かいところまで資料によく目を通している。この分だと作戦決行までにかなりの知識を詰め込んでいることだろう。

 とりあえず時間的な限りも考慮し、これから向かう世界、アステロイドについては一旦説明が打ち切られる。
 続いて前面の大型スクリーンとモニターに映し出されたのは、ざっと並べられた白鯨事件の時系列と詳細資料。中でも注目を引くのは、その姿を捉えたとされる少しぼやけた全系図だ。数十人の人間が一斉に息を飲む気配。その大きさは、比較として挙げられているL級艦船アースラを前後に二つ並べても尚、上回っている。

「これが白鯨とこの巨大兵器が関与したと推定される海賊行為の報告です。管理局はこれに第一級の指名手配をかけると共にロストロギア:Moby-Dickと命名。機動六課には事件に関わった犯罪者の確保、及びMoby-Dickの封印が要請され、これを受理しています」

 改めて掲示された事件の全容を受け、誰もが押し黙る。

「まるでアニメか特撮の怪獣だな」

 それ故にボソっと吐いたヴィータの冗談がよく映えた。
 
「要はこいつを見つけ出して、ぶっ叩いてやればいいんだろ。うん、わかりやすくて良いじゃねえか。向こうの戦力だって個人個人で見ればたいしたことねーんだろうし」

「だが、これだけの規模を持つ兵器ともなれば維持とて楽にはすまない。恐らくは背後に何らかの組織があるのではないか?」

 雰囲気を読んだ上での楽観論。
 けれどそれをヴィータと同じ守護騎士の将でもあるライトニング分隊副隊長シグナムが諌める。
 
 隊全体が未知なる存在を過剰に危惧し、萎縮してしまうことへの恐れ。
 未だ多数の事実が隠された敵に対する、緊張感の持続と警戒の重要性。

 二人のとった言動はどちらもが正しく、どちらもがこれまでに培ってきた豊富な経験から導き出される最適解である。それでもこうして意見が分かれてしまった時、決断するのは誰の役目か。
 
「うん。皆もこの資料とヴィータ、シグナムら副隊長達が言うたことで判ってくれたと思う。今回の作戦はまず事前の情報収集と、白鯨が現れた際に即時対応できるフットワークが重要やいうことやね。そういうことで今回の作戦上、機動六課は基本方針として二チームに分かれて行動してもらいます」

 まるで二人と示し合わせていたかのようなタイミングで、六課部隊長はやてが話を纏める。
 合わせてスクリーン、モニターに表示されるチーム編成と役割。
 
 中枢指定部である「ロングアーチ」はこれまでとほぼ同じ各部隊への連絡、指示、取りまとめ。それに通信や詮索、その他支援技能を活かした後方での情報収集。続いて「スターズ」「ライトニング」の両フォワード陣については、これの編成を一部取り崩し。高町なのは分隊長は戦技教官として、四人の新人と共に位相差空間ゲート内を想定した半無重力戦闘の訓練。他、残った形となるフェイト・T・ハラオウン、ヴィータ、シグナムの隊長、副隊長ら三人は、足を使っての直接情報収集と有事の先行出動部隊となる。

「うん、妥当な線だね。これなら子供達に過剰な負担もかからないし」

 執務官としての能力によるものか、フォワード陣のなかでいち早くチームの編成を理解したフェイトがそう太鼓判を押す。
 その表情には僅かな笑み。チーム編成が載る資料の端に、現地世界へは向かわないが外部協力者として作戦に参加する無限書庫司書長ユーノ・スクライア、次元航行部隊XV級艦船艦長クロノ・ハラオウンの名前を見つけたからだ。思わず隣に座ったなのはに目配せ。そちらも同様にちょっと表情が崩れている。
 
 ただ勿論、言葉にも出した意味通り、大切な家族でもあるエリオとキャロ、それに部隊の仲間であるスバルとティアナを想う気持ちはかなり強い。強すぎて行き過ぎた暴走があるかもしれない。本人に自覚は無いが彼女は相当な過保護だ。慣れぬ世界に長期間滞在ともなればきっと一緒にお風呂や同じベッドで眠ることを笑顔で求めることだろう。あまり目立たないが些細なストレスには弱い彼女。子供達にはそれを和らげる極秘任務も付随している。


「それでは続けて、分かれた二チームの編成における組織上の留意事項について説明していきます」

 各員がそれぞれに考えを纏めていくなか、場に再びグリフィスの落ち着いた低音が被せられる。
 けれども、今回の説明会の目的はもう殆ど達成されていた。
 細かな作戦は何も決まっていない。だがそれは、これから三日ある現地出発までの準備期間で詰めていくものだ。
 
 程なくして説明会はグリフィス、はやての挨拶を持って終了する。
 
 それをもって、ブリーフィングルームから足早に退出していく局員達。その顔は皆一様に強張りで張り詰めている。経験豊かな先鋭部隊。だからこそ、この与えられた三日間の重要性を言われずとも誰もが理解していた。ロストロギアの封印任務、それは常に万全の体制で臨む必要がある。不安材料があれば対策を施し、無理を発見すれば即座に作戦行動をシフトする。理想を言えば、100パーセントの確率で任務を遂行できる確信を持って始めて戦闘とは行うべきである。










 03/
 
 
 
 場所は代わり、六課隊舎にある屋内演習場。その休憩所。
 そこに説明会を終えたばかりの四人。ヴィータ、シグナム、フェイト、なのはが、それぞれ手にドリンクを持って一息つく。
 
「さて、どうしたもんかね」
 
「宇宙戦とは想定外だな。もっと娯楽映画の類を見ておくべきだったか」 

「けど、貰った資料によると位相差ゲート内は厳密には宇宙空間とは違うみたい。重力も少なからずあるって書いてあるし」

「だとしても、半無重力状態での魔法戦ってなると不安は多いよね」

 四人が共に厄介な任務を与えられたな、とほろ苦い認識を共有しながら。それぞれ手に持つ、コーヒー、紅茶、それにオレンジジュースで喉を潤す。
 
「実戦前に演習は必要、これは間違いない。となると訓練場に想定データが必要になるわけだが、この短期間となると用意できるかどうか」

「うーん、それなんだけどマリーさん。えっと本局所属の技術主任の方なんだけど、その人に頼んでみるのはどうかな?」

「おぉ、あのデコメガネな」

「ヴィータちゃん、その言い方は失礼だよ」

 今回の作戦上、現時点では方針を決定しておくことだけでも難しい懸念事項は様々ある。
 
 魔法、及び管理局の存在が十分に認知されていない世界での長期滞在と、任務に伴う魔法の適時使用に対する認可。
 ロクな情報も取得できていない段階でやり合うことが予測される巨大質量兵器への対処。
 そして、位相差空間などという未知の場所で行うことになるだろう魔法戦。

 加えて、場所の問題もある。第17管理世界アステロイド。ミッドチルダとは大幅に異なる文化の現地に一度根を下ろしてしまえば、大規模な路線変更は勿論、細かな修正さえ難しくなるのは間違いないだろう。そんな状況で、彼女達がまずクリアすべき問題だと位相差空間ゲートを想定した戦闘訓練をあげるのは、何よりも足りない経験の有無を考慮してのことだ。空戦の要領でどうにか出来るなどと思っている楽観者はこの中にはいない。油断して死ぬのは、自分だけでなく隊の仲間、それも可能性がより高いのは新人四人からだ。



「まぁ、くっちゃべってても判らねーし、ちょっと試してみようぜ」

 そう言うとヴィータが傍に設けられたコンソールをちょいちょいといじくる。
 宇宙空間などという設定は無いが、重力がミッドチルダの1/20という程度であれば利用できることを知っていたからだ。そのまま一旦飲み物を置いて休憩所を出るヴィータ。続けて演習場の真ん中へ向かうシグナム。少しでも身体の感覚を合わせていこうという思いは人一倍強い。古代ベルカ式、つまりは接近戦が主体となる彼女らにとって空間認識と己の感覚の適合は命だ。万が一にでもしくじれば、あっけなく自滅することにもなる。

「さて、どんなもんか」

 無人機はひとまず出さず、軽く身を捻ったり跳ねたりで状態を確認していくヴィータ、シグナム。
 ヒュンと浮き上がり、ふわふわと戻る。
 味わったことのない不可思議な感覚をヴィータはそう感じ取った。
 
 腰を使い、膝を曲げ、足の指に力を込め、段々と動きの幅を広げていく。
 それに従い、身体がまるでゴムで出来た人形のように自らの動きで引っ張られる。それは当然、内臓ですらも。
 
 初めて五分もしないうちに、揺らされた三半規管が警告を鳴らす。クラクラと頭の芯が定まらず、吐き気もする。少なからず湧き上がる自分への失望。出向扱いで六課へ在籍してはいるがヴィータの本来の所属は本局航空隊だ。空間把握も三半規管の鍛え方にも自信がある。ヤワな任務だってこなしていない。いつだって最前線で戦ってきた。

「く、……そ」

 いっそ飛んでしまえば。
 脳裏にそんな言葉が囁かれたのは、その直後のこと。頭の隅にはいいわけもある。どうせいつかは体験せざるを得ない、半無重力状態での飛行。それなら少しでも感覚が残っているうちにこなしておきたい。
 
 ――浮け
 
 普段は意識もしない浮遊のプロセスを感じながら地面より離れる。
 
 ――飛べ
 
 ほんの少し、五メートルでいい。加速して停止しろ。
 
 しかし次の瞬間起こったのは、誰もが見たことのないうねり回転しながら上昇していく壊れた玩具のようなヴィータの姿だった。空気抵抗など殆ど感じもしていないというのに軌跡が曲がる。それを正そうとしている筈が余計にねじれて不規則な回転が生じていく。自分の身体がいまどうなっているのかが判らない。重いのか軽いのか。そんな些細な感覚すら掴めない。

 進んでしまう勢いが殺せない。
 止まれないから、今度は逆方向へ噴射をかける。
 けれどもそれが制動力として正しく動きに伝わらない。
 
 慌ててなのはが装置を停止させる。魔法行使中での切り替えは危険もあったが、咄嗟の判断でこれが正解だと強制ダウン。直後、ソニックムーブを使用して飛び立っていくフェイト。空中でヴィータ、シグナムの二人をキャッチ。そこで追いついたなのはと共に、脳を揺らさないよう気をつけ慎重に地面へと二人を下ろす。

 歴戦の守護騎士でさえ混乱し、制御不能に陥る危険な状況。
 改めて、なのは達は今作戦の難しさを肌で感じていた。











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