お金・給料の新常識
2011年 8月 06日

再注目「田舎暮らし、海外移住」の損得

<最新8/29号からチョイ読み>「漠然と田舎暮らしをしたいと考えていた人が、震災をきっかけに予定を前倒しする傾向がある」

首都圏から関西へ転職する人が増加

東日本大震災後、移住を考える人が増えている。 総務省公表による2011年3~5月期の住民基本台帳に基づく人口移動報告によれば、東京圏から大阪圏への転出は14.5%増、名古屋圏へも5.9%増え、福岡県へは25.4%増となるなど西日本への転出が目につく。

「首都圏から関西への転職者が増えた」というのは転職支援サービスのリクルートエージェント。なかでも目立つのが技術者の転職だ。同社の広報担当・鶴巻百合子氏は言う。

「震災後、放射能の影響への不安から、技術者が家族とともに西へと移住を希望するケースが増えている。5月、6月と前年同月比約2倍の実績がある。世界規模の部品メーカーが関西には数多くあり、求職者1名につき求人企業は4.5社と需要も多いです」

企業勤めの場合、転職相談から実際の転職まで通常は3~4カ月かかるが、フリーとなると行動は迅速だ。イラストレーターの時川真一氏は、震災の1週間後に東京から沖縄へ避難、2カ月後には本格的に引っ越した。釣りが好きで将来は海沿いで暮らしたいと思っていたが、原発事故をきっかけに妻と1歳の娘とともに移住を決行した。

沖縄暮らしの生活費
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沖縄暮らしの生活費

オーシャンビューの70平方メートルのマンションは家賃6万円、1カ月のトータル生活費は平均23万円。平均38万円かかっていた東京時代と比べて、生活費は約4割減となった。美しい自然環境に囲まれて、釣り・シュノーケリングを週に2回は楽しんでいる。

「テクニカルライターの妻は、在宅勤務が可能な都内の会社を見つけ、現在はそこから仕事を請けている」(時川氏)と、ダブルインカムも保たれている。時川氏は現在のところ地方移住の成功例といえる。

地方移住事情に詳しい田舎暮らしコーディネーターの空閑睦子氏によると、最近特に注目されているのが放射能の心配が少ない沖縄、北海道と、首都圏から行きやすい長野の3エリア。「これまで漠然と田舎暮らしをしたいと考えていた人が、震災をきっかけに予定を前倒しする傾向がある。特に子どもがいる世帯はその傾向が強い」と述べる。

ただし地方に移住すれば経済的に楽になると考えるのは早計だ。「家賃は東京都区内よりは安い。しかし敷金に当たる保証金が家賃の6~10カ月分、礼金はその約半分というケースもあります。水道光熱費や社会保険料なども割高」(空閑氏)。移住後、首都圏と地方とを往き来する用事があれば交通費もかかる。これらも含め移住前にトータルコストを算出する必要がある。

「住宅・土地購入のための低利融資制度など、各市町村には移住後の生活に有利な各種優遇・支援制度が用意されているので、調べてみてください」(空閑氏)。

一方、首都圏から海外脱出をはかる動きも出始めている。

「震災直後から海外転職の問い合わせが増えた」というのは、テンプスタッフ広報室の山本千里氏。同社が海外拠点を置くエリアの中で、問い合わせが多く、求人もあるのがアジア諸国だ。

インドネシアの場合、メーカーの技術者、工場長、生産管理の仕事など工場系を中心に求人は多く、売り手市場だ。日系企業の現地採用が大半で、雇用主からの推薦と保証があればビザ取得は容易。30~40代の求人は、技術職、製造管理のマネジャー、営業職に集中している。現地採用の平均賃金は15万~28万円。

次は中国。「求人は多いが、営業職は中国で働いた経験があり、中国語が話せないと難しい。ただし日本企業の現地採用で、対日系企業向けの営業職の場合は日本語のみでも大丈夫。技術者、とくに金型技術者など特殊な技能を持つ人のニーズは非常に高い」(山本氏)。現地採用の平均賃金は、9万~20万円。技術者だと100万円程になるケースも。

続いてシンガポール。10年度のGDP成長率は建国以来最高の14.7%と好況だが工場の数が少ないので工場技術者の求人も少ない。日本人男性は基本的に営業、日本人女性は営業、総務、秘書、営業事務となる。現地採用の平均賃金は20万~26万円。

「技術者、語学力、現地で勤務経験がある、この3点がアジアで転職をする際に有利なポイントです」(山本氏)

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小林 正子

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